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第三十五話:普通に考えて休日持ってかれるのはダルい

 昼休みが終わり、教室へと足を運ぶ。

いつものように1年7組へと着き、ドアを開けると。


「ドゥ!!!」


ッパーンドゴォォン!!!


教室は言った瞬間、いきなり美玲に回し蹴りを食らわされた。

ギリギリで受けられたが、結構飛ばされた。


「な、何すんだよいきなり!」


「それはこちらのセリフですぞカミロ氏」


メガネをクイッとしながら美玲の背後から出てくる中鳶。

美玲は画風が変わっている。

魁!!男塾?


「どういうことだよ」


「どういうことですと?」


「ちょっと中鳶さんこれは遺憾ですよ!」


「そうですなぁ美玲氏」


二人して何かを話し合っている。


「すっとぼけるようなので、ご説明してあげましょう」


と中飛が咳払いをする。


「えーカミロ氏は今日の昼休み、皆の憧れであり、男子の高嶺の花とも呼ばれる氷室鏡花生徒会長といっしょにおランチをした。お間違えないですね?」


「まぁそうだけど……」


「「ファック!!!!!」」


ドゴォバキィブラッッッシャァァ!!!


今度はダブルアッパーで吹き飛ばされる。


「ちょちょ待て待て!!花☆塩☆塩!!」


「おいおい身勝手な猿が人語を喋っておるぞぉ?ニーナとアレキサンダーはどこ言ったんでしょうなぁ」


「あれぇ僕って人間じゃないですか?」


「まぁまぁ中鳶っち、ニュウドウカジカも頑張ってるんだからとりあえず聞いてみようよ」


いつから僕はあの醜い魚になったのかな?

仕方が無いので僕は床に正座しながら、昨日あった出来事を話した。

二人はこのクラスの中でも仲が良いから多分皆に言いふらしたりとかないだろうと信じて、話した。というか話すよう強要された。


「はぁ…塁君、現実見ようよ?」


と信じていない美玲。


「ほな、お人形さん片付けるで」


と信じていない中鳶。


「というか、そんな誰しも憧れる展開あると思ってんのか?」


実際起こってんだけどな。


「まぁまぁ、みんな塁くんが羨ましいんだよきっと」


途中参加してきた洋介だけが僕を応援してくれる。

こいつはなんて良いやつなんだ。


「く…クソー!!スズキ氏が敵につくとは……」


「覚えておれ!!」


「おう、覚えてたらな」


クッソ情ねぇ捨て台詞を吐き散らし、泣きながら走り去っていく二人。

何がしたかったんだこいつら。


           ◇


 あれから数日、土曜授業を終わらせた僕は家に帰り、速攻でベッドに顔面を埋め息絶える。


「土曜授業ほどめんどくせぇもんはねぇよなぁ」


中学まで2日休日があったのが奇跡のようだぜ。

さてと、筋トレでもしようかな。

そう思い、僕は床にマットを敷く。


「よーし、まずは腹筋から……」


シャバドゥビタッチヘンシーン!!シャバドゥビタッチヘンシーン!!


マットに寝転んだ瞬間、またも僕のスマホが鳴った。


「んだよ、めんどくせぇな」


スマホの画面を見ると、表示されていたのは「氷室生徒会長」という文字。


「うっわ、マジかよ……」


電話に出るかどうか迷ったが、断ると後がちょっとめんどくさそうだし、仕方なく僕は通話ボタンを押した。


「ういーしもしもー」


「もしもし、塁くん?今からちょっと出かけない?」


「やだ」


僕は即座に答えた。せっかくの休日だ。

筋トレをして、ラノベを読んで、だらだらと過ごしたい。


「屋上」


氷室会長が短く、冷たい声で呟いた。その一言で、僕の背筋が凍りつく。


「わ、わー!いいですね!行きましょう!行きましょう!僕もずっと出かけたかったんですよー!」


僕は手のひらを返すように、作り物の笑顔で叫んだ。


「手のひら返しもここまで来ると清々しいわね」


「……で、出かけるって僕どこ行けば良いんすか?」


「そうね………じゃあ、この後の15時に大宮駅に集合で」


「うぃー」


「じゃあ後でね」


電話は一方的に切られた。


「はぁ……まったくどんな教育されたらあんなわがままになるのかね」


ため息を履きながらも、僕は出かける準備を始めた。どうせ着替えなんて何でもいいだろう。僕はクローゼットからお気に入りの服を引っ張り出した。

着替え終わり全身鏡で確認するが、我ながら完璧だ。


「よし、これでキマリだぜ!」


僕はルンルン気分で家を出た。


       ◇


大宮駅に着いたのは、集合時間のちょうど5分前。しかし、約束の場所に氷室生徒会長の姿はなかった。


(あの野郎、誘っておきながらいねぇとかナメてんだろ)


