第二十九話:旗取りゲーム
氷室氷花。
僕が今、一番会いたくない人物である。
氷室氷花の実姉であり、一度僕を殺しかけたクレイル第二部隊副隊長。
「ん?何よ。何か用でもあるの?」
氷花さんは僕の険しい顔つきをその鋭い目つきで睨む。
それと同時に僕の心音が激しくなるのが分かる。
「い、いや…なんでもないっす」
「? あっそう」
そう言って氷花さんは機嫌が悪そうに去っていく。
「こえ~。いつもあんな感じなんすか?」
「う~ん、いつもはもう少し……。なんかお姉ちゃん今日機嫌悪いわね……」
肉親から見ても機嫌悪いんだ。
「さぁ、皆さん。といっても四人ですが…顔合わせも済んだことですし、そろそろ試験に入りますよ」
空蹴はそう言って僕達を集める。
「試験って言っても何すんの?」
美玲が退屈そうに欠伸を噛み殺しながら尋ねる。 空蹴は懐からバインダーとペンを取り出し、さらさらと簡易的な図を描き始めた。
「今回皆さんにしてもらう試験は、『旗取り』です」
「旗取り?」
「ええ。ルールは至ってシンプルです」
空蹴は描いた図を皆に見せながら、ペン先でポイントを指し示す。
「まず、僕たち『クレイルチーム』と、そちらの『新人チーム』に分かれます。互いの陣地には、この通り『旗』が一本ずつ設置されます」
空蹴は紙の上に【自陣】と【敵陣】、そしてその真ん中に【×印】を描き込んだ。
「勝利条件は一つ。『相手陣地にある旗を奪い、この中央のポイントまで運ぶこと』。先に運び込んだチームの勝ちです」
「なるほど、運動会のあれを過激にした感じか」
「その通りです。もちろん、僕を含めクレイルの隊員たちも皆さんの旗を狙いますし、奪いに来た皆さんを妨害します。『敵の旗を奪う攻撃手』と『自軍の旗を守る防衛手』。この役割分担が鍵になりますね」
説明を聞いていた千弘が、不安そうに眉を下げて手を挙げた。
「で、でも……それだと人数的に不利じゃないですか? あっちは五人居て、僕達は四人だし……。それに、そもそも実力差が……」
「はい、そのため新人チームに助っ人として、鏡花ちゃんと稽太くんを参加させます」
「稽太?」
「ああ、そろそろ来ると思うんですが―――」
「すまない!遅れてしまった!」
空蹴がそう言いながら周囲を見渡していると、僕達の背後から海良木さんのような大声で誰かが謝罪をする。
僕が振り返って見てみると、そこには細マッチョで肌が少し黒い短髪の爽やかな青年。
「稽太くん、丁度良かったです。今君の話しをしていたところなので、ご挨拶を」
「うむ!遅れてしまって申し訳ない!俺は寺岡稽太!第二部隊の隊員でまだ新人だ!よろしく頼む!」
「稽太くんは先月入隊したばかりですが、その才能を買われ、今回皆さんの試験の助っ人をしてくれます」
先月入隊したばっかなのに才能あるって凄いな。
「入隊したのは先月だが、俺は寺生だからな。元々異能は使えたから、何か分からないことがあったら聞いてくれ!出来る限りで力になるぞ!」
はーん、寺生まれか。
なら確かに使えてもおかしくないかも。
「これで六人ですが…さすがに大量相手だと、吾輩達ボコボコにされそうですぞ」
中鳶が指折りで数えつつ、その実力差に打ちひしがれる。
それを見て空蹴が「安心してください」と言う。
安村?
「僕ら隊長格が本気で異能を使えば、瞬きする間に終わってしまうでしょう。ですがそれでは試験になりません」
空蹴は悪気なく、事実として淡々と告げる。
「ですので、ハンデを設けます。僕たちクレイルチーム側で異能の使用が許されるのは、たった一人だけ。それ以外のメンバーは、霊力による身体強化のみで戦います。対して、あなたたち新人は制限なし。好きなだけ異能を使っていただいて構いません」
「数と経験の差を、『異能の有無』で埋める。……これで一応、盤上はイーブンってことになるわけですな」
中鳶が指折りに状況を確認する。
「そういうことです。さて……説明は以上ですね」
空蹴はバインダーを閉じ、にこりと微笑む。
「そろそろ始めましょうか。試験エリアはこの林一帯です。詳細な地図は鏡花ちゃんに渡してあるので、作戦会議に役立ててください」
◇
僕達はチームごとの陣地に移動し、試験開始時間まで作戦会議をする。
「旗ってこれか。結構小さいな」
僕は陣地の中心に置いてある台に設置された旗を眺める。
旗は大体30cmくらいでマリオの中間地点みたいな形をしている。
「さて、皆揃ったわね。じゃあ作戦を伝えるわ」
氷室先輩が手を叩いたのを合図に僕達は一箇所に集まって座る。
「まず、累くん、美玲ちゃん、私でクレイルチームの旗を奪取しに行くわ。そのため、中鳶、千弘くん稽太くんはここに残って旗の死守」
「はい!稽太氏は行かないのですか?」
氷室先輩の説明を聞いて、中鳶が手を上げて質問する。
「相手はクレイルの隊長という手練れよ。ほぼ確実に陣地にまでたどり着かれる。そのため、中鳶と千弘くんの二人じゃ旗を守りきれない。それに稽太くんの異能は戦闘向きだけど、遠距離型だから守るほうが有利だしね」
「そういや、稽太の異能って何なの?」
「俺の異能は『神逐い』と言って、見てもらった方が解りやすいだろう」
そう言って稽太は人差し指と親指を立て、銃の形にする。
「破ァ!!」
そのまま大声で叫ぶと、指先から青白い霊力の光が高速で飛び出し、近くに立っていた木に被弾する。
霊力弾が当たった木の一部は白い煙を立てながら爆発し、小さなクレーターのように傷をつける。
「すげぇ!幽遊◯書の霊丸みたい!」
「フッ、このくらいは序の口さ。今のは霊力の量を少なめにした。もっと霊力を込めれば、もっと威力は上がるぞ」
寺生れってやっぱり凄い。
僕は改めてそう思った。
「でも、氷室先輩はなんで前線に出るんすか?あんま異能戦闘向きじゃないじゃないですか」
「私居ないとあんたら二人突っ走ってすぐ迷うでしょうが。ある程度距離ないと共有してる位置分からないし、迷子になると面倒だしね。それに……」
氷室先輩は目を細めながらクレイルチームの陣地の方向を見据えながら言う。
「お姉ちゃんが累くんを襲おうとしたら、なんとか出来るの私しか居ないしね」




