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第一話:過去の夢

この世には存在してはいけない「モノ」がある。

それは世間一般的には幽霊や妖怪などほぼファンタジーのようなもので大抵のものは信じない

しかしそれは存在する。それは異能力者からは『モノノケ』と呼ばれている。

そのモノノケを祓うのが僕たち異能力者の役目だ。

いや”僕以外”の異能力者の役目だ。

なぜ”僕以外”かって?

簡単なことだ。

僕は異能力者ではない。

僕は神白家という代々モノノケを祓う異能力者を輩出してきた家系に生まれた。異能力者とは霊力という異能力者特有のエネルギーのようなもので身体能力の強化や肉体強度の上昇、多少の五感の強化、軽症の治癒などいろいろな使い道がある。その霊力を持って生まれてきたものを異能力者と呼ぶ。異能力者は生まれつき皆不思議な力を持っておりその力を『異能』と呼びその能力は皆様々だ。例えば炎を操ったり、巨大化したり何でもありだ。

しかし僕は神白家に生まれたのに生まれつき霊力がない。

だからモノノケも見えないし、祓えもしない。

もちろんこんな僕が神白家で普通に育てられるわけもなく醜いアヒルの子状態だ。

けれど僕はあきらめきれなかった。

僕には夢があったのだ。

小さいころ姉さんに読み聞かせてもらった僕のずっと昔のご先祖様の話だ。


「神白風舞」


かつて異能力者の頂点とも呼ばれたすごく強い人だ。僕はこの話を聞いてからこの人のようになりたいと思った。この人は力があるのに威張らず皆に知られず陰で人々をモノノケから助けていた。そのせいで皆からは受け入れられなかったがモノノケとの大きな戦『終末大戦』で活躍し、最強の異能力者と呼ばれるようになったそう。

僕はこの人に共感した。僕が皆から蔑まれるのと同じようにこの人も皆から否定されてきた。だから僕はこの人のようにいつかみんなに認められるくらい強くなろうと決心した。


しかし霊力がない僕に何ができる?


どれだけ頑張っても霊力は増やすことができない。

なら増やせるものを増やせばいい。

強くなるために増やすもの。そう、それは”筋肉”だ。

僕はこの人の話を聞いた時から僕も強くなろうと日々肉体改造に明け暮れた。

頭の中で右ストレートで想像のモノノケを殴り飛ばすイメージをしながら死に物狂いで努力した。時には体中の血管という血管から血が噴き出すまで、時には手足がもげそうになるまで、血反吐を吐きながらも努力し続けた。

しかしどれだけ肉体を鍛えようとモノノケにはダメージを与えるのは不可能だった。

そもそもモノノケが視えないんじゃどうしようもない。


どうしたらいい。どうしたら僕は風舞のように強くなれる?