仕方がないので、僕は待つことにした。

しかし、なんだか周りの視線が痛い。

隣に立っている女子高生は、こそこそと僕の方を向いて笑っている。向かいのベンチに座っているカップルは、僕を見て何か話しているようだ。そして、おじいさんまで、僕のTシャツを見て「早く走れるのか?」とでも言いたげな顔で二度見していく。まるで珍しい動物でも見ているかのような視線に、僕は居心地の悪さを感じていた。

しばらく待っていると、人混みの向こうから、小走りでこちらに向かってくる氷室生徒会長の姿が見えた。


(ああ、やっと来た)


先輩は黒と白を基調とした、少し大人びた服装だった。

白いブラウスの上に、体に沿った黒いノースリーブのワンピース。首元には細い金のネックレスが輝いている。足元は、白いハイヒール。髪はポニーテールにまとめられ、首元をすっきりと見せていた。

いつも学校で見る制服姿とは全く違う、上品で洗練されたその姿は、周囲の目を惹きつけていた。

僕は心の中で安堵の息を漏らした。

しかし、彼女は僕の姿を見た瞬間、ピタリと足を止め、絶句した。


「塁くん……その……格好は……?」


彼女の顔は、驚愕と困惑でぐちゃぐちゃになっていた。

それもそもはずである。

氷室鏡花の瞳に写った神白塁の服装はとてつもなくダサかったのである。

ぴっちぴちのダメージジーンズに、履き慣れたランニングシューズ。そして、極めつけは胸にデカデカと『早く走れるTシャツ』とプリントされた真っ白なTシャツ。


「? なんすか?」


「ダサい………」


「え?ダサい?」


僕は首を傾げる。


「そうかなぁ……」


「いやもう正直ダサいとかそういう次元の問題じゃないわよ!っていうかそのTシャツは何!?『早く走れるTシャツ』って何!?普通に考えてデートで一緒に着てく服じゃないでしょ!」


「えー僕デートなんてしたことないからわかんないよ」


氷室会長は顔を両手で覆った。


「もういいわ……今日のデートプランは変更よ。行くわよ、塁くん」


そう言うと、氷室会長は僕の手を掴みズルズルと引きずっていく


「どこ行くんすか!?」


「いいから着いて来なさい!」


僕の抗議はむなしく終わった。

手を引っ張られ、連れてこられたのは駅の近くの大型ショッピングモール。

僕はもっと近くにあるところを使うからあまりここに来たことはない。

というか、買い物は大体姉さんがしてくるから僕はあまりしたことがない。そもそも家出ないし。

たしか、ここに来るのは二年ぶりぐらいかな。

昔見たショッピングモールと特に変わっていなかったが、三階がガラッと変わっていてちょっとびっくりした。

氷室先輩はいつもとは言わないが、時々来るらしい。

ショッピングモールの4階はいろいろな服屋が並んでいた。うん、ここは特に変わりない。

ユ◯クロ、G◯U、聞いたことない名前のおしゃれな服屋。

しまむらはもうねぇのか。悲しいな。


「それで、僕はこれから何されるんです?」


「とりあえず、あんたのそのダサい服装をなんとかすんのよ」


ダサいかな…。


「そもそも、なんで今日急に出かけようなんて言ったんですか?」


「そりゃ、学校だけでイチャイチャするのも効果良いけど、今の若者はSNSを使って人を知ることもあるのよ。今日の目的は出かけることよりも出かけているところを写真に収めてSNSに上げることよ」


