第十話:屋上とは
「こ、今回だけだからね。見つかったら私が怒られるんだから」
氷室先輩はキョロキョロと不安そうに辺りを見回す。
その理由は僕たちが今向かっている場所と関係している。
現在、僕たちは学校の屋上へと向かって非常階段を上っていた。
よくアニメなんかでは主人公たちが屋上に行って、昼飯を食べたり、告白をしたりする光景を見るだろう。
しかし、大抵の学校は屋上を立ち入り禁止としている。
そのため屋上に侵入するには鍵を手に入れるか、強行突破するほかないだろう。
しかし、それは不可能に近い。
私情で鍵なんか持ち出しできないし、強行突破なんて夢のまた夢だ。
「にしても、よくこんなとこ見つけたね」
美玲が僕の後に着いて来ながら言う。
「ふっふっふ、昨日帰ろうとしたとき、ちょっと迷子になって、偶然見つけたんだよね~。ここなら、一階から柵を飛び越えれば入れるし、デカい木が邪魔で外からは見えない。おまけに窓も近くに無い。完璧だね」
「普通にアウトよ。まったく…」
「え~、でも僕のっていうか、全人類の憧れでしょう?屋上という場所は」
「憧れてたって駄目なものは駄目よ」
「明日地球が滅びるとしても?」
「それは極論過ぎるでしょ」
「僕、明日地球が滅びるってなったら、屋上に行くって決めてるんですよ。あと薬物」
「最後おい」
そんなこんなで、屋上に着くと、広がっていたのは恐ろしいまで広がる青空。
その空はまだ肌寒い季節に見合った濃い青色を帯びていた。
「ここは柵無いんだね」
美玲は屋上と非常階段の境界を跨ぐ。
「避難用としての用途もあるからね。鍵がかかってたら意味がないんじゃない?ここが特別ってこともあるかもだけど」
吹き抜ける風を防ぐように長い髪を軽く手で抑える氷室先輩。
「すげー、高いなー」
「こらこら、見られたらどうするのよ。ただでさえ目立つんだから止めなさい」
「げふ」
柵に体を預ける僕の首根っこを掴む氷室先輩。
「で、話したいことって何ですかい?秘密結社ごっこなら大歓迎ですよ」
「しないわよそんなこと。今回あなたたち二人を呼んだのは昨日のモノノケと私の姉さん達のことよ」
そういえば僕も少し気になっていた。
明らかに何かあると。
「やっぱ秘密結社?かっこいい~」
「ち――がくはないかもしれないわね。秘密ってほどじゃないけど」
「えぇ!?マジ!?イルミナティって本当にあったんだ」
「イルミナティじゃないわよ。けど、似たようなものかもね。私や私の姉が所属している組織は『クレイル』っていう、異能力者の集団組織。政府からは公認されてないから非政府組織ね。そこに所属している人たちは皆モノノケが視えたり、異能を扱えたりする人たちで、人々をモノノケの脅威から救っているわ」
なーんか、テンプレって感じ。
「非公認なの?」
美玲がフライドチキンを骨ごと食らいながら聞く。
「え、えぇ。そもそも政府側に視えるって人がいないしね。言っても突っぱねられるわ」
突っぱねるんだ。
最低だな。
僕もそうするだろうけど。
「それと、僕たちが何か関係あるんです?」
「そうね。美玲ちゃんというよりあなたの方がヤバそうだけど」
僕?
僕なんかしたっけ。
全裸土下座は未遂に終わったけど。
「クレイルは常に人手不足なの。さっき言った通り、視える人がそもそも少ないしね。だから、美玲ちゃんや累君みたいな人を勧誘しに来ると思うの。美玲ちゃんは取り敢えず大丈夫だとして、累君はまずいわ」
「待ってくださいよ!アレは未遂に終わったじゃないですか!」
「アレ?…未遂とカ何とかはよく分からないけど、あなた昨日私のお姉ちゃんを倒したでしょ?」
「っすね。完膚なきまでに」
「それが原因であなたが鹿骨のモノノケとして指名手配されてるのよ。といっても、クレイル内だけだけど」
………yabai。
「それ……僕が出てきたら………」
「間違いなく除霊対象として祓われるわね」
終わったぁぁぁ!!!!!!!
確かにやりすぎたかなぁとは思ってたけど、やりすぎだったぁ………。
「話し合いとかは……?」
「人語を解するモノノケは少なくないわ。それにあなた、特異級の最上位レベルとして等級されてるから、ほぼ間違いなく会話なんて成り立たずに殺されるわね」
どうすりゃいいんだよ僕これ。
「けど、累君自体の情報じゃなくて、あくまであの時の姿の情報を開示してるから、そこまで心配することはないわ。あなたがクレイルの隊員の前であの姿にならない限りね」
そうか、僕あの時明らかなバケモンの姿になってたのか。
「そういや累君あの姿に変身できるの?」
美玲は地面に座りながら言う。
そこちょっと汚いぞ。
「そういえばどうなんだろうな。あの時はカゲロウの声が聞こえて……そうだ。カゲロウだ!カゲロウ、起きてる~?」
僕はシャツを引っ張って自分の胸に語り掛ける。
「何してんのアレ」
「さぁ…まぁ仕方ないんじゃない?そういうお年頃だよ」
美玲と氷室先輩が僕を憐れむような眼で見る。
違うんだ。
本当に違うんだ。
「………が?なんだ?飯の時間か?」
すると、僕の胸からあの低い声が唸った。