そう僕が僕自身の無力さに打ちひしがれていると、ある日僕の目の前に黒いローブを着た人が立っていた。

その人は僕にこう言った。


「君、力が欲しい?」


その声は可愛いような美しいような声だった。そしてその声でまるでアニメの裏ボスみたいなセリフを僕に投げかけてきた。


「欲しい」


僕は即答した。なぜならそこに希望があるから。理由なんて大抵曖昧なものだ。


「いいよ、あげる」


そう言うとそのローブの人は懐から何かを取り出し僕に手渡す。

その人に手渡されたものは”マフラー”だった。とても黒くすごく嫌な感じがした。けれどこの時の僕は何かを感じた。とても言葉では言い表せない何かを…。

そして僕は力を得た喜びでいっぱいだった。そんな僕にそのローブの人は一言だけ言い放った。


「やっぱり君はいいね。あ、そうだった。あげる代わりに………」


なんだろう。興奮で最後の方、何を言ってるのかよく聞こえなかった。何を言ったんだろう。

気が付くとローブの人は僕の目の前から消えていた。

一言お礼を言おうとしたのに…。

しかし、その時僕は心に誓った。

僕はこれで最強の異能力者になる。



                      ◇


 すごい懐かしい夢見たな。


僕はあの時から何年かたってもう高校生だ。異能が使えないなら勉強も頑張ろうと自頭は悪いが頑張ってそこそこの学校に進学することになった。正直マグレ。

今日はその学校の入学式だ。ちなみに学校から家は割と距離がある。なぜなら僕の修行のためにある程度の距離を歩きたかったからだ。

目覚めたてで目がしょぼしょぼしているとものすごい勢いで階段を駆け上ってくる気配に気づいた。


(まずい、この気配は姉さんだ!)


「塁くんー!起きなさい。いつまでもお姉ちゃんのモーニングキッスがあるわけじゃないのよ!」


遅かった。大体気づいた時には姉さんは僕の部屋にノックなしで入ってくる。


「ノックしろや!」


姉さんは僕がまだ座っているベッドに飛び乗り僕に抱き着いてくる。

無視かよ。


「もうしょうがない子なんだから!」


そういうと姉さんは僕に唇を近づけてくる。

僕はそれを割と本気で阻止する。


「姉さんおはようございます!はい!起きた!起きた!もう良いよね!?」


クッソ地味に力が強ぇ。


「えーでも……」


何がでも……だよ。


「あのね…もう僕も今年で16だからね?」


そういうと姉さんは頬を膨らませて僕にジト目を向けてくる。


「昔の塁くんはもっとかわいかったのに…最近はお姉ちゃんに冷たくなった」


「はいはい時間の流れは残酷だねー。さてと、朝飯食いに行こ」


「お姉ちゃんにあーんしてー」


「嫌に決まってんだろ」


ったくこの人は将来神白家を継いで頭首になるってのに子供かよ。

こう見えて姉さんはめちゃくちゃ強い。

生まれつき霊力が多くほぼ霊力切れを起こさない。霊力の濃度も高く霊力を込めた拳は強力だ。おまけに異能も強く発勁という霊力の波動みたいなのを飛ばせるシンプルだが応用性の高い異能だ。

とりあえず朝シャワーを浴びて制服に着替え朝ご飯を食べる。ちなみに僕は朝シャワーを浴びる派だ。朝シャワーを浴びると目が覚めて頭がすっきりする。

さてと今日は入学式だから早めに家を出るとするかな。

僕はあの時ローブの人からもらったマフラーを首に巻いて玄関に向かう。


「大丈夫?ちゃんと荷物持った?忘れ物ない?ハンカチとティッシュ持った?道に迷わない?」


「姉さん、何度も言うけど僕もう16歳なんだよ。ちゃんと自分のことは自分で管理できるし、今更道になんて迷うわけないでしょ」


「でもお姉ちゃんは心配なのよ。車には気を付けるのよ」


「へいへい」


「バイソンにも気をつけるのよ」


「ここ日本だよ?」


「いないことはないでしょ」


居るわけねぇだろ。


「じゃ、行ってきまーす」


「いってらっしゃーい!」


まったく姉さんのお節介には手を焼くよ。

もう高校一年生だってのに道に迷うわけないじゃないか。


      ◇



「ここどこだろう」


あんなこと息巻いといて普通に道に迷ってしまった。

まぁなんとなくで行けるだろうという軽々しい考えで行ったのがダメだった。

同じ道を何度も歩き続けたり、途中で猫を見つけて追いかけたりしたのも原因だろうけど。

まぁ仕方ない。ここは文明の利器に頼るのが一番だ。


「テッテレー『スマートフォン』!」


僕は割と機械音痴だからあんまり使ってなかったけどやっぱりスマホって便利だしな。

しかし僕はあまりスマホに頼るということはしたくない。

なんだかスマホに頼りすぎると人間としてダメになってしまうのではないかと思うからだ。スマホで得る情報と人から得る情報は結構違うんだから。まぁ人から得る情報は誤ってることも多いけど。

とりあえず僕はスマホで道を調べるために電源を入れる。

だが、なぜだろう。電源ボタンを押しても押しても画面が反応しない。


「まさか………」


その時、僕に電流走る。

思い出したのは、昨日一応充電しておこうと充電ケーブルをスマホにさしといた時の記憶である。

よくよく思い出すとちゃんと奥までさせてなかったわ。

死ねクソッ!

