第一話:私からの贈り物
「ねぇ君、力が欲しいかって言われたら…どうする?」
その人は僕に言った。
何かの物語のラスボスのような強者が言いそうな言葉を、可愛らしい声で。
「まぁ、貰って不幸になるもの以外なら」
「消極的だね…まぁいいか。君らしいっちゃ君らしいし。じゃあちょっと失礼」
その人は僕のほうに手を伸ばす。
そして、こう言った。
「君ならきっと上手く使えるはずだ。あの時もそうだったからね」
◇
「ふぁ…ああ」
大きくあくびをした僕の名は神白累。
今年で16だ。
趣味は筋トレ、ラノベ収集、アニメ鑑賞とただたの一風変わった男児である。
今は、ちょうどベッドの上で上半身を起こした時だ。
16という齢でわかるかもしれないが、僕は今年で高校生。
新高校一年生ということだ。
本日はその新たに僕が通う高校の入学式。
そのためにいつもより早く起きたので目がまだしょぼしょぼしている。
だだだだだだだだだだだ!
「ッ!!」
すると、僕の部屋のすぐ近くからマシンガンのような足音が聞こえる。
(この音は…まずい!姉さんだ!)
僕は全力でベッドから身を起こそうと布団をはがそうとした。
そのとき、偶然目に入ってきた物があった。
それは――――。
この前通販で買ったエッチな本である。
内容としては小学3年生である妹が家に友達を連れてきて―――じゃない!!!!
今はとにかく、この本を隠さねば!!
「間に合え間に合え!!」
僕は一瞬でベッドから飛び起き、床に落ちていたエッチな本を掴む。
(は、早く屋根裏に―――!!)
しかし、その抵抗は空しいものであった。
「塁くーん、起きてるー?」
「ッ!?」
ドアがノックされ、部屋の外から姉さんの声が聞こえる。
「お、オラアアアァァァ!!!!!」
スタープラチナ並の声を上げながら僕は換気のために開けていた窓の外にエッチな本をぶん投げる。
それと同時に僕の部屋のドアが開けられる。
ドアから入ってきたのは僕の姉、神白怜。
あまり興味なかったから覚えていないが、確か今年で20いくつとかだった気がする。
「……何してるの?」
ドアを開けられ、僕は咄嗟に何もしていなかったフリで、変なポーズをとる。
「…え、エジプトの壁画ごっこ………」
「あ…そう」
「ていうか、すぐ入ってくんなや!!」
「えぇ?でもちゃんと言われた通りノックしてから入ってるじゃない」
「ノックしてから入室までの時間が早すぎんだよ!」
僕は息を切らしながら姉さんに叫ぶ。
「しくしく…昔の累くんはもっとかわいかったのに…最近はお姉ちゃんに冷たくなった」
「はいはい時間の流れは残酷ですね」
「そういえばさっき、何か投げた?」
!?
MAZUI
「…すぅー、いやぁ?な、何も?」
「? そぉ?まぁいっか。さ、朝ごはん出来てるから、降りてきてね」
「う、うっす」
「お姉ちゃんにあーんしてくれても良いのよ」
「遠慮しときます」
グッバイ、僕のエッチな本。
僕は姉さんのウンコみたいなお誘いを受け流し、一階に降りて朝飯を食う。
朝飯を食いながら点けっぱなしにされていたテレビを眺める。
(行方不明者…ねぇ………)
テレビでは最近ここらへんで行方不明者が数人出ているとのこと。
怖い世の中になったものである。
そんな事を考えながら僕は朝飯を飲み込み、その後すぐに学校に行く準備をする。
入学式に送れるわけにはいかないのでね。
玄関に立って、靴を履いていると姉さんが心配そうに僕に話しかける。
「大丈夫?ちゃんと荷物持った?忘れ物ない?ハンカチとティッシュ持った?道に迷わない?」
「姉さん、何度も言うけど僕もう16歳なんだよ。ちゃんと自分のことは自分で管理できるし、今更道になんて迷うわけないでしょ」
