まぁ色々と
次の日、空蹴将仁は欠席であった。
そして、僕と千弘と美玲はただいま屋上へと来ている。
立入禁止の場所であったがために千弘は「やめたほうが良いんじゃない?」とオドオドしていたが、美玲は「面白そうだし良いね~」と喜んでいた。
「おおーすごいねーいい景色だー!」
美玲は屋上の柵にしがみつきながらはしゃいでいる。
「確かにそうだね。今日天気もいいし」
少し緊張しながら答える千弘。
「けど、本当に大丈夫?見つかったりしたら怒られちゃうかも…」
「まぁ、そこら辺は…ほら…なんとかなるべ」
「適当すぎるでしょ!」
僕は腕を組みながら空を見上げる。
うん、たしかに良い天気だ。
どこまでも続く澄んだ青い空、その青が大きな入道雲を際立たせる。太陽の光が地上を強く照りつける。小さな飛行機がどこまでも続く青い世界に一筋の白い線を引いてゆく。
「なんかあの雲クリームパンみたいだね」
「そこはラピュタだろ」
とか、くだらない会話をしているとラノベの世界に迷い込んだような気分になる。
「それで、話って何なの?」
千弘が「ははは…」と困ったような顔をしながら話を切り出す。
ああ、そうそう。今日、美玲に千弘が男の子であり、男の娘だと言うことを伝えた。ついでに中鳶にも。
その事実を知った二人は、この世の終わりみたいな顔をしていた。
まぁ、中鳶は「それもそれでアリですなぁ」と気持ち悪いコメントを残していた。
「おホン!えー、それでは話し合いを始めます」
「「いぇーい」」
いぇーいの雰囲気じゃないと思うんだが。
「まず、千弘は昨日が初体験だったよな」
「うん」
「初体験!?やっぱりヤッたの!?男同士で!?」
「死ね」
美玲の言葉を突っぱねる僕を見て千弘は苦笑する。
「あはは、で、初体験って?」
いかんいかん、こいつがいると100%ツッコミに回らされる。
けど、僕はいつもツッコミとボケを移動し続けているんだよな。どっちつかずの正義的な?
「初体験ってのは、あの夢のことだ。わかってると思うが、あれは普通の夢じゃない。お前にとっては未知の世界かも知んないけど、それを僕が一から解説する。わからないことがあったら何でも言ってくれ」
「うんわかった」
特にちゃかすでもなく、千弘は真剣に頷いた。
「はいはーい」
「何だ美玲。ぶん殴るぞ」
「いやいや、私もあのキモいのが視えるようになったの割と最近だからわかんないんだけど、私には解説ないの?」
え?でも前にカゲロウが元から視えるタチって言ってなかったっけ。
まぁいっか。
「もともと視えるんじゃないの?」
「う~んとね、視えるようになったの中学の卒業式あたりだから、まだ良くわかんない」
そうか、結構最近だな。
「僕としてもまだわからないことだらけだから全部は説明できないし、的確なアドバイスなんかもできないけど、分かる範囲で良いなら」
そして僕は二人になるべく詳しく、細かく説明した。
モノノケといういわば妖怪や幽霊のような存在がこの世には有るということ。それに対抗する異能という魔法のような不思議な力と、それを使用するにあたって必要な霊力というエネルギーについて。
そして、補足程度だけどモノノケの等級なんかも教えておいた。
まぁそこまで肝心じゃないかもしんないけど、クレイルについても知ってることだけを隠すことなく説明した。別に隠すことじゃないしな。
終始、千弘は真剣に聞いていた。
美玲は、白米と塩鮭を掻き込んでいた。
「はい!」
「はい、千弘くん!」
「塁くんはどういう異能を使うの?概ね予想はつくけど、あの黒い剣のやつ?」
………。ま、別にもう気にしちゃいないからいっか
「僕自身に異能はない。異能だけでなく霊力すら無い。少ないんじゃない。完全にゼロ。成長の由なんて微塵もないさ。まぁそのせいで実家だとゴミ扱いだ」
一応、僕の家が神白家という異能界では結構有力な家系だということは説明した。
「あ、ごめん…」
「いいさ、もう気にしちゃいない」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
口をリスのように膨らませながら何かを喋る美玲。
「飲み込んでから喋れよ」
「…ゴクリ。じゃあじゃあ、その黒い剣?ってのは何なの?」
「ああ、それは…」
そう言って、僕は地面に写る僕の影からずずずずとカゲロウを出す。
「お初にお目にかかります。我…私、カゲロウと申します。普段は主である神白塁殿の式神兼、武器を担っております。武器というのはこのように自身の身体を変形させて創り出すことができ、私自身がモノノケです故、モノノケにも攻撃が通用します。以後お見知りおきを」
カゲロウがニューと剱を生やす。
「なにかしこまってんだよお前」
「いや、かしこまったほうが良いかなって」
カゲロウを視た二人はそれぞれ違う反応をしていた。
千弘は「おお…」と目を輝かせている。
美玲は、「焦げてるみたい…まぁ焦げてても食べられるか」と怖いことを言っている。食う気?
「すごいね!僕、ゲームとかに出てくる召喚獣とか良いな~って思ってたんだ!かっこいい!」
千弘は子どものようにはしゃいでいる。かわいい。
「いや、焦げてるからこそ大人の苦みが……」
美玲はまだ食べることを考えている。食う気?
「なるほどね。だからモノノケにも攻撃ができると。納得した。あ、でもでも、それならどうして塁くんはモノノケが視えるの?霊力がゼロなら絶対に視えなくない?」
読者がずっと気になっていたであろう質問をしてくれいた。
安心してくれ。どこぞのフィジカルギフテッドのようになんとなく気配がするから~とか、そういう理由じゃないぞ。
「ほら、僕の目って白いだろ?これ実は義眼なんだよ」
僕は自分のまぶたを少し開きながら美玲たちに見せる。
「義眼?」
「そう、昔ねモノノケが視えないとそもそも戦いにもなんないからって自分で自分の目を抉り取ってカゲロウで作った眼を入れたの。僕の体とリンクするまでに半年ぐらいかかったけど、もう自分の目と変わんないかな。まぁでも普通の目より便利だと思うぞ。この眼、視力下がらないし」
「抉り取って……」
おや、ちょっと雰囲気が。
そっか流石にグロいか。
「ま、そんなとこだ。僕達はモノノケというこの世ならざるものが視え、尚且つ払えるかもしれない数少ない貴重な人間だ。そのせいで、クレイルとかいうめんどくさい連中からめんどくさい勧誘に合うが無視して結構だ。僕達はただの高校生。ただの化け物が視える高校生。そんだけだ。けど、視えるってことはあっち側の連中から狙われやすくなる。そん時は僕を頼れ。力んなるからよ」
僕はそう言って立ち上がる。
「うん!僕も戦うとかはちょっと苦手だけど精一杯頑張るよ!」
千弘も立ち上がる。かわいい。
「ふっふっふ、唐揚げにレモンをかけるやつは…私がぶっ倒してやるのさ!」
美玲はよくわからないことを言っていた。




