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第十六話:バケモン

 塁は急いで家に帰り、姉さんにバレること無く風呂に入ることができた。

その最中、「僕汚れてないよな…」と少し心配になり、念入りに身体を洗いまくったのはまた別の話。


「ズドーン!!」


風呂上がり、体から出る湯気で超大型巨人ごっこをして遊んだ後、ある程度髪の毛の水を拭いたところで、僕は寝間着がないことに気づいた。


「あら?」


しまった。

いつもなら風呂に入る前に用意しておくのに、今日の戦闘で完全に頭が回っていなかった。

風呂場から僕の部屋は近い。幸い、誰も家にいない時間帯だ。

僕は腰にバスタオルを巻きながら、急いで着替えを取りに部屋へと向かった。


自室にたどり着き、いつもの隠し場所……そう、天井に開けた、ちょっとバレにくい穴に手を伸ばす。

僕のパンツはそこに隠してあるのだ。

なぜって? そりゃ、姉さんに盗まれるからに決まっている。

以前、僕のパンツが引き出しから忽然と姿を消し、数日後に姉さんの部屋で「なんだかすごく落ち着くのよ~」と言いながら頭に乗せられているのを発見した時以来の、血と汗と涙の結晶たる防御策だ。

しかし、探してもパンツが見つからない。

穴の中をゴソゴソと漁るが、いつもの感触がない。

まさか、と嫌な予感がして、部屋全体を探し始めた。

ベッドの下、机の引き出し、クローゼットの奥……どこにもない。


(もしかして……洗濯物の中で混ざって、姉さんのところに……?)


最悪のシナリオが脳裏をよぎる。

しかし、このままパンツなしで過ごすわけにもいかない。

僕は意を決して、姉さんの部屋のドアへと向かった。

コンコン、と軽くノックをする。返事がない。

まあ、いつものことだ。僕はゆっくりとドアノブを回し、部屋の隙間からそっと中を覗いた。


「姉さん、僕のパンツ知らな………」


言いかけた、その瞬間だった。


視界に飛び込んできた光景に、僕の思考はフリーズした。


姉さんが、僕の、あの、隠しておいたはずのパンツを、頭から被り、必死に匂いを嗅いでいたのだ。

玲の目は、焦点がまるで合っていない。

口元からは涎が垂れ、まるで獣のような、低いうなり声が漏れている。


「ぶおおぉぉ!ぶおおぉぉ!」


そう声を上げながら、ひたすらに、僕のパンツを吸い続けている。

その姿は、あまりにも悍ましく、あまりにも異様で、僕の脳は緊急停止した。

僕は、そっと、何も見なかったかのように、扉を閉めた。

そのまま、ドアに背中を預け、ずるずると床に座り込む。


(何あれええぇぇぇ!!こっわ!え?こっわ!バケモンいた!バケモンいた!)


語彙力など、とっくに彼方へ消え去っていた。

さっきまで吸血鬼と戦っていた僕だが、今目の当たりにした光景は、それとは全く別種の恐怖だった。信じられない。

こんな、こんなことがあっていいのか。

まさか見間違いでは……?そう思って、僕は震える手で再びドアノブに触れ、もう一度、ゆっくりと扉を開けた。


しかし、その光景は変わらない。


「ずぼぼぼぼぼぼぉぉぉ!!いやぁーやっぱり塁君のパンティーは最高だぜ!ずっと探してたけどあんなところに隠してたなんて塁君も悪い子だなぁー!!すーはーすーはー!」


玲は、恍惚とした表情で僕のパンツを吸い続けている。

その目には、理性のかけらも見当たらない。

僕が必死に隠したパンツを、まさかこんな形で吸っていたとは……。

僕の中で、混乱や驚きといった感情が、徐々に失せていく。代わりにやってきたのは、深い、深い虚無感だった。

僕はそっと、本当にそっと、まるで壊れ物を扱うように優しく扉を閉めた。

そして、無表情のまま、一つだけ決意した。


(新しいパンツ買って、今度は絶対に見つからないような場所に隠すか)


そう考えながら僕は自室にバスタオルを腰に巻いたままで戻り、立ち尽くす。

パンツがないからどうするか。

さすがにノーパンで寝間着は着れないしなー。

いや、着てもいいんだけどスースーするからな。

あ、そういえば一昨日買ってたいちごオレが冷蔵庫にあったはず…。よし、とりあえずはそれを飲んで落ち着こう。

バスタオル姿のままリビングへと降りる。

姉さん以外の家族はあまりこの屋敷へは来ない。

いつもはもっと大きい屋敷の方で生活している。

まぁわざわざ害虫がいるところへなんか足を踏み入れようとなんしないしね。

この前居たのは姉さんに用があっただけらしい。

でも家族と言っても来るのは大体母さんだ。

父さんは昔一回見たくらいでこっちには顔すら出さない。

ま、任務で忙しいんだろうけど。

母さんは一応、異能力者だけどそこまで強くはないから大体神白家の任務は父さんか姉さんがやっている。

姉さんは前に父さんと正式な戦いの儀式を行ったらしく、その時に僅差で姉さんが勝ったからうちの最高戦力は姉さんだ。

だから僕は普通の生活ができるし、こうやって母さんたちと離れて生活できる。

ありがたい。

けど、パンツの匂い嗅ぐのはやめてほしいかな!

リビングについて、いちごオレを冷蔵庫から取り出し、直で飲む。飲むの僕くらいだしいいよね。ん?なんかちょっと量減ってるような………気のせいか。


「ふぅ」


バスタオル姿のままソファーに座りいちごオレをちょいちょい飲みながらリモコンをとり、テレビをつける。

あ、そういや今日、日曜だし昨日のアニメ録画できてるかなー。

今期のアニメは量がすごいからな。毎回見ないと消化しきれないな。

そう思いながら、テレビのボタンを押すとちょうどニュースがやっていたチャンネルを開いた。

ニュースの内容は、今日、僕が戦ったあのイザベラの教会が火事になってるとの事だった。

僕は呆気にとられた。もちろん僕は火なんかつけていない。イザベラは逃走したし、信者たちがつける理由はないだろう。とりあえずニュースを見よう。

えーと、アナウンサーによると、宗教団体の信者たちは一応皆無事。引火の原因は見つかっていないので誰かによる放火で間違いないとのこと。そして信者たちは放火していないという。なのでおそらくこの団体を憎む者などの第三者による放火ではないかということだ。ちなみにイザベラのことは特になし。あんだけ血出してりゃ見つかりそうだけどな。

にしても、第三者か。カゲロウが言ってた”視ていた者”ってやつかな。

少し考えたが特に何も思いつかなかったので、普通にアニメを見て終わった。

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