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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学生スパイは最強幻術使い

作者: gaea


書いてる内に筆が乗りすぎてかなり長いことになっちゃいました。飽きないでくれると助かります










「………唐突だが、お前にはここを出ていってもらう」




「………はぇ?」








 〔イルージオ〕こと、この俺はテーブルを挟んで、その言葉を告げられた。



 これってもしかして、追放ってやつか?







「いやいやいやいや。待ってくれ!俺をこっから連れ出したら、どうなると思う!?この組織壊滅だぞ!!」






 組織《ホルム》。



 この国、《帝国アマンガルム》を裏から支える組織であり、俺が3歳ぐらいの頃から世話になってるところだ。



 ちなみに、今テーブルの向かいにいる男は〔モードン〕で、組織のリーダー。


 俺の育ての親的ポジションだ。





 で、その帝国の裏組織に拾われ、そのまま訓練兵として鍛えられ、今では俺を中心に組織を展開している節があったのに、それに、出ていってもらうって?



 おいおい、そんなことされたら堪らず『ざまぁ(?)』しちまうからな!?





「待ってくれ。よくわからない、よくわからないよモードン。アンタは俺に『出てけ』って言ったのか?」





「そんな直接的じゃない。今回は、調査依頼兼、提案だ」



「提案??」






 依頼と提案を同時に、と言うのは珍しい。



 それに『出てけ』が関連していくとなると………?






「今回の件は、長期的な作戦を視野に入れている。対象の区域は、ここだ」






 そう言いながら地図を広げて、ある一点を指す。




 そこは、《王都ムルブリンド》。


 帝国とも張り合えるほどの大国であり、それでいて隣国だ。






 ここまで大きい国は世界でも多くはない。



 なので、ここで裏組織がスパイなんて送り出したら、大国同士の戦争に発展しかねない。









「なんですか?いきなり。トチ狂ったんですかね?」



「そんなわけない。これは本気だ」



「事情聞かないと、僕は首を縦に振りませんからね」







 『しょうがない……』と首を振ると、渋々と言った感じで話し始めた。







「これは極秘事項だからあまり依頼受注前に言いたくなかったんだが………。ムルブリンドには、悪政を敷いている疑いがある」




「はぁ?国王が御乱心パーリーピーポー?」



「その通りだ。国王が御乱心パーリーピーポーしてしまい、悪政を取り始めたらしい。そこで、その確たる証拠を入手するため、お前にはムルブリンドに潜入してもらおうと思っている」