あーどうしよう。学校からの距離は割と離れてるからここら辺の人は行き方なんて知らないだろうし…。

これ終わったやつかもな。

僕があきらめかけていると、僕の首元から低い声が響いた。


「主よ、あきらめてはいけません。どうしようもないなら『剛翼』を使いますか?」


そういや言ってなかったけど、あの時にもらったマフラーは喋れるみたい。名前はカゲロウ。

貰ったはいいもののこんなマフラーでどうやって敵倒すん?ってなっていろいろと試していたところ、急にマフラーが蠢きだしたのだ。話を聞いてみると割といいやつだったので友達になった。

カゲロウは僕のことを主と呼ぶ。別に友達だから塁でもいいのに。

そしてこいつが言ってる『剛翼』とはこいつの異能の一部である。

カゲロウの異能は『創造』。構造などを理解すると自分の霊力を使って何でも作り出せる。主に武器。

だからこいつの言う『剛翼』はなんか大きい翼みたいなもん。漢字で分かれ。


「いや、こんな朝っぱらから飛ぶのは目立つからやめとく。何とかして道を探そう」


最悪交番に行けばどうにかなるだろう。でも、やだなー。高校生にもなって道に迷いましたって言うの恥ずかしいし。あくまでこれは最終手段だ。他にも手があったら検討しよう。

まぁまだ幸いにも時間はある。たしか入学式は7:45からだから…えっと………。

僕は体中のポケットをまさぐる。しかし見つからない。


「クソ!!時計も忘れた!」


「主!諦めてはいけません!」


なんという失態。

どうしようもなくフラフラと歩いているとカゲロウが声を上げる。


「主よ!あれ!」


カゲロウがマフラーの一部を指のように変化させある一点を指す。

その方向を見てみると少し先の方に僕の通う蓬野高校の制服を着た女子生徒がいた。


「おお、でかしたぞカゲロウ!」


これで道を聞ける。いやーやはり僕は運がいいな。

しかしその女子生徒は一人でもなくもう一人誰かと一緒のようだ。保護者かな?

もう一人の方は少し身長が高めでガタイ的に男の人だろうか。黒いパーカーのフードを深々とかぶっている。

そしてその女子生徒はフードの人と家に入っていった。


「あれ、なんで入ってったんだ?」


少し急ぎ足で向かう。たしかあの場所は………。


「廃館ですね………」


ちょっと前にランニング中ここら辺を通ったことがある。その時に少し目に残った場所。それがこの廃館だ。割と大きめの館なのにボロボロで窓ガラスもほとんど割れていて草木も生い茂っておりなんだか少し不気味だ。


「主よ、この館…モノノケの気配がします」


え、嘘。この前通ったときは特に反応なかったのに…。

カゲロウは霊力の探知が得意でモノノケの気配ができる。その範囲はまぁまぁ広い。

でもこの前までは無かったということは最近出てきたモノノケなのかな。

うーん、でもなぁ………正直めんどくさいし怖いから入りたくないけど…行かないと道聞けないし…。


「仕方ない。入るか」


「しかし主よ、この館の中の気配は一つだけではありません。強くはないですが数十体はいます」


「でも入るしかないでしょ」


重い足取りで扉を開き中に入る。

あ、ドアノブ取れた。

中に入ると言うまでもなくすごく汚かった。

蜘蛛の巣がやたらと多く、昔小学校のころ見た大きい黒と赤と黄色の三色が混じった毒々しい色の蜘蛛や茶色っぽい毛がたくさん生えているタランチュラのような蜘蛛など種類はたくさん。

