第十一話:眼球イン
僕の胸の中から出た声の主はシャツの隙間からヌルっと顔を出す。
「ご飯って何食べるのさ」
「そこらのモノノケで良い。食欲というより燃料補給みたいなもんだ」
栄養じゃないんだ。
「って、そいつ昨日の黒いのじゃない。色々ありすぎて忘れてた」
「名前あったんだね」
そういえば、見せれてなかったな。
「紹介いたしやすね。こいつの名前はカゲロウって言います。元の名前が無いらしいので僕が付けました」
「陽炎…?虫要素なくない?」
氷室先輩は少し眉をひそめ、スマホを取り出し、何かを検索しだす。
「陽炎ってのが何なのかよく分かんないっすけど、取り敢えずかっこいいかなって」
「確か……こういうやつよ」
氷室先輩は僕にスマホの画面を見せる。
そこに写っていたのは尾から二本の糸のようなものが生えている蚊に近い見た目の虫。
「え……?き、キモ…キッショ……えぇ…マジか………リニオグナタの方がマシだよ………」
「当事者の前で言うことか?」
僕が口に手を当てて嗚咽していると、カゲロウが呆れ気味に僕に言う。
名前変えようか少し検討する必要がありそうだな。
「で、問題はあの姿に変身できるかってことなんだけど…」
氷室先輩はスマホをポケットの中にしまう。
「できるの?」
「できなくはない。だが、まだ霊力が足りてない。変身してもすぐに元の姿に戻っちまうだろうな」
僕は自分の胸に視線を合わせ、問いかける。
「そもそも、そんなのが体の中にいて本当に大丈夫なの?それに、変身するなんて…肉体を奪われかねないのよ?」
氷室先輩は心配そうに僕に言う。
「それは大丈夫だろうな。俺にとっちゃ面倒なだけだが、こいつの肉体の主導権は奪えない。奪えてたら蜘蛛野郎と戦ってた時点で奪っていた」
「奪えない…?それはどうして?」
「俺にも分からん。こいつの身体の主導権を奪おうとしても無理だった。デカい壁に囲まれているような気分だ。こいつの肉体に霊力がないのと関係しているのかもしれないがな」
カゲロウはチョイチョイとジェスチャーを交えながら説明を進める。
なんだかミギーみたいだなと思った。
「そういえば、あんた霊力ガ全くなかったわね」
「無いとなんかダメなんすか?」
「いや、別にダメとかまずいとかではないのだけれど、とんでもなく珍しいのよね。普通、生物なら少しは霊力を持っているはずよ。けど、あなたは"全く無い”のよ。こんなの見るの初めてね」
「へー…」
(これは…来たか?僕の『俺TUEEEEEE!!』)
他とは少し違うというのはとてつもなく主人公っぽいぞ。
「フッ…つまりこれは……僕が最強の能力を――――」
「そもそも霊力すらないんだから無理に決まってるでしょ。時々、美玲ちゃんみたいに後天的に覚醒するタイプの人もいるけど、累君は絶対無理ね。そもそもスタートラインにすら立てないんだもの」
「マジ?僕一生ベンチ?」
そんな…僕の最強主人公ルートが………。
僕はそのまま地面に膝から崩れ落ちる。
「ま、まぁでもあの怪力はすごかったわね。何喰ったらあんな人外になるのって感じ」
「それフォローになってます?」
僕は氷室先輩が僕を励まそうと言葉をひり出すのを見て立ち上がる。
「けど、本当にどうなってるの?あんな馬鹿力普通の人間が霊力なしに出すなんて不可能よ」
「そりゃやっぱり、僕の日々の筋トレのおかげっすよ」
「筋トレでそんなになったら逆に怖いわね。てことは、あんたもよく分かってないってことね」
分かってないって…失礼な。
僕の血と汗の結晶を理解できないとは。
「じゃあ、今回のことをまとめると、氷室先輩が所属している組織『クレイル』が近々勧誘をしてくるということ、僕はそいつらに正体がバレないようにしなくちゃならないってことですね?」
「そうね。けど、あと一つ言っておきたいことっていうか、提案したいことがあるの」
「提案したいこと?」
「もし万が一、クレイルの隊員たちや、モノノケと遭遇した時に応戦できないと困るでしょ?だから、その時のために少し特訓をするって………どう?」
氷室先輩は少し恥ずかしそうに僕に聞く。
「別に良いですけど………そもそも僕、変身してない状態で戦えるのかなぁ…。前氷室先輩が言ってた感じだと、僕霊力もないからモノノケに攻撃与することすらできなさそうだけど…」
「というか、視ること自体できるの?」
そこで話に飽きていた美玲が地面に寝転がりながら言う。
「おお、そうだったそうだった。忘れてたぜ」
「な?」
すると、美玲の言葉を聞いたカゲロウが僕の服の中から出てきて、僕の顔近くまで伸びてくる。
次の瞬間――――。
「おら」
ドシュ!
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!!!!!」
右目に思い切り伸ばした黒い体を突き刺し、思い切りかき回してきた。
「何してんねんクソがあああぁぁ!!!」
「暴れるな。静かにしてろ男だろ。ついでにこっちも」
ブシュ!
「ぎょえええええぇぇぇぇぇ!!!!」
カゲロウはついでと言って僕の両耳にも突き刺す。
僕に触手洗脳シチュの趣味はないのに!!
「今のこの男女平等の時代にその発言は良くないと思います。なぜなら――――」
僕がカゲロウを抜こうと暴れまわっているとカゲロウは突き刺した体を眼から抜く。
「よし、これで大丈夫だろう」
「大丈夫なわけあるかクソッタレ!僕のプリティキューティ鈴木眼がああぁぁ!!………アレ?」
僕は突き刺された右目の瞼を開けるも、特に変わりはなかった。
というか、少し視界も冴えて、視力もよくなっているように思える。
「な、何されたの?」
氷室先輩が心配そうに僕に駆け寄る。
「俺の体を少し目と鼓膜に混ぜた」
その問いにカゲロウが答える。
「混ぜた?」
「お前、霊力ないだろ?その状態だとモノノケも視えないだろうからな。俺の体の一部をお前の目に混ぜて視えるようにした。今は目から視神経を脳に繋いだが………よし、大丈夫そうだな」
「確かに前よりはっきりお前視えるような気がする…」
「逆に前まで何で視えてたのよ」
「俺とこいつは繋がってるからな。なんでか知らねぇけど、こいつの身体の中には俺の体が混ぜられてんだ。心臓を中心に、胴体や腹、四肢まで接続されてる。けど眼や脳なんかは上手く繋がってなかったからな。さっきので全部混ぜたぜ」
確かにこいつが出てきたのも心臓辺りを貫かれたから…なのか?
「あんたの怪力って、こいつが混ざってるから?」
「僕に聞かれても困るっすよ」




