毒
蜘蛛男が僕に指をさし、それと同時にクローゼットの中から出てきた蜘蛛と同じくらいの大きさの蜘蛛7~8体が床を這いまわり、壁を駆けあがり僕に一斉にとびかかってくる。
「うわっ、キモッ!」
僕は思わず身を引いた。
一帯だけならともかく結構数もいる。ていうかよく見ると大きいのに混ざってちょっと小さいのもいる。
生理的に無理だ。キモすぎる。
そもそも僕は虫全般が嫌いだ。いやまぁ多分皆嫌いだろうけど。
やっぱり何考えてるかわからないし、カサカサと動き回る姿は見るだけで気絶しそう。さっきまでは頑張ってたよ?でもさぁこの数はちょっと…。
特に嫌いなのは蝉だね。夏になるとそこら中に死んでんのか死んでないのかわかんねぇのがゴロゴロいるし。ほぼ地雷だろあれ。
だが、カブトムシは例外だ。アレはかっこいいしな。クワガタはちょっと…昔、保育園に通っていた時にお散歩タイムみたいなのがあって近くの公園に保育園のみんなで行ってたんだけど、その時僕の友達A君がクワガタを見つけて僕が「いいなぁA君。かっこいいね」と言ったら、その友達A君は「じゃあちょっとあげる」と言って近くにあった石をつかみクワガタの右顎をへし折って僕にくれたのがトラウマでクワガタはあまり好きじゃない。
とまぁこんなことは置いといてこの蜘蛛たちに集中しよう。
「カゲロウ『叢棘』」
跋虎を地面に当て蜘蛛たちの方へと薄い影を伸ばし、そこから無数の黒い棘を生やし蜘蛛たちはそれに貫かれ黒い灰となって消滅する。
一瞬の間、あたりに静寂が訪れた。
その静寂を打ち壊すかのように蜘蛛男が怒り狂い。奇声を上げ、激しく動き出した。
「キエエエエェェェ!!!」
鉤爪を振り上げ、一直線に僕へと襲い掛かってくる。そのスピードは蜘蛛たちと比べ物にならないほど速い。
といっても僕に比べると遅いね。
僕は少しスピードを上げ蜘蛛男の攻撃を避ける。
「キエエエエェェ!!」
しかし蜘蛛男の鉤爪攻撃は止まらない。避けられたことに怒り、再び攻撃をしてきた。
その攻撃を華麗なステップで避ける僕。
そしてガラ空きになった胴体へと強烈な右ストレートを叩き込む。
ドゴォッ!
鈍い音とともに蜘蛛男の身体が吹き飛ぶ。
しかし立ち上がりまだ攻撃してくる蜘蛛男。だが先ほどまでの俊敏性がなく少し焦りも見える。
その攻撃も避け、膝蹴りを加える。地面に鉤爪をひっかけ吹っ飛ぶのを防ぐ蜘蛛男。
荒い息の中にかすかに声が聞こえる。
「マダダ…マダ……コレガ…アル!!」
そういって蜘蛛男は拳を握り占める。
その瞬間僕の肘にとてつもない痛みが走る。
なんだこれ毒?
痛みを発したのはちょうど一番最初に出てきた蜘蛛を倒したMyエルボー。
「ワタシノ…コドモ…ヲ…コロシタトキ…二ツイタ…ドクバリ…ダ」
「あんときか………」
「キャッキャッキャ…イタミデ…タテナイ…ダロウ?」
蜘蛛男がいやらしく笑う。
完全に勝ちを確信してやがる。
「ああ、そうだな」
「?」
「めちゃくちゃ痛ぇわ、クソボケ!!!」
完全に油断してた蜘蛛男の顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。
バキィ!
顔面の半分が吹き飛び目を大きく見開き苦悶の表情を浮かべる蜘蛛男。
「ガアア…ナ…ナゼ…?」
「僕、やせ我慢得意なんだよね」
おそらくこいつを殺したらこの毒も消えるだろう。あー痛え。
「ヒ…ヒエ!」
蜘蛛男が恐怖を覚え逃げようとする。
しかし僕はそれを許さない。
「『黒点』」
指の先にカゲロウの霊力を収縮させた黒い球体を一気に放つ。さながら黒い霊丸だ。
放った漆黒の球体はものすごいスピードで飛んでいき蜘蛛男の首から上を消滅させる。ついでに壁にも罅が入る。
蜘蛛男は首から足にかけて徐々に消滅していく。
よし、一件落着。