第三十四話:美玲の異能
海良木は如意棒が顎に直撃し、膝から崩れ落ち、気絶する。
累は「ふぅ…」とため息をつき、額から流れた汗を拭う。
「おい」
すると、先程如意棒が出てきた胸元から低い声が唸る。
カゲロウである。
「お、わりぃわりぃ。また如意棒入れといて」
「ったく、またかよ…」
胸元から伸びたカゲロウは、塁が差し出した如意棒を飲み込んで身体の中にしまう。
「お前…さっき手抜いてただろ」
「ん?いやぁ、割と本気だったよ。海良木さん見た目通り力ちょー強かったし」
「いつもより力ぁ加減してたように視えたが?」
「………まぁ、ちょっとだけね。さすがに全力でやったら流石の隊長でも殺しちゃうかもだし」
「てめぇのそういうとこが気に食わねぇ」
「うるせぇ。さっさと戻れ」
塁はカゲロウを無理矢理胸の中に戻す。
カゲロウは累に力負けし、胸の中に戻っていく。
そして、”累のもとに在ったカゲロウ”の意識は薄れ、次第に”新人チームの在るカゲロウ”の元へと移動する。
「あ、起きた?大丈夫だった?累くん」
「ああ、あの腑抜けはちゃんと馬鹿だったぜ」
どういうことかわからない人もいるかもしれないので、一応だが説明をしておこう。
今、カゲロウの肉体は二つに分かれている。
新人チームの陣地にいるカゲロウと、塁の心臓と混ざっているカゲロウの二つだ。
塁は試験開始前、念の為にと千弘にカゲロウを預け、自身は生身で戦いに行った。
しかし、そうなるとカゲロウを駆使した戦いができなくなる。
それだと少し困るので、心臓と混ざっているカゲロウと陣地に居るカゲロウとで意識を切り替えることに寄って、好きなタイミングでカゲロウを使えるようにしたのである。
「でも、大丈夫なの?意識が無い状態の身体で居るとと、形を保てなくて、溶けちゃうんでしょ?」
「その点は大丈夫だ。あっちの肉体は既に『心臓』という型が出来てるからな。だが、量が少ねぇから変形も殆ど出来ねぇし、物の出し入れしか出来ねぇ。それに霊力の放出も一回したら暫く出来なくなるしな」
「それだとちょっと不便かもね」
「物扱いすんじゃねぇ」
不機嫌になったカゲロウはムスッとした顔でカゲロウの方の上に乗る。
黒いスライムのような物体に眼が着いた姿で、その低い声のため、見た目とのギャップが凄い。
「そういえば、稽太とかいうガキは何処だ?」
「稽太くんなら、敵が来た時遠くからバレずに狙撃できるようにって手前の森の中に隠れてるよ」
「ほぉーん、そうかよ」
肩の上で欠伸をする小さなカゲロウ。
それを視てニマニマと笑みを浮かべる千弘。
「チョコ食べる?」
「あんのか?」
千弘がそう問いながらポケットからチョコレートを取り出す。
するとカゲロウは興味津々な様子で顔を傾ける。
「うん、いいよー。どれが良い?」
「甘いやつが良い。白いのとか寄越せ」
「ホワイトチョコね。はい、あーん」
千弘が差し出したチョコをもちゅもちゅと頬張るカゲロウ。
ムスッとした顔のままであるが、どこか嬉しそうだ。
「ぐぎぎぎぎぎぎ……」
それを血の涙を流しながら羨ましそうに見つめる中鳶。
それとともにカゲロウへの怒りや殺意も芽生える。
「吾輩だって…吾輩だって、千弘氏にあーんってしてほしいのに………!」
えげつない歯ぎしりをしながら嫉妬の感情が溢れ出る。
とてつもなく惨めである。
「えっと…中鳶くんもいる?チョコレート」
「いります!!!!」
中鳶は嬉しそうに千弘の手の中のチョコへとダイブした。
◇
「ッ!!チョコの匂いがする……!!」
その時、美玲に電流が走った。
およそ距離は500m。
そしてチョコレートの匂いが放たれたのは数秒前。
それほどの情報の少なさであろうと美玲のセンサーの前では無力であった。
「ちょ…チョコ?別にしなくない……?」
「いいや、するね。遥か彼方から」
「そっか…する……かな?」
美玲の謎の言葉に星野は困惑しながらも何となくで受け答えをする。
「まぁいいや。今は…すんごーく絶好調だからね」
美玲は舌舐めずりをして再び拳に纏わせた異能を光らせる。
「ああ、俺も…隊長としての責務を全うしよう」
星野もそれに応えるように拳に霊力を込める。
一刻の静寂。
森の中は静かで鳥の鳴き声すらも聞こえてくる。
「へっ!!」
その静寂を破るかのように美玲は地面を思い切り殴る。
その拳は異能ではなく、単純な身体強化によって底上げされた腕力に寄るものであった。
乾いた地面は大量の砂煙とともに美玲の姿を隠す。
(目眩まし…だが、異能力者は視界だけを頼りに敵を相手にしていない……)
「こっちだ」
「イッ!」
星野は砂煙の中、身体を180度回転させ、腕で美玲の攻撃を受け止める。
「やりにくいんだってな。異能と身体強化を同時に熟すのって」
星野は受け止めた美玲の拳を強く握りしめ、思い切り投げ飛ばす。
「うおおおぉぉぉ!!暴力反対ー!!」
美玲は奇声を上げながら吹っ飛んで、すぐ近くにあった木を鉄棒のように掴んで、枝の上に着地する。
「…………」
それを星野は美玲の姿を追うのではなく、美玲の攻撃を受け止めた手を視ていた。
その手はまるで高温の鉄板の上に着けたように焼けただれており、表面の皮が剥がれかけていた。
(手を離す寸前に発動されたか……どういう異能だ?)
星野は美玲の異能を解析しつつ、霊力に寄る治癒を開始する。
「げっ、なにそれ。ズル―」
「異能力者はある程度の傷なら回復ができるんだ。霊力めっちゃ食うから乱用は難しいがな」
星野はそう言いながら完全に回復しきってはいないものの、大体回復できた手に着いた血を払いながら言い放つ。
それを見た美玲は顎に手を当て、ニヤリと笑う。
「はっはーん、だったら治癒が出来なくなるまで、ボコボコにすれば良いってことだね」




