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第三十九話:ったく、ここら辺は不審者しか出ないのか?


「あれ?せんぱい?」


「………」


氷室先輩は小さな寝息をたてている。


「どうするかな。これ」


僕はボロボロの先輩の前でどうすることもできずに立ち尽くした。

後ろを振り返ると、ボロボロと崩れ去り消えていく変なモノノケ。ちょっと肘に傷ついちまったな…。まぁどうせすぐに治るしいっか。


「せんぱーい?寝たんか?」


顔の前で手をブンブンしたけど、反応なし。

だめだな。気絶したように寝てる。


「うーむ………パンツは白か」


とりあえず先輩を担いで近くの病院まで行くかな。

救急車どころかサイレンすら聞こえないし。

僕が担ぐために先輩に手を伸ばした瞬間、体中に鳥肌が立った。


「ッ!!!カゲロウ!!!」


キイィィィィン!!!!


瞬時に空絶で受けた。

疾い。さっきのやつとは比べ物にならないレベルで。

なんなら姿すらよく視えなかった。

何者だ?こいつ。

その疾い物体は周囲に冷気を撒き散らしながら民家の屋根の上に着地する。

そいつは片手に何かを抱えている。

まさかと思い、さきほどまで先輩がいたところを見るとそこには何もない。


(奪われた。それも今の一瞬で……)


暗くてよく見えないが、僕を襲ったものはゆっくりと白い羽織を脱ぎ、その上に先輩を寝かせる。

そして、僕の前に降りてくる。

電柱から垂れる光に照らされ、ようやくその顔が見える。

綺麗な水色の髪に所々混ざる美しい白髪、切れ長の眼。それも先輩よりも鋭くまるで鷹のような。左側の前髪に雪の結晶の形をした髪飾りを付けている。

整った顔立ち、筋の通った高い鼻。

美人という二文字が似つかわしい、綺麗な女性だ。

その助成は雪女を彷彿とさせるように周囲に冷気を撒き、腰には刀が納められている

その女性は口を開く。


「あの子を…あんな目に合わせたのはお前か……」


声も美しい。澄んだ綺麗な声だ。


「いや、違うけど…」


「嘘を付くな…」


えぇ……。

嘘も何も、僕その人守ったんよ?

僕が否定の言葉を投げかけると、その女性の眼は更に鋭くなる。


「ならば質問を変えよう………お前はアサルトか?」


あさると?

なんだそりゃ。


「知らん何だそりゃ」


「一度は警告したぞ……」


こちらを睨む瞳が僕へと牙を剥く。

その女性は刀の柄に手をかけ、ゆっくりと刀身を鞘から抜く。

すると、文字通り空気が凍る。

僕の周囲はもう夏だと言うのに冬の夜よりも寒くなり、関節が上手く動かせなるほどに温度が下がる。

そして、彼女は刀身を完全に抜く。


「…」


僕も空絶を抜く。

しっかりと、ゆっくりと…。

彼女は強い。

これは断言できる。さっきのとは明らかにレベルが違う。

体が震える。

寒さか、武者震いか、はたまた恐怖か、まぁどちらでも良い。

決着はすぐに決まるのだから……。

僕は静かに刀を構える。

その姿を見て、その女性は目を見開く。


「お前……その剣術を…その構えを、どこで習った」


なんだこいつら、さっきから剣術がどうとか。

なんでそんな事知りたいんだ?

その女性は僕の構えをしばらく観て、抜いた刀を鞘へと戻した。


「ん?なんだ?やるんじゃないのか?」


僕が問うと彼女は答えた。


「あの子の出血も完全に止まったわけじゃない。だからこれは戦略的撤退だ」


「ちょ、訳わかんないやつに渡せるかよ…ってあ!」


僕の有無を言わさずに彼女は先輩を抱えながら消えた。


「何だったんだ…ったく。………あ、そうだ。服」


僕は近くに落ちてたズタボロの紙袋を拾い、中にはいっているワンピースを手に取る。


「これも拾っといたほうが良いかな」


僕は一応、ズタボロの紙袋も回収した。


                ◇


 日曜は先輩から特に連絡はなく、月曜に突入した。

いつもみたいに走って~って言いたいが、最近は走んのが面倒になってきた。

いや、面倒というより疲れるんだよね。もちろん体力の方は全く問題ない。ビワヒャク(琵琶湖百周)しても余裕でビックリするほどユートピアができるくらいに。

僕の言う疲れるというのは疲労ではなく、暑さによる水分不足だ。

最近はバチカス暑いから、普通に日向にいるだけで全身から汗が滝のように流れ出てくる。いやそれはないわ嘘言いました。

僕だって普通の人間。暑かったら汗もかくし、水飲みすぎるとすんげぇおしっこも出る。

故に最近はちょっと走んのを止めて電車とかバスで通学しようかなーと思っている。

けど問題もある。

それは遠すぎることだ。

中学までは徒歩30分くらいでちょうどよかったけど、流石に徒歩2時間は遠すぎない?誰だよこんな学校選んだの。あ、僕か。

とまぁこんな理由で、走るか交通機関を利用するかで迷っている塁くんでした。

あー、にしても肩痛ぇな。

昨日姉さんにワンピースをあげたら、またも大好きホールドを喰らった。それもいつもよりなんか強いのを。

筋繊維がブチブチ言ってた。

だからか今日は渡された弁当がいつもよりデカくて重かった。

さぁ、お昼が戦場になるぞ僕の胃。


「おはよう、塁くん」


ガッツポーズを構える僕の後ろから声が聞こえた。

後ろを振り向くと、氷室先輩が立っていた。

あれだけの怪我でもう良いのか?と思ったがまだ万全ではないようだ。

所々に包帯やでかい絆創膏を貼っている。


「だ、大丈夫っすか?」


「まぁなんとかね。けど骨が何本かいっちゃって」


いっちゃったか。

にしては元気そうだが。


「まぁ、それなら良かったっす」


「うん、それでね……その…今日の昼休み…時間空いてる?」


またか。


「はいはい、空けときますよ」


「……ありがと」


先輩はいままで僕に見せたことないような笑顔で静かに笑った。

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