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主人公ってきらーい

 美玲は佐倉先輩が介抱してくれたおかげで僕達は何もせずに済んだ。本当に良かった。

とりあえず僕は美玲用に黒烏龍茶を買っておいた。

空蹴はさっきからずっと泣きながらシートを拭いている。なんか可哀想になってきた。

稽太はそこら辺で腕立てをして、千弘は野良猫を撫でようとしている。

氷室先輩は誰かに電話してちょっと謝ってる。

あれ…?なんか………。


「はい…では、失礼します……はぁ…」


「電話終わりました?」


「え?ああ、うん。何かあったの?」


「いや、ちょっと気になって。先輩この前の傷もう殆ど消えてるなーって気になって」


霊力で治癒ができるのは知ってるけど、そんな出力高いのかな。


「クレイルには損傷を修復する異能力者がいるんですよ。僕の体に流れた電流の痕もその人に直してもらいましたし。ただ、単純な回復じゃなくて細胞の修復速度を数万倍に活性化させるからめっちゃ痛いし、めっちゃ疲れますけどね」


氷室先輩に聞いてんのにこいつは……。

それと同時に稽太も参加する。


「回復系か…珍しいな!」


「そうなの?」


「うむ、俺は見たことがない」


「へーそうなんだ。霊力でも多少の回復はできるって聞いたけど、それは個人差があんのか?それとも普通に鍛えれば上がるとか…」


「霊力の回復はだいたい皆同じだな。確かに何回もやれば少しは早くはなるだろうが、それも微々たるものだ。それに鍛えるためとはいえ、自身の身体を損傷させたがるイカれ野郎はそうそう居ないだろう」


まぁそうだよな。


「ごめーんおまたせー」


美玲を担ぎながら店の中から出てくる佐倉先輩。


「じゃ行こっか」


全員を仕切るところを見てるとさすが生徒会長だなと感心する。


「おーい千弘ー。そろそろ行くぞー」


「はーい、じゃーねークリストファー」


茶トラの猫にクリストファーは違うだろと思うが特に何も言わないでおこう。


        ◇


「着いたどー!!!」


車に乗ってるときは死にそうな顔していたけれど、降りた後にファミチキ上げたら元気になった。


「結構大きいんだね」


「うむ、ここに来るのは俺も初めてだな」


「そんなことよりなか入ろうぜ。暑いし」


中に入り、皆でエレベーターの中に入る。

狭いな。


「あれ、社長への挨拶は良いの?」


地下3階のボタンを押す空蹴に氷室先輩は聞く。


「ええ、社長は今日外の仕事ですからね」


「そういえば、昨日いきなり部屋に現れてたけどアルベールさんの異能って何なの?」


空蹴その言葉に頭を抱える。


「うーん…あんま詳しく言えないんですけど…まぁ一見は弱そうな異能ですね」


「なんで言えないの?」


僕が空蹴に聞くと氷室先輩が割って入る。


「この業界じゃ、自分の異能を話すのはご法度なの。手の内を知られれば、いくらでも弱点を突かれるし、下手したら命に関わることなのよ」


「へー……だってよ」


僕は空蹴の左腕を肘でつく。


「………」


空蹴は顔を顰めながら汗を掻いている。

おい、こっち見ろや。


「さ、さぁつきましたよ。ほら出た出た!」


強引に皆を外に出す空蹴。

エレベーターの扉が開くと、そこにはまるでSF映画に出てくるような殺風景な空間が広がっていた。壁も床も無機質なコンクリートで、天井からは無数のパイプが剥き出しになっている。蛍光灯の冷たい光が、まるで手術室のように、全てを無感情に照らし出していた。

廊下を少し進むと、僕たちは一つの広い部屋に通された。部屋に入ると、氷室先輩は「じゃあ私は待ってるから頑張って」と、優しい笑顔で手を振り、別れていった。

部屋の中にはすでに何人かの人がいた。銀髪の中学生くらいの女の子や、ゴリゴリマッチョな男、弱そうなヒョロっとした、認めたくないがイケメンな男など、多種多様な人々が集まっていた。

