第五十二話:サイゼリア?サイゼリヤ?
僕は着替えてからクレイル本部を出た。
そして、連絡された場所に向かう。
飯か。一応財布には金が入っている。でも多分僕頑張ったし奢ってくれるだろ。
タダメシラッキー!
確か焼き肉とか寿司とか言ってたし………ゲヘヘ店潰してやるぜ。
「…って、ここサイゼじゃん」
連絡された場所に頑張って辿り着くと、そこは高校生の味方サイゼリヤだった。
ん?サイゼリヤ?サイゼリア?どっちだ?
あ、サイゼリヤって書いてある。
「どこだ?」
店の中に入り、皆のいる席を探す。
意外と人いるな。まぁまだ8時くらいだしな。
「おーい塁くーん、こっちー」
少し大きな声で僕を呼ぶ声が聞こえ、首を向けると佐倉先輩がこっちに手を振っていた。
席の方に近づくとやけに不機嫌な美玲がフォークとナイフを握りしめていた。
「遅いよ!!何してたの!!」
「そうですぞカミロ氏。遅すぎますぞ!!」
「なんでお前もいるんだよ!?」
美玲の横に何故か中鳶。
「いやー、さっき偶然会ってさ。美玲ちゃんと塁くんのお友達って言うからじゃあ一緒に食べようって」
「いやはや、本当に男の子だったとは。いや、男の娘ですな。あ、萌える」
「黙れ」
ほら、純粋な千弘が首傾げてるぞ。
「というか、先に食えばよかったのに」
一番通路側の氷室先輩の横に座りながら言うと氷室先輩が困ったように言った。
「琴音が「まだ塁くんが来てないのに食べるなんて可哀想」って言って聞かないのよ」
「だってそうでしょ?ご飯は皆で食べるから楽しいんだよ」
佐倉先輩が満面の笑みで言う。
この人結構礼儀とかマナーとか厳しいんだよな。
人は下の名前で呼ばないととか、挨拶をちゃんとしましょうとか。
「でも、美玲ちゃんが他の人のご飯を狙おうとするから先に頼んじゃったけど」
千弘がそう言ったタイミングで店員が来る。
「お待たせしました。こちら野菜とキノコのピザと辛味チキン、アロスティチーニ、エスカルゴのオーブン焼き、キノコとほうれん草のクリームスパゲティですね」
「あ、はーい。ありがとうございます」
すごい量だな。
「あれ?他のは?」
「申し訳ございません。ミックスグリルとディアボラ風ハンバーグ、イタリアンハンバーグ、ハンバーグステーキはもう少々かかります」
店員が申し訳無さそうに言うと美玲が「え~…」と悲しそうな顔をする。こいつすんげぇ量頼んだな。
「そうだ、塁くん何にする?」
佐倉先輩がメニュー表とメニュー記入用の紙を渡し、僕に言う。
「じゃあ僕は、2418と3102…あ、ドリンクバーって……」
メニュー表を見ながら言うと佐倉先輩は「もう全員分頼んだけど、いらなかった?」と言う。
さすが。
「じゃあこれで」
そう言って僕は店員に紙を渡す。
店員さんは紙を受け取ると早口で復唱し、忙しそうに厨房に戻っていった。
「私、ドリンクバー行ってくるね。皆何が良い?」
佐倉先輩が席を立つ。
千弘「僕は烏龍茶」、氷室先輩「私はカルピスで」、美玲「コーラ、メロンソーダ、ジンジャーエール」、中鳶「吾輩、コーラ」、僕「右に同じく」
「りょうかーい」
佐倉先輩は全員分のコップに飲み物を注いでいる。
「あれ、そういや稽太は?」
「なんかあっちでいい人?見つけたみたいでその人とちょっと遊んでくるって」
「…………」
聞かなきゃ良かった。
「おまたせー」
佐倉先輩が全員分の飲み物を持ってくる。
早くね?
佐倉先輩も席につき、料理もあらかた揃ったから皆戦闘態勢に入り。
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」
佐倉先輩はエスカルゴのオーブン焼き、氷室先輩はキノコとほうれん草のクリームスパゲティ、他のは皆でシェアしている。
「あ、おいチーズ多いところ持ってくんじゃねぇ!」
「遅れてきたのは塁くんなんだから慰謝料だよ慰謝料」
僕と美玲でピザの取り合い。
「熱っ!チキン熱ッ!」
「大丈夫?はい、これ」
辛味チキンを熱いと言いながら食べる中鳶に紙ナプキンを渡す千弘。
「鏡花ちゃんって結構甘いの好きよね~」
「ちょ、ちょっと言わないでよ!」
カルピスを飲む氷室先輩に少し笑いながらからかう氷室先輩。
氷室先輩は少し照れていた。
なんだかこの空間が心地よい。
皆でワイワイ食事をするというのは楽しいものだ。
そこでアルベールさんが言っていた言葉を思い出す。
『皆、命を落とす』
もし、皆がクレイルに入って大怪我をしたり、下手したら死んでしまったり……そんな事があったらもう、こんなことはできないのかな……。
僕の中で今まで感じたことのない感情が渦巻く。
不安、恐れ、後悔。
もし、僕以外が死んでしまったら……僕はどうなってしまうんだろう。
もし……。
「見て見て塁くん。ドリンクバーでコーラとメロンソーダと水と野菜ジュースとお茶とカルピスとジンジャーエールその他諸々をブチ込んだミックスジュース~。飲んでみて」
「…………」
「美味しいのそれ?」
と千弘は興味津々。
「中学生みたいなことして……」
氷室先輩は呆れている。
「へー、野菜ジュースもあるんだ」
佐倉先輩はドリンクバーが気になるご様子。
「ト、トイレ…」
ジュースを飲みすぎた中鳶は下半身を抑えている。
(ま、そんなこと考えたってしょうがないか)
僕が皆を守れば良い。それだけだ。
僕は美玲のジュースを受け取り、一気飲みする。
「どうどう?」
その質問に僕は応える。
「……微妙かな。でも、悪くはない」




