第二十八話:僕自身は可愛ければ男でも抱ける。
帰りのHRが終わり、いつものように誰もいない教室で読書を決め込もうとしたが、またあのめんどくさい男のような連中に来られても面倒だから、今日は早めに帰ろう。
そう思い、普通に教室を出て下駄箱の方へと向かう。
その時、廊下を歩く僕の眼に目立つ金髪が止まった。
「あれは……」
あれは確か、8話で出てきてエピソードに出そう出そうと考えていたけれど、タイミングが見つからなかったことと、普通に忘れていたことも相まって全く出すことができなかったキャラではないか。
どうして今頃………まぁどうせ忘れないようにメモしておこう的な考えで出してきたんだろうな。
綺麗な黄金色の髪の毛、普通の生徒ではあり得ない髪色だ。
おや?あのときはよく視えなかったが瞳の色も普通と違う。
淡い青色、ターコイズブルーって感じかな。それに顔もすごく整っていて、日本人と思えないほど堀が深い。もしかして、外国人かハーフかな。
いけないいけない。髪色だけでヤンキーとか派手なギャルと決めつけてしまった。いや、もしかしたら本当にシャルとか派手なヤンキーかもしれないけどね。
そこで、僕の眼にあるものが写る。
それは、彼女と彼女の友人と思われる男女数人の背中や、肩、足などに異様な雰囲気を漂わせるような純白のナニか。明らかにそれは”こちら側”のモノではなかった。
しかし、なんだろう。モノノケとも違うような……それよりも、もっと上位の存在といったら良いのか。
とにかく、モノノケとは少し違ったものが彼女らに引っ付いていた。
なんなんだ今のは…………。
と、僕が物思いにふけっていると僕の右肩が叩かれた。
振り返ろうとしたら何故か右頬に細く、そして白い小さい指が当たった。
「んな」
「あは、引っかかった」
目の前にはとてつもなく可愛い美少女、つまり千弘がいた。
ああ、女子かと思った。女子だったら結婚してくれと思わず言ってしまうところだった。
「なんだ千弘。僕に気でも有るのか?その気になれば僕は男でも顔が良けりゃイケるタチなんだぜ?」
「ちょっと怖いね」
「ぐぎゃああああぁぁ!!がわ”い”い”!!!」
血反吐吐きながら下駄箱まで吹っ飛ぶ僕。
不意打ちはキツイて。
「そんで」
あれだけ出血していたけれどもうピンピンしている。まぁ二次元だからね。
「どうした。今日はあの厨二病患者は休みだから勧誘されてないはずだけど…モノノケにでも会ったか?」
「ううん、ないよ」
だったら、何だってんだ?
「えっと…じゃあ、何?」
「その…今日さ…一緒に帰らない…?」
眼が飛びててしまった。
うっひょー!!ついに僕にも「一緒に帰ろう」イベントが到来したぜ!
いや何度も言うように千弘は男なんだけれどもね。
だとしても嬉しいよ。
帰り道に皆が帰ってる中で、僕と可愛い子(男)が一緒に帰るというなんともまぁ素晴らしいイベントだ!
確かに前、佐倉先輩と一緒に帰ったが、あのときは姉さんの反応が怖くてそれどころじゃなかったし、あと普通に夜だったから、なんというかムードがなかった。
し・か・し!今回は丁度良い時間帯だ。
「良いぞ!!ドンと来い!!」
そうして、僕と可愛い子(♂)とのイチャイチャ帰り道が始まるのであった。
絵面はアニメのワンシーン、字面はゲイビデオのワンシーンである。
忠告しておくが、僕はゲイではない。あくまでノーマルだ。
「えへへ、お友だちと一緒に帰るなんて、久しぶりで浮かれちゃうな~」
いちいち言動が可愛らしい千弘。
そんな千弘の頭を脊髄反射で撫でてしまう僕。
「よーしよし」
「うわっ、ど…どうしたの塁くん」
「いや~、千弘は相変わらずかわいいな~って思ってさ」
っは!まずい。千弘は中学時代に見た目が女の子のようだと、いじめられれいた過去があったんだ。
失言だ。謝ろう。
「あ、すまん。可愛いってのは嫌だったか」
僕が素直に謝るが、千弘は顔を赤くしながら下を向いてぶつぶつと何な呟いている。
「そ、そんな…可愛いだなんて……でも、別に嫌じゃないと言うか……ごにょごにょ……」
「?」
ちょっと聞き取りづらいな。
だが、別にそこまで嫌がっている風では無いっぽいな。
トラウマ克服の成果か?
う~ん、勃起!!!!!!
