恋人役とかいう断る奴は馬鹿しかいないイベント
放課後、僕は象が乗っとるんかってくらい重い足取りで生徒会室まで歩いていた。
いや、象くらいなら乗っても大丈夫だけど。ゆうてあれ6tくらいでしょ?まぁ重いっちゃ重いけど別に耐えられないってほどじゃないしな。
結局、最後まであいつらは僕のことをバカにしまくってたな。
「やーい生徒指導~」とか「一学期早々~」とか。死ねボケ!
っと、考え事してたらもう生徒会室の前まで来てしまった。
はぁ~どんな仕打ちを受けるのやら。
フッ、だが僕が全くのノープランでここまで来たと思うのかい?
no problem。
しっかりと言い訳は考えているのぜ!
さぁ決戦!
「失礼しまーす」
ガラガラとドアを開けて中に入る。
うわっここ良いなぁ。エアコン涼しいー。羨ましなー。
やっぱり生徒会室と職員室はエアコンガンガンに利いてるのかな。
こっちはまだエアコン使える季節じゃないっていうのに。
「ああ、来ましたか」
と、エアコンの素晴らしさと自分たちがまだ使えないことへの苛立ちを覚えていると奥の椅子に座っている生徒会長、氷室鏡花が僕に気づいた。
「まったく、なかなか来ないので逃げたのかと思いましたよ」
ハッハッハ、ナメられたもんだぜ。
「さて、本題に入りましょう。ではまず貴方はなぜ屋上に侵入していたのですか?」
さて、来たぜ。まだ僕の予想通りだ。
見せてやろう、僕が考えた最強の言い訳を!
「えっと……実は、僕の趣味がバードウォッチングでして。以前、この高校の屋上にとても珍しい鳥が集まるという噂を耳にしたんです。立ち入り禁止だとわかってはいたんですが、自分の好きなことを諦めたくなくて……。不純な動機だとわかっています!でも、僕のバードウォッチングへの情熱は本物なんです!どうか、今回のこと、大目に見ていただけないでしょうか?」
どうだ!大抵の人はバードウォッチングという通常高校生が趣味としていないものを理解できない。故にへーそうなんだー程度で終わらせられるかも……しれない!
それにこの人は噂だとすごく真面目な人らしいから自分の好きなことに真剣な部分を見せればきっと親近感湧いて目を瞑ってくれるはず!
「なるほど、バードウォッチングですか。私もバードウォッチングは多少嗜んでいますが、そのような噂は聞いたことがないですね」
なんで嗜んでんだよ!!!
一般の高校生が嗜むような趣味じゃねぇだろ。バードウォッチングという名目で女子を遠くから観察とかならわからなくないが、真剣にバードウォッチングする高校生なんて聞いたことねぇよ!(真剣にバードウォッチングをしている方がいるならすいません)
「は…ハハ…ハハハ……」
「で?本当は?」
にこやかな笑顔の奥にはとてつもない覇気が隠れていた。
「屋上で主人公ごっこして楽しんでいました…」
「主人公ごっこ?それは具体的にどういったもので?」
「ラノベとか漫画とかアニメとかで主人公がいそうな場所に行って『あーこれ今僕主人公っぽいなー』って楽しむ遊びです………」
「そんな自分勝手な理由で立入禁止の場所に不法侵入して良いと思っているのですか?」
「すいません………」
「謝罪を求めているのではないんです。それに反省しているようには見えないですね。今しがた私にバードウォッチングが趣味という嘘までついたんですから」
もうやめて。
「それを先生方に報告したら、貴方は最悪停学……」
そんなぁぁぁ!!
「になるところですが、一つ貴方にチャンスを上げましょう」
「チ…チャンス?」
「ええ、私の出す条件を飲んでくれるならばこのことを先生方に報告することをやめてあげましょう」
座っていた椅子を立ち上がり、後ろの窓から外を眺めだす氷室生徒会長。
「うっひょー!!何でもいたします!靴をお舐めしましょうか?肩をお揉みしましょうか?姉御!」
「それは気持ち悪いのでやめてください」
「あ、はい。それで…条件というのは?」
「はぁ、貴方も知っているでしょう?私、何故か学校の男子にすごくモテるんです」
「はぁ…」
自分で言ってるよこの人。
「最初はなんとも思っていなかったのですが、最近はどうも面倒臭くなってきていましてですね」
「はぁ…」
近くにあったソファに座ってラノベを読みながら適当に相槌する僕。
「どうにかならないかと思っていたところ、私いい考えが思い浮かんじゃったんです」
「はぁ…」
ついでにお茶もいただく僕。
「それは、私が独り身だからいけないんです!」
「ほっふね」
あ、このお煎餅美味しい。今度、帰りに買ってこ。
「聞いてんの!?」
「はい!すいません!」
即座に地べたに正座する僕。
「ほんで…僕は何をすれば良いんです?」
そろそろ帰りたいんだけど…。
「ああ、そうそう。そこで、貴方に私の恋人をやっててもらいたいんです」
「……………はぁ、あのですね?途中からよく聞いてませんでしたけど、僕は殺し屋じゃないんですよ?なんかこう誰がめんどくさいみたいなこと言ってましたけど、その程度のことで彼氏を殺っちゃうとか……」
「違うわよ!こ・い・び・と・や・く!”恋人役”をやってもらいたいのであって!恋人を殺ってもらいたいなんで一言も言ってません!」
「ああ、なるほど…………は?」
なんつった?このアマ。
「恋人役?」
「ええ、恋人役です」
何その王道なラノベ展開。
「まぁ見逃してもらえるんだったら別に僕は良いっすけど………」
よくよく思うんだが、なぜこういう場合ラノベの主人公はこの申し出を蹴るんだろうか。
普通に得じゃね?だって何の苦労もなしに美人と付き合えるんだぜ?
これで相手が超絶ブスで正確もウンコみたいなやつだったら考えるけど、美人だったらええやんって思うんだけど。
「でも、なんで僕なんです?仲の良い男友達とかに頼めばいいじゃないですか」
「嫌よ。だってあいつら私のことすごく不純な目で見てくるんですもの。それに比べてあんたは私に何の感情も抱いていないようですし」
まぁ確かにそうだ。
僕はこの人とか、美人にはあまり興味がない。
何故かって?…………まぁ、それは後々説明するさ。
「それに貴方、そこまで顔が悪くないから恋人役には丁度いいかなって」
「フッ、わかってるじゃあないですか」
見る目あるなこの人。
「まぁ後は弱み握れそうなやつが見つからなかったから」
「てめぇそれが一番の理由だろ!」
「なんのことかしら?私わかんなーい」
急に声のトーンが上がり、可愛い子ぶる氷室生徒会長。
「とにかくそういうことだから、よろしくね。えっと……」
「神白塁です」
「神白塁…?」
急に首をかしげる氷室生徒会長。
ん?なんだ?
「どうしました?」
「ああ、いえいえなんでもないわ。よろしくね塁くん」
笑顔で手を差し出して来る氷室生徒会長。
「まぁ…はい、よろしくお願いします…」
握手を交わす僕達。
このとき、僕は「まぁこの程度で許してもらえるんだったらいっか」とか考えていたが、後に理解するであろう。
この決断が最悪の決断に成ることを…………。
「ところで、恋人役っていつまでやれば良いんです?」
「さぁ?」
「………………」