蜘蛛だけでなくほこりの量もすごい。誰かが昔まで住んでいたような様子がある家具は誇りと蜘蛛の巣でおおわれていた。


「うげー進みたくねー」


そう言いつつも進むしかないので歩く。

そしたら…。


「うごふぁ」


床が抜けた。といっても一階なので落ちるとかはないけど右足がひざ下あたりまで床の下に埋まってしまった。シロアリでもいるのだろうか。ひー気持ち悪い。

地面から足を抜くとおnewのズボンに木くずや砂が付いている。

足を振って汚れを落とす。

この先はちょっと気を付けないとな。特に二階。

僕は床の危なそうなところをなるべく避けながら進む。

そうすると気づいたことがある。

この館はやはり昔まで人が住んでいたようだ。それも大分昔に。

しかし引っ越しなどではなく家具や物品は残っている。それに食べ物なんかも腐っているが残っている。

テーブルの上に置かれた皿や脱ぎ捨てられたような服。

古くなかったらまだ誰かが住んでいると勘違いしてしまいそうなくらいだ。


「カゲロウ、どっちかわかる?」


さっきからカゲロウがモノノケ探知で探してるど全然見つからない。

カゲロウのモノノケ探知は感じ取るだけであんまり使えない。


「見つけました。あそこです」


カゲロウが指さしたのは一つの少し大きめのクローゼットだ。


「本当にこの中にいるのかよ」


僕はクローゼットの取っ手をつかみ扉を開けると………。

バカでかい蜘蛛と目が合った。


「すぅぅーーーー………」


僕は深呼吸しながら扉を閉める。

え?は?何あれ何あれ。キモすぎ。デカ。最近の蜘蛛ってあんなにデカいの?蜘蛛の巣とか30mくらいあるんじゃない?

クローゼットの中にいたのは大体1m半ってとこの蜘蛛。クローゼットの中でもぎちぎちだった。

いやいや僕の見間違いかもしれないし…。

そう思い僕は再び扉を開ける。


「し、失礼しまーす」


はい、思いっ切りいますねー。

すごいつやつやの毛みたいなのが体中に生えている。オニグモかな?


「もう一度失礼しまーす」


こっちをつぶらな瞳で見てるだけだからちょっと触ってみようかなーと手を伸ばした瞬間、蜘蛛が奇声を発した。


「キエエエエェ!!!」


びっくりして数歩下がる。

どうした急に、触られるの嫌だったのかな。

動かなかったら目がつぶらで可愛いかもなーとか思ったけどこのデカさで動かれるとキモすぎる。

巨大蜘蛛がクローゼットの中からゆっくりと出てくる。

どうする?攻撃?


「カゲロウ、『跋虎』」


「御意」


カゲロウがマフラーの一部を僕の両手に纏わせ、纏った黒い影が形を変えていく。

不定形で黒い霧のようだった影が手の形になり力を籠めると黒曜石のように黒光りするガントレットに変形した。カゲロウの異能で作り出したものはカゲロウの霊力が入ってるから霊力なしの僕でもモノノケに攻撃が通じる。


「さて、どう来るか」


蜘蛛が牙をガチガチと鳴らしながらこちらを観察してくる。

次の瞬間、蜘蛛が後方に飛び壁をよじ登り天井の方から糸を飛ばしてきた。


「うおっ」


まぁ特に早くもないし全然避けれる。

そしたらその蜘蛛が足をググっと折り曲げた。

あ、これ飛んでくるわ。

案の定、蜘蛛がすごい勢いで飛んできた。

こういう時の対処法を教えておこう。こういう時、ガントレットで防ぐのもいいが蜘蛛までの距離はまぁまぁある。ならば…。


「エルボー!!」


飛んできた蜘蛛を横から肘打ちする。

戦うとなると皆、拳や足を使って戦う。まぁそれでもいい。けれど人間の身体で一番合理的に攻撃できるのは肘だと僕は思う。普通に肘の骨硬いし、痛点が少ないから殴った時よりもこっちへのダメージが少ない。よく殴ったほうも拳が痛むとかいうけどこれで解決だ。

