ツンデレも、デレれば可愛い、デレればね
「いやー美味かったね~」
サイゼリヤで沢山飯を食って腹が一杯になったので会計をして、帰ることになった。
結局奢りじゃなかった。でも、6人で割り勘だし、先輩二人が少し多めに出してくれた。特に氷室先輩。
「あの間違い探しムズすぎだろ……」
「あれは解けるようにできてない!」
中鳶はわからなすぎて「これは政府による洗脳用間違い探しだな」とよくわからない陰謀論を生み出していた。
「おまたせー」
「ごめんね~ちょっと遅くなっちゃって」
帰りにお手洗いにと言う先輩たちを待っていた。
「じゃあもう遅いから皆大丈夫だと思うけど、気をつけてね。はい、解散!」
佐倉先輩による解散式は速攻で終わり皆それぞれの家の方向へ帰っていった。
さて、僕も電車で帰ろうかな……。
駅の方へ向くと氷室先輩が僕の服の裾を掴む。
「あ、あのさ…この後…いい?」
「行きましょう」
即答した。
◇
結論から言うと、僕お含め皆が想像した展開にはならなかった。
議題は僕が前に言っていた師匠のことについてだ。
「そういえば、社長に呼び出されたって言ってたけど、何してたの?」
電車に乗り、吊革につかまりながら揺られる僕と氷室先輩。
知らなかったけど、先輩の家は僕の家と結構近いらしい。近いと言っても1~2km離れてるけど。
「なんかこれ渡されて」
僕はポケットに入れていた小瓶を取り出す。
「ん?」
先輩はその瓶に顔を近づけ目を細める。
「って、ええ!?クラウモノ!?…あ」
電車内で大きな声を出したせいで周りの人がこちらを凝視する。
恥ずかしい…。今度からこの人とは一緒に電車に乗るのはやめよう。
「アルベールさんも言ってたけど、そのクラウモノってなんです?戦ったは良いけど、よくわかんないまま祓っちゃったから…」
「ああ、そうね。説明してなかったわ。あ、とりあえず降りてからでいい?」
「はい」
ちょうど先輩が話しだそうとしたタイミングで電車が僕達が降りる駅で止まった。
僕と先輩は並んで電車を降りる。
それと同時にたくさんの人も降りる。
結構遅くなってしまったが、僕達と同じ歳、なんなら僕達より若そうな人たちも降りている。
駅を出ると先輩が「こっち」と言って僕を先導する。
師匠に合う前に少し着替えたいそうだ。さっきちょっとピザのトマトソースがついたみたい。
「少し歩くけど、大丈夫?」
「任せてくださいよ。僕はいつも、ここよりちょっと遠いところにある場所から学校まで走って投稿してるんですから」
最近は暑いから面倒だけど。
「だからあんたそんな筋肉ダルマなのね…」
「失敬な」
暗くなった空の下を、人気のない道を二人で歩いていると氷室先輩とのデートを思い出す。
氷室先輩もそのことを考えているのだろうか。
少し前を歩いているから、顔はよく見えない。
「そういえば、サイゼリヤでは言えなかったけど、おめでとう。あの強さなら隊長クラス狙えるわよ」
「フッ…僕くらいまで来たら当然ですよ」
「調子に乗らない」
「はい。けど、一つ気になって」
「何が?」
「いや、空蹴のこと」
あいつってあんまり強くないのになんで四番隊の隊長やれてんだろ。下剋上とか起きないのかな。
僕がそんなふうに聞くと氷室先輩は「うーん…」と声を出す。
「クレイルって、強さも大事なんだけど、組織への貢献度とかも大事で、あの人は社長の秘書的な立ち位置でもあるし、戦闘というより捜索とか向いてるから新しい異能力者を見つけたり、モノノケの出現場所の特定とかでどんどん昇進してったって感じなのよね」
へー、じゃああいつそこまで強くなかったんだ。
「そもそも隊ってどんくらいあるの?あと、あいつが言ってたコードネーム(笑)とかってどういう仕組?」
「ほんとあんたって何も知らないのね……まぁ仕方ないか。隊は全部で10あるわ。第一部隊から第十部隊までね。コードネームは優秀な人とかに勝手についたりしてるわ。異名みたないな感じね。というか、何よ(笑)って…」
「いや、こっちの話。じゃああいつが言ってた黒兎ってのも自然とついたって感じ?クレイルの人たちは皆そうやって呼んだりするの?」
「黒兎はどちらかって言うとクレイル以外の人たちが付けた異名ね。うちの人達はみんな大体空蹴さんとか、あの人の隊の隊員はエアーバシリスクって呼んでるわ」
エアーバシリスク?
バシリスクってあの水の上走れるトカゲか?うーん、言いえて妙というか…。
「着いたわ。ここよ」
色々と話していると、先輩の実家についた。
先輩の実家は和風の結構大きな家。僕の家と同じくらいデカかった。
うお、池までついてる。
「えっと…とりあえずここで待ってて」
先輩に玄関の前で待つように言われ、先輩は扉を開ける。
すると…。
「おかえり、遅かったわね鏡花。何かあったの?ナンパ?それなら私が…」
「お姉ちゃん、今そういうの良いから…!」
聞き覚えのある声がして、チラッと顔を覗かせるとそこには先輩とのデートの日、先輩が気絶しているときに僕を襲った辻斬りがいた。
それもウサギやクマが描かれたピンク色のパジャマを着て、腕には猫を抱っこして。
「ッ!!お前は!!」
相手も僕の存在に気づいたのか驚いた表情を浮かべる。
即座に僕と辻斬りは玄関の壁にかけてある刀を手に取る。猫はヒョイッと逃げる。
「ちょちょ、ちょっと待って!!」
そこで氷室先輩は割って入る。
「どいてろ鏡花!こいつは危険だ。顔が邪悪」
「顔で決めつけられてたまるか!」
「鏡花のパンツも見てそうな顔してる」
「…………」
否定できない。
「え、見たの?」
そこで氷室先輩も反応する。
「ミ、ミテナイヨ?」
「ほら、見てないって!。大丈夫でしょ?」
危ねー!!マジセーフ!!
さすがに見られてなかったよな。よね?
「…………」
まだ僕を警戒しまくっている先輩のお姉さん。
「じゃ、じゃあ私、ちょっと着替えてくるから!塁くんはそこで待ってて。お姉ちゃんは何もしないで!」




