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異反者  作者: 二代目とくとくかい
第一部:慚愧服膺篇
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第二十三話:可愛い子が泣いてるのは萌える


千弘は顔を上げ、目に涙を浮かべながら、話し続けた。


「その一件があってから……皆、おかしくなって……僕が悠くんを殴って怪我させたとか……悠くんを脅してお金をせびったとか……」


(いじめ……か)


「でもね、それが怖くて…ずっとまた皆と仲良く出来るように頑張って……。誰からも嫌われないように、常に笑顔で、常に優しく、常に周りを気遣う……そんな『良い子』の千弘(ぼく)を……」


その話を聞いた塁は、(もしかしたらそれが関係してるのかもなー)と考えた。

千弘が創り出した「偽物の自分」、そして「抑圧された本当の自分」が、この空間の核になっているのではないか。


「話はわかった。解決策はある。多分だけど、この空間の本体は、お前の『もう一人の自分』だ」


塁はカゲロウが戦う奥の闇を指差した。


「とりあえず、少年(あいつ)に話しかけよう。それが、この状況を終わらせる唯一の方法だと思う」


怖がりながらも、千弘は塁の提案を拒否しなかった。

彼にはもう、逃げ場がないことを知っていた。


「……うん」


カゲロウが少女たちを一掃する一瞬の隙を突き、二人は少年の下へとたどり着く。

千弘が勇気を振り絞り、その少年に話しかける。


「ねぇ……君は…僕…なの?」


その問いかけに、少年は膝からゆっくりと顔を上げた。

その少年は、まるで少女のように整った顔立ちで、千弘そっくりであった。

しかし、その顔にはあるはずの眼が無く、眼窩からは黒い液体が涙のように流れ出ていた。

それは、千弘が押し込めてきた絶望と孤独そのものの色だった。

千弘はその少年に、とめどなく涙を流しながら、今まで自分が皆に嫌われないために本当の自分を隠してしまったこと、偽りの仮面を被って生きてきたことを話し始めた。


「ごめんね……君を、一人ぼっちにして……僕が怖かったから、君をずっと閉じ込めていたんだ……」


千弘は、自身のトラウマを具現化した存在に対して、初めて正直な気持ちをぶつけていた。

塁は、その様子を、黒夜叉のすぐ横で、少し離れたところから静かに視ていた。

千弘は嗚咽を漏らしながら、眼球のない少年と目を合わせるように顔を上げる。


「あの時、悠くんに襲われて、怖くて逃げたのは僕自身だ。でも、本当に怖かったのは、その後の周りの目だったんだ。誰も信じてくれなくて、みんなが僕から離れていくのが。だから、僕は君を置いてきた。みんなに嫌われないように、『そんなことはなかった』って嘘をつく、別の僕になった」


涙で声が震える。


「君は、僕が蓋をした孤独と本当の痛みだよね。この暗闇で、ずっと『見てほしい』って叫んでたんだ……僕が君の存在を否定するたびに、君はここで、僕が受けた苦しみを代わりに全部引き受けて、苦しんでいたんだね」


(あーヤバい、なんかちょっともらい泣きしそうー)


塁は少し涙ぐんで目元を手で抑える。


「もう、やめよう。君は、僕が最も嫌われたくなくて捨てた、僕自身なんだ。僕の汚い部分も、脆い部分も、全部君が持っていてくれた。一人じゃないよ。もう誰も、君を傷つけられない」


そして千弘は、心からの言葉を紡いだ。


「もう、大丈夫だよ。絶対に……一人にしないから……!」


千弘が心からの言葉を紡いだ、その瞬間だった。

千弘そっくりの少年が、眼球のないまぶたを大きく見開き、その細い手を手刀のように鋭く変形させて、千弘へ向かって放った。


「へ…?」


「ッ!!!」


それと同時に、塁も反応し、地面を蹴って走り出す。


ザシュ!!


少年の手刀が千弘を襲おうとした瞬間、その手刀は千弘の顔のすぐ横をかすめ、千弘の背後のモノを貫いた。


「オ…レノ…千弘……」


千弘の背後に居たモノとは、渡り廊下で塁が殴り飛ばした『悠くん』という名の亡霊の残骸。

少年は、千弘を襲おうとしたのではない。

彼の背後から、千弘を捕らえようとしていた自身のトラウマから千弘を守ろうとしていたのだ。

それを知った千弘は、嗚咽を漏らしながら、眼窩から黒い涙を流す少年を強く抱きしめた。


「また……助けられちゃったね……。じゃあ今度は僕が君を守る番だ……!」


千弘の心からの言葉が少年に届いた瞬間、二人がいる場所を中心に同心円状に明るい、優しい光が広がっていった。その光は、音もなく体育館全体を包み込む。

その光は、蔓の手や少女型のモノノケを浄化するように消していき、やがて視界のすべてを奪うほどの眩い光となって、闇を支配する空間を塗り替えた。


    ◇


 目が覚めると、そこは知らない天井だった。

雪国じゃないよ。

トンネルもなかったし。

見知らぬ白い天井、清潔感があり、綺麗に見えるが所々にシミがある。

だが、それも良いじゃないか。


「あれ…どこだここ……」


寝ぼけ眼で周囲を見渡しながら身体を起こす。

僕はベッドの上で寝ていたようで、ベッドの周りには軽い仕切としてカーテンが掛けられていた。

カーテンの隙間から窓が見える。

その窓は夕日に照らされ、紅く輝いていた。

どうやらここは保健室のようだ。

多分。


「んん…塁くん?」


すると隣のカーテンの奥から聞き覚えのある声がする。

僕はそのカーテンに手を伸ばし、ガラリと開ける。


「お、千弘か」


その先に居たのは目をこすって僕を見る千弘。

その眼は少し赤くなっていて、顔には少し涙も残っている。


「ここは…?さっきまでのって……」


「多分だけど…戻ってこれたってことなんじゃないのかな……」


「戻れた………」


場所が少々違和感あるけど。


「ぬは!誰は私?何処はここ?」


僕と千弘が安堵の息を漏らした瞬間、千弘が居た場所の反対側のカーテンの奥からまたも聞き覚えのある声とセリフが聞こえた。

面倒だからツッコまない。

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