「でもお姉ちゃんは心配なのよ。車には気を付けるのよ」
「へいへい」
「バイソンにも気をつけるのよ」
「ここ日本だよ?」
「いないことはないでしょ」
居るわけないだろ。
「じゃ、行ってきまーす」
「いってらっしゃーい!」
まったく姉さんのお節介には手を焼くよ。
確かに道は苦手だけど、もう高校一年生なんだ。
道になんか迷うわけないじゃないか。
◇
「ここどこだろう」
あんなこと息巻いといて普通に道に迷ってしまった。
まぁなんとなくで行けるだろうという軽々しい考えで行ったのがダメだった。
同じ道を何度も歩き続けたり、途中で猫を見つけて追いかけたりしたのも原因だろうけど。
まぁ仕方ない。ここは文明の利器に頼るのが一番だ。
「テッテレー『スマートフォン』!」
僕は割と機械音痴だからあんまり使ってなかったけどやっぱりスマホって便利だしな。
しかし僕はあまりスマホに頼るということはしたくない。
なんだかスマホに頼りすぎると人間としてダメになってしまうのではないかと思うからだ。
スマホで得る情報と人から得る情報は結構違うんだから。
まぁ人から得る情報は誤ってることも多いけど。
とりあえず僕はスマホで道を調べるために電源を入れる。
「…………」
だが、なぜだろう。
電源ボタンを押しても押しても画面が反応しない。
「まさか………」
その時、僕に電流走る。
思い出したのは、昨日一応充電しておこうと充電ケーブルをスマホにさしといた時の記憶である。
よくよく思い出すとちゃんと奥までさせてなかったわ。
死ねクソッ!
あーどうしよう。
学校からの距離は割と離れてるからここら辺の人は行き方なんて知らないだろうし…。
これ終わったやつかもな。
「引き返すかぁ?」
僕が今日中に学校に着くことをあきらめかけた時、奇跡が起こった。
「おや?あれは…」
僕の視線の先、そこにいたのは僕と同じ学校の制服を着た女子。
(よかった!これで道を聞ける!」
そう思った矢先、その女子生徒の様子がおかしいことに気が付いた。
何してんだ?
その女子生徒は何もいない空間に何かを話している。
「何してんだあれ………あ!」
その様子を遠くから見ていると、その少女はそのままそのすぐ隣にある建物の中に入って行ってしまった。
「ちょ、ちょっと!」
僕は走ってそこまで行ったが、一足遅く、その少女は建物の中に完全に入ってしまった。
「けどこれは……ねぇ」
そう、その建物というのは廃館であった。
だいぶ前だが、習慣のランニングの時ここらへんを偶然通りかかった気がする。
その時、ここの廃館だけは少し覚えていた。
不気味で、何かがあるようなそんな気がしたからだ。
「なんでこんなとこに入ってったんだ?」
僕はしばらく考え込むも、このままじゃ道に迷ったままだし………。
「入るか………」
仕方なく僕は廃館の扉を開けた。
あ、ドアノブ取れた。
◇
蓬野高校、二階、二年八組の教室。
そこに鳴り響く電話の音。
「はい、氷室です」
着信音を発する携帯を手に取り、電話に出る少女。
「…ああ、創城さんですか。じゃあ切りますね………なんですか。私も忙しいんですけど…はい、入学式です。そこで話しなくちゃいけないんです。ですので、あまり時間がな………」
少女が電話を切ろうとした瞬間、通話相手が何かを言う。
すると、その少女の表情が固まる。
「……等級は?特異級………はい、分かりました。けど、できれば誰か隊長を連れてきてください。多少の時間稼ぎはできるかもしれませんが、それしかできないので」
少女は時計を確認しつつ、会話を続ける。
「巻き込まれた人数はわかりますか?一人…ですか。わかりました。具体的な場所を送ってください。すぐに向かいます」
少女はそう言って電話を切った。
