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第二十五話:体罰はNG

ゴロゴロ…と、外の大雨と雷が、まるで世界が終わるかのように鳴り響く。しかし、神白塁と空蹴将仁のいる教室の中は、その轟音とは対照的に、奇妙な静寂に包まれていた。窓を叩きつける雨粒の音も、遠い世界の出来事のようだ。

塁はラノベをしまい、カバンを足元に置くと、跋虎ばっこを創り出し、構える。


「さあ、始めましょうか」


空蹴がにやりと笑った、その瞬間。


ゴロゴロ…ドォォン!!


教室のすぐ近くに、大きな雷が落ちた。その音と同時に、二人は同時に動いた。

空蹴の姿が、一瞬でかき消える。いや、消えたのではない。視認できないほどの高速で移動したのだ。床、壁、天井を蹴りながら、縦横無尽に教室を飛び回り、塁に迫ってくる。


「ッ!」


その速度に、塁は一瞬対応が遅れる。避けきれずに背中と肩に鋭い衝撃を受け、体勢を崩した。


(こいつの異能はなんだ?単純な高速移動か?)


塁がそう考えていると、空蹴が塁の目の前でピタリと止まり、にこやかに言った。


「僕の異能を教えてあげますよ。僕の異能は『空蹴り』。空を蹴ることができる、ただそれだけです。一度地面に足を付ければ回数はリセットされますが、回数にして十回。空を蹴るのと自由落下を組み合わせ、霊力を使った身体能力の増強を利用しなくてもスピードを出せるんですよ。こんな風にね!」


そう言い放つと、空蹴は再び猛スピードで塁の背後へ回り込み、鋭いキックを繰り出そうとした。

しかし、塁はその攻撃を左手でいなし、右手で空蹴の脇腹にチョップを加えた。

空蹴は「ぐっ…!」と呻き声を上げ、教室の端まで吹き飛ばされた。彼は脇腹を抱えながら塁を見た。その顔に浮かぶのは、驚愕の色だ。


「な、なぜ……?」


「目が慣れた」


塁はそう言って、指の関節をポキポキと鳴らした。その音は、雷鳴に負けず教室に響き渡る。


「ハハッ、もう慣れられてしまいましたか……では…」


空蹴は不敵な笑みを浮かべ、立ち上がった。その瞬間、塁の腹部に強い衝撃が走る。


「ッ!?」


塁はそのまま勢いよく吹き飛ばされ、背中から黒板に叩きつけられた。木製の黒板の縁が大きくへこみ、チョークの粉と木くずがパラパラと舞い落ちる。


(何が起こった?何をされた?今までの奴とはスピードが段違いだ。流石に慣れるのには時間がかかる)


塁は咳き込みながら、ゆっくりと立ち上がる。


「へぇ、素の防御力も高いんですねぇ…本当に人間ですか?普通の人なら肋骨の1本か2本折れてるんですけどね」


空蹴は机の上に立ち、顎に手を当てて塁を見下ろしている。

塁は立ち上がって、ホコリを払いながら「何をした?」と尋ねた。


「ああ、そういえば説明してませんでしたね。僕の『空蹴り』は重ねることができるんですよ。その分回数が一気に削られますけど、通常の蹴りよりスピードが出るんですよ。いまのは陸式(ろくしき)…つまり六回分です」


そう言って、片手をポケットに突っ込みながら答える。


塁は周囲を見渡した。やはり、この狭い教室の中では空蹴のほうが圧倒的に有利だ。まずはそれをどうにかしないと。


「そんな簡単に自分の手の内さらすとか…馬鹿かよ!」


塁は空蹴の方へと猛ダッシュし、跋虎をまとった右腕で思い切りパンチを繰り出すが、空を切る。空蹴は軽々と塁の攻撃をかわした。


「ハンデですよハンデ」


そう言って空蹴は塁を煽る。しかし、塁は後ろを確認することなく、ピンポイントで空蹴のいた場所へと手を伸ばした。


「カゲロウ、流せ」


塁の手から、赤黒く光る雷が放たれ、空蹴にぶち当たる。


「予備動作なしにっ!?」


空蹴は咄嗟に霊力を纏った腕でガードした。ガードはしたものの、少し吹き飛ばされ、倒れることなく着地する。


「少し痺れますが、イザベラにぶつけたときより弱くないですか?直接触らないと意味ないとか?」


空蹴は意外と余裕そうに言い、痺れた手を振りながら立ち上がった。


(やっぱ出力落ちてんなーもう少しモノノケ喰わせておけば良かった)


「ハンデありながら喰らってんじゃねぇか」


「…ハハッ、減らず口ですねぇ」


その瞬間、空蹴はまたも塁の視界から消えた。

塁は勘で顔の前に手をやり、とてつもない勢いで突っ込んできた空蹴の蹴りを防ぐ。


「じゃあ、その口開かなくしてあげますよ!」


空蹴の蹴りの衝撃で、教室の窓ガラスが粉々に砕け散り、塁はそのまま雨が降る外に投げ出される。

塁は綺麗に着地し、空蹴も地面に当たる寸前で空を蹴り、トンッと音を立てて着地した。


「濡れるんで早めに終わらせましょうか…フルパワーで」


地面に着地した空蹴は、余裕そうな顔で言う。


(正直、六回分であの速度だから、十回分のフルパワーで来られたら絶対に視えない。つまり、この勝負…僕の勘で決まる…!)


塁は深呼吸をし、集中する。そして、空蹴が消えた瞬間、思い切り拳を振りかざした。その拳は、ジャストで空蹴の顔に向かっていた。


(当たる!)


そう思ったその時、空蹴は空を蹴り、後ろへ下がった。


「ハハッ、拾式(じゅうしき)だと思いましたか?残念、玖式(きゅうしき)ですよ」


空蹴は嘲笑う。塁の拳はまたも空を切り、地面を砕く。


「この勝負、僕の勝ちですね」


空蹴がそう言い、塁へ目掛けて足を振り下ろす。

しかし、それを聞いた塁は、口元を歪ませて不敵に笑う。


「僕の勝ち?そりゃ死亡フラグだぜ?」


空蹴が「ッ!?」と反応した瞬間、塁は叫んだ。


「カゲロウ!流せ!!」


塁の足元から、赤黒い(いかづち)が地面を伝って空蹴へと流れる。同時に、その雷に反応するかのように、上空の雲から本物の雷が轟音を立てて落ち、空蹴に直撃した。


ドゴオォォォン!!!


塁は雷を流す直前に、カゲロウで体を守り、無事であった。雷に打たれた空蹴は、白目をむいて気絶し、地面に倒れた。


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