第二話:異能
七支刀は綺麗に蜘蛛男を真っ二つに切り裂いた。
「ア、アア…ア………」
切り裂かれた蜘蛛男は傷口から徐々に黒い灰のようにサラサラと消えていく。
累はその様子を静かに見下していた。
そしてゆっくりと七支刀が累の手の中に吸収されるように戻っていく。
「あ、終わりました。多分。アレが何だったのかはよく分かんないっすけど」
そして何事もなかったかのように振り返って氷室に言う。
「え?あ、ああ…ありがとう?」
氷室はまだ困惑しているのか疑問形の感謝を述べる。
「傷は大丈夫ですか?」
歩み寄って視界を合わせるようにしゃがむ累。
「ええ、まぁそこまで深くはなかったし。毒も蜘蛛男が祓われたからもう消えたわ」
「よし、じゃあ取り敢えず出ましょうか。ここ臭くて」
「そうね、早くこの子を診てあげないと」
そう言って氷室は立ち上がる。
累もそれに合わせて女子生徒を抱き上げる。
そうして入ってきた穴から二人は出た。
「にしても、アレって何なんです?氷室さんはなんか知ってるっぽかったけど…」
「あれはモノノケっていう、巷じゃ幽霊とか妖怪って言われる存在ね」
「すげー。じゃあ僕さっきそれ倒したってこと?霊媒師みたいな?」
かっこいいじゃん。
「まぁそうなるわね。けど今のあなたもどっちかって言うとあっち側に見えるわよ」
氷室さんは横を歩きながら僕のほうを見て笑う。
さっきは暗かったし、急いでたから気にも留めなかったが、この人よく見たらめちゃくちゃ美人じゃん。
モデルとかやってそうな顔してる。
どうしよう、前髪とか整えたほうがいいかな。
「そういや、今の僕って傍目から見てどう見えてるんすか?」
僕がそう言うと氷室さんは「う~ん」と考え込む。
「黒くて不気味な化け物…?」
「うわ、すごい。直で言われると結構傷つく」
「ふふ、まぁ見た目は少し不気味だけど、カッコ良かったわよ」
氷室さんは少し笑ってから早歩きになる。
(ついに来たか、僕のモテ期)
「すまんな、口説いているつもりかもしれんが、タイプじゃないんだ」
「ぶっ殺すわよ」
「すみません」
僕たちは館を出て、すぐ近くにある公園のベンチに気絶している女子生徒を寝かせる。
すると氷室さんはベンチに寝かせた女子生徒の体を調べ始めた。
「うん、特に外傷はないわね。腕のところに針か何かで刺された跡があるけど、おそらくさっきの奴の毒針ね。けどあんたが祓ったからもう大丈夫」
「そりゃ良かったっすわ」
「にしても、なんであんたとかこの子はあんなとこにいたの?常識的にダメだって分かるでしょ?」
「いやー、その…」
「何よ。何か事情でもあったの?」
僕は口ごもってしまう。
「えっと…実は、道に迷ってしまいましてですね……それで、引き返そうとしたら、僕と同じ制服のこの子を見つけたんで道を聞こうとしたら、あそこに入ってっちゃったんで…」
「はぁ…それで入ったって訳ね………。まったく、何から言うべきか…取り合えず!ああいう明らかに危険そうなところには入らない!それと、自分の学校なんだから場所くらい知っておきなさい!」
「スマソ…」
「というか、いつまでその恰好でいる気なのよ」
氷室さんはあきれた様子で腕を組みながら僕に言う。
そう言われてみればと思い、自分の体を見てみる。
「さぁ…ていうか、なんなんですか?この姿」
「私もわからないわよ。そもそもあんた、さっきあの蜘蛛野郎が言ってた通り、全く霊力を感じられないのよね。多分だけど、全くない。それなのに、そんなことできるなんて前代未聞よ」
「その、霊力ってのが何なのかも分からないですけど、ないとできないんですか?こういうの?」
霊丸打てないとか?
「そうね、霊力ってのは基本、生物なら少なからず持っているものよ。霊力があれば、身体能力の強化や五感の効果上昇、肉体の強度上昇、みたいな基本的なことができるわ。あとは、一定の量が必要だけど、さっき説明したモノノケが視えたり、異能を発動するにあたって必要なエネルギーにもなるわね」
「い、異能?伊能忠敬?」
「異能っていうのは人が皆持っている固有の能力みたいなもので、霊力を注ぐことによって発動が可能よ」
「氷室さんも持ってるんすか?」
「ええ、私の異能は―――」
すると、そこのタイミングでベンチに座らせていた女子生徒が動く様子を見せる。
「あ、起きましたよ」
その女子生徒に近づいて覗き込む僕。
「むにゃ、どこは誰?ここは私?」
「なんか色々違うけど。おはようございます」
僕はしゃがみこんで挨拶をする。
すると、その女子生徒は目を擦りながら僕の顔を見る。
「死ねぇ!ボケナスゥ!!」
「ダボゴルァ!!!」
そうしたら、なんということでしょう。
僕の右頬に強烈な一撃がぶち込まれたのである。
「なんだこいつ!私の唐揚げをどこやった!!」
「何言ってんだてめぇ!つーかクソ痛ぇ!!」
なぜか殴られた右頬がシュウシュウと煙を上げながら蒸発しかかっている。
すると、その一連を見ていた氷室さんが驚いたような様子を見せた。
「噓…異能を発動している…」