「はぁ…入学式まで間に合えばいいけど」
そのまま教室の窓を開け、そこから思い切り飛び降りた。
しかし、少女に外傷はなく、そのまますごいスピードで走っていった。
◇
中に入ると言うまでもなくすごく汚かった。
蜘蛛の巣がやたらと多く、昔小学校のころ見た大きい黒と赤と黄色の三色が混じった毒々しい色の蜘蛛や茶色っぽい毛がたくさん生えているタランチュラのような蜘蛛など種類はたくさん。
蜘蛛だけでなくほこりの量もすごい。誰かが昔まで住んでいたような様子がある家具は誇りと蜘蛛の巣でおおわれていた。
「うげー進みたくねー」
そう言いつつも進むしかないので歩く。
そしたら…。
「うごふぁ」
床が抜けた。
といっても一階なので落ちるとかはないけど右足がひざ下あたりまで床の下に埋まってしまった。
シロアリでもいるのだろうか。
ひー気持ち悪い。
地面から足を抜くとおnewのズボンに木くずや砂が付いている。
足を振って汚れを落とす。
この先はちょっと気を付けないとな。特に二階。
僕は床の危なそうなところをなるべく避けながら進む。
そうすると気づいたことがある。
この館はやはり昔まで人が住んでいたようだ。それも大分昔に。
しかし引っ越しなどではなく家具や物品は残っている。それに食べ物なんかも腐っているが残っている。
テーブルの上に置かれた皿や脱ぎ捨てられたような服。
古くなかったらまだ誰かが住んでいると勘違いしてしまいそうなくらいだ。
「にしても、なんであの子こんなところに入ってったんだろう…」
僕は手に取った腐ったパンの匂いを嗅いで、すぐに投げ捨てる。
すると、僕がいる部屋の隣からなにやら物音がした。
「お、さっきの子か?」
僕はその音の鳴ったほうへ足を運ぶ。
着いたのは見た感じ、ただの書斎であった。
「なにもいないな……何だったんだろう」
僕が独り言を発した瞬間、部屋の端にある大きな本棚からガタンと音がした。
「もしかし…て!」
その本棚に近づき、力強く押してみる。
するとその本棚の下に大きめの穴があった。
(うっ…なんだここ。真っ暗だし、なんか臭ぇ…腐ったもんの匂いじゃなく、明らかに鉄臭いような…)
「ちょっとあなた!」
「うわっ!すいません!僕は小学生のころ好きな女の子のリコーダーをペロペロしました!」
「何を言っているの?」
「へ?」
僕がびっくりして思わず自分の罪を懺悔するも、僕が目を開けた先にいたのは一人の女の人。
それも、僕と同じ高校の制服を着た。
「あぁ、よかった~。こんなところにいたのか。いやー何処にもいないから僕の見間違いかと思ったよー」
僕は胸をなでおろし、安心でため息をつく。
「は?どういうことよ。あなたがここに迷い込んだんじゃ――ッ!下がって!」
その女子生徒が何かを言おうとした瞬間、僕の体は押し倒されていた。
「え、ちょ何…」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!さっさと逃げなさい!」
僕が言った言葉を遮ってその女子生徒は顔に冷や汗をかきながら叫ぶ。
「逃げるって…お、おい!腹!」
僕は状況がわからず、戸惑っているとその女子生徒は苦痛に顔をゆがめる。
それもそのはず、その女子生徒の腹には血が滲んでおり、その中心に手のひらほどの大きさの蜘蛛がいた。
女子生徒は息を切らしながら腹の蜘蛛を掴んで放り投げる。
「これくらい…大丈夫よ。それより、危険だからあなたは逃げなさい」
「そりゃ逃げたいけど、あんたは?」
「私もすぐ逃げるわよ…。ていうか、ここに来たのもあんたのせいなんだからね!」
「僕のせい!?」
なんでそうなる。
まさかこの人も僕と同じように道に迷ってたのか?
