第四十五話:勝ったらイキる。これ常識
「えーでは、始めましょうか。参加人数は20人ですので、最終戦以外は全部一対一で行っていきます」
空蹴は全員分の名前が書かれている紙にペンをなぞらせる。
「最後に残った二人で戦ってNo.1を決めないんですか?」
参加者の一人が手を上げ、空蹴に質問する。
「別にやり合ってもいいですが、大体皆最後には疲れてやる気ないか、大怪我で動けないかの二択ですけどね」
空蹴はヘラヘラとしながら言った。
ちょっとみんな怖がっていた。
説明が終わり、最初は全然知らんやつらが戦った。
「行くぜ!!」
金髪の男が拳を握りしめ叫ぶ。
「ふぅ…」
対戦相手のセンター分けの男は緊張しているのか自身の胸元に手を当てている。
最初に動き出したのは金髪の男だった。
全力の疾走。その速さはまるで車のようだった。
さすが残り組だなと僕は思った。個々に残っているのは皆、霊力の量が多く殆どが青色だった。
青色じゃないとしたら美玲か僕くらいだ。そもそも僕出せてないし。
金髪の男は10mほど離れたところから思いきり飛び上がり、センター分けの男へと拳を振り被る。
「くっ!」
が、その拳は空を切る。
センター分けの男は瞬発力が高く、一瞬で金髪の男の背後へと移る。
そして拳ではなく手刀で相手の首元を一突きする。
手刀を喰らった男は唾液を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。金髪の男は「ぐっ…!」と呻きながら立ち上がろうとするが、センター分けの男は「ほっ!!」と頭部に強めの一撃を入れて金髪の男を気絶させる。
「はーい勝負あり!」
空蹴の一言で観客席から「おおぉ…」と小さな歓声が聞こえる。
意外と対人線は一瞬で終わってしまう。
ボクシングじゃないしな。
「じゃ、サクサク行きますよ。次は…朝倉さんと綾部さん!」
お、美玲の番か。
相手の綾部という男は結構筋肉質で色黒の人だ。正直見た目だけなら美玲は敵わないだろう。
「大丈夫か美玲。相手めっちゃでかいぞ」
「ふっふっふ…大丈夫だよ。私刃牙全巻持ってるから喧嘩なら強いよ!」
………それで喧嘩強くなったら皆苦労しない。
「まぁ、頑張れよ」
「うん!」
美玲は意気揚々とフィールドへと向かった。
◇
観戦席から見ていた蓬野高校メンバーは少し心配していた。
「美玲ちゃん大丈夫かしら…」
佐倉先輩はカゲロウを撫でながら呟く。
カゲロウはなんだかムスッとしている。
「そうね…相手、結構強そうだし…」
観戦できると聞いて駆けつけた氷室も一緒に考え込んだ。
美玲は強気な性格だが、体つきは結構小さく相手との身長差や体格差はかけ離れている。
「始め!!」
空蹴の声が部屋中に響く。
両者とも特に動きはない。が、すぐに美玲が動き始める。
「うおおおぉぉぉ!!!」
大声で叫びながら走る。
それと同時に綾部も動く。
「来い女ぁ!!」
美玲と綾部が互いに拳を握り、引く。
そして先に綾部が放つ。
だが、その拳は途中で止まる。
「とりゃぁぁぁぁ!!!!」
美玲の拳はそもそも放たれることはなく、代わりに足が放たれた。
当たったのは男性ならば無条件で弱点になる部分であった。
観客らは目を丸くしながら口をあんぐりとしている。
塁は口元を抑えながら絶句している。
「ッッッッ!!!!!!!!!」
綾部は声にならない声を上げ、蹴られた部位を抑えながら倒れ込む。
美玲はキメ顔で「フッ」と見下した。
「愚地独歩を見習いな。奴はしまえる」
最後に美玲はそう呟いてその場を後にした。
