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第三十三話:茶番

校門を出て少し歩いたところでもう一度学校を見る。


「…………」


ちょっと気になるし見に行ってみよう。

でも仕方ないよね。喧嘩なんてそうそう見られるもんじゃないし。

校舎裏に近づいてくるとあることに気がつく。


「やけに静かだな………」


先程まで猿かってくらいに大声を上げていたヤンキーたちの声が全く聞こえない。

もう説得したのか?

だが、あいつらがすぐに納得するとは到底思えない。

聞き耳を立ててみる。

………一応、人の気配はするな。

と、その時。


「おいおい、どうしたその程度か?俺をボコボコにするんじゃなかったのか?」


清々しい稽太の声が聞こえてくる。

それと同時に「っは…はっはぁはぁ……」とおそらくあのヤンキーだと思われるものの声が聞こえた。

その声はまるで化け物と対峙した映画のキャラのように恐怖で埋め尽くされていた。

あいつ、何してるんだ?

もしや、見るも無惨な姿に成るまでボコボコにしているとか!?

さすがの僕でもそこまではしない!

止めなくては。


「お、おい稽太!」


ッ!!


そこで、僕は気づく。

ここで行われていた行為は、暴力などの生ぬるいものでは決してなく。

それよりももっと恐ろしいものだと。


「…な、なんだよ……これ…」


そこにあったのはズボンを脱がされ涙を流しながらケツを抑えるヤンキーAの姿。いや、ヤンキーAだったもの……。


「俺……もう、お婿に行けねぇ……」


そして、ヤンキーB、ヤンキーCはその姿を見て互いに抱き合いながら恐怖していた。


「お、塁じゃないか。どうした?忘れ物か?」


そう淡々と言う稽太の姿は同じ人間とは思えなかった。

ズボンを完全に脱ぎ、ズボンだけでなく、上すらもすべて脱いでいる。

つまり、生まれたての姿ということだ。

その姿を見て、僕は一歩後退りする。


「む?どうした?怖いのか?」


「そりゃ怖ぇだろ。な、何なんだよこれッ!」


僕の問いかけに対して稽太はさも当然のように答えた。


「何って……教育さ。よく言うだろ『無法者を教育するためには無償の愛を与えるしかない』…と」


「そんなの…てめぇが〇〇(自己規制)たいだけじゃねぇか!!」


「はっはっはっは………面白いことを言うな塁は………だがその決めつけは良くないと思うぞ?」


そう言うと稽太は僕を見つめる。

その瞳はまるで獲物を捕らえた鷹の眼のようだった。


「そんな悪い子達には……お灸を据えてやらねばな…」


瞬間、僕は残りのヤンキー二人の手を取り、全速力で逃げ出す。


「早く行くぞ!!!!」


「「は、はい!!!」」


僕は、本能というものをあまり信じていなかった。

よく漫画やアニメなどで『本能がどうこう~』というものが見られるが、僕自身「本能ってどういうもんなん?」って感じだったからそもそもあるのかすら怪しかった。

だが今となっては、そんな自分に言ってやりたい。

本能というものは存在する。

人間が暗闇を恐怖するように、低周波帯域(20Hz~200Hz)に恐怖心を覚えるように……自身に危険が及ぶ可能性が少しでもあると本能はサイレンを鳴らす。

このとき、僕の本能は寺岡稽太へ『危険』という名のサイレンを鳴らしていた。

それは自身の命に関わるものではなく。僕自身の貞操への危険信号であった。


どれだけ走っただろう。


僕達は息が切れるまで走って走って走り続けた。

いつもなら息も切れないほどの距離なのにこのときはとても長く感じた。

無我夢中で走った僕達は学校から少し離れた公園のドーム型の遊具の中に隠れた。


「あ、ありがとう……」


息を整えつつヤンキーBが僕に礼を言ってきた。


「礼には及ばねぇ…実際…あいつは助けられなかった……」


僕がうつむきながら答えるとヤンキーCがすすり泣くように嗚咽を流した。


「うっ…兄貴………!」


その姿を見て、ヤンキーBがヤンキーCの胸ぐらを掴む。


「てめぇ!泣いてんじゃねぇ!!」


「でも!!兄貴なら……もっと上手くやれたかもしれねぇ……俺は…俺は!何も……できなかった………」


「兄貴ならもっと上手くやれた……兄貴ならきっとこうした……兄貴が死んじまったのは俺達が無能だったからだ……。だったら……兄貴のあの勇気ある行動は…無意味だったのか?」


「ッ!!」


「いや違う!!兄貴にの行動に意味を与えるのは俺達だ!!あの勇敢な死者を哀れな死者を想うことができるのは生者である俺達だ!俺達はここを生きて兄貴の行動に意味を与える!!ヤンキーCよ怒れ!ヤンキーCよ叫べ!ヤンキーCよ戦え!!!」


いや死んではねぇだろ。男としては死んだかもだけど。


「お、ここにいた」


「「「へ?」」」


遊具の外には全裸の男の姿。

稽太だ。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」


「「ヤンキーBーーーーー!!!!」」


僕とヤンキーCはヤンキーBが〇〇(自己規制)される音を聞きながらまたも全速力で走った。


「うっうッ!俺のせいで…俺のせいでヤンキーBがっ……!」


「いや、あれはあいつが悪ぃだろ。あんだけ大声だしてたらそりゃバレるわ」


「ッガ!!」


「ヤンキーC!!」


走っている途中でヤンキーCが段差に躓き、転んでしまう。


「おい!早く立て!じゃないとあいつが来ちまう!!」


先程走ってきた道を振り向くとそこには腰を小刻みに振りながら等速直線運動をしながらとてつもないスピードでこちらへ向かってくる稽太の姿。


「……だ、駄目だ!俺はもう…だめみたいだ。ガハッ!!」


ヤンキーCの口から赤い液体が吹き出る。


「ヤンキーC!血が!」


「あ、これケチャップ」


「紛らわし」


つーかなんでケチャップ飲んでんだよ。


「はぁはぁはぁ……俺のことは良い……先にいけ」


「ッな!そんな事できねぇ!!お前を置いていくなんて!」


ヤンキーCはふらふらとしながら立ち上がり稽太へと向き合う。


「あいつが言ってくれたおかげで…目が覚めたよ。俺は……お前を助けるために生かされたんだって気づいたんだ」


「ヤンキーC…?」


「行け」


「な、何いってんだ!お前だけなんて無理だ!僕も戦う!」


「行けっつってんだよぉ!!」


その言葉に僕は動きが止まる。

そして、ヤンキーCはこちらへ振り向き、こう呟いた。


「頼む」


「ッ!!」


その顔を見た僕は後ろを確認することなく全力で走った。

走っている最中、「うおおおおぉぉぉぉ!!」や「パンパンパンパン!!!」などの断末魔が聞こえた。


「何だこの茶番」


家についてからそう思った。


「塁くーん!大丈夫だった?」


「え?何が?」


「なんか塁くんの学校の近くで不審者が出たんだって全裸の」


「…………………」


捕まったか。

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