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師匠はハーゲンダッツも好きらしい

僕は先輩に言われるがまま、床に胡座をかく。

師匠は床に寝そべり、氷室シスターズはきちんと正座をしている。


「さて、何用じゃ?」


師匠はどこからか柿の種を出し、ボリボリと頬張る。

先輩たちは「あ、えっと…」とまだ変な感じだ。


「あなたが我々氷室家の秘伝の剣術、飛翔水月を扱い、そして伝授していると彼から聞いたのですが…」


氷室先輩がこちらを横目で見ながら師匠に告げる。

師匠は「なんだそんなことか」というような顔で言い放った。


「そうじゃの。実際、儂は此奴に飛翔水月を伝授した」


「その、なぜ貴方が我々氷室家の飛翔水月を扱えるのですか?」


またも呆れたような顔をする師匠。


「なぜと言われてものぉ。だってその剣術、我が作ったんだもん」


おお、出た。師匠の『そいつの開発者 俺だもん』これはそうそう見れないぞ。

師匠がそう言うと、氷花さんが立ち上がる。


「ふざけるな。飛翔水月は我々の神、久遠刻守之神(くおんときのかみ)によって創られた剣術だ。貴様のような餓鬼か大人かわからないような奴に扱えるはずがなかろう」


氷花さんは師匠を見下す。

師匠は氷花さんを見上げながらに睨む。


「はぁ…言わねば解らぬか?儂がその久遠刻守之神なんじゃよ」


「貴様が…?」


睨む瞳をさらに鋭くする氷花さん。

眠くなってきた。


「っは!嘘もここまで来ると清々しいな!貴様が久遠刻守之神ならば後光の一つでも見せてみろ!私は昔、絵巻で見たことがあるぞ?本当の久遠刻守之神の後光は美しく、そして厳かだった」


「ほれ」


師匠は寝転がっている状態から起き上がり、指をぱちんと鳴らす。

すると師匠の背後に、巨大な時計盤を模した荘厳な後光が浮かび上がった。無数の歯車が精緻に絡み合い、極小の時計がいくつもその歯車の間に埋め込まれている。その光が現れると同時に、後光の中心から「ゴーン…」と深く重い鐘の音が鳴り響いた。それはまるで、時間の流れを紡ぐ神聖な響きで、周囲の空間さえも震わせているようだった。


「すげー。久しぶり見みるとやっぱりジオウだよな。音」


僕は呑気に笑うと二人は絶句していた。


「ほ、本当に!?」


「いや、そんなはずが…」


「もう解ったか?儂が貴様らの祀る神じゃと」


師匠はまた指を鳴らし、背後の後光を消滅させる。

先輩はほぼ信じているが、氷花さんはまだ頑なに信じようとしない。


「で、でも!だったらなぜ本殿ではなく、この様な古臭いところにいるのだ!」


師匠は大きく欠伸をする。


「だって、あそこハーゲンダッツ出してくれんもん」


「ハーゲンダッツ…!」


息が荒くなる氷花さん。おもろ。


「でも、私達のことは知らなそうだったし……。本当に久遠刻守之神なら氷室家の15代目次期当主であるお姉ちゃんのことも知ってるはずなのに……」


鏡花先輩はもうほぼ信じ込んでいる様子。

先程より声が小さくなり、縮こまっている。


「む?知っておるぞ。氷室氷花と氷室鏡花じゃろ?懐かしいのぉ…あれの数年後に此奴が来たんじゃ」


師匠は僕の頭をぽんぽんと叩く。


「あれ?」


鏡花先輩は首を傾ける。


「ほれ、お主なら覚えとるのではないか?”子見せの儀”を……」


「子見せの儀まで………」


師匠は氷花さんを指差し、指された氷花さんは何かを知っているようだ。

大体名前でわかるな。多分よくある儀式的なソレだろう。生まれた子どもを見せて「良い子に育ちますように」って願う的な。


「わ、私達は…愚かでございました…!神である貴方様を、あのような態度で…」


「申し訳ございませんでした…!」


次の瞬間、二人は地面に額を擦り付け、必死に謝罪する。

師匠はそんな二人を見て、大声で笑った。


「カカカ!良い良い、良いって!そもそも見た目が人間よりじゃからのぅ。分からんで当然じゃ!儂も楽しかったぞ。これほどまでに怒りを露わにする人間はそうそうおらんからのぅ」


