第二十二話:打首獄門責め
教室に戻るとクラスメイトからの視線が一斉に僕へと向く。
なんだどうした。
顔にうんこでもついてんのか?汚物扱いはこの前でお腹いっぱいだぞ。
よくわからんから、とりあえず自分の席へと戻る。
僕の席の隣には珍しく何も食べていない美玲が深刻そうな顔をして座っていた。
なんか怖いな。
後ろを振り向いてこちらを見る素振りすら見せず、ただじっと険しい顔立ちをしているだけだ。
「塁くん、お話があります」
「え、あ…はい」
敬語?
恐怖と警戒がレベルアップした。
「一時間目に体育がありましたよね?」
「はい」
ああ、心配してくれてるのかな。ふっふーこいつも良いところが有るじゃないか。
傷はそんなでもないし、もう大丈夫だぜ。
僕はもうなんともない。完全復活パーフェクト神白様だぜ!
「率直に聞きます……ヤッたね?」
ヤッた?
なんのことだ?
「えっと…ごめん、わかんない」
「隠すとは…すぐに罪を認めれば許してやろうと思ったが……」
「さっきからなんのことだよ」
話の脈絡が読めない。
一時間目の体育のことを言ってるのかな。僕と千弘が気絶して……特二何もなかったような気がするけど。
ヤッたってなんだ?殺った?
「なんのことかわかんないから一からちゃんと説明してくれよ」
「はぁ…全くこれだから……」
やれやれ的なことを言いながらため息を付く美玲。
こいつめんどくせぇな。勿体ぶらずに言えよ。
「一時間目終わってさ、塁くんなかなか戻ってこなかったじゃん?だから変だなーって思ってたら、野球部の防球ネットの裏で気絶して立って話じゃん!それも女の子と!!」
「女の子?」
一緒に気絶って話だから千弘のことか?
多分だけど、美玲は千弘のことを女子と勘違いしているのだろう。観察眼が雑魚いな。
まぁでも、あいつ首から上は女みたいなもんだからな。
「あれでしょーテクノブレイクってやつでしょー」
「そんな言葉どこで覚えたぁー!」
「その挙げ句に保健室から一緒に出て、トイレにも一緒に入ってったって言ってたし!」
「噂広まるの早すぎんだろ。それに誰だよ言ってたの」
「中鳶っちだよ」
あいつかよ。
窓際の席を睨みつけると、そこには冷や汗を掻きながら外を眺める中鳶の姿があった。
言ってなかったが、あいつはこのクラスの二人目の男友達、中鳶檐。僕のオタク友達である。アニメ、漫画、ラノベ、ゲーム、Vチューバー、ETC。と明らかにヲタクな趣味を持った野郎だ。
きっかけは僕がやってるソシャゲの猛者だったからである。
見た目はTheオタク。少し小太り、アフロヘアー、メガネ、たらこ唇、汗っかきと、色々と要素ぶち込みまくったような野郎だ。
ちなみに一人称は吾輩。語尾は「ですなー」が多い。
「きょ、今日はいい天気ですなー」
「今日、曇りだぞ」
「お、落ち着カミロ氏!まさか洗脳を受けているのでは!?」
こいつはなぜか僕のことをカミロ氏と読んでくる。多分「神白」をいじってるんだろうけど、普通に呼べって感じだ。まぁ悪い気分じゃない。
「それにーそもそも女子と一緒にいたカミロ氏も悪いと思いますぞ。我々の中に女子はいりませんぞ!」
開き直りやがったこいつ。
「言っとくけど、あいつ男だよ」
「いやいやそれは見苦しいですぞ。素直に罪を認めて豚箱にぶち込まれることをおすすめしますぞ」
メガネを光らせながら言ってくる中鳶。
それに合わせて美玲も近づいて来る。
「そうだよ塁くん。今なら打首獄門くらいで許してあげるからさ?」
肩にぽんと手を乗せて言ってくる美玲。
「死ぬじゃん僕」
「人間そう簡単に死にませんぞ」
「いや打首獄門は普通に死ぬ案件だわ。挙句の果てにはその醜態を見せしめにされるし」
「醜態なら入学式のときにさらしてたじゃん。私は仕方ないけど、塁くんはただの方向音痴なだけだし」
「お前それいつまで擦るんだよ」
「擦るのは御子息だけにしとっけてか?」
と中鳶。
「「ギャハハハハハ」」
二人の笑い声が響く。
「何笑ってんの」
「え、こわ」
急に真顔になる美玲。目にハイライトがない。どうやってんだろそれ。気になるよね~。
「じゃあ、生首はどこに設置するかなー」
「普通に校門にぶち立てとけば良いのでは?」
「え、待って。僕、打首獄門確定なの!?」
「何いってんの当たり前じゃん。おーい中鳶っち、剣道部から刀貰ってきてー!」
美玲がそう言うと中鳶は敬礼しながら廊下へ飛んでいった。
なんで剣道部に真刀あんだよ…。
「あいあいさー!」
「さぁて、何から聞こうか…」
美玲が指をぽきぽきと鳴らしながら凄い目つきで僕の方に近づいてくる。
まずい。このままでは質問攻めと打首獄門攻めに遭ってしまう。
「逃げる!!!」
「あ!待て―!!!」
すんげぇ怒号が聞こえたが僕は無視して、今の僕に出せる最高速度で廊下を駆け抜ける。