皆、「それは卑怯だろ」と思っていた。
「………あ、えと…しゅ、終了!!」
勝者は紛れもなく美玲だった。
少し卑怯だとは思うが、勝ちは勝ちだ。少し卑怯だとは思うが。
次の試合は塁の番であった。
対戦相手は目つきが悪い坊主の男。
その男は霊力の量も多く、青色の中でも一番量が多かった。
男は部屋の端に用意された参加者用のベンチの上で音楽を聞きながら静かに、目を瞑り座っている。
「次は塁くんの番か……」
千弘は心配なような、だがどこか勝ってくれると信じている眼差しで塁を見つめる。
それに気づいた稽太は千弘に「大丈夫さ。あいつならヤッてくれる。俺のパートナーだからな」と励ましになっていない励ましの言葉をかける。
「うん…そうだよね」
千弘は「あ、そうだ」となにかを思いついたのか、スマホを取り出す。
塁は戦うためにベンチから立ち上がりジャラジャラと鎖の音を立てる。
するとその鎖の音とともに「タ・ト・バ!タトバ・タトバ!!」と通知音が鳴る。
「おや?」
確認するとLINEに千弘からメッセージ。
少し前に交換したが、なかなか使うタイミングがなくメッセージを送り合うのはこれが初めてだ。
塁は「どれどれ…」とスマホを確認するとそこには………。
ルイくん、がんばれー❗️(>ω<)✨️❤ボクも一緒に応援するから、絶対勝てるヨ☺️♫
(おじさん構文かよぉぉぉぉ!!!!!)
塁は心のなかでツッコミながら、観戦席の方を見る。
そこには真面目な顔でニコッと笑う千弘の姿。その表情にはふざけている様子はない。
塁はとりあえず、「うん、頑張る」とだけ返し、フィールドに出た。
「塁くん、わかってるよね?」
去り際に美玲が塁を引き止める。
「ああ、わかってる。絶対勝つさ」
「いやいや違う違う。ちゃんと強そうに見せろってことだけ」
(…こいつ)
「あいあい、わかりましたよ」
「ちぎゃうでしょ!!『ゲヒャヒャ!!あぁ分かってるぜ!』でしょ!!」
「ゲヒャヒャ!!あぁ分かってるぜ!」
「よし、行け」
何なんだこいつはと思いながら塁は皆の前に立つ。
目つきの悪い男もポケットに手をツッコミながら音楽を聞いている。
(こいつ…見た目めっちゃ強そうだな……)
塁は結構強めに言ったほうが良さそうと考え、指の骨をぽきぽきと鳴らす。
「では、始め!!!」
空蹴の合図で目付きの悪い男はポケットから手を抜く。
そして、塁も動く。
一体、どんな戦いが始まるのか……と思ったが、意外とあっさり終わってしまった。
「ガフッ!!」
塁は目にも止まらぬ速さで男の目の前まで移動し、一撃で男を地面にめり込ませる。
「「「「ッ!!」」」」
その速度とパワーに初見の者たちは驚愕する。
「あいつ…霊力ないって話じゃないのか?」
「見えなかったよな……」
「ウホッ、いい男ミッケ♪」
皆、塁の強さに疑問を持ち始める。
だが、塁の強さを知っている者たちは「よしっ!」「やっぱり勝つと思ってたんだ!」「なぁ君、いいカラダしてるな。あっちでお茶でもしないか?アイスティー奢るぜ」などと一人少し違うことをしてるやつが居るが大体喜んでいる。
当の本人はというと。
「えぇ、強そうと思ったのに意外と一瞬で終わっちゃった…」
と、一番困惑していた。
すると、そのタイミングで美玲が声が響く。
「塁くん!!!!!分かってるよね!!!???」
その声を聞いて、塁は咳払いをしながら腕を広げポーズをとり、下をベロンベロンに出しながら叫んだ。
「ゲヒャヒャヒャ!!!やっぱり俺様が最強だぜ!!!向かうところ敵なしってやつだな!!!!」




