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目立つのは好きだ。だがこの目立ち方はなんかヤダ

次の日の早朝。

僕はまだぐっすり眠っていた。

だが、そんなとき。


シャバドゥビタッチヘンシーン!!シャバドゥビタッチヘンシーン!!(着信音)


「んな!」


LINEからの着信によって僕のノンレム睡眠が破壊された。


「っだよ、まだ朝早えーじゃねぇか……ふぁ…。誰だぁ?」


あくびをしながらしょぼしょぼする目を開き、時計を確認する。

そこには時針が6時を、分針が20分を指していた。

手探りで携帯を探し手に取る。

そして着信を拒否する。

僕に電話してくるやつなんていないだろう。あったとしても迷惑電話だ。


………………。


そして再び僕の安眠がやってきた。

布団を頭までかぶり、もう一度寝直す。

しかし、またも。


シャバドゥビタッチヘンシーン!!シャバドゥビタッチヘンシーン!!


………。


「誰だよ!あい?もしもし!?」


「なんで今一回着拒したのよ!!」


なんだか聞き覚えがあるような、ないような声がスマホから鳴り響く。

僕は一度スマホを耳から離し、名前の部分を確認する。

そこには『氷室鏡花』と書かれている。

氷室鏡花?

あの?

「少ーしも寒くないわー」の人?


「エルサじゃないわ!!」


やべ、声に出てた。


「おはようございまーす」


まぁここは適当に挨拶して切ろう。


「おはようじゃないでしょ!なんでさっき一回切ったのよ!」


「えぇ?だって迷惑電話かと思ったんですもん」


「LINEなんだから迷惑電話なわけないでしょ!」


朝から元気だなぁこの人……。

というか……。


「なんで先輩僕のLINE知ってんスカ?」


「なんでって…はぁ。昨日一応彼氏役ってことでLINE交換したでしょ」


ああ、そういやしたわ。

もう帰りた過ぎて後半は適当になってたからな。ほとんど記憶がない。


「んで、何の用すか?」


「ああ、そうそう。あんたいつもお昼ってお弁当?それとも学食?」


「弁当時々学食」


「晴れ時々曇りみたいに言うんじゃありません」


「あい」


「まぁ良いわ。じゃあいつもはお弁当なのね。悪いけど、今日はお弁当持ってこなくていいわ」


「え、なんで?」


「いいから!そういうことで」


ブチッ!


……切られた。嵐のような女だったな。


「……ま、いっか」


「ごががああぁぁぁぁ!」


僕はスマホを起き、今度こそ眠りに落ちる。

そして無事、遅刻しかけた。


           ◇


 昼休み、いつもなら屋上へと向かっている頃だが今日は珍しく中庭へと向かっていた。

授業終わりに氷室先輩から『授業終わったら中庭に来なさい』と言われたからである。

なぜ中庭に来るよう命じられているのかはわからないが多分彼氏役の件だろう。

中庭に行くため階段を降りていると、下の階に行けば行くほど男子生徒たちが騒がしくなっていく。

何かあったのだろうか。

ヘラクレスオオカブトでもいたのか?それなら僕もひと目見たい。

少し足の速さを速め、階段を降りきる。

すると、皆中庭の方を指さしながら騒いでいる。

僕もワクワクしながらそちらへと視線を向ける。


(さてさてどれくらい大きいんだろう)


しかし、そこにはカブトムシどころか虫すら居らず、そこにあったのは氷室鏡花だけであった。


「なんだフンコロガシか…」


氷室先輩は木陰のベンチに腰掛けており、男子たち(ハエ)はその糞に群がっているようであった。

帰ろ。

む?

