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第二十四話:厨二病患者

放課後の教室で、僕はいつものように一人でライトノベルを読んでいた。窓の外は夕暮れ時のはずなのに、降り注ぐ光はどこにもない。雷が轟き、大粒の雨が窓ガラスを叩きつけ、荒れ狂う風がヒューヒューと不気味な音を立てていた。午前中はただの曇り空だったのに、いつの間にかこんな有様だ。

傘は持ってきていない。いつものことだ。めんどくさいし、そもそもカゲロウに傘を作らせれば問題ない。ただ、一般人の目にはカゲロウが見えないから、僕だけが雨に濡れないという「無下限呪術」状態になってしまう。それもまた面倒なので、別に焦ることはない。読書を終えて、いつものように帰るだけ。今日もいつもと同じはずだった。

しかし、今日は少し違っていた。

誰もいないはずの廊下から、足音が聞こえてくる。規則正しく、僕のいる教室へと向かってくる音。この辺りは運動部の練習場からも遠いから、誰も近づかないはずだ。灰田の野郎もとっくに帰っただろうに、一体誰だ?

最初はただ近くに来たか、誰かが忘れ物をしただけだろうと思った。しかし、ドアを開けられてその考えは消えた。


「あ、いましたいました」


中に入ってきた男は、本当に教師かと疑うほどに奇抜な見た目をしていた。大きな丸メガネの下にある狐のような糸目、耳につけた十字架のピアス。そして、とんでもなくいかつい髪型。なんと言えばいいのかわからないが、ツーブロックLv.100って感じだ。頭頂部ほどまで刈り上げていて、反対側は頬の近くまで伸ばしている。身長は僕と同じくらいか。そして、その見覚えのない男は僕の方へと近づいてくる。

なになに、怖いんだけど。

困惑していると、その男は僕の前の席に逆向きに座り話しかけてきた。


「何読んでいるんですか?」


「えっと…本ですね」


「何の本です?」


「紙です」


「原材料くらいはわかりますよ。何という本を読んでいるんですか?」


何この人。すげー話しかけてくるじゃん。近くで見るとエゲチィ見た目してんな。


「えっと…『貧乳はステータスなんだよ?』という本を…」


「やっぱいいです」


「あ、はい」


何だこいつ、巨乳派かよ。


「確か君、神白塁くんでしたっけ?」


「ええ、まぁそうですけど…」


僕の名前を知っている?まあ普通か。見たとこ見た目エグいけど、教員の格好はしてるしな。見た目エグいけど。


「いやー良かったですよ。違う人と知らずに話してては混乱させてしまってたかもしれませんしね」


いや、もうすでに混乱してますけどね。


「僕になにか用ですか?」


「ああ、失礼。僕の名前は空蹴将仁からけりまさひとと言って、一応数学を担当しています。以後お見知りおきを」


「はぁ」


空蹴はにこやかに笑い、突然真面目な顔になった。


「単刀直入に聞きますけど、昨日、廃教会で何か見ませんでしたか?」


その言葉に、僕は思わずラノベを握る手に力が入る。それとともに冷や汗どころか脂汗まで出てくる。


「…ナ、ナンノコトデスカネ?」


「とぼけなくて結構ですよ。あの教会が放火された件…いや、正確にはイザベラ・ヴァンクールについてですね。そして、それにあれは貴方が関係している」


空蹴の狐のような糸目が、僕をじっと見つめる。すべてお見通しだ、と言わんばかりの視線に、僕は身構える。


「その様子だと、やはり貴方で間違いないようですね。あの吸血鬼ヴァンプとやり合ったのは。いやーあそこ暗くて見づらかったから良かったです。貴方で」


「な、なんでそれを…」


僕が思わず声を漏らすと、空蹴は満足げに頷いた。


「やはり。となると、貴方は我々と同業者、ということになりますね」


「同業者…?」


僕がそう聞き返すと、空蹴は丸メガネを指先でクイッと押し上げた。


「では聞きましょう。貴方は何者ですか?」


その時、外で雷が鳴り響いた。轟音とともに、教室の窓がガタガタと震える。


「僕はただの高校生ですけど…」


「だからとぼけなくて結構ですって」


「ていうか、あんたこそ何者なんだよ。協会のこととか、イザベラのこととか、明らかに普通の数学教師が知ってることじゃないだろ」


空蹴は僕を試すような視線を向けてくる。


「まあ、いいでしょう。では、教えてあげます。といっても聞けば誰でもわかると思いますがね」


空蹴は自信満々に、しかしどこか茶目っ気のある口調で言った。


「『黒兎』……そういえば、わかりますかね?」


僕は首を横に振った。


「黒兎?なんやそれ」


「え?いや、知らないことはないでしょう。黒兎ですよ黒兎。僕のコードネームですよ」


空蹴は少し焦ったように言葉を継いだ。


(あ、なんだ、ただの厨二病か)


「はいはい、かっこいいね」


なるほどね~多分こいつは偶然僕を見かけてただけなんだろうな。それで秘密結社ごっこでもしたくなったんだろうな。


「いや、かっこいいねとか求めてないんですけどね。本当に知りませんか?『クレイル』の黒兎ですよ?」


「クレイル~?何だよそりゃ」


「クレイルは僕が所属している異能力者集団組織で……」


このタイミングで僕は立ち上がり、空蹴に近づき、肩に手を置いた。


「へ?」


そして、無言の笑みで親指を立て、グッドポーズをして、ラノベを鞄の中にしまう。

そして、カバンを肩に背負い、もう一度空蹴に親指を立て、グッドポーズをする。

そして、ドアの方へと向かう。


「ちょっと、待ってください。なぜ僕が厨二病患者のような扱いをされてるんですか?」


「え?違うの?」


「違いまくってますね」


引きつった精一杯の笑顔を出す自称一般男性。


「じゃあ、その、何だっけ?クレイル?黒兎?様の力を見せてくださいよ。邪王真眼とか見せてみてくださいよぉ」


仏頂面の一般厨二病患者は呟いた。


「じゃあ、見せてあげますよ」


その瞬間、僕の目の前から空蹴が消えた。


「ッ!?」


そして、それと同時に背中に衝撃が走る。僕は瞬時に受け身を取り、吹き飛ばされた衝撃を利用して背中で地面をたたき、着地する。なんだ。何をされた。


「いい加減…面倒になってきました。大人の怖さってのを…わからせてあげますよ」


「カゲロウ、準備しとけ。体罰系厨二病患者先生に教育の時間だ」


その言葉を聞いた空蹴は、引きつった笑顔のまま顔に血管を浮かばせながらこう言った。


「だっから厨二病じゃねぇっつってんだろ……!」

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