「それ、俺じゃないとダメなん?他に適任いるでしょ」








 そういうと、モードンはテキトーな紙を一枚とり、裏にスラスラと何かを書き始めた。





「これは、現国王の家系図だ。そして、その息子である次男の〔スレッグ〕はお前と同い年。知っているな?」





「そのぐらいはわかる。で?」



「お前は、ちょうど学生になるお年頃だな」



「…………その次男様も、学生になられるおつもりで?」




「そのつもりらしいぞ。お前のミッションは、スレッグ王子と友好的な関係を築き、悪政の証拠を握るためだ。いいな?よしいいな。出発の準備をしろぉ!!」








 と、言うわけで。



 スレッグ王子とお友達になるために、追い出されて学園に入学させられることとなりました。














 →→→→→









「はっははは!!よかったなぁイルージオ!!まさかお前が学生とは!!」








「イルージオ先輩、どんまいですよ。モードンさんのせいではなく皇帝様のせいですから」




「〔プリュー〕。皇帝様の所為にするのは違う。あっちのクソ国王のせいだと思うが………」






「おい!!プリュー、〔アルマス〕。なにお偉いさん方の悪口言ってるんだよ。聞こえたら首が飛ぶぞ」




「〔マーマーン〕先輩も、少しぐらいは愚痴あるでしょ?」



「それは………少し」








「お前ら!唐突に!!人の部屋上がり込んできて!!!なに騒いでんだあああぁぁぁぁ!!!!!」




「「「まぁまぁ」」」










 俺の世話係だったマーマーン先輩。


 筋骨隆々でいい体格をしているにも関わらず、目立ちにくく、明るく元気だ。


 どちらかと言うと真っ向勝負の方が得意だが、何故か暗殺が必要なこの組織に入っている。






 同期のアルマス。


 忍者のようなやつで、暗殺が得意だ。


 その所為か、人とコミュニケーションを取るのが苦手で、上から目線な態度をとることが多い。


 だが、生き残っている唯一の同期には嫌われたく無いからか、めちゃくちゃ言動には気をつけているらしい。






 俺が世話係をしている、後輩のプリュー。



 明るい陽キャだが射殺を得意としている。



 人との距離感が絶妙に上手く、組織に入って数日でほとんどのメンバーと連携が取れるようになっていた。


 男っぽい格好をしているのだが、実は女だ。


 それを知らないメンバーも実は多かったりする。








 この三人は俺に長期潜入調査が入ると連絡があると、すぐに部屋に上がり込んできた。






「寂しくてなっちまうからなぁ」


「アルマス先輩に世話係は移りますけど、イルージオ先輩はエースですからね」


「同期として、寂しそうだから会いにきてやったんだ」





 とは、それぞれ供述していたが、この中で最もまともなのはマーマーンだろうか。








「俺がいなくなったら、代わりに“()”の仕事はどうするんだよ!!俺じゃなくてアルマスにしろよ!!」



「お前が便利すぎるのが悪い。こっちなそれぞれの技術でなんとかしろって通達だし、そこら辺は安心しろ」








 もうコイツらに愚痴を言っても行かなければならないと言うのは変わらない。



 そんなことを、今更になって気づいた俺はしょうがなく出発の準備をし始めた。









「いつここを出るんですか?」




「残念ながら、入学試験はもう明々後日(しあさって)らしい。明日には出る」




「あらまぁ。試験勉強とかしなくて大丈夫です?」




「なるようになるさ」








 テキトーにそこらへんに置いてあった服や道具を詰めていく。




 今持っている、最新型の無限収納カバンはこれが容量の限界だ。







 背負うバッグみたいな感じで、重量は普通のバッグぐらいまで圧縮されるからそこまで違和感もない。






「じゃあ、今日で会うのが最後になるかもしれねぇんだし、今日は男同士で語り合おうじゃねぇかあ!!酒持って来い酒!!」


「明日出るっつってんだろうが!!酔わすな!!」






「男じゃないけど混ざりたいっスー!!」



「マーマーン、酒ならここに……!」









「お前らいいかげんにせぇやああぁぁぁ!!!!!」














 翌日、モードンがイルージオを迎えに来た時、イルージオの部屋には酔い潰れた四人が各自変なポージングで眠っていたという…………。























 →→→→→









「おい。おーーいっ!!起きろ!もう着いたんだぁっ!!!」



「んあぁ?あぁ、ゔーー………ああぁ…………」





 王都に着き、モードンに引っ叩かれて目を覚ます。





 もうすでに王城の中に入れたようで、二日酔い気味の俺の代わりに入国検査をしてくれていた。




「で……ぇえ?学園……?寮が……両で、量、了…………」





「学園の寮に行きたいのか?でも、まだ入学試験すらしてないから入れないぞ?でも、その前に……。お前の年齢で酒飲んでるのバレたら入学もできねぇ。まずは酔いを覚ませるところで落ち着くぞ……」



「おおおぉぉぉ…………」







 フラフラとした足取りで手近にあるベンチに辿り着き、力尽きたように寝転がる。




「宿、探しといてくれ………」




 未成年で酒を煽った弊害だろう。



 二日酔いでぶっ倒れた俺は、その日の記憶がない。






 まぁ、モードンが言うには、号泣しながら大声で愚痴を垂れていたらしい。



 俺って泣き上戸だったのか?













 →→→→→










 翌日。




 宿で酷い二日酔いを覚ました後、昨日はちょっとした試験勉強をしてから床に就いた。





 やはり王子が受ける学園なだけあり、試験問題はかなり難しい。




 まぁでも、組織ではもっと膨大な量の情報を暗記しないとダメだったり、古代文字よりも難解な暗号が使われてたりするからな。




 それを難なくできるように育てられたのだから、試験勉強はそこまで苦労するものでもなかった。




 だが、問題は実技試験だ。




 なんてったって、(自信過剰かもしれないが)俺は組織のエースだ。



 《ホルム》は帝国の敵対国にバレずに、あらゆる危険分子を排除する組織だ。




 その中のエースなのだから、実力は帝国でと超トップクラス。




 そんな男が、帝国と同等かそれ以下の武力(※組織調べ)である王国でチカラを振るってしまえば、それはもう話題にしかならないだろう。






 今回の任務は潜入捜査。




 話題になれば、怪しまれずに上層部の人間と接触できるだろうが、勘のいい奴や優秀なやつに当たって正体がバレる可能性も高い。






 だからと言って、わざと手を抜いて実力を下に見せれば、舐められて平穏な生活を送れるかもしれないが王子がそんな奴とつるむかどうか……。



 それに嘘をつくのは、バレた時の理由付けがしっかりしていないと絶対にスパイだとバレてしまう。






 まぁ、一回王子を見てからだな。



 今日中にどんな感じか見に行ってみるか。








「モードン、下見に行ってくる」



「あーはいはい。明日の朝には帰ってこいよ」



「保護者か」


「保護者みたいなもんだろう」











 →→→→→
















「私だ。開けてくれ」



「……承知しました」






 いやいやいや!!


