第三十二話:潜在能力
林の中を駆けながら美玲は飴玉を口の中で転がしていた。
氷室先輩に餌付けのように渡されたものである。
「ま、グレープのほうが好きだけど、オレンジもなかなかイケるね。今度累くんの好きなものも教えてあげよー」
そんな事を独りごちっていると、美玲は20mほど先に人影を発見する。
長身で少し細い身体。
星野鋭二である。
星野は靴に石ころでも入ったのか、靴を持って裏返している。
「先手必勝ー!!」
美玲は脚に霊力を集中させ、速度を上げる。
そして、力いっぱい前方にジャンプして星野に飛び蹴りを加える。
「っぶね」
しかし、その攻撃は空を切り、星野鋭二に簡単に避けられてしまった。
「なにぃ!?美玲ちゃんのスーパーアルティメットギガンティックキックを避けただと!?」
「名前強そう…けど無駄な動き多すぎ」
美玲は着地し、すぐに体制を整える。
星野は靴を地面に放り投げ、そこに脚を入れようとする。
「あ、ごめん。ちょっと待って」
かかとが突っかかったのか、しゃがみ込んで靴を調整する星野。
それを美玲は不思議な表情でしばし見て、すぐにニヤリと笑う。
「ジャック・ハンマーの鉄槌!!」
そして強力な鉄槌を星野の頭を狙って繰り出す。
「ッ!?」
しかしその攻撃を星野は軽く弾く。
「ってて……タンマって言ったのに………」
気だるげに靴を履いて立ち上がる星野は首の骨をパキパキと鳴らす。
美玲は視たその腕に集中された霊力の量を。
「視えるか?俺…結構霊力の量多いんだって」
そう、その凝縮された霊力と総量。
それは正に美玲の数倍の量が秘められていた。
「女の子を殴るのは気が引けるけど…早めに落とすから痛みは少ないと思う…多分……」
「へっ、美玲ちゃんを侮っちゃあイカンぜ?」
美玲は我流の構えと、塁が教えてくれた構えを何となくで思い出し、その二つを組み合わせたような構えを取る。
「我流…かな?いや、でも少し正しい構えも…いや無いな。にしても、異能使わないのか?そっちは使って良いってことになってるはずなんだが…隠してんのか?」
「あ、そっか。使って良いんだっけ?」
美玲は構えを解いて両拳を握りしめる。
「ふんぬぬぬぬぬぬ!」
「………」
そして目を閉じて思い切り力む。
……しかし何も出てこない。
「異能使えないの?」
「いやぁ、前に一回出たことあったんだけど…もっかい力んでみようかな」
「力んで出るようなもんじゃないでしょ」
「そうなの?」
「ああ。出ないんだったら、さっき言ってた『一回出た』ってときのことをよく思い出してみろ」
美玲は「ウンコみたいなもんかと思ってた」と付け足して、考え込む。
一度、塁を殴るときにだけ出たあの感覚を。
「えっとぉ…目の前に化け物がいて…それを「ヤバい!」って思って…思いっきりぶん殴って…そん時に出た気がする!」
「化け物…?」
「ヤベ。えっとぉ、アレだよ。モノノケに襲われてたから!」
「あぁそういう……じゃあ、そうだな……異能ってのは人間の感情によって発動されることも少なくないから、そのヤバい!ってなった時の感情を意識してみて。恐怖、焦り、混乱…色々とあるけど、その時に出たイメージを」
「イメージ……イメージ……」
美玲は目の前に居る星野をあの時の塁に見立てて、拳を握りしめる。
そしてそのまま、霊力を肉体という器ではなく、それを溜め込む風船のようなイメージを取る。
そうすると、美玲の霊力は白く光り、拳へ纏われる。
「なんとなぁく…解った気がする」
美玲は静かに笑い、拳を構える。
「敵を強くしてしまうというのは、あまり良いものとは言えないが、後進を育てるというのは、前を往く者としての正しい往き方だ」
それに応えるように星野も拳を握りしめ、霊力を肉体に注ぐ。
そして互いに全力でぶつかり合うことを決めた。
◇
林を囲う結界。
その中を監視しているアルヴェールと創城。
二人は暗い部屋の中で静かに新人チームの戦いを観ていた。
「………美玲…結構やるっすね」
「ああ、潜在能力やそれを引き出す速度は桁違いだ。おそらく霊力に寄る肉体強化なども無意識下で行っているものだろう」
「マジモンの天才じゃないっすか」
創城はプロテイン用のシェイカーボトルの中のコーラをストローで飲み干す。
「そういえば、鏡花ちゃんの方はどうなったのかな?」
「ちっと待ってください………」
創城は横の椅子においてあるリモコンを手に取り、ボタンを押す。
すると複数ある画面が全て氷室先輩と氷花さんが向かい合っている映像を様々な角度で映し出す。
「あー氷花ちゃんと当たったか…それに氷花ちゃんちょっとキレ気味だなー」
「そして周りに美玲ちゃんや神白くんは居ない……」
「状況的に少し厳しいっすかね」
「いや、まだ分からないよ。彼女はとても優秀だが、時に自制が出来ないことがある…そうなると普段通りの実力を発揮できないことも度々だ」
創城は「氷花ちゃん、鏡花ちゃん絡みの事になるとすぐキレるっすよねー」と笑いながら答える。
「そういえば、神白くんの方はどうなったんだい?」
「ああ、はい。確かこの辺だったような………」
創城は再びリモコンをテレビのチャンネルを切り替えるように数回押し、塁が映っている映像を画面にあげる。
「これは………」
それを見たアルヴェールは感嘆の声を上げた。