弱点としては拳よりリーチが短いこと。しかし蜘蛛と僕までは少し距離が開いていたからエルボーで撃退可能だ。

うわ、肘に蜘蛛の毛みたいなのちょっとついてる。キモ。


「主よ、その毛少し霊力が乗っております。念のため取ったほうが良いかと」


「そう?別に痛くないけど。まぁキモいしいっか」


肘に着いた毛を手ではらう。

蜘蛛の方はというと僕のエルボーがクリティカルヒットして地面に倒れてひくひくしてる。

天誅。


「キエ!」


蜘蛛の頭を潰す。

最初にやってきたのはこいつだから正当防衛だ。

さて次を急ぐか。


         ◇


 館のすべての部屋を散策したけれど、どこにも女子生徒はいなかった。

カゲロウのモノノケ探知は反応してるらしいけど詳しい位置はわからない。ホンマに使えん。


「おっし、これで蜘蛛も最後かな」


カゲロウがモノノケの気配を探している最中、僕は残りの蜘蛛を蹴散らしていた。本当にいろいろなところに出てくるんだよなこいつら。これはボスが蜘蛛のパティーンか。


「カゲロウ、まだ見つからない?」


「えっと…今わかりました。多分一階です」


「多分って…」


ちなみに今いるのは二階。この館無駄にデカいから上り下り大変なんだよな。

そういやここ廃館じゃん。


「どらぁ!」


そうだったそうだったここ誰も住んでないんだしぶっ壊してもいいのか。

僕は床を殴って穴を開け直行で一階に降りる。


「さぁてカゲロウどっちだ?」


「一階の書斎に残り香がします」


あれ、一階の書斎にはなんもなかったような気がするんだけど…。


「ただし、場所が少々特殊でして…」


「特殊って?」


「おそらく、書斎に地下室の扉があるのかと」


地下室!?

