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うわさばなしをしよう

作者: R+

ほぼ初投稿でまだまだ拙い文章ですが、お暇な方はぜひ読んでいってください!

「やあこんにちは。もしかしたらこんばんわ、かな?フフ、暑い夏になって怖い話が聞きたい季節になってきたね。みんなはどんな怖い話が好きかな…。え?怖い話ならどんな話でも歓迎?フフ、そうかい?なら1つ僕から話をしても良いかい。これはあくまで僕が友人から聞いた’’うわさ’’なんだけど…まあ聞きたい人は飲み物でも飲んだり、何かしながらでも少し耳を傾けて…フフ、目を傾けていってよ。」


 その友人はどうやら実家がとてつもない田舎にあるようなんだ。コンビニが歩いていける距離になかったり、車がないと買い物にも行けない、実家の周辺には何にもないから暇をつぶすこともできない。とにかく不便で、とにかくつまらない場所だと友人はぼやいていた。友人は都会に越してきて10年程が経つようだが、都会には楽しいものや遊べるものがたくさんあり、欲しいものは何でも揃う。移動で不便と感じる事もない。実家のある田舎に帰りたくないと常々思っていたそうだ。大学生活のために上京してから楽しい都会ライフを謳歌し、就職もこっちで済ませた友人は、今までもそうしていたし、実家には何年かに1回、年末年始に帰る程度でいいやと考えていた。

 しかしその頃から、何故かはわからないが時々妙な胸騒ぎを覚えることがあったそうだ。曰く―実家に帰らなきゃいけない…という胸騒ぎ。そのたび彼は自分に問いかける。俺は何で実家に帰りたいなんて妙なことを考えているのか?と。帰りたい理由などとうの昔に無くなったはずのに、今更になって何でこんな胸騒ぎがするのだろうか、と。


 ガタンガタン……耳に届いたのは電車が揺れる音。ふと気づけば彼は電車に乗り、実家の方面へと向かっていたそうだ。彼は状況の理解に苦しんだ。さっきまで休日だから家で映画でも観ようかと考えていたところだったはず。映画を選び、さて観ようかという時に…。そうだ。あの胸騒ぎを感じて…。そこからは記憶がなく、今に至っている。荷物は最低限の物しか持っておらず、服もジャージ姿そのまま。スマホと財布があるのを確認した彼は、次に周囲を見渡してみる。自分以外に数人おばあちゃんやおじいちゃんが乗っているだけの電車は間違いなく実家に向かうものだと確信した彼は困惑しつつも、こうなったらこのまま実家に帰省してやろうと考えた。どちらにせよここから今住んでいる家に帰るには電車が無くなってしまう時間だった。窓からは夕日が差し込み、クーラーがあまり効いていない車内では自分の服にじっとりと汗がにじむ。スマホがあるにはあるが、電池が残りわずか。モバイルバッテリーもないためスマホをいじるのを諦め、眠気もあったから目をつぶって仮眠をとることにした。しばらく電車内にはガタンガタンと電車が走る音だけが響く。電車がブレーキを効かせ初めてスピードが落ち、あと数秒で実家の近くの駅に止まるかという時に目を開け、重い腰を上げて出口に向かおうとした彼の前を通り過ぎたおばあちゃんがこちらをちらりと見て恐ろしく低い声で一言つぶやいたのだそう。


 また1人、かえってきた―と。






 その言葉に得も言われぬ恐怖を覚えた俺は逃げるように電車から降り、ホームを走って駅の改札へ向かい、ピッ、とスマホを改札にタッチして、駅を出た。後ろを振り返るが俺以外には誰も降りていない。あの老婆も降りてきていない事に困惑と安堵を同時に味わいながらも、急いでスマホを開き、母に迎えに来てもらうように連絡しようとしたが…電源が付かない。改札を出るまではギリギリ充電が持っていたようだが、遂に電池切れを起こしてしまったのだ。チッと舌打ちをし、歩いて実家へと向かうことに決める。何の思い入れもないが18歳まで過ごした土地だ、まあ周りでも見ながら久々に歩くか、と思い直し実家の方へと歩き出す。

 頭に浮かぶのはたくさんの’’なぜ?’’だ。なぜ俺はここに帰ってきているのか?なぜ俺は帰りたいという胸騒ぎを感じていたのか?なぜ俺はここに来るまでの記憶がないのか?なぜあの老婆はあんなことを言ったのか?こんなにも足が重いのはなぜ?

 ―考えてもわからないことを気にしても仕方があるまいとわかっていても、ぐるぐると疑問が頭を回る。歩き始めて何分が経ったかはわからないが、家まではまだ距離がある。周囲を見渡しながら歩く。古びた街灯、立ち並ぶ木々、だだっ広い田んぼに畑、古びた家、だれが何時建てたのかわからない石碑。そんなものしか視界に入らない。道には人っ子一人歩いていない。なんだよこれ、ホントにつまらない場所だ。都会でこの時間に外を歩けば、綺麗なネオン、立ち並ぶ大量のビル、広い敷地をまんべんなく使ったショッピングモール、おしゃれな高層マンション、巨大なオブジェ。大量の人。都会ならそれらが俺を迎えてくれるのに…。


 ???