「ていうか、逃げるんなら一緒に逃げようぜ。その腹の傷やばいだろ」
「私はこの下にいる子を連れて逃げるからあんたは今すぐ逃げなさい」
「下の子?何言ってんだ?」
「んもう!あんたには関係ない!さっさと逃げる!」
「は、はい!」
女子生徒のとてつもない剣幕に気おされ、僕はそそくさと館を出る。
「何だったんだ?」
僕は外に出てもう一度館を見る。
◇
残された女子生徒は腹の傷に手を当てる。
(傷はそこまで深くないわね…にしても何だったのかしらあいつ。なんだか、違和感が…)
女子生徒は首を振って本棚の下の穴を見る。
「そんなこと考える暇ないわね。さっさと助け出さないと」
女子生徒は穴の中に降りる。
穴の中は真っ暗で深淵そのもの。
しかしその女子生徒は目元に手を当てる。
すると目が青白く反応する。
(よし、これで多少は見えるように――)
女子生徒が暗視をかけた瞬間、視界に入ってきたのは大量に巣くう先ほどより大きな蜘蛛。
小型犬ほどの大きさから人と同じほどの大きさまで多種多様だ。
部屋中には大量の蜘蛛の巣が張り巡らされており、人間のものと思われる骨がいくつか転がっていた。
そして、その中心には蜘蛛の巣に捕らわれた蓬野高校の制服を着た女子生徒。
(いた!けどこの数…私の霊力をすべて足に注げばもしくは………)
「無駄ダゾ」
「ッ!!」
女子生徒が足に霊力を込めようとした瞬間、捕らわれていた女子生徒の背後から和服を着た謎の男が出てくる。
しかし、その男は人間ではない。
人型だが、唯一認識できる頭部が蜘蛛の化け物であった。
「イヤハヤ、人間ノ雌ヲ喰オウトシタラ、新タナ食料ガ自ラ来ルトハナ…寝起キダトイウノニ、俺ハ運ガ良イ」
「その子を離しなさい!!」
女子生徒は拳に霊力を込める。
「オオット、アマリ動コウトスルナヨ?何カシヨウトシタラ、コノ人間ヲ殺スゾ」
「ッッ!………分かったわ」
女子生徒は拳に流していた霊力を解き、両手を上にあげる。
その周りには無数の巨大な蜘蛛がゾロゾロと動いていた。
「ソレデ良イ。ソノママ此方ヘ来イ」
言われるがままゆっくりと歩み寄る女子生徒。
しかし、何も考えがないわけではなかった。
(攻撃が当たる距離まで接近して、一撃加えて怯んだ隙にあの子を抱えて逃げる!)
ゆっくりと歩みを進め、攻撃が当たる範囲まで近づいた。
(今だ!!)
そして、貯めていた霊力を一気に流し、攻撃をしようとする。
しかし、その攻撃を放つことはできず、女子生徒はばたりと地面に倒れこんだ。
「は?」
「オ前、サッキ俺ノ蜘蛛二嚙マレタダロウ?」
その言葉を聞いて気が付いた。
「毒か…!」
倒れた体に無数の蜘蛛がまとわりつく。
「正解。ジャア、オ前モ喰ウトスル――――」
ドガァン!!!
蜘蛛男が女子生徒に手を伸ばそうとした瞬間、地下の部屋の天井、つまり館の床を渕破って入ってきた男がいた。
それは神白累である。
「ドゥラ!!」
そのまま女子生徒の体にまとわりついた蜘蛛を正確に蹴り、ついでに蜘蛛の巣に捕らわれていた女子生徒も救出する累。
「何この蜘蛛!?キモ!!」
「な!あんた、何で来て……。逃げろって………!」
「いや、あんな言われ方されたら逃げたくても逃げれねぇって。それに、僕のせいで傷できちまったんだから、助けないとだろ。それと、普通に危なかったじゃん?」
「そうだけど…まぁいいわ!そのまま私たち抱えて逃げなさい!」
「担がれてるのになんか偉そう。ていうか、あんた名前って何?」
「今ここで聞くこと!?」
「いや、聞いといたほうがやりやすいし」
「ああもう!氷室よ氷室鏡花!」
「うっす了解!ちなみに僕は累って言います!舌嚙まないようにしてくださいよ氷室さん!」
累は二人を抱えて地下から逃げようとする。
「ソノママ行カセルトデモ?」
入口はすでに大量の蜘蛛に囲まれ、蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
「何この蜘蛛の巣!?ていうか何こいつら!?デカ過ぎない!?」
「殺レ」
後ろにいた蜘蛛男が静かにそう命令すると、入り口を塞いでいた蜘蛛や部屋中にいた蜘蛛が一斉に累に襲い掛かる。
このまま殺されてしまう。
そう思った瞬間、二人の体が一瞬浮いた。
「へ?」
その一瞬で累は襲い掛かってきた蜘蛛をすべて蹴散らす。
その後、すぐに二人をキャッチする累。
「っつぅ~。うわっ!手に毛が!キモー!」
その攻撃を見て、氷室鏡花は仰天する。
(さっきのといい、なんなのこいつ。普通の人間が出せるスピードじゃないし、床を素手でぶち抜くってどうなってるのよ)
抱えられながら驚いていると、氷室の目にあるものが映る。
「ッ!危ない!」
「へ?」
ドシュ!
