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400円はほぼ原価では?


「ふぇーい…やっと終わったぜぇ……」


「終わったぜぇ…」


僕と美玲はフラフラになりながら教室を出て廊下を歩いていた。

廊下の窓から見える空はすでに暗くなっている。けど少し明るい。


「お腹…空いた……」


「帰りなんか食ってくか……」


「ラーメン…良い店…知ってる…」


「そっか…じゃあ…そこ…行こう…」


たしかに僕もお腹が空いた。空きすぎて単語づつでしか喋れなくなっている。

空きすぎて単語でしか喋れなくなった僕達は重いのか軽いのかわからない足を下駄箱まで運ばせた。

そうだ遅くなったし、姉さんに飯いらないってメールしないと。

サイゼリヤの時ちょっと怒られたしな。あのときは数時間前の自分を恨んだな…。

もうあんな目にあいたくない……。

僕はカバンの中からスマホを取り出そうとする。


「あれ」


「どしたの」


「いや、スマホがないなって」


少しカバンの中を漁るが、一向に出てこない。


「あれじゃない?教室に置いてきたとか」


「あーそうかも。ちょっと先行っててすぐ行くから」


「あいあーい」


美玲は腹の虫を鳴らしながら下駄箱まで向かう。


「さて…」


僕も小走りで教室まで向かう。今は一階だから三階まで6秒あれば着くな。

僕は”小走り”で教室まで移動する。


「えーっと…お、あったあった」


僕は教室の中に入り、さっき座っていた机の中を探すと中からスマホを発見した。

なんか青鬼やってる気分だ。


「さてと、えー…今日友達と飯食ってくるからご飯いらないっと…」


姉さんにメールをいれると速攻で返信が返ってくる。


『えー昨日もだったじゃん!最近塁くんが冷たくて悲しい…』


僕は既読をつけるだけでスマホをポケットの中にいれる。

さて、行くか。

僕はスマホから鳴る着信音を無視して下駄箱へ向かおうと、廊下を歩き始めた。



「ううん………」


すると、突然カゲロウが反応する。


「どうした?モノノケか?」


「いえ…何でしょうこの感じ……すごく気持ちが悪いというか……」


「気持ちが悪い?」


なんだろう。具合悪いのかな。

しかし、今までカゲロウがこんな風になってるところは見たことがない。


「モノノケ関係か?」


「なんというか…いえ、何でもありません」


「……本当に大丈夫か?」


「強いて言うなら…そこの教室………」


カゲロウはぬるっと僕の影から黒い腕を生やし、一つの教室を指差す。

そこは階段に一番近い教室である一年八組。

僕は何があるかわからないから少し警戒しながら近づき、恐る恐るドアを開けた。

教室の中はカーテンが閉まっており、隙間から入る月の光だけが光源のようだ。

僕はドアのすぐ近くにある教室の電気スイッチを手探りで探し、電気をつける。


「ん?」


明かりがついた教室は普通の教室と特に変わりなく、机が綺麗に並んでいるだけだった。


「どこかに隠れてるのか?」


「いえ、やはりなんでもないです」


「なんだよそれ」


「先程までなんだか気分が悪かったのですが、なぜだかこの教室に立ち入った瞬間、その気だるさのようなものが消え去りました」


「本当に大丈夫なのか?この教室にモノノケの気配とかもしないのかよ」


「そうですねぇ…特にしないですね」


「はぁ…」


「すいません…」


ちょっと申し訳無さそうに謝罪するカゲロウ。

僕は電気を消し、廊下へ出て歩き始めた。

すると、またもスマホに着信。


「ったく、今度は何だよ…」


スマホを取り出し、確認するとLINEに一つのメッセージ。

姉さんではなく、美玲からだ。


『先食べてるよー』


僕は既読だけ付けてダッシュで下駄箱まで向かった。

美玲の「先食べてるよ」は「この店を潰すよ」と同じ意味だ。

早く行かないとすべての食料を食い尽くされてしまう。

無我夢中で駆ける僕の耳には、八組に響く不気味な声は届かなかった。


「イケナイイケナイ…マダ食ベチャイケナインダッタ……」