僕の大好きな奴じゃないですか。いや全世界の男子が皆、シェルターや地下室などに憧れるものだ。

みんなもするよね。地下室にゲーム機いっぱいあってそこでゲームしたりアニメ見たりみたいな妄想。

僕はしてた。なんかこう本棚の本を押し込むと本棚が動き出して扉になる的な感じのに憧れる。

僕も昔、地下室が欲しくて学校の砂場に5mくらいの大穴を開けたこともあったっけ。

教師が昼休み中その穴を埋めながら「誰だよこんな穴開けた奴」って言ってたなー。すんません。

そしてウッキウキで書斎に入る。


「で、地下室ってどこ?」


僕は適当に本棚を押したり傾けたりする。しかし何も起こらない。


「ここですね」


カゲロウが大きめの本棚をずらす。そうすると本棚の下に大きな穴があった。


「気を付けてください。奥に何体かいます」


「………」


「どうされました?」


「いや、何でもない」


思ってたんと違う。こんな原始的な地下室ってある?というかただの穴じゃんこれ。手動だとしてもせめて動かしたら扉があるとかにしてほしい。

下に降りてみると、中は真っ暗だった。


「暗いなー。カゲロウちょっと失礼」


そこらへんの壁をえぐって棒状にする。

とその瞬間、闇の中から風を切る音がし、僕は咄嗟に上半身を反らす。

そしたら壁に何かが刺さった音がした。


「ッ!?」


木の棒を松明にして、炎をつけるとその光が反射し白く光る細い針があった。

一体この針が刺さったらどうなるんだろう。毒でも塗ってるのだろうか。

そしてこの針は偶然飛んできたものではないだろう。確かな殺意がある。

この針は誰が飛ばしたのか。

僕は暗闇の向こうに視線を向け、目を細める。


「誰だ」


僕がそう尋ねると、暗闇の中からカツカツと足音がして何者かが出てきた。

出てきたものには見覚えがあった。女子生徒を家に連れ込んだ黒いパーカーの男だ。

パーカーの男はフードを深く被っていて暗いから近くでも顔が良く見えない。


「ワタシ…ノ…コガ…ゼンブヤラレ…タ」


低い声にガラスをひっかくような音が混じっている。

明らかに人間の声ではない。

こいつは…。

パーカーの男がフードをとる。

そうするとそこにあったのは蜘蛛の顔。そう、この男は蜘蛛のモノノケだ。

カチカチと牙を鳴らしながら両手で服をつかむ。よく見ると手も蜘蛛かなんかの虫のようなツメもついている。その鋭いツメで服を引き裂くき全身が露になる。服の上からだと全く分からなかったが体も蜘蛛のように毛が生えている。腕だと思っていた者は二本の蜘蛛の足。おそらく足も二本だろう。


「ワガ…コ…タチヨ…ユケ…!」


蜘蛛男が僕に指をさすと蜘蛛男の後ろから、大量の蜘蛛が出てくる。

そして一斉に僕に向かって走ってくる。

目が暗闇に慣れてきて蜘蛛男の後ろ、地下室の奥も少し見えるようになった。

奥にあったのはすごい量の蜘蛛の巣。

そしてその中心にいるのは縛り付けられた女子生徒。

仕方ない。


「カゲロウ、『跋虎ばっこ』」


僕はカゲロウを腕に纏わせ、黒曜石のように黒く輝くガントレットを創る。

それを見た蜘蛛男はこちらの敵意に築いたのか少し構え、僕に指をさす。それと同時にクローゼットの中から出てきた蜘蛛と同じくらいの大きさの蜘蛛7~8体が床を這いまわり、壁を駆けあがり僕に一斉にとびかかってくる。


「うわっ、キモッ!」


僕は思わず身を引いた。

一帯だけならともかく結構数もいる。ていうかよく見ると大きいのに混ざってちょっと小さいのもいる。

生理的に無理だ。キモすぎる。

そもそも僕は虫全般が嫌いだ。いやまぁ多分皆嫌いだろうけど。

やっぱり何考えてるかわからないし、カサカサと動き回る姿は見るだけで気絶しそう。さっきまでは頑張ってたよ?でもさぁこの数はちょっと…。

特に嫌いなのは蝉だね。夏になるとそこら中に死んでんのか死んでないのかわかんねぇのがゴロゴロいるし。ほぼ地雷だろあれ。

だが、カブトムシは例外だ。アレはかっこいいしな。クワガタはちょっと…昔、保育園に通っていた時にお散歩タイムみたいなのがあって近くの公園に保育園のみんなで行ってたんだけど、その時僕の友達A君がクワガタを見つけて僕が「いいなぁA君。かっこいいね」と言ったら、その友達A君は「じゃあちょっとあげる」と言って近くにあった石をつかみクワガタの右顎をへし折って僕にくれたのがトラウマでクワガタはあまり好きじゃない。

とまぁこんなことは置いといてこの蜘蛛たちに集中しよう。


「カゲロウ『叢棘』」


跋虎を地面に当て蜘蛛たちの方へと薄い影を伸ばし、そこから無数の黒い棘を生やし蜘蛛たちはそれに貫かれ黒い灰となって消滅する。

一瞬の間、あたりに静寂が訪れた。

その静寂を打ち壊すかのように蜘蛛男が怒り狂い。奇声を上げ、激しく動き出した。


「キエエエエェェェ!!!」


鉤爪を振り上げ、一直線に僕へと襲い掛かってくる。そのスピードは蜘蛛たちと比べ物にならないほど速い。

といっても僕に比べると遅いね。

僕は少しスピードを上げ蜘蛛男の攻撃を避ける。


「キエエエエェェ!!」


しかし蜘蛛男の鉤爪攻撃は止まらない。避けられたことに怒り、再び攻撃をしてきた。

その攻撃を華麗なステップで避ける僕。

そしてガラ空きになった胴体へと強烈な右ストレートを叩き込む。


ドゴォッ!