氷室の声も虚しく、累の胸部は貫かれた。
「な、なに…これ……ゲボッ!」
累は貫かれた胸や口から血を流す。
貫いたのは蜘蛛達の元締めである蜘蛛男の腕。
「オ前、何カオカシイト思ッタラ霊力ガ、マルッキリ無イナ」
「なんで…急に血が………ガハッ!」
累が血を吐きながら腹を見つめるも、蜘蛛男は貫いた腕を振るい、累を奥の壁にたたきつける。
その拍子で氷室ともう一人の女子生徒は腕からすっぽ抜ける。
「累くん!」
(まずい!あの出血じゃ、すぐに治療しないと命に関わる!)
氷室がまだ上手く動かせない体を動かそうとするも、その前に蜘蛛男が立ちふさがる。
「アノ男ハ後ダ。マズハ…オ前カラ―――」
◇
(何が…起こった…?急に腹に穴が開いて…ああ、頭痛ぇ…)
累は壁に叩きつけられた衝撃で頭からも出血をしていた。
(視界がかすむ…ああ、死ぬのかなこれ…)
『いや、死んでもらっちゃあ困る』
(ああ、もう変な声まで聞こえてきたよ………)
『おい、俺を変な声呼ばわりするな』
(あれ、幻聴じゃない?でも、明らかに耳から聞こえる声じゃないような…)
『だから俺は…チッ!時間がねぇ。おい、俺にその器貸せ。てめぇが死んだら俺も死んじまうかもしんねぇからよ』
(えぇ?なんで…)
『いいからさっさと寄こせ。このままじゃお前も氷室も死んじまうぞ』
(………分かった)
累はそのまま息を呑んで云った。
「いいぜ。貸してやる」
『それで良い』
「けど、主導権は僕な」
『は?ちょっと待―――』
◇
「アノ男ハ後ダ。マズハ…オ前カラ―――」
「先に死ぬのはてめぇだゲロカスがぁ」
蜘蛛男が氷室にその鋭い爪を突き立てようとする刹那、蜘蛛男の背後から累の声と混じった低い声が鳴り響いた。
それと共に黒い羽が周囲に散乱する。
そこで、氷室鏡花は視た。
神白累がこの世ならざる者と成る姿を。
深淵を圧倒するほど白い鹿の骨のような頭部を持つ人型のナニか。
その額には緋色に光る角膜がこちらを覗いていた。
後頭部からは鈍く紅く炳として光る一筋の炎。
首や体には光をすべて飲み込むかのように黒い翼のようなものが纏われており、得体の知れない感情を湧かせた。
「ナ…何ダオ前ハ―――!!」
蜘蛛男が何かを喋ろうとした瞬間、その口元を大きな手が覆った。
「すんげぇ。なんか眼も冴えてるし、力も出てきて…これが火事場の馬鹿力ってやつか?」
「ハ…離――」
「絶好調絶好調!!」
愉快な声で蜘蛛男を先ほどの累のように壁に叩きつける。
「ゲボォ!」
壁に打ち付けられた蜘蛛男は黒い血を吐き出しながらも、未だ累への殺意を納めない。
「人間如キガァ!」
蜘蛛男は牙をむき出しにして累に襲い掛かろうとする。
しかし、襲い掛かろうとした先に在ったのは”戦おうとしてはいけない相手”であった。
「今なら空も飛べそうだぜ」
「ま、飛ばないけど」と付け足し、累は右腕を上にゆっくりと上げる。
すると、手のひらに黒く、長い七支刀が現れた。
「ああ…決めえ台詞考えてなかった………まぁいいや、好きな言葉で」
そう言って七支刀を握りしめる。
「さぁ、お前の罪を数えろ」
累は七支刀をとてつもない速度で振り下ろした。