「あ!いや、なんでもないよ。大丈夫!僕もうあのことはなんとも思ってないから!」
「ほんとか?」
確かに、その言葉に嘘の色は見られない。
「うん!どうせもう過去のことだし、この見た目も僕の個性の一つだから否定するんじゃなくて、ちゃんと受け入れていかなくちゃって思ったんだ。それに塁くんは馬鹿にしてるようじゃないなーって思ったしね!」
「そうか。まぁ、無理するなよ」
「うん!そうする!」
見た目はすごく小さくて可愛くて、少し押したら折れてしまいそうなくらい弱そうだが、その根はとても強くてたくましくて勇敢な、しっかりとした男の子なんだな。
僕は少々、千弘を見くびっていたようだ。
「そういや、千弘ん家ってこっからどんくらいの近さなの?」
「僕の家は駅を5~6っこ跨いだところ」
「? つまりどういうことだってばよ?」
「ちょっと遠いところってことだね」
「なる~」
男同士、まだ少し明るめの空の下で僕達は笑いながら一緒に歩く。
そろそろ夏が近づいてきていた。
だから最近は、普段より太陽が沈むのが遅くなってきている。
前まではもう暗くなっている時間帯でも、太陽は空の上だ。
「千弘はなんか部活とか入ってんの?」
「僕は一応、情報処理部ってところに所属してるけど、ほとんど活動はしてないみたい」
そんな部活あったんだ。
ちなみに僕は部活には所属していない。
理由は簡単。めんどくせぇから。
僕の筋肉ならそこらへんの強豪校の運動部に入ってもエースを取るくらい簡単だ。
だが、やらない。それは練習がめんどくさいからというわけではない。もちろんいつもの筋トレに比べたら生産するマッスル量も少ないけどやらないよりかはマシだ。
僕がめんどくさいと思っているのは部活内での人間関係だ。顧問や先輩、後輩などの同級生以外への対応をいちいち変えなくてはならないのもめんどくさいし、一年生はあれやっちゃだめとか、一年生は先輩を敬えとか、めんどくさいったらありゃしない。顧問とか「お前、偉そうなこと言ってるけど僕達よりできんのか?」と思うことも多々ある。たしかにね?顧問だからナメられちゃいけないとか、立場上強く言わないといけないこともあるだろう。それは仕方ない。けれど、それによってこっちがムカつくんだから、それなら所属しない方が気が楽だろ?だから僕は部活に入らない。
これが僕が部活に入らない大きな理由だ。あとは休日の練習とかソシャゲのアップデートの日と練習が被ってすぐにできないとか。
でも、うちの学校部活入らないといけないんだよなぁ。
今は灰田が無責任+忘れっぽいってのもあってなんとかなってるけど、多分そのうちバレる。
そしたらどうするか。
「僕も情報処理部に入ろっかなぁ……」
「そういえば、塁くん部活入ってないんだっけ?」
「あれ、そのこと言ったっけ?」
「ううん、なんか昨日塁くんのクラスの副担任の人が塁くんに関して聞きに来たの。確か名前は…空蹴?って人。知ってる?」
あの野郎うちの副担任だったのかよ。
僕は自己紹介時、灰田が副担任は男だと言っていたことを思い出す。灰田がいい加減だからあれ以降、副担任の紹介することなかったしな。いや、もしかしたら副担任だから何度か見たことはあったのかも知んないけど、副担任と知らないから特に気にも止めなかったのかもしれない。
流石にねえぇか。あの見た目だしな。
「うん、まぁ知ってる。ていうかそれが昼休みに言ったクレイルの黒兎ってやつ」
「え!?僕、塁くんのこと知ってる範囲で言っちゃった!」
「まぁでも、僕のことについて話したの、あの空間のときの事だけだしそんな大変なことではないだろ」
「うう~、でもごめんね」
っくっふうぅぅぅかわいいなぁ~こいつは~。
「大丈夫、また来たときにぶん殴れば忘れるだろ。それよか、お前の方は大丈夫だったのかよ。あの厨…空蹴になんかされなかったか?」
「うん、僕の方は特に何も」
「そっか、ならいいけど」
普通の高校生男子達が絶対にしないであろう会話をしてはいるが、やはりこの絵面は青春のそれだな。
しかし、駅まで行くために通る道を歩いていたとき、僕達は気づく。
「スンスン、なんか変な匂いしない?」
「変な匂い?……あ、確かに」
何か奇妙な匂いが僕達の鼻をくすぐった。
なんだろう、この匂い。
生臭いような、硫黄に近いような匂いがする。
「こっちのほうじゃない?」
千弘は薄暗い少し狭い通路の方を指差す。
確かにそこから妙な匂いが漂ってくる。
「ちょっと行ってみるか」
「えぇ、怖いな……」
「大丈夫だって、僕がいるんだし」
まぁ嫌だったらついてこなくてもいいけどな。
そう言ったものの千弘は僕の背中に隠れながらついてくる。
薄暗い通路を進むにつれて、その妙な匂いは強くなっていく。それとともに気持ち悪さも増してくる。
そして、僕達はその匂いの正体へとたどり着いた。
「これは………」
そこにあったのは、親子と思われる猫と子猫の死体。
その体からは異臭と蛆が湧いており、蠅もたかっている。
猫の死体なんかは珍しいが、見ないことはない。車に轢かれたり、食料を見つけられず餓死したり。
しかし、これらの死体は明らかにそれらが原因ではない。
「ね、ねぇ……これって…歯型…じゃない?」
千弘が震えた声で呟く。
千弘が言うようにこの猫の死体には大きな歯型がついていた。それも、そこら辺の野生動物ではなく人間のような歯型だ。その歯型が体中の至る所についており、手足や尻尾、首などがそれによって食いちぎられている。
「何かに、喰われた?」
けど、おかしいだろ。普通人間が猫なんか食べるか?それに猫は人間の足の速さなんかとは比べ物にならないほど速い。どんな異常者だろうと喰うことはおろか、捕まえることも厳しいだろう。
どこか怪我でもしていたのか?………ボロボロすぎてわからない。
そして、もっとおかしいのはすべてを食べきらないことだ。一匹を丸ごと喰って、腹が満たされれば喰うのを辞めるだろうが、これらは全員手足や体の一部を食いちぎられている。まるで喰うことを目的にするのではなく、惨殺し楽しむことを目的にするかのように。
「とりあえず、この子達を何処かに埋めてあげないと」
「ああ、そうだな」
カゲロウでスコップを創り、地面に小さな穴を開け、猫たちを一匹づつ丁寧に入れていく。
まだ小さい子猫までも無惨に殺されてる。
正直、介入するべきではないだろう。こんなことをするのは普通の人間じゃない。
だけど……………。
「許せない…」
僕が思っていたことを千弘が口にする。
その声は震えていたが、先程の恐怖による震えではない。
「……そうだな」
僕は最後の猫を埋めてそう答えた。




