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第二十一話:性癖ブレイカー

 目が覚めると、そこは知らない天井だった。

見知らぬ白い天井、清潔感があり、綺麗に見えるが所々にシミがある。

だが、それも良いじゃないか。


「あ、起きた。おはよう塁くん」


目を覚ますと横に女神が居た。


「おはようございます。髪切った?」


「えっと…き、切ってねぇよ!だっけ?」


「…………」


可愛いから良し。

僕は寝ぼけ眼を擦りながら上半身を起こす。


「ここどこだ?つか、今何時だ?」


周りを見回すと、僕はベッドの上に居た。

淡いピンク色のカーテンに囲まれ、純白の毛布に包まれた下半身を見る。

あくびをしながら伸びをするとと頭に少し痛みが走る。


「ってて……」


するとカーテンの奥に人影が移る。


「まだ動かないほうがいいわよ。結構強く打ったからね」


目に入ってきた女性はセミロングの黒髪は清潔感があり、切れ長で涼しげな目元を持つ和風の美しさ。白衣の下の服装は淡いグリーンなどの自然な色合いが多く、すらりとした長身で優美な曲線を持つ。彼女からは、常に穏やかな癒やしのオーラが放たれている。


「えっと……」


僕はその女性が保健室の先生であることは察せたが、名前が分からず、胸元にある首からかけられた名札を見る。


「いやぁ~ん」


それを見てその人はわざとらしく身体をくねらせながら胸元を隠す。

隠されてしまったが、確認することはできた。

常磐翠(ときわみどり)。それがこの人の名前だ。


「強く打ったって?」


「あら、可愛げないわね。まぁ良いわ。あなた達二人は体育の授業中、野球部の防球ネットの裏で頭を強打して気絶した。それを見つけた生徒たちが私を呼んできたの。そのあとカクカクシカジカして今に至るというわけよ」


「なるほど、そのカクカクシカジカがちょっときになるけど。とりあえずありがとうございます」


「いいわ。私も良いもの見せてもらったから」


「イイモノ?」


「ええ、イイモノよ」


常磐先生は目を細め、静かに笑う。

その笑顔を見ると、何故かまぶたが重くなり、眠気も凄く増してくる。


「まだ起きるには早いから…もう少しおねんねしていなさい」


最後に常盤先生が言い放った言葉を聞く暇もなく、僕は眠りについた。

あと、千弘も。


       ◇


「いやぁ~。イ・イ・モ・ノ見せてもらったわぁん」


私の名は常磐翠。

察しが良い人はもう気づいているかもしれないけれど、あの空間に二人を閉じ込めたのは私。

とある事情で彼、神白塁くんの能力を視なくちゃいけなかったんだけれど………予想外にイイモノが見れたわ。

イイモノっていうのは2つね。

1つ目は彼だけじゃなく、もう一人の東雲千弘くんって子も異能力者だということが見れたこと。

もう一つは神白くんと東雲くんの抱き合う姿が見れたこと!!!!!