鈍い音とともに蜘蛛男の身体が吹き飛ぶ。

しかし立ち上がりまだ攻撃してくる蜘蛛男。だが先ほどまでの俊敏性がなく少し焦りも見える。

その攻撃も避け、膝蹴りを加える。地面に鉤爪をひっかけ吹っ飛ぶのを防ぐ蜘蛛男。

荒い息の中にかすかに声が聞こえる。


「マダダ…マダ……コレガ…アル!!」


そういって蜘蛛男は拳を握り占める。

その瞬間僕の肘にとてつもない痛みが走る。

なんだこれ毒?

痛みを発したのはちょうど一番最初に出てきた蜘蛛を倒したMyエルボー。


「ワタシノ…コドモ…ヲ…コロシタトキ…二ツイタ…ドクバリ…ダ」


「あんときか………」


「キャッキャッキャ…イタミデ…タテナイ…ダロウ?」


蜘蛛男がいやらしく笑う。

完全に勝ちを確信してやがる。


「ああ、そうだな」


「?」


「めちゃくちゃ痛ぇわ、クソボケ!!!」


完全に油断してた蜘蛛男の顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。


バキィ!


顔面の半分が吹き飛び目を大きく見開き苦悶の表情を浮かべる蜘蛛男。


「ガアア…ナ…ナゼ…?」


「僕、やせ我慢得意なんだよね」


おそらくこいつを殺したらこの毒も消えるだろう。

あー痛え。


「ヒ…ヒエ!」


蜘蛛男が恐怖を覚え逃げようとする。

しかし僕はそれを許さない。


「『黒点』」


指の先にカゲロウの霊力を収縮させた黒い球体を一気に放つ。さながら黒い霊丸だ。

放った漆黒の球体はものすごいスピードで飛んでいき蜘蛛男の首から上を消滅させる。ついでに壁にも罅が入る。

蜘蛛男は首から足にかけて徐々に消滅していく。

よし、一件落着。

蜘蛛男を祓い見事僕の勝利に終わった。


「喰っていいぞ」


そういうと消滅しかかっている蜘蛛男の方にカゲロウがマフラーの一部を伸ばす。

そして伸ばした一部を鋭い牙がたくさん生えた口に変化させ、蜘蛛男の身体を食べるカゲロウ。

よくよく考えるとこれ虫喰ってるから結構ヤバくね。


「おいしいの?それ」


「味は特に感じませんね」


そういうもんなんだ。

でもまぁ頭ごなしに否定するのはよくないよな。人には人の生き方があるし、いやカゲロウは人じゃないか。昆虫職とかもあるし完全にダメとは言えないなぁ。生で喰うのはどうかと思うけど。