美玲が僕の耳元で「なんかハンター試験みたいだね」と囁く。


「たしかに」


僕は適当に答える。


しばらく待っていると、部屋の正面の壁の上部にある窓から、空蹴がマイクで話し始めた。


「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。ここにいる皆さんは全員、異能が使える、霊力が多い、モノノケが視えるなどの、普通の人間とは違う人達の集まりだと思います。今日はクレイルの入隊試験を受けてもらいますが、ご安心を。モノノケが視えるだけで、皆さんはほぼ合格と言っても過言ではありません。単純に、その中でも優秀な者、あまりにも非常識な者をふるいにかけるだけです」


その瞬間、後ろのドアが開けられる。皆が振り向くと、そこにはクラスメイトの橘煌がいた。部屋の中の者たちは「なんだあいつ…」とか「なるほど、結構強そうだね」など、小声で感想を言い合っている。

すると美玲がまた僕に話しかけてくる。


「ねぇねぇ、あれってうちのクラスのやつじゃない?」


「だな」


橘は「すまんな。遅れた」と、まるで当たり前のように言い、ドアを閉めた。


キモ!おっといけない。

みんなが静まった頃、空蹴が「…ではとりあえず、最初は筆記試験から始めましょう」と言い、何人かのグループに分かれて別室へと移された。


                ◇


「いや、普通にむずかったわ」


筆記試験を終え、僕たちは再び最初の部屋に戻ってきた。空蹴が一人ずつ点数を発表していく。ちなみに最高点数は300点だ。


佐倉琴音:285点、東雲千弘:230点、寺岡稽太:190点、神白塁:120点、朝倉美玲:5点。


テストが返され、美玲が僕の点数を見る。


「うわ、塁くんヤバいね」


「お前が言うな」


他の人たちも次々に点数を言われていく。そして、橘煌の番になった。


橘煌:300点。


満点だ。


「「…………」」


僕と美玲は口を閉じる。

そして部屋の端っこでしゃがみお互いに「うざいね」とか「うぜぇな」と愚痴る。

全員のテストが返されると部屋に空蹴が入ってきた。


「皆さんテストは返ってきましたね。では、次の試験に移りましょう」


そう言って僕達は次の試験会場へと移される

移された部屋には、一つ気になるものが置いてあった。殺風景な空間に、ぽつんと置かれた小さな机。その上にコップが置かれていた。それは、禍々しい雰囲気を纏った陶器で、側面には目や指、鼻、耳などの人間のパーツが不気味に貼り付いていた。そして、縁は口になっており、歯がむき出しになっている。


皆が「なんだなんだ?」と戸惑っていると、空蹴が説明を始めた。


「これから皆さんには、あの陶器を握ってもらいます。あの陶器は、触れた対象の霊力の量に応じて口の中から煙を吐きます。その量と色で、個々の霊力総量を測ります」


ほーん、なんか異世界系の入学式とかで見たことあるな。

空蹴は「えー…」と言いながら胸ポケットの中からメモを出し眺める。


「霊力の量は、白、緑、青、紫、赤の順で多く、一定の量が出ると色が切り替わります。一般的な量は緑で、青に入れば優秀です。では始めましょう」


空蹴の合図で、一人ずつ陶器に触れていく。すると、何人か目を見張る者がいた。

一人目は、天宮禀という銀色のボブカットに、少しタレた猫のような瞳を持つ少女だ。だけどちょっとジト目。


(学ラン…中学生か?)


うおっ、おっぱいデカ。あれは中学生じゃないな。あーいやでも、佐倉先輩よりは小さいな。ドンマイ。

天宮さんが陶器に触れると、紫色の煙がすごい量で立ち昇った。

天宮さんよりも周りの奴らのほうが先に反応した。


「や、やべぇ…」


「な、何なんだあいつ…」


その反応を気にせず天宮さんは「ま、こんなもんだよね~」と言って群衆に戻る。

おお、イキってるイキってる。

ああいうのは後々になって恥ずかしくなるぞ~。

次に目立ってたのは橘だ。

橘はポケットに手を入れながらコツコツと足音を立てて陶器の前に立つ。

そして、スッと陶器に優しく触れると、陶器の目が見開き勢いよくとんでもない量の赤い煙を吐き出した。先程よりも高い魔力、且つ量も最大級。周りの群衆(モブ)共も騒ぎ立てる。