            ◇


「あっつ!うまっ!あっつ!うまっ!」


「ふっふっふ…そうだろぅ?」


熱々のラーメンを汗をかきながらすする僕の横で美玲はドヤ顔をしていた。

僕は学校を出て美玲に送られてきた地図の位置へカゲロウに案内してもらい、やっとの想いで店に着いた。

僕が来たときには美玲は7杯ラーメンを食べていて驚いた。

ラーメンは結構ゆっくり食べる派なんだなぁ。


「はっはっは!良いねぇ兄ちゃん。良い食べっぷりだ!もっと食いな!!」


僕の目の前でラーメン用のざるを振っているのはここの店長さん。

金髪の髪をおしゃれに崩し、グラサンをかけている。体格は細マッチョで少し色黒。

こういっちゃあ悪いがNTR系に出てくる悪い先輩のような見た目だ。

第一印象は殺意だったが、少し喋るとめちゃくちゃいい人で安心した。

店内に猫が二匹うろちょろしているが、その猫は店長さんが拾ってきた猫らしい。時々僕の足に首をスリスリしてきてとても可愛い。色は黒三毛とキジ三毛。

話を聞くと釣りをしている最中に痩せ細った二匹が足元にすがりついて来たらしく、その姿に気圧された店長は今まで大切に飼っているらしい。


「いやぁ~うんめぇな。こんな美味いのに400円とか、本当にダイジョブなんすか?」


「大丈夫大丈夫!おれぁ皆に食ってもらえればそれでいいから。それに副業もしてるから稼ぎは問題ねぇよ。その二匹のためにデカいキャットタワー買ってやれるくらいにはな」


「はえー」


副業かーと思いながらラーメンを啜る~。


「にしてもこんな良いとこよく見つけたな。ここあんま人通らなくない?」


僕が凄い形相でラーメンを啜る美玲に話しかけると僕が話しかけていることに気づき、美玲は麺を飲み込む。


「…ゴク!いやね、腹が減ったな…と思ったら偶然よ偶然」


「孤独のグルメか」


あらかた食べ終わったので僕が財布を用意しようとすると美玲が僕の腕を掴む。


「ん?なんだ」


「何か忘れちゃいないかい?〆はどうするんだい?」


「〆?」


「そうさ。まだ〆の餃子を頼んでないだろう?」


「あーそういや食ってなかったな」


僕はもう一度席に座り、店長に餃子を頼んだ。

少し時間がかかるだろうと思い、猫のチャイコフスキーを撫でていると一瞬で餃子が出てきた。


「早っ!」


「ここの餃子は神速だからね~」


美玲は箸で餃子を半分に割り、割った半分を醤油と酢とラー油の混合液につけ、口の中に放り込む。

僕もすかさず同じく口の中にいれる。


「んん~これも美味いな。ニンニクが強めで好きな味だ」


「でしょ?私の調合技術もあるけどねー。あ~む」


「でも僕ラー油は入れないほうが好きなんだよな…」


「なんで!?ラー油は生でもイケるくらい美味しいのに!?」


「いや、生でイケてたまるか。なんというか、餃子の味を引き立たせる上で必要なのは醤油と酢だけど、ラー油はそれの味変みたいな感じがあるから、餃子の味を味わいたい勢の僕はあんま入れないかな」


もちろんラー油入りも好きだ。


「はえー死んだほうがいいんじゃない?」


「僕の命軽すぎんだろ」


だが、うん。美味いな。

餃子を食べ終わった僕達は店長に声をかけた。


「店長、お会計!」


「おうよ!」


美玲が割り勘にしないかと聞いてきたが僕は無言で自分が食った量分の代金を支払う。

美玲は涙目で財布から札を出した。

会計を済ませ店を出ようとすると店長に肩を叩かれる。


「なぁ塁くんっつったっけ?」


「あぁはい」


なんだ?まさか本性を表して…!?


「悪いことは言わねぇ。美玲ちゃんは止めておけ」


「へ?」


「あの食いっぷりを見ただろう?あの子は普通の女子高生じゃ食えない量のラーメンと餃子を軽々と平らげた。見た目は可愛いかもしれんが、ナメてかかると恐ろしい目に合うぞ。主に財布が」


「あのー……」


「ん?どうした?」


「別に僕美玲に気があるわけじゃないですよ?」


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