「Twitterとか?」


「どちらかと言うとインスタとかね」


インスタか…僕入れてないな。

少し前までは姉さんもBeRealとか言う写真をアップするアプリを使っているが、最近ではもう廃れてきているらしい。流行というものは過ぎるのが早いねぇ。


「さぁ、早速コーディネートよ!」


「イエーイ」


「あんたに似合いそうな服を何着か選ぶから……まぁあんたは適当に気になった服でも選んでなさい」


やったー自由時間だ。

先輩はメンズのコーナーに行った。

僕も近くのメンズコーナーへと向かう。


「うーん、これとかもいいかな…」


適当に服を選び、腕にかける。

まぁ2~3着でいっか。


「決まったわよ」


「はーい」


試着室へと服とともに向かう。


「じゃあこれ着て」


先輩から何着か受け取る。

試着室に入り、僕は受け取った服を順に着ていった。

一つ目は、白の麻のシャツに、カーキ色のワイドパンツ。シンプルな組み合わせだが、不思議と大人っぽく見える。鏡に映る自分を見て、「お、案外悪くないな」と僕は少しだけ感心した。


「どうっすか?」


試着室のカーテンを開けて先輩に尋ねる。先輩は腕を組み、僕を上から下までじっくりと見つめた。


「まあ良いんじゃない?似合ってるわよ」


その一言に、僕は少し照れくさくなった。

二つ目は、黒のオーバーサイズのTシャツに、ベージュのチノパン。これもまた、僕が普段着ないような組み合わせだ。


「これとかどうですか?」


「うん、良いわね。その方があんたらしいかも」


続けて、三つ目の着替え。先輩が選んでくれた最後の服は、ネイビーのポロシャツに、スリムなグレーのスラックスだった。


「これで最後ですけど…」


「それ、一番似合ってるわよ。その服買うわ」


有無を言わさないような口調に、僕は諦めて頷いた。


「ねぇ先輩、僕が選んだやつも着てみていいですか?」


「別にいいけど、どうせダサいんでしょ?」


「失礼な!見てから判断してくださいよ」


僕が選んだのは、南国の島がプリントされたド派手なアロハシャツに、ポケットがたくさんついた迷彩柄のハーフパンツ。そして、足元にはビーチサンダル。普段着で着ているものよりもおしゃれだ。僕の渾身のコーディネートだ。


「どうです!?」


僕は自信満々にポーズを決めて先輩に見せた。先輩は一言、ため息をついた。


「ダサい」


「ひっど!」


「そもそもハワイに行くわけでもないのにアロハシャツを着る意味がわからないわ。しかもその柄、どこから持ってきたのよ。あと、そのズボン、ポケット多すぎでしょ。迷彩柄も、そのTシャツに合わせるべきじゃなかったわね」


僕のコーディネートは、あっさりと粉砕された。

全身に言葉のやりが付き刺さる。

しょんぼりと試着室に戻り、僕が選んだ服をハンガーに戻していると、ふと、先輩の視線が一点に集中していることに気づいた。先輩は少し離れた場所にあるマネキンに飾られた、可愛らしい淡いピンクのワンピースを見つめていた。

その後、そのワンピースがかかったハンガーの棚から一着取り出し、近くにある鏡でその服を自身の身体に合わせる。

いつもはキリッとした表情の先輩だが、その時の顔はどこか少女のようで、僕は少し驚いた。


「…流石に似合わないわよねぇ…」


その小声での呟きは、僕の耳にも届いた。


「どうしたんすか?」


服が入ったカゴを片手に先輩に近づく。


「ううん、なんでない」


何もなかったかのように服を戻す氷室先輩は少し悲しそうな


(あ、姉さんにも服買っておこうかな)


その瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは、可愛らしいものが好きな僕の姉の顔だった。先輩がその場を離れた後、僕は先輩が見ていたワンピースを手に取り、そっとカゴの中に入れた。

会計を済ませると、店員は僕が買った服を紙袋に入れてくれた。

しかし、姉さん用に買ったワンピースが少し大きくて、紙袋に入らない。


(先輩の服の中に入れてもらおう)


そう考えた僕は、紙袋を手に持っている先輩に声をかけた。


「すいません、これそっち入れてもらっていいっすか」


僕がワンピースを差し出すと、先輩は不思議そうな顔で僕を見ていたが、すぐに微笑んだ。


「ふふ、あんたもやるとこあるじゃない」


そう言って、先輩はワンピースを自分の紙袋の中に入れた。


(何のことだ?)


僕は先輩の言葉の意味が分からず、首を傾げた。


「まだお昼には時間があるわね…じゃ、次のプランよ!」


先輩は左手に付けた腕時計を確認して呟いた。


「次のプランってのは?」


「最近話題の恋愛映画」


「えージュラシック・ワールド見たかった…」


「文句言うんじゃありません」


「…はい」


僕は反論の余地すら見せることはできず、先輩とともに映画館へと引きずられていった。

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