さてと、戦利品の確認だ。

僕は部屋の奥に縛り付けられてる女子生徒の糸を引きちぎり開放する。

よく見ると部屋の角には大量の人骨が放置されており、おそらくこの蜘蛛たちに喰われたのだろう。


「この子、大丈夫そ?」


「このモノノケの毒で幻覚でも見せられたんでしょう。命に別状はありません」


ならいいか。

とりあえずこの館から出よう。

降りてきた穴をこの子を抱えながらジャンプで上り、そのまま館を出る。

そして近くにあった公園まで連れて行きベンチに寝かす。


「…起こした方が良いかな」


その女子生徒はというとベンチに寝転がりながら、だらんと腕を伸ばしよだれを出しながら幸せそうに寝ている。

ちなみに顔立ちは結構整っている。綺麗な茶髪をふんわりとしたボブカットで清潔感ある上方にしていて、頭の上にはアホ毛が立っている。


「んへへ、マヨネーズ………」


どんな寝言だよ。

とりあえずこのままじゃ学校にすらたどり着けないし。


「ぺぎゃっ!」


おでこに思い切りデコピンを当てると女子生徒は寝ぼけ気味で飛び上がる。


「あれ?私の唐揚げは?ベビーカステラ50人前は?」


そんなん1人で食えないだろ。


「あれ?ていうかここ何処?」


「突然で悪いな。僕は君と同じ学校に通う者だ。道に迷ってしまいまして、学校への道を教えていただけませんでしょうか?」


僕が頼むと女子生徒はぼーっとしたような様子で僕を見て、何かを思い出したような表情になった。


「あ、そうだった。道に迷ってたんだった」


「ほえ?」


もしかしたら僕は道を聞く相手を間違えたのかもしれない。


「えっと……君も道に迷ってたの?」


「うん、あれ?君もかな?」


あーなるほどなるほど………。

詰んだな。

僕がすべてをあきらめかけていた時女子生徒はおもむろにスマホを取り出し時間を確認する。


「うげ!もうこんな時間!そろそろ入学式終わっちゃうよ!どうしよーこれじゃ送れちゃうよー」


あれ?こいつスマホ持ってるな。それに充電もたっぷりある。


「あのー………」


「ん?なぁに?」


「そのスマホで道を調べればいいのでは?」


「………あ」



その後一応学校には着いた。

と言っても、もうとっくに入学式は終わり放課後になってしまったが。

僕が助けた女子生徒の名前は朝倉美玲。僕と同じ1年7組だ。彼女は乗るはずだったバスを乗り遅れ、仕方なく電車で行こうとしたら慣れない場所で道に迷ってしまったそう。僕と大体同じだ。

しかしこの女の頭の悪さは僕よりも上だ。こいつはスマホの充電があるのに調べるという選択肢が思いつかなかったそう。全くどうしてその考えが浮かばないのか。いや待てよ。そもそも充電してなかった僕の方が頭悪いのか?……ま、まぁ僕のはミスだしょうがないね。

そして僕たちは二人そろって学校に大遅刻し、学年主任の先生に呆れ笑いされ、生徒手帳と書類をもらって下校することになった。

僕と美鈴の家は割と近くにあり途中まで電車で帰り、今は隣に並びながら歩いている。


「いやー同じクラスだったとはね。驚いたよー」


朝倉美鈴は蜘蛛男に連れ去られたことをあまり良く覚えていないようで、不審者になんかされたぐらいにしか思ってないらしい。

喰われかけたというのに暢気なものだ。しかしこいつは異能力者ではなく普通の人間だから仕方ない。


「にしても、どうやってあの不審者捕まえたの?」


うーん、不審者というよりモノノケなんだけど「不審者じゃなくてモノノケだよ」なんて言ったら頭のおかしい勘違い厨二病野郎だと思われてしまう。僕は厨二病じゃないし。けどかっこいいやつは大好きだ。漆黒のドラゴンとか、堕天使とか。そういうのはみんな好きだと僕は信じている。


「な、殴った…」


「へー結構強いんだね。ありがと!」


にしても同年代の女子と話すなんて何年ぶりだろう。

まぁ、中学時代に授業の関係で女子と話すこととかはあったものの授業以外で女子と話すことなんてなかったしな。


「じゃあ私はこの辺で、じゃーねー塁君!」


美玲は一緒に歩いていた道を分かれ左の方へ行く。


「おう」


今日はいろいろと疲れた。帰ったらソシャゲでもしよう。

後書きというものは書いたら甘えと思っていたので、ずっと書いていなかったのですが、やはり皆に読んでもらうためには書いた方が良いと思うので書くことにします。

1話を読んでくれた皆様へ、誠にありがとうございます。

良ければこのまま読み進めていただけると凄く嬉しくて全裸で夜道を走り出しそうです。

そして出来ればブックマークやリアクション、ポイント、感想などを入れていただけるともっと喜んでブリッチもしちゃいます。

こちらとしてはブックマークひとつでやる気が漲るのでどうかお願いします。


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