あれは良いカップリングよ。

絶対に結びつけなくちゃいけないわ。

あの触手に絡まれた東雲くんの恥ずかしそうな表情。

それを助けた後に抱き合う二人の、男同士だがどこか相手を意識してしまうという今まで感じたことのない様な感覚が自分たちを襲う表情。


「あぁ…思い出しただけでよだれが……」


おっと、いけないいけない。

けど、良いことだけじゃ…ないのよね。

前提として、私は彼らに敵意はない。

そもそも高校生を危険な目に合わせるなんて絶対にあってはならないこと。

けれど、その危険なことが実際に起ってしまった。

そう。

あの悠くんとか言う存在や、少女達、そして彼にそっくりな少年。

あれらは私が放った蔓人形ではない。

ああ、そういえば言ってなかったわね。

私の異能は『蔓触(ばんしょく)』。蔓を生み出してそれを自由に操る事ができるって感じよ。

それで彼らを視ていたし、彼らが気絶したのも私がその蔓を使ってちょっとオネンネしてもらう薬を放出したからよ。

あの空間は簡単な結界術。陣さんはあんまり頼りにならないけど、こういうときには役立つのよね。

まぁそんなのどうでもいいのよ。

問題は、その私の蔓の制御を何者かが妨害して、権限を奪ったということ。

本当は蔓で作った人形の人形を向かわせて少し強さを見ようとしただけだったけど、あそこまでの強さは持たせていない。

それにあの体育館の空間と、彼そっくりな少年。

やっぱり、隊長が言ってたのもう少し早めてもらった方が良さそうね。


「骸の声…ね」


   ◇


「むにゃ?」


僕は再び目を覚ました。

なーんか眠くなって寝ちった。

横を見るとすやすやと寝息を立てて寝てる千弘の姿。

僕はその姿を見て伸ばす手を必死に制止する。


「うおおぉぉ!!抑えろ僕!相手は男だぞぉ!!」


さて。

僕はスッキリした目で周りを見る。

常磐先生は…いないな。

僕達が寝ている間に何処かに行ったのだろう。

まぁそれは良いとして、今何時だ?

僕は掛け布団を剥がし、近くにおいてあった上履きを履き、立ち上がって保健室の中を探る。


「お、あった…。って、もうお昼じゃん」


時計を見つけ見ると、分針が12を向いていた。


「むにゃ…」


すると、隣で寝ていた千弘が目を覚ます。


「おはぁよ、塁くん」


千弘は欠伸をしながら身体を起こす。


「おう、おはよう。大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


その顔にはどこか迷いがなくなったような清々しい雰囲気が漂っていた。

そこで僕の脳内に一つの考えが浮かぶ。


(待てよ。もしかしたらあの夢は僕が勝手に見ていた夢で、千弘はただただ気絶してただけなのかも?)


そう考えてしまい、僕は恐る恐る千弘へ問う。


「えっと…なんか、夢とか……見た?」


「え?もしかしてあの夢って僕が勝手に見てただけ!?だとしたらちょっと恥ずかしいな……」


「あ、あの夢って……?」


「えっと、恥ずかしいけど……累くんと二人で学校に閉じ込められる夢…」


よし、僕だけじゃなかった。

しっかりと共有してたみたいだ。


「いやー良かった良かった。僕だけが見てた夢で「あれ、ヤバかったよな―」とか言ったら気まずかったぜ」


「へへ、でも僕はそんな累くんも面白くて好きだよ」


おい、勃起するからやめろ。

僕は少し前かがみになりながらベッドに座る。


「あれは結局、お前のトラウマ?っていうのかな。それが引き起こした現象だったのかな?」


「僕もよくわかんないけど、そういうことじゃない?」


まぁ分からなくて当然か。


「累くんはああいうの知ってそうだったけど、心当たりとかあるの?」


「あーえっと…まぁまぁ?」


僕は一瞬どう答えて良いのか分からず、言葉が詰まる。

それを見た千弘は「そっか…」と下を向く。

その様子を見て僕はため息をつき、話し出す。


「でも千弘の話、分かるかもな。僕も小学校の頃にちょっといじめられてたから」


「え!?累くんも?」


僕は昔のことを思い出す。


「ああ、まぁなんて言ったら良いかわかんないけど、僕昔からああいうキモいのが視えてたわけ。それ関係で除け者にされたり、馬鹿にされたりがあったな」


これは事実である。

小学生はまだ事の善し悪しを区別できない。

故に自身が正しいと思いこんでしまったら、間違ったことでも進んでやってしまう。

”自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪”というのはあってるのかもしれないな。


「それで、どうしたの……?」


少し言葉をつまらせながら聞く千弘。


「いじめてきた奴、全員病院送りにした」


「えぇ……」


ヤベ、ちょっと引かれたかも。

止めて!やっと会えたまともキャラなの!行かないで!


「まぁでも、累くんが話したくないって言うならそれで良いよ。僕はあまり詮索しないようにするし」


「いや、話したくないってわけじゃないんだけど…」


「うん、じゃあ……」


そう言って千弘は僕に近づき、耳元で囁く。


「じゃあ、話したくなったら話して。ね?」


こいつ!!!

『My son』を確実にwake upさせに来てやがる!!!!

僕はより深く前かがみになる。


キーンコーンカーンコーン!


すると、ちょうど四時間目のチャイムがなる。

学校中から生徒の声が溢れ出す。


「あ、なっちゃったね。じゃあ、僕もう大丈夫だから行くね。またね塁くん!」


そう言って千弘は保健室を後にする。

一人取り残された僕は真剣な顔で考えた。


(このままだと、僕の性癖が壊れる……!!!!)


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