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異反者  作者: 二代目とくとくかい
第一部:慚愧服膺篇
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第三十一話:やべぇ女


「えー、それではこれからクレイルの入隊試験を開始します。今回の試験は旗取り競争というシンプルなゲームです。皆さんある程度の怪我はどうにか出来ますが、くれぐれも大怪我はしないように。それでは、試験…開始でーす!!」


創城の陽気な声とともに試験開始の合図である笛が鳴らされる。

それと共に新人チーム、クレイルチームの攻撃手が一斉に相手チームの旗を狙いに駆け出す。


「累くん、先に行って良いわよ。中間地点付近に匂いは付けとくから」


氷室先輩は塁が林の中で迷わないための少し刺激臭のするスプレーを腰に装着している。

美玲や氷室も少量身体に吹きかけておいた。

まるで犬のような扱いである。


「うっす」


軽く返事をして、塁は二人を凌駕するほどの圧倒的なスピードで林を駆け抜けていった。


「ホントに大丈夫かね累くん」


「まぁ一応カゲロウが居ると思うから大丈夫だと思うけど……」


氷室と美玲は走りながら互いに塁を心配する。

その小さな会話を塁の耳は捉えていた。


(あー、ヤベ。言うの忘れてた。まぁ良いか)


塁は何か伝えなくてはならないことを氷室先輩に言い忘れていたが、特に気にせず、スピードを速める。

静かな林の中を木々を潜り抜けて走り続ける。

その速度と目つきから、野生の獣を彷彿とさせる。


(今のところは特に誰かの気配はしな――――)


塁がジェット機のように走りながら耳を澄ませていると、突然自身の上空から風を切る音が聞こえた。


「ッ!!」


「そぉれ!!!」


塁は咄嗟に速度を落とし、地面を思い切り蹴って軌道を逸らす。

すると予想通り、空中から塁目掛けて踵落としをしてきた者が居た。


「あれ、神白くんでしたか」


空蹴将仁である。

空蹴は周囲に舞った砂埃を手で払い、ニヤリと笑いながら言う。


「式神使いが前線に出てくるなんて予想外でしたよ。陣地で旗を守ってると思ってたんですけどね…」


空蹴は平静を装いながら、塁の身体を隅々まで観察する。


(視たところ、影の中や探知できる範囲に式神は居ない……丸腰で来たということか?……まぁなにか考えがあるとしても、相手は霊力なしの一般人……どう出るにしても好都合…)


「んだぁ?そんな嬉しいか?僕みたいなのが出てきて」


「ええ、そりゃあもう。楽に終えられそうですからねッ!!!」


空蹴は足に霊力を貯め、一瞬で塁の間合いに侵入し、顔面めがけて蹴りを繰り出した。


    ◇


場面は変わり、美玲と氷室先輩の元へ戻る。


「それじゃあ、そのまま回って陣地まで行って。旗が取れたらとにかく逃げるように」


「了解!」


氷室先輩の命令に敬礼をしながら走り去っていく美玲。

塁ほどではないが、相当な速さだ。


「元の身体能力が高いのかしら……」


氷室先輩は「野生児みたいなものかしら……」と考えながら、氷室先輩も中間地点から一直線に陣地へ向かって走り始めようとした。

が、次の瞬間。


「あら、一人なのね。てっきりあの蛆と一緒に居るのかと思ったのだけれど」


「ッ!……お姉ちゃん…」


木陰から音も気配もなく現れたのは氷室先輩の実姉、氷室氷花。

彼女は不機嫌な様子で氷室先輩を睨む。

しかしその眼は氷室先輩に向けたものではなかった。


「蛆って…誰のことよ」


「言わなくても分かるでしょ?あの黒髪で霊力がこれっぽっちもない虫螻のことよ」


「……」


氷室先輩は構えながら氷花さんを睨みつける。

鋭く、冷たく。


「お姉ちゃん…私のことを心配して言ってくれてるのかもしれないけど……私の友達のことを馬鹿にするなら、たとえお姉ちゃんでも許さない」


「言うようになったわね。でもアレが友達?」


「どういう意味よ…」


氷花さんは横髪を耳にかけ、小さく言った。


「鏡花あなた…あの塁とか言うガキに少し好意あるでしょ」


「ッ!?」


その一言に氷室先輩は赤面する。

慌てた頭で氷室先輩は咄嗟に否定の言葉を言おうとする。


「な、そんなこと…!」


「やっぱりあるのね………」


氷花さんは氷室先輩の反応を見て、ため息をつきながら下を向く。

そして――――。


「ぶっ殺す……!!!!」


「え?」


とてつもない霊力の波動とともに周囲の温度が凍てつくように下がってゆく。

それは異能なのか、単純な霊力なのか、はたまた……。


「私の可愛い鏡花を誑かそうとするなんて、許さない…一生涯忘れられないほどの恐怖をその身に叩き込んでくれる……!!」


「お、お姉ちゃん!?落ち着いて!」


「落ち着いてられるもんですか!あの鏡花が私以外の、それも男を選んだのよ!?少し昔まで「お姉ちゃん大好きー!お姉ちゃんと結婚するー!」とか言ってくれたのに、段々歳を重ねるごとに私から離れていって、オシャレとかもするようになってどんどん可愛くなっていくから……心配し過ぎかなとか思ってたけど、あんな霊力も何も無い無能で鏡花を守れるかどうかも怪しい男を選ぶなんてお姉ちゃん……」


「お姉ちゃん……」


超絶早口で喋りながら顔を抑え、泣きじゃくる氷花さん。


「ごめんね…鏡花……ちょっと痛くするけど……これも、愛だから!!!」


「ッ!」


氷花さんは拳に霊力を集中させながら轟いた。

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