 もう少し警戒しようぜ!!




 ただいま王族の執事長の変装をしてダメ元で王宮に潜入してみようと思ったのだが、まさかと成功。


 ちなみに、本物の執事長にはベッドですやすやしてもらっている。




 まぁ変装と言っても、俺が最も得意としている『幻術』だ。



 組織にいる時は、“幕”という仕事をしていた。




 “幕”というのは、バレないようにカモフラージュすること。



 俺がエースと呼ばれる理由はこれだ。





 いくら誰がヘマしたとしても、俺の幻術がある限り、幻聴に聞こえてしまい、幻覚が見えてしまい、全てにおいて疑心暗鬼になる。







 そんなことができるのが俺しかいないから、組織では重宝され、俺はエースだった。





 そんな幻術をフル活用しているのだから、バレる心配はほとんどない。




 まぁそれほどの実力の幻術であったわけだが、それでもあの警備はザルすぎる。







 あーするべきこーするべきと考えていると、いつの間にか俺は王子の部屋の窓にたどり着いていた。





 王子と侍女が話しているようだから、こっそりと聞き耳を立てる。






「スレッグ様、大丈夫でしょうか?」



「大丈夫、なるようになるさ」




 なんか、俺の言葉パクられてる?


 俺も後輩に同じようなこと言った気がするんだけど?





「ですが、心配です。王国随一の教育機関の筆記試験に加えて、実技試験では、冒険者筆頭だった最強の元SSS冒険者、戦闘民族から成り上がった貴族の娘、世界最強の種族の末裔………。他にも、どんな危険があるか、私には分かりかねます…………」





 待て待て待て。



 そんな情報、まだ俺集めてないぞ!





 もしかしてあの侍女、この俺よりも情報通だと……!?









「それでも、だよ。大丈夫。国の最高峰の頭脳を集めて勉強したし、騎士団長と互角に戦えるぐらいには強くなった」




 努力家だな、涙ぐましいものだ。





 人格的には、親が悪政を敷くとは思えないほど温厚、貴族平民関係なく分け隔てなく接することができるだろう。




 そういえば、その時は酔っていてよく覚えていないが、街でもかなり王子の心象は良かったはずだ。



 酔っててよく覚えてないけど。







 まぁ、こんなところだろう。



 ならば、無駄にチカラをひけらかさずとも接近できる。






 バレないように細心の注意を払いながら生活するとしよう。









 →→→→→














「それではスレッド様、私はこれにて。何かあればまたお申し付けください」




「わかった。ありがとう」






 専属メイドのように気を遣ってくる侍女が去っていった後、窓際をチラリと見る。




「…………気のせい、かな」








 その時は特に気にすることなく眠りについた。


 その違和感が何だったのかは後になってもわからない。




 でも、それが自身に牙を向くことはない………と、直感で信じた。





 僕の直感はよく当たる。大丈夫。







 そう思いながら気持ちを落ち着けて、王子は布団にくるまった。















 →→→→→










 時は流れ、入試当日となった。






「いいか?もう一度言うが、これは偽造身分証。見せびらかすと細かいところに目がいって、偽物だとバレるリスクがある。本当に重要な時以外、絶対に出さないこと」




「了解」






「そして、肝心の身分だが、お前は平民だ。出身は辺境の村、家名は無し、親は俺が父で、母は病弱で産んで間も無く死亡。父の名前は……〔モートマン〕とかにしておけ。名前は変えるか?」







「…………え?変えないのか?」



「何言ってんだ。父母の名前は変えなきゃ支障が出る。だが、家名がないなら名前もほとんど意味をなさないし、せっかくの学生生活を偽名で過ごさなきゃいけないのも苦痛だ。どうだ?変えるか?変えないか?」