ポケットに入れてあったスマホがバイブレーションを起こす。

取り出して確認してみると氷室先輩からメッセージが届いていた。


『遅い、早く来なさい』


流石に勘の鈍い僕でもわかる。

あそこにいるフン…氷室先輩は僕を待っているのだろう。

でもなぁ、めっちゃ目立つよなぁ。

行くけど。


「うぃーっす。おつかれっす」


気だるげに挨拶をすると氷室先輩はこちらを向き、笑顔になる。


「あら、遅かったわね待ってたわよ」


「!?」


誰だこいつ!?僕が知っている氷室鏡花とは大違いだ。

まるで、電話に出るときの母親のように声のトーンが一つ高い。


「な、何企んでるんだお前!」


「ん?企む?ナンノコト?」


白々しく首をかしげる氷室先輩。

そんな氷室先輩は空いているベンチの隣をポンポンと手で叩きこう言った。


「ほらとりあえず座りなさい」


「………」


なんか罠ありそうだが、言われるがままベンチに座る。


「……遠くない?」


「そんな事ないですよ」


「………まぁ良いわ」


そう言いながら先輩は僕の方へと近づいてくる。


「……んで、要件は?」


目立つから正直、長居はしたくない。

別に目立つのが嫌いってわけじゃないけど、この目立ち方は嫌だなぁ。

他の男子生徒たちから向けられる視線は、なんというか、堂々と答えた解答が間違っていたときに向けられるような視線だ。


「要件はって、もう、今日は一緒にお昼食べる予定だったじゃない」


そんなこと言ってたっけ?

確かに今朝、弁当持ってくるな的なことを言っていたような気がするが。


「ほら貴方の分も作ってきたの。初めてでちょっと見た目は悪いかも知んないけど食べてくれる?」


なるほど、だから今朝持ってくんなって言ってたのか。


「でも、なんで?」


僕がそう問いかけると先輩は小声で答えてきた。


「周りを見てみなさい。男子生徒達がハエの如く私を見ているでしょう?まるでフンコロガシの糞に寄りつくごとく」


それだとあんたフンコロガシの糞ってことになるぞ。


「ああいうのが私に「ワンチャンいけるかも~」とか軽々しく考えて、こんなに美しい私に告白してくるのよ。だから、彼氏役であるあんたと一緒にお弁当を食べるというとてつもなく仲が良いところを見せて全部叩き落としてやるのよ。けど、結構効果強いわね…うん、一ヶ月位かかるかと思ったけど、1~2周間くらいで良かったかもしれないわね」


そんな上手くいくもんかねと思ったが、周りの男子を見てるとこっちを見ている男子たちが全員藻掻き苦しんでいる。

壁に頭を強打し続ける者、血の涙を流している者、絶望の末カバディをする者と様々だ。

確かに防虫はできているが、流石にやりすぎな気がする。


「ほら、時間も限られてるんだからさっさと食べちゃいなさい」


そう言って先輩は僕にお弁当を渡してくる。

これでメシマズとかやめてくれよ?

ちなみに二段弁当だ。

恐る恐る蓋をあけるとまずは白米が入っていた。

よし、まだ爆弾は見えないな。


「そんなもん入ってないわよ」


そして最後の段の蓋を開けるとそこには豪華なおかずが詰まっていた。


「おお…」


ハンバーグにウインナー、ドレッシングがかかったブロッコリーにミニトマト。


「今回は珍しく卵焼きが上手く焼けたわ」


彼女の言う通り、卵焼きはとても美味しそうで授業終わりの僕の胃袋を締め付けてくる。


「い、いただきます…」


早速卵焼きへと箸を伸ばし、口の中に放り込む。

その瞬間、口の中に卵の濃厚な味と少々塩っぱい味が広がる。


「…美味い」


「ふふ、でしょ?」


いや、本当に美味いなこれ。


「いつも甘い卵焼きだったからこの味は新鮮だなぁ」


「ふーん、甘い系好きなの?」


「別に塩っぱいのが嫌いってわけじゃないけど、まぁどちらかと言うと?」


「ふぅん……じゃ、今度は甘めの作ってきてあげる」


先輩はいたずらっぽく僕に笑いかける。

その顔は確かに男子生徒が憧れるようなものであった。まじまじと見つめると、確かに整った顔つきをしている。高校生にしては少し大人っぽい顔つき、綺麗な髪の毛。

なるほどな。


「ありがたいけど、ここじゃ目立つから今度は別の場所で」


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