第二十六話:クレイル(笑)
「んん…………はっ!!」
「あ、やっと起きた。いやぁ、カゲロウの電気が弱くてショボい雷しか落とせなかったけど、まぁまぁエグかったから死んだかなーとか思ったけど、結構しぶとかったな。はい、説明終わり。良い子は人に雷は落としちゃだめだぞ。ここは二次元だから無事だけど、普通なら即死だからな」
空蹴が目を覚ましたとき、自身の身体の自由はなくなにかに縛られている状態であった。
足首と胴体が黒いなにかに縛られている。
そして、見上げるとそこには気絶する前に見た自身のターゲットがなにもない空間に向かって喋っている。
「僕は…負けたのか…」
「その通り」
「どれくらい寝ていた?」
「僕に落書きされまくれるくらいの時間」
「は!?」
空蹴が暴れまわる。
僕はそれを制すように空蹴の上に座り、空蹴はうつ伏せになる。
「さぁーて…何から聞こうか」
「っぐ…!」
「ほなまずはさっき言ってた『クレイル』ってのと、あんたのコードネーム(笑)について詳しく聞こうか」
「(笑)はいらないと思うんだが!?」
「いやいや自分で言ってたんでしょうが」
「言った記憶ないけどね!?」
空蹴は「はぁ…」と少し息を整えてから口を開いた。
「僕は異能力者集団組織『クレイル』の第4部隊隊長、コードネームは『黒兎』。クレイルはこの世界に蔓延るモノノケの討伐やモノノケによる被害を防ぐために存在する非政府組織だ」
「ほーん、そんなんが有るんだな。んで、なんでその非政府組織さんが僕のところに来るわけ?あんたらはモノノケだけじゃなく高校生にも手を出すようになったのか?」
「クレイルは常に人員不足だ。猫の手も借りたい状況。だから少しでも戦力を増やすために君みたいなモノノケに抵抗できる、又はモノノケが視えるくらいの人を集めているんだ」
なるほど。
昨日のことを見られていたから僕を勧誘(誘拐)しようとしてたわけかな。
「いや、誘拐とまではいかないよ」
「うっせー口答えすんな!キ◯タマにハッカ油塗るぞ!」
「待って!あくまで勧誘のつもりだったんだ!ちょっと頭に血が上っただけで……悪かったと思ってる!」
「つーか第4部隊隊長とかいうすごそうな肩書のくせにそこまで強くなかったしな」
「んだとガキこらぁ!」
僕は無言でハッカ油の蓋を外す。
「すいませんマジ勘弁してください」
この後他にも色々と話しを聞いた。
僕は神白家でまともな教育をされてなかったからモノノケの知識もクソも無いので、まぁまぁありがたい。
まずモノノケにも等級があるらしい。全部で五段階。
弱いやつから行くと…。
・脅威級:一般的な異能力者なら容易に祓える程度のモノノケ。主に人々の負の感情が具現化したもので、特定の場所や物品に取り憑いていることが多い。被害は限定的だが、放置すればより上位のモノノケへと進化する可能性がある。
・危険級:異能力者であれば単独で対処可能なモノノケ。しかし、一般人にとっては命の危険に直面するほどの脅威となる。油断すれば強力な異能力者でも苦戦を強いられるため、決して侮ることはでない。
・特異級:通常では考えられない特異な能力を持つモノノケ。単独で異能力者を圧倒するほどの力を持つこともあり、対処にはその能力を分析し、対策を立てる必要がある。通常の異能力者では手に負えず、少数から大人数の精鋭チームが派遣される。
・災禍級:特級災禍に次ぐ危険度で、単独で大規模な事件を引き起こし、多くの犠牲者を生み出す力を持っている。複数の異能力者が協力しなければ対処が難しく、クレイルでは2名以上の第一~第五部隊の隊長が対応にあたる必要がある。
・特定災禍級:最も危険で、人知を超越した存在。一体出現するだけで一つの文明が壊滅するなど、広範囲に甚大な被害をもたらす可能性を秘めている。その存在自体が災厄であり、常識的な手段では祓うことができない。
とここまである。
「てかヤバいじゃん特定災禍級とか。文明壊滅ってほっといていいの?」
「特定災禍級は今まで観測された中でも片手で数えるくらいしかいない。それもほとんどが眠っていたり、行方をくらませている」
あと、ちなみに僕が今まで戦ってきた蜘蛛やオタクは危険級であり、その中でも上の下あたりらしい。
イザベラのような吸血鬼は、一応人間のような扱いをされるがモノノケの部類だからこの等級に分けられる。ちな特異級。
人間に被害をもたらさなくても、その存在自体が怪しく異なっているものであればこの等級に分けられるそうだ。
「つまりはそういうヤバい奴に抵抗するために僕も勧誘しに来たと?」
「そういうことだ」
「暇かよお前ら。こんなちょっと他より強い人間を勧誘するために学校の教師になりすまして潜入するとか」
「ん?いやいや、あくまで君の勧誘はついでだよ」
「ほへ?」
「言ってなかったか。今この学校ではヤバい奴が目覚めようとしている。それも特異級の最上位、なんなら災禍級に分類されてもやっていけるくらいの強さを秘めた化け物がね」
「なんそれ。そんなんいるの?」
「常磐君から聞いた情報によると君も体験したはずだよ。ああ、これも言ってなかったか。常磐翠くんも我々クレイルの一員で第四部隊の所属だ。今日の一時間目に君と君のお友達が迷い込んだ空間は彼女が招いた空間さ。本当はあそこで一応君の実力を見て勧誘するつもりだったんだが、少々トラブルが起きてね。君も見ただろ?あの君のお友達の過去へのトラウマや、後悔、自己否定の権化を。あれはそいつが関わっているせいで生まれてしまったんだ」
「マジか……それで、そのヤバい奴ってどんなやつなんだ?」
思ったよかヤバそうだな。
「それがね、我々でもよくわかっていないんだよ。情報が少なすぎるし、顕現する頻度も不定期で普通のモノノケではありえないことが起きまくっててね。まぁ、少ない情報で推理すると、おそらく人間の記憶を読むとかかな~?けど、名前は一応つけているよ」
「どんな名前なんだ?」
空蹴は一瞬黙ってから唾を飲み込み口を開いた。
「骸の声」
「骸の声……なんか、お前のコードネームよりカッコ良さそうだな。ドクロとか似合いそう」
「そんなぁ、黒兎もかっこいいじゃん」
「さっき、抵抗できるものとか視えるものを勧誘するって言ってたけど、そうなると僕だけじゃなく、千弘とか美玲とかも勧誘するつもりなのか?」
「美玲って子は良くわかんないけど、うん。そうだね。その千弘って子は勧誘するつもりだよ。見た感じ結構潜在能力は高そうだし」
そういや、佐倉先輩は短期間モノノケに付きまとわれて視えるようになったけど、あいつは一瞬で視えたからな。確かに良いかもしれんな。
「そういうことだから、一緒にクレイルのところまで来てくれますか?」
空蹴が真剣な顔になりこちらへ問いかけてくる。
「ふッ……めんどいしヤダ」