「や、やべぇ…」


「な、何なんだあいつ…」


橘は「フッ…」と鼻で笑い、またもポケットに手を突っ込んで戻って来る。

皆、そいつの道を譲るかのように横にずれる。

こいつっ…マッジ……チッ………。いかんいかん。堪忍袋の尾がブッチブチにブチ切れるところだった。

こいつってまじで何なんだ?カッコつけたがる厨二病か?

別に厨二病が悪いって言うわけじゃないけどさ、厨二病患者で許されるのは紺色の髪の左側に黄色いリボンを付けて、眼帯の下に邪王真眼を宿した可愛い女の子と中学生までって決まってんだよ。

もういい年なんだから卒業しろ。

そして最後に目を見張ったものは、というか今日一ヤバかった。

波月理(みなづきさとる)という、黒い髪と黒い瞳を持った、細身の青年だ。

うわ、こいつもモミアゲ長っ。

顔立ちは整っているが、これといった特徴もなく、周りの景色に溶け込んでしまいそうなほど存在感が薄い。

波月君は「あ、俺の番ですか」と言い陶器に近づき、触れる。

すると橘のときと似たような様子を見せた瞬間、陶器が白目を向き、爆散する。

広い部屋が唖然に染まる。


「や、やべぇ…」


「な、何なんだあいつ…」


と驚いている。

それどころか空蹴でさえ、驚愕を隠せていない。

静まり返った部屋の中を波月くんの声が響く。


「えっと…また俺なんかやっちゃいました?」


(やっちゃいました…)


僕は顔面に血管をブチブチに浮かせながら心のなかで呟く。

こいつもかよ……。

「また俺なにかやっちゃいました?」、ちょいイケメンだが陰キャ系、そして極めつけは長いモミアゲ。

これは確定だ。無自覚系なろう主人公だ。

僕の嫌いなタイプのうちの一人。なんなんだろうねホント。

テンプレじゃん。これで学校とかで美少女と美女にとっかえひっかえされてんだろ。死ねよ。あ、いけねぇ、ブチ死ねよ。もう怒りとかを通り越して疲れたよ。


説明しよう!

塁がここまで「なろう系主人公」を嫌うのは、彼らがチート能力や最強スキルを、まるで苦労もなく手に入れているように見えるからだ。

塁は、他人が血の滲むような努力でようやく手に入れたものを、彼らが平然と持っていることに、無意識のうちに劣等感や怒り、嫉妬に近い感情を抱いてしまう。

たしかに、彼らなりの努力があるのかもしれない。しかし、塁は「なろう系主人公」全体が嫌いなので、それっぽい態度をとる人間も無条件で嫌悪する。

誰にでも、気が合わない人間はいるものだ。無自覚に自慢する者、すぐに告げ口をする者、泣けば許されると思っている者。そういう人間にも合う人はいるかもしれないが、嫌う人がいるのも当然だ。

ただ、たまたま塁が嫌いになるタイプが、彼ら「なろう系主人公」に当てはまってしまったというだけの話だ。


僕の築き上げた筋肉を奴らは才能だけで再現してくるんやろな。

僕は少し悲しい気持ちになって蓬野高校メンバーの検査を見ていた。

一番多かったのは稽太で、青色で量も結構だった。

二番目は千弘。千弘もなかなか多く青色だった。だが結構量が少なく、中の下ってところらしい。

三番目は美玲の緑色。量はまぁまぁってとこ。

一番少なかったのは佐倉先輩だった。緑色で量も微量。少し暗い表情をしていた。

全員終わった後に美玲が僕に近づいてくる。


「あれ、塁くんはやんないの?」


「前にも言ったろ、僕霊力ないって」


「あ」


美玲はそのことを聞くとニヤリと嗤って、僕の方に手を置き、グッドポーズを取る。

僕と美玲は殴り殴られ蹴り蹴られの乱闘を行った。

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