 そこでふと考えてしまう。確かに都会にあるものはみんな豪華だったり大きかったりする…。でもそれがいったい何だっていうんだ…?俺は10年都会で暮らしているが、俺はそこでいったい何を得た?大学の卒業証書、自分の住む家、仕事…。そこに都会じゃなきゃ得られなかったものはあるか?一度立ち止まり、考える―

 俺は退屈な田舎で一生を過ごすのは嫌だからと俺は都会に飛び出した。母も父も俺を止めた。都会に行かなくったってやりたいことはできると。でも俺はそれに反発して「こんなクソ田舎にずっといるアンタらの方がおかしいんだよ!わかったような口きくな!」と心にもないことを言い放ち、都会へと出てきてしまった。そこからはほとんど実家にも帰らず、帰っても親とはほとんど口を利かなかった。俺は都会にいるからお前らとは違うんだ、お前らが手に入れられないものを手に入れてるんだ、俺は俺は俺は…間違ってないんだ。



 そこで我に返った俺はふと周囲を見渡してみた。なんだろうか、風景がなんとなく異様だ。駅を出てからしばらく時間が経っているはずが、夕日は一向に沈む気配がなく、そういえば夏の夕方になら無数に鳴いているであろう蝉も、ヒグラシも、いない。人ももちろん誰一人としていない。俺の前にある道は果てしなく長く続いていて、行き止まりが無いように見える。きょろきょろと周囲を見渡すと、今まではあったはずの田んぼや畑、様々なものは消え、夕日を反射して輝く水面があった。そのうち俺が立っていた道すらも水面に変わった。俺はその場から金縛りにあったように動けなくなり、夕日を見る事しかできなくなった。なんだろうか、動けないうえに訳の分からない空間なのに、俺はどこか感動してしまっていた。涙が流れてくるほどに。すると夕焼けの光が際限なく光度を上げ、輝く。まぶしいを通り越して段々目が開けられなくなる。そうしてすべてが光に飲み込まれて消えていき、そこにあるのは―


都会という場所ですべてを手に入れた気になっていた俺という、ちっぽけな存在だけだった。




 ―目を覚ますと俺は病院のベッドにいた。隣には母の姿があった。母は泣き腫らした表情で俺を見つめ、良かった、と一言つぶやいた。

 あの日映画を見ようとしていた俺は家で意識を失い、倒れてしまったのだという。原因はストレスによる突発性のもので、重症化して生と死の境界線をさまよっていたらしい。無事に現実へと帰ってこられたことに母は喜んだが、とにかく俺を心配してくれていた。

…正直に言えば俺は都会での生活で無理をしていたのだ。人混みにストレスを感じ、都会の喧騒に飲まれ、人間関係にも疲れてしまっていた。それを無理して都会に居座り続けた俺は大バカ者かもしれない…。俺には都会は向いていなかったのだ。母や父が俺を止めたのは結果として正しかった。あの時言う事を聞いておけばよかったのかもしれない。しかし反発して家を出た自分の選択に後悔はない。ひどいことを両親に言ってしまったが、都会での生活、10年は良い経験だったと自分の中で割り切っている。


―あの日以来俺は都会からは離れ、実家で暮らしている。母さんの作る料理を食べ、本を読み、散歩したりぼーっとしてみたり、都会での生活を忘れるかのようにゆっくりとした日々を過ごしている。あの時の体験は何だったのだろう。考えてもわからない。それでも頭から離れない。蝉の鳴き声が五月蠅い。風鈴の鳴る音も、車が通る音も、俺を心配してくれている母の声も五月蠅い。あの場所なら静かなのに。あれは幻想だ、現実でのこれからを考えなきゃ。


             あの場所ならそんなこと考えずに済むのかな。




…やっぱり俺は本当の意味であの夢から帰ってこれていない。あの風景が素晴らしいものに思えてしまった自分がいるからだ。あの時は怖いものにも思えてしまったが、今は戻ってみたいとさえ、思っている。あんなものは幻で、実際の実家への道にはあんなものが見られるような景色は無かったのに。あの景色を探してふらふらと歩くことも増えてきてしまった。もうまともに生活できる状態じゃなくなってきている。

 君は今、自分がいる場所が本当に自分のいるべき場所なのかをちゃんと考えるんだ。限界を迎えてしまう前に。俺みたいになるな。これは警告だ。幻想に魅せられて魂が抜けてしまったように暮らしている俺のようには…





          ゼ ッ タ イ ニ ナ ル ナ。






 




















フフ、ごめんね。気づいた人もいるかもしれないけど途中から彼自身に話してもらっていたんだ。丁度僕の家に彼が来てくれてね!ああ彼はもう帰っていったけどね。お話、楽しんでもらえたかな!


 え?彼が来るのはおかしい?あんな状態の人がどうやってここに来たんだって?そもそもどうやってその話を聞いたのか?

…。


 あまり’’うわさ’’について深堀りしちゃだめだよ。うわさってのは、事実から薄まったり、色が変えられて耳に届く話のことなんだ。人に聞かれたくないことは薄めて、逆に目立たせたいものには色が付いて流れる。それを深堀りして解析して事実に逆戻りさせちゃったらさ、聞きたくなかったこと、聞いちゃいけないことまで聞くことになっちゃう。それを聞いてしまったらどうなるかわからない。だから話半分くらいで聞かなきゃダメなのさ。


 アレ?そういえば僕はどうやってこのうわさを知ったんだっけ…。思いだせないや。しかもさっき彼自身に話してもらっちゃったからこれはもう噂じゃないな…。事実そのものじゃないか。本当は噂だったはずの物の事実を全部聞いてしまった…。


…。


 事実を全部知ってしまった人達は気を付けたほうがいいかもね。あまり聞いてはいけない類の話だったかもしれないから。何が起こるかわからない。注意するに越したことは無い。



さて、それじゃあぼくもいまから



                    かえらなきゃ、ね。

                                           ~完~

語り手はこの後実家へ帰っていきました(⌒∇⌒)

読んで下さりありがとうございました!

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