第二十五話:触らぬ氷室に祟りなし
あれから数日が経ち、ついに来てしまった。
僕にクレイルの勧誘が来た。
といっても、勧誘に来たのは氷室先輩である。
クレイルの隊員兼、僕の味方という内通者のような状態の氷室先輩が僕の勧誘を名乗り出たそうだ。
「本当に良いのか?別にお前らが入ることないだろ」
「前にも言った通り、吾輩の執念はカッコイイところがあれば後先考えずに行くべしなのですよ」
「僕もまたあんな事があったら皆を守れるようになりたいから」
中鳶と千弘は何事もないように返す。
これからの予定を軽く話そうか。
これから僕と中鳶、千弘、美玲はクレイルの本部へと向かう事になっている。
クレイルの本部に着いたら、そこで入隊の試験を行うそうだ。
ちなみに美玲は僕より先にクレイルに行ったらしいが、まだ試験は行っていないらしい。
僕達と込みで行うそうだ。
そして今は待ち合わせの校門前まで三人で向かっている途中である。
「お、塁くーん。こっちだぜー」
ちょうどそろそろ校門が見えてきたところで校門前に立っている美玲がこっちに手を振りながら大声で僕を呼ぶ。
その隣には氷室先輩も居た。
「中鳶っちも居るやん。レバニラ!!」
「れんこんきんぴら!!」
「「うぃ~」」
美玲と中鳶はお互い謎のノリをして挨拶?をする。
「お疲れーっす」
それを無視して僕は氷室先輩に挨拶をする。
「うん、時間通りね。ごめんね、そろそろ車が来る頃なんだけど……あら?そっちの子が新しい子?」
氷室先輩はスマホで時間を確認した後、僕の後ろに隠れている千弘を見る。
それと美玲とバルタン星人ごっこ押している中鳶も。
「っすね。ほら千弘。大丈夫、この前説明した氷室先輩だぞ」
「はじめまして…千弘…です………」
千弘は少し怯えた様子で氷室先輩に自己紹介をする。
「あ、はい。はじめまして。私は氷室鏡花です。………どうしたの?」
「悪い人じゃない……?」
千弘は未だに僕の後ろに隠れながら氷室先輩によくわからない質問をする。
「悪い人?……別に悪い人じゃないけど……」
「……よ、良かったぁ……。塁くんの話だと極悪非道の悪女みたいな人だったから、ちょっと怖くて…あ、すみません。誤解してしまって」
「塁くん?」
千弘が安心したように僕が前に説明した氷室先輩の特徴を漏らす。
すると氷室先輩がとてつもない形相で僕を睨む。
「千弘!なんてこと言うんだ!氷室先輩は眉目秀麗、才色兼備、文武両道の超絶プリティ完璧超人だろ!!どーこで間違えちゃったかなぁーー!!!!」
僕は大げさな反応で千弘の背を押してその場を去ろうとする。
「ちょっと」
それを阻止する氷室先輩。
「いや、ほんとに違うんすよ。ガチ。ガチで。これは…その、アレですよ。…本当に!本当に違うんです!メ…メタファー!!!」
この後のことは聞かないでくれ。
◇
学校のすぐ近くから車のエンジン音が聞こえてきた。
キキ―ッ
校門前にその車は止まり、中から男が出てくる。
以前、美玲と相対した男、空蹴将仁である。
狐のような糸目の上に大きな丸メガネを掛け、耳には大量のピアスがつけられている。
左サイドを刈り上げ、残った髪を右に流している姿は正にインテリヤクザといった風な容姿だ。
「あ、美玲ちゃん…と、君は?」
車から出て、校門前で塩昆布長を食べながら待っていた美玲に空蹴は話しかける。
そしてそのすぐ後に美玲の横にいる中鳶に目線を向ける。
「おーカっちゃんじゃん。元気?」
「あ、はい元気です。それで、こちらの方は?もしかして今日試験を受ける方ですか?」
「そそ。中鳶っち。と、千弘っち。本名なんだっけ?」
「檐!中鳶檐!なんで忘れてるのですか!?」
「僕は東雲千弘…です」
「そうそれ」
空蹴は少し呆れたように「は、ハハ…」と作り笑いをして、周囲を見渡す。
「あれ、鏡花ちゃんはまだいないんですか?」
「ううん、さっきまで居たよ」
「さっきまで?」
「うん、さっき暴れる累くんの首根っこ掴んで校舎裏まで連れてったの。そのあとなんか鈍い音聞こえたけど、多分大丈夫」
それは大丈夫なのか?
と空蹴は出かかった言葉を飲み込む。
「あ、空蹴さん。すみません、待たせちゃいましたか?」
すると、先程美玲が指さした校舎裏から氷室先輩が出てくる。
「あぁいえいえ、大丈夫ですよ。今来たとこ―――ッ!!」
氷室先輩が出てきたと思ったら、隣に顔面ボコボコの男が一人並んで出てくる。
「えっと…鏡花ちゃん?その人は…ていうか、人?」
「ああ、すみません。おら、挨拶しろ」
氷室先輩は肘でそのボコボコの男を殴る。
「あぁ…はい。神白累です……お願いします…」
「は、はぁ…えっと、空蹴将仁です…」
一体何があったのか、とても気になるが、聞いてはいけないと空蹴の本能が言っている。
「じゃ、じゃあ皆さん揃っているようなので、車にどうぞ……」




