第五話:オタクは厄介2
さてとトイレに15分はこもったしそろそろいいだろう。
あの女子生徒も僕のことなんて構わず帰ったろうし、黒い影でも探しに行こう。
トイレから出て周りを確認する。うん、誰もいないな。まぁ当然下校時間を過ぎたんだ職員室以外は電気がついていない。太陽が沈み暗くなった世界、電気もついていない廊下。フ~雰囲気あるねー。
皆がいない学校はまさしく別の世界のようだった。パラレルワールド、なんてものは僕は信じていない。
あったとしても僕と同じ存在のやつはいないだろう。だってそれは僕であって僕ではないのだから。
もし、いたとしても筋トレが大好きな奴だから気が合うだろうね。筋肉について語ろうや。
「カゲロウ、探して」
カゲロウのモノノケ探知はあんま使えないけど、まぁないよりはマシだろ。
なんかこう、発信機みたいな感じじゃなく、『ここに居そうなんだよなー』って感じで割と当たる勘みたいなものらしい。
ちなみに人間の気配はわかんないらしい。
「ここから少ししますね」
「へー…て、おいおい流石にヤバいだろここは」
カゲロウが指示した場所は二年専用の女子更衣室。
まさかこいつ昨日、師匠に一緒に怒られたこと怒ってんのか?
それは………まぁ、すまん。
「とりあえず入ってみるか」
ちょっと興味あるし。
「し、失礼しまーす………」
扉を開け中に入ると、外とは違う空気が漂っていた。
こ、これは!?
「すうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーー」
それはまさしく女子の匂いだった。
たまらないなー。なんで女子ってこんないい匂いがするんだろうね。残り香だけなのに、なんというかお上品というか可憐というか、もうとりあえず甘い優しい香りだった。こんな聖域に僕が足を踏み入れていいのだろうか。ラノベだったら間違えて使用中の女子更衣室に入ってしまって、お着換え中の女子生徒たちの下着姿を見れただろうに。または間違えて入ってしまって、ちょうど一人だけいた着替え中のヒロインと更衣室に二人きり『マズイ』と思っている暇もなく別の生徒も来てしまう。そのせいというか、そのおかげというかそんな感じで焦ってヒロインと一緒のロッカーの中に隠れてしまう…みたいな?
うわ、ここのロッカー入ったら肉団子になりそう。
両側の壁に埋め込まれているロッカーはおよそ荷物が入るくらいの大きさしかなく、この学校ではそういうイベントは前者しか起こらないだろう。
ていうか大体のそういうラッキースケベイベント起きてもすぐに事は収まるけど、現実だと卒業…いや、卒業した後でも変態扱いされるから絶対やらんけど。
「ここが結構、残っていますね」
カゲロウはある一点の
ロッカーに反応を見せる。
ああ、ここは…。
「確かに、佐倉先輩の匂いするね」
「え…匂い嗅いでたんですか?」
「いや違うぞ。僕まぁまぁ鼻いいからわかるだけだぞ」
にしてもここだけモノノケの気配が残ってるってのも変だよな。
美術室の件も佐倉先輩あるし………もしかするとこれは単にモノノケが人を襲うというわけではなく一人をマーキングして狙ってるのかな。
だとすると佐倉先輩も何かしたのかな。人の家のお墓破壊するとか、お地蔵さんにおしっこかけるとか。
いや、それはご褒美か。
「しかし普通のよりも気配が弱いので少し前にいたのでしょうな」
「だったらもっと気配強いところに連れてけよ」
とりあえず肺いっぱいに甘い香りを吸い込んで女子更衣室を後にする。
ここには特に手掛かりはなかったな。
次にいこう。
Next:女子トイレ。
「いやここはだめだろう」
カゲロウが次に指示したのは二年生の女子トイレだった。
「なぜです?」
「女子更衣室はなんというか、まだ常識の範囲内だけど…ここはだめだろうここは」
「どちらも同じのように思われますが…」
デリケートな場所だからここは触れないで置いた方が良いだろう。
「まぁ、あらかた場所は特定できているので腹いせはこのあたりで済ませときましょう」
「腹いせ!?」
やっぱ昨日のことちょっと根に持ってたのか。ごめんて。
「ごめんよ~頼むから連れてって!」
「…しょうがないですね……」
やったぜ。
カゲロウの腹いせに付き合った後、本命の場所に連れて行ってくれた。
そこはプールだった。
漆黒に染まった空の下、ひっそりと佇むプール。人気のない、水の揺らめきだけが聞こえる場所。僕は躊躇なく柵を飛び越え、プールサイドに降り立った。
闇が迫るプールの中央には、黒い何かが蠢いていた。
「お前が…」
話を聞く限り、もっと強そうなモノノケを想像していたのだが、目の前にいたのは、制服を着た、おかっぱ頭の、ステレオタイプなオタク風のモノノケだった。死んだ人間がモノノケに変化したタイプだろうか。
モノノケにもいくつかタイプがいる。人間みたいなものだ。
まぁ説明すると長くなるから省くけど、こういう皆が想像するような幽霊みたいなのもいる。
「えっと……さっきの女の子の体を触ったとか言ってたの、多分君だよね?」
僕が問いかけると、モノノケは変なことを呟き始めた。
「お、お前に…お前に何がわかるんだ…」
良かった。この前の蜘蛛より話が通じそうだ。
しかし、僕の投げかけた質問とは少し違った回答が返ってきた。会話は難しそうかな?
「えーっと、よくわかんないんだけど。とりあえず話してよ。僕もなるべく面倒なことはしたくないし、話して終わるんだったらそれでいいからさ」
「あ、あの子は………」
「うんうん、あの子は?」
多分あの子って佐倉先輩のことだよな。
そして、そのモノノケは震えながらつぶやいた。
「あの子は、吾輩のことが好きなんだ!」
よし、会話は無理そう。




