第四話:討伐対象
「ああ、そうね。異能って言うのは人間が皆持っている不思議な能力のことよ。さっき、累君を殴ったとき、痛がってたでしょ?あれはあなたの異能が作用したからだと思うわ。詳しくは分からないけど」
「なーんだ。私のパワーが強かっただけじゃないんだ」
美玲はがっかりした様子でベンチの背もたれに寄りかかる。
「ったりめぇだ。僕があんなヒョロヒョロパンチで痛がるわけねぇだろ」
「んだとボケコラ!もう一発食らわせてやろうか!?」
「やってみろよブァーカ!」
美玲は僕に殴りかかる。
僕はその攻撃をちょちょいと避ける。
「そういや、氷室先輩の異能って何ですか?さっき言おうとしてましたけど」
「ああ、私の異能は『焦点観測』っていう異能よ。簡単に言えば未来視ね」
「何それ最強じゃん」
「そうでもないわ。未来視っていえば聞こえは良いけど、正確には”対象の未来の可能性”を見るだけだから」
「どういうことだってばよ?」
と美玲。
「そうね…例えば、AさんがBさんに攻撃しようとしています。こうなると、どうやって攻撃すると思う?」
「パンチとか?」
僕は適当に答える。
「金的でしょ」
美玲が答える。
卑怯だな。
「まぁそんな感じで攻撃するにも色々と未来があるのよ。パンチをしたり、キックをしたりね。私のはその全てが観測できるの。だから結構な数の可能性が見えて、ブレちゃうのよ。だから確実にこう来るっていう未来は見えないの」
「じゃあ雑魚じゃん」
「そ、そんなことないわよ!観測できる可能性は最大で10秒間あって、観測する区間を短くすればするほど、可能性は収束していくの。つまり、10秒先の可能性だけだと、何をしてくるか分からないけど、1~2秒先なら大方観測できて、避けたり受けたりするのも可能なのよ!」
「おい、このミミズデカいぜ」
「ほんとだ。あ、でもこっちにいる奴のほうが大きいよ」
「聞きなさいよ!」
話がちょっと難しくて、途中で美玲と一緒に大きな石を裏返してミミズを探していた。
「といういか!触れてなかったけど、あんたのは何なのよ!明らかにモノノケじゃない!」
「ちょ、落ち着いてくださいよ。僕も何が何だか…」
氷室先輩は癇癪を起して僕の胸ぐらをつかむ。
すると、その瞬間、僕の胸の部分から声が出る。
『おい、いつまで完全体(その恰好)でいるつもりだ』
「何!?誰の声!?」
『おい、こっちだ』
僕は羽を掻き分けて、自分の胸部を見る。
すると、そこには蜘蛛男に貫かれた傷が…。
「傷が…埋まってる……?」
『正確には違ぇな。俺が埋めてるんだ』
傷口は他の箇所とは違い、黒い何かで埋まっており、傷口を見ていると、傷口から同じく黒い何かがにょろにょろと蠢きながら出てくる。
「な、何こいつ…」
氷室先輩はその黒いのを見て声を漏らす。
すると、その黒い何かはにょろにょろと蠢きながら形を成していき、少し不定形なながらも、目と口ができた。
「俺か?俺は…俺はなんだ?」
「いや、こっちが知りたいわよ。ていうか、なんであんたこんなの体の中に入れてるのよ」
「いや、僕もこんなの入れた記憶無いんですけど…」
「おい、てめぇら俺のことをこんなの呼ばわりしてんじゃ――ッ!下がれ!!」
「えぇ!?」
黒いのが何かを物申そうとした瞬間、黒いのが叫ぶ。
僕は何が何だかよくわからなかったが取り敢えず頭を下げた。
ドガアァァン!!
「な、なんじゃぁ…こりゃ…」
そうしたら、僕が立っていたすぐ後ろの木に何かが刺さっていた。
僕は立ち上がって、刺さったものを見る。
「こ、氷…?」
そこに刺さっていたのは大きな氷柱。
「氷…?まさか…!」
その氷を視た氷室さんは何かに気づいたような反応を見せる。
するとその瞬間、空一面が暗黒に包まれる。
先ほどまで輝いていた太陽や青い空さえまるで最初からなかったかのように。
「はい、こちら氷室氷花。例の特異級モノノケを発見しました。即座に祓います」
氷柱が刺さった木の一直線上にある民家の屋根の上に一人の女性が立っており、誰かに電話をかけていた。
「なんか…氷室先輩に似てるような…」
その女性はどことなく氷室先輩と似た顔つきをしており、電話を切り、スマホをポケットに入れ、こちらを見下す目はまさしく氷室先輩が僕を蔑んだり、見下した時の目そのものであった。
なんか興奮しちゃうな。
「油断するな!!来るぞ!!」
僕の胸元から黒いのが叫んだ瞬間、屋根の上にいた氷室先輩似の女性が一瞬で僕の視界から消える。
ガギィィン!!
「ぐっ…!!」
山勘で咄嗟に手を前に構えると、何か鋭い感覚が走った。
「装甲持ち…面倒ね…」
鋭い感覚が走った直後、背後から先ほどの女性の声が聞こえたと思い振り返った。
が、しかし―――――。
「ごげぇッ!!」
腹にとびきり強い衝撃、つまりキックを喰らって民家に吹っ飛ばされる。
「ってぇ…」
しかし、累は民家の中から砂煙を立てながら出てくる。
「お姉ちゃん!待って!そいつは―――!!」
「はいはい、取り敢えず離れましょうね。あの感じ特異級でも上位レベルですしょうし」
氷室先輩が『お姉ちゃん』という累に敵対している女性に何かを言おうとすると、氷室先輩と美玲の二人の間に入り、二人を担ぐ謎の男。
「ちょ、ちょっと空蹴さん…!!」
「なんじゃなんじゃ?」
氷室先輩は謎の男に何かを訴えようとして、美玲は何がなんだか分からないような顔で担がれたまま身を預けている。
「氷花さん!二人は結界から出しておきますから暴れて大丈夫です!」
二人を担いだ男はまるで階段を上るように空中を蹴って空を飛び、謎の女に叫んだ。
氷室先輩は担がれながら謎の女と累が相対するのを見て思考した。
(まずい!お姉ちゃんが相手なんて勝てるわけがない…!それにこの結界…創城さんのだから、おそらく今の累君は出られない…!早くどうにかしないと…!!)
「空蹴さん!」
「わかってますよ。お姉さんが心配なのは分かりますけど、あの人も十分強いです」
「ちがーう!!」
二人は食い違った話をしながら結界を抜けていった。
そして残されたのは累と謎の女だけ。
「何が何だかよく分かんねぇんだけど……」
「あら、喋れるのね。けど、鏡花のことを襲おうとしたのよ…覚悟しなさい」