その寛大な器に、二人は再び頭を下げる。

まぁ、師匠を祀るほど信仰しているなら、それになりすましている者が居たらそりゃ怒るよね。

仕方ない…仕方ない。


「その…他にいくつか質問をしてもよろしいでしょうか…?」


「うむ、手短にな」


そして、質問は次から次へと尽きることがなかった。


          ◇


先輩と氷花さんは師匠に質問をし続け、師匠はあることに気づく。


「ふむ…やはりお主、塁坊に好意を抱いておるの……」


「んな!!!」


師匠の何気ない一言で鏡花先輩の顔が赤く染まる。


「そうなのか鏡花!?」


氷花さんも驚き、鏡花先輩を見る。


「ちょっ…本人もいる前で…!!」


慌てて塁の方を確認する鏡花先輩。

しかし、塁は眼を瞑り寝息を立てている。


「安心せい、此奴はすでに眠っておる。随分と疲労が溜まっておったようじゃの……ここまで熟睡している塁坊を見るのは久方ぶりじゃ」


師匠は塁の頭を優しく撫でながら体を大きくする。


「じゃが…ちとお主では厳しいかもの」


師匠は小さな幼女の姿から、最初に出てきた大人の姿に戻る。


「厳しい…というと?」


鏡花先輩が師匠を見上げながら問うと、師匠は伸びをしながら鏡花へ質問で返した。


「では、お主は何故…儂があの様な小さき幼子の姿をしていたか分かるか?」


師匠の問に鏡花先輩は考え込む。


「も、申し訳ございません。私には理解できません」


「そうか…では教えてやろう。此奴はな………」


「此奴は?」


先輩と氷花さんは息を呑む。



「此奴は……俗に言う『ロリコン』じゃ!!!!」



少し緊張気味だった二人は呆然とする。


「ろ、ロリコン…?」


「うむ、懐かしいのぅ。昔此奴に修行を付けてやっていたとき、体格がどうとか手足の長さがどうなどと文句を言っておった。故に儂は体を小さくし、此奴に本当に大事なものは何かと教えようとしたら、此奴は…………いや、この先は言わんで良いな」


二人は心のなかで(何があったの!?)と叫ぶが、表には出さなかった。


「ま、いずれ分かるじゃろうて。他に質問はないかの?」


師匠の言葉を聞き、氷花さんが手をあげる。


「では一つ。最初、我々が貴方様のお姿を視認できなかったのは何故ですか?」


師匠は「何だそんなことか」と少し面倒くさそうに話した。


「簡単なことじゃ。神はあまり人間に関わってはいかん。そういう決まりなのだ。故に儂はいつも人間からは視えんよう、姿を隠しておる。隠すと言っても視えなくしているだけじゃがの。わかりやすく言えばステルスモードというわけじゃ」


鏡花先輩は(多分塁くんが何か教えたんだろうな…)と思った。

だが、鏡花先輩はあることに気づく。


「あれ、でもだったらどうして塁くんはトキ様が視えたのですか?トキ様自らお姿を視せに行ったということですか?」


師匠の鏡花先輩を見る目が鋭くなる。


「そこじゃよ。此奴の可怪しいところは」


「可怪しいところ…?」


「うむ、此奴は儂が姿を視せる以前から儂のことを視認しておった。それだけでなく、声までも聴くことができた」


そして、師匠は最後に「神でもないのに……」と付け足す。


「神…?」


「普通、神を視れるのは神だけだ。同種…という括りになるのかのぅ。じゃが、此奴は視れた。神でもなんでもない人間が…じゃ。何故視えたのか…どうやって視たのか…そこら辺は儂にも謎なままじゃ」


この場にいる全員が塁を見る。

塁は相変わらず、寝息を立てぐっすりと眠っている。


「まぁ、考えたって仕方ない。儂は長生きじゃが、知識はそこまでなのじゃ。さてもう終わりか?」


師匠が話を切り替えると氷花ではなく鏡花が手を挙げる。


「では、最後に一つ。我々が貴方様から受け継いだ剣術。飛翔水月は通常、特定の奥義を持たず、一撃一撃が必殺であり、一技一技が奥義であるという剣術のはずですが、塁くんは…神白塁は一つ異なるところがありました」


「ふむ、異なるところと?」


「はい、それは技です。彼はとあるモノノケを討伐する際、通常の剣とは違う、必殺技のようなものを使用しておりました。少なくとも私はあの技を知らない。彼はトキ様に教えてもらったと言っておりましたが、飛翔水月にはそのような隠された型があるのですか?」


鏡花先輩の質問に師匠は不思議そうな顔をする。


「ああ、あれか。全く…此奴は変なところで謙虚なんじゃから……安心せい。お主らの知っての通り、飛翔水月は技を持たぬ。此奴が扱っておったのは此奴自身が創り出した奥義…『絶刀:空絶』じゃ」


「空絶……」


「故にお主らが知らんで当然じゃ。気に病むことはない。儂も知らんし」


「そうですか……」


鏡花先輩は静かに笑う。その表情はどこか安心しているようだった。


「さて、もう遅い。それに塁坊だけでなくお主らも疲れておるじゃろう?そろそろ帰れ。塁坊は…そうじゃ!」


師匠が少し考え、部屋の隅にあるタンスを漁り、中から何かを取り出す。

出してきたのは白い正方形の折りたたまれた紙。

師匠は社から出て、その紙を広げ呟く。


「隼の右翼、鷲の左翼、龍の尾、虎の胴、丑の角――久遠刻守之神の名において主に名を与えん―――剛獣『窮奇』!」


すると紙の隙間から虎のような牛のような見た目をした大きな翼を持つ獣が出てくる。


「グアアァア!!!」


出た瞬間、窮奇という獣は咆哮をあげる。


「これ!」


「キャウン!」


が、師匠が窮奇の頭を思いきり叩くと窮奇は大人しくなる。


「すまんが、あやつを家まで送ってってくれんかのぅ。案内は…そじゃ。カゲロウ!起きろ!お主が家まで案内してやれ」


すると、床に移る塁の影が蠢き、中からカゲロウが顔を出す。


「御意」


「うむ、では頼んだぞ」


窮奇はのっそのそと歩き、塁を担ぐ。

しかし、乗せた瞬間明らかに重そうな顔をした。


「グギギギギ!!」


しかし、師匠の前なので力を振り絞り羽を力強く羽ばたかせる。

そして、暗い闇の中へと消えていった。

鏡花は少し心配になった。

なぜなら、最後に少しふらついていた窮奇の姿が視えたからだ。


「さすがに重かったか。まぁあの筋肉量じゃ仕方ないか」


師匠は特に気にしていなかった。

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