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第二十九話:寺生ってやっぱり凄い

 次の日、僕は昨日のことを考えながら屋上へと向かっていた。

結局、あの死体が何だったのかまだわかっていない。そりゃそうだ。なんせ手がかりらしい手がかりは猫の体についていた歯型と、正常な人間がするはず無い行動の痕跡しか無いんだから。

普通の人間がするはずがないなら何だろう。モノノケ…とかかな。うん、今のところやっぱりこれが一番近いかな。モノノケじゃないとしたら、生肉好きのイカレ野郎だな。せめて食うとしても火は通せよ。

そんなことを考えながら、屋上までの階段を登っていると屋上に誰かがいることに気づく。


(おや?汗っぽい匂いがする)


気になり、足早に階段を登ると僕がいつも座っているちょうど貯水タンクの影が陰り、尚且つ景色がよく見える定位置に誰かが腕立て伏せをしていた。それも片腕で。


(ほうほう、片腕ですか。なかなかですが、僕は質量を高めてできるので僕の勝ちですね)


見た感じ特に重りとかも付けていないようだし。

しかし、良い筋肉してるなぁ。僕ほどではないが引き締まった体。滴り落ちる汗が少し日焼けした茶色い肌を輝かせる。


「む?」


僕が筋肉を吟味しているとあちらも僕の存在に気がついたようだ。


「俺以外にもこの屋上を使うものがいたとはな。おっと失礼、自己紹介が……」


立ち上がって、僕の方へと近づいてくる。

そして、僕の体をジロジロと見始める。

な、なんだ?


「君…うん、なかなか良い筋肉を育てているな。着痩せするタイプのようだが、その服の内側にはとてつもない量の筋肉が貯蔵されている。到底いまの俺では勝てるマッスル量じゃないだろう」


こ、こいつッ!

やるじゃん。


「ああ、えと……」


「おっとすまない。自己紹介がまだだったな」


二回目だ。


「俺の名前は寺岡睨太てらおかげいた。一年九組の者だ。先程は日課の筋トレをしていた」


僕と同じ学年か。身長が高めだから一つか二つ上だと思った。


「ああ、えっと僕は神白塁です。一年七組です。趣味は筋トレです」


「そうか、やはりな。失礼、上腕二頭筋を見せてくれないだろうか」


何だこの人。

わかってるじゃないか。

僕は服の裾を肩まで捲り、腕に力をいれる。

はち切れんばかりの服の下に現れる巨大な肉の塊。きんに君のは睾丸だが、僕のは普通にエッグイ筋肉だ。

それを見た寺岡くんは「おぉ…」と声を漏らし、興奮しているように息を荒くする。


「良いものを見れた。ありがとう」


「いえいえ、こちらこそ。また筋トレの意欲が高まりましたよ。寺岡さん」


「ハハハ、同じマッスル仲間じゃないか。稽太でいいさ」


「じゃあ、稽太さん…」


「稽太で良いと言っただろ。呼び捨てで構わないさ塁」


「じゃあ、稽太」


「うむ」


そして僕達は握手を交わす。


「さぁ、まだ昼休みはたっぷりとあるんだ。こっちで話そう」


そう言われ僕は稽太と一緒にいつもの定位置へと歩き始める。

ん?なんだ?

ケツの方になにか感触を感じ、振り返る。

しかし、そこにはなにもない。いや、なにもないというわけではない。後ろには稽太がいるが…………まぁ手でも当たったんだろう。

定位置に座り、稽太が「さて」と話し始める。


「さて、ずっと気になっていたんだがその足元にいるモノノケは何だい?邪気は感じないから、式神的なものなのかな?珍しいね」


「は?」


唐突すぎて脳が理解しきれなかった。

こいつ、カゲロウが視えている?もしや、クレイル?また勧誘か?

他にも様々な考えが浮かんだが、とりあえず稽太から距離を取る。


「おうおう、どうした?」


「お前、カゲロウ…モノノケが視えるのか?」


僕の質問に対して稽太は首をかしげて、少ししてから口を開き始める。


「視えるも何も、君も視えるんじゃないのか?」


「質問を変えよう…お前はクレイルの者か?」


空蹴をボコボコにしたから報復………って可能性もなくはないからな。

僕の問いかけに対し、またも口を閉じ不思議そうな顔をする。


「すまん、そのクレイルというのはなんだ?」


「ぬ?クレイルを知らないのか?」


「クレイル…………あ!あれか?」


何かを思い出したかのように眼を見開く稽太。

そして、クレイル関係について話し始める。

どうやら、稽太はクレイルの戦闘員ではないらしい。寺岡稽太は寺生まれでおり、昔からモノノケが視え、その寺で父とともにモノノケ退治をしているらしい。稽太が中学に上がりたての頃、クレイルが稽太のもとにも勧誘をしに来た。しかし、稽太は父の寺ですでにモノノケ退治というクレイルがしていることと同じことをしていたため「そっちでもうやってんだったら良いか」となり、もう特に勧誘などもされていないという。


「けど、本当にクレイルじゃないのか?」


「ああ、本当だゾ。なんなら俺の異能を見せてやっても良い」


「え、見せちゃっていいの?」


「やましいことはないからな。それに久々に見つけた同胞だ。仲良くしたい」


そう言って稽太は握りこぶしを作り、人差し指と親指を立て指で銃の形を作る。

そして、屋上から見える木に向かって指を向ると。


「破ぁ!!」


と声を出し、それとともに指先から青いエネルギー弾のようなものが飛び出す。

飛び出たエネルギー弾は猛スピードで木の方へと飛び、木に直撃し表面を少し焦がす。

当たったところからは「シュー」と煙が立ち上る。


「何今の!?すげー!」


「ふっふっふ、今のは結構霊力を抑えたから威力は弱いがもっと強いのも出せるぜ」


「か、かっけぇ……」


見た感じ僕の『黒点』と似た感じかな。指先から霊力の塊を飛ばす……結構強くね?


「さ、次はそっちの番だぜ。お前の異能はなんなんだ?それとその黒いのも」


「ああ、僕に異能は無いよ。ていうか霊力すら無い。異能力者ってそういうの感じれるんじゃないの?」


「そうなのか?てっきり霊力の制御がめちゃくちゃ上手いのかと思ってた。じゃあ、なんで異能が視えるんだ?」


「それあの日あいつらにも同じこと説明したなー」


とりま、僕についてまた詳しく説明。


「そうか、大変だったな。俺の父も俺なんかより遥かに強くてな。それに厳しい人だったから昔は大変だったぜ。除霊のときとかおしっこ掛け合ったし」


「汚っね」


「そういうもんなんだ」


はえーまだまだ僕も知らないことばかりだぜ。


「それにしても、形状変化のモノノケか。付喪神みたいなもんかと思ったが……いや…それより…」


「どした?」


「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


なんだか考え込んでいるようだ。

と、そのタイミングで稽太のケツポケットから着信音が響いた。


「おっと、すまない。電話だ。少し、はずさせてもらうよ」


「おう」


稽太は携帯片手に屋上の柵の上に飛び乗る。


「ちょちょ!」


「大丈夫だ。破ぁ!!」


稽太は鮮やかな笑顔で青い光を放ちながら消え去った。

そして、僕はこう思った。


(寺生ってやっぱりすごい)


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