 ………モードンのこの目。




 間違いない、これは『一度失敗している目』だ。







 モードンの悪い癖の一つだ。



 『一度失敗して最悪の結果を生んだ時、また同じことを繰り返したくない責任感から黒目が震えて唇の端が釣り上がる』という、俺が見つけた弱点。





 ………前回も、偽名を使わせて学園スパイをやってもらって、失敗したことがあったのだろう。






「……しょうがねぇ。名前はそのままでいいよ」



「別に不満なら変えてもいいんだぞ?」




「今、俺と()()のどっちが不満そうな顔か鏡で見比べてみな」





 そう言うと、モードンは少しムッとしながらも、どこか柔らかい目をした。




「じゃあ、お前の名前はそのまま〔イルージオ〕だ。王子が通う学校は《王都国立剣武魔術専門学園》だ。いけるな?」



「国立って言ってる割に、学園なんだな。そう言う場合って学校っていうもんじゃないっけ?」




「そこら辺はテキトーなんじゃないか?」


「そういうもんか」






「一応言っておくが、入試を受けた後は合否発表まで寮に仮入居できる。が、不合格だった場合は叩き出されるから覚悟しておけ」



「あー噂聞いたことあるわ。宿泊料取られるとか言ったっけ?」



「寮からではない。組織(ホルム)からだ」



「ひぇっ」






 え、この入試で不合格だったら俺、家族同然の奴から見捨てられるの?


 温情無さすぎない?





「だから………絶対に受かって、成功させろ。俺はお前が試験を受けている間に帰らねば次の任務に間に合わないから、もう出発する」



「……りょーかい」






 そう言うと、モードン(親父)が乗る馬車がやってきた。








「また会おう、イルージオ。定期連絡はするが、くれぐれもバレて殺されたりしないようにな」





「そんなヘマしねぇよ。俺ももう試験行くわ」




 そう言って、2人は背を向けて歩き出す。







 各々、自身が戦う地へと赴きながら………。













 →→→→→









「うおっほう……ここが試験会場かぁ………」





 王都国立武術・魔術専門学園の校門前に立ち、デカすぎる校舎を見上げる。



「え?なんて言うの?摩天楼?っていうか………」



「すっげぇ…こんなビルみたいな建物あるんだ………」




「びる?」





 左後ろから聞こえた()()()()()()単語に驚いて、反射的に聞いてしまったが、振り向いた先で今世紀最大の後悔をした。





「い、いや。なんでもないよ。ハハハハ…………この世界、ビルとか無いんだっけ(ボソボソッ)」




 振り向いた先では、スレッド王子がぶつぶつと1人で考え事をしながら校門をくぐろうとしていた。





 ……どうしようかな。


 真面目風を装って会うか、王子って知らない無礼者としてか、明るい好青年風か…………。




 2番目と3番目を合わせた感じで行ってみるとするか。






「ちょっとちょっと!!今のビルって単語なんだよ〜!!聞かせてくんねぇ?」




「い、いや。故郷にある建物のことだよ。めっちゃくちゃ高いんだ」



「ほえぇ〜。ちなみに、どこ出身なんだ?」



「………そんなすごいとこじゃ無いヨォ〜」





 ホラ吹きやがって。


 ホントは『王国生まれ、王国育ちの純王国貴族の生まれですぅ〜』って自慢できる立ち位置なのにな。







「ま、お互い試験がんばろーな!」


「うっ、うん!!ガンバロー!」





 侍女には自信満々だったのに、緊張しいな。



 アレが本来の性格なのか?







 少々考察しながら、校門をくぐって自身の試験会場に向かった。







 →→→→→













 なんだったんや、今の筆記試験。





 なんというか………基礎の基礎をちょっとおさらいしましょー、ぐらいの難易度だったぞ!?





 こんなんでいいのかよ王都国立……。







 いやまぁ、これから学んでいくんだから魔術の応用まで知ってたらおかしいのか?



 幻術張ってチラッとカンニングしてみたけど、みんな苦戦してるみたいだったしなぁ……。





 あーまずいまずい。


 これ本気で問題解いてたら、いきなりすげぇ扱いされて特進とか飛び級とかによって、王子と離されるかもしれなかった。





 やっぱり手を抜いておかないと何が起きるかわかったもんじゃない。






 次は実技試験だ。




 盗み聞きした侍女さんの話だと、冒険者ランク最高のSSSを持つ男、元戦闘民族の貴族、世界最強種の男。





 うへぇ、なんというか………。





 伝説の主人公張りの称号を持つ奴らばっかじゃねぇか。





 SSSランクは言わずもがな。

 戦闘民族から貴族は前例にない遥かな偉業。

 世界最強種と呼ばれる人種の《黒岩(アダマン)竜幻種(ドラゴニュート)》。







 いやはや、ワンチャン会うかもとは思っていたが、まさかこんなにすぐに俺と対等に戦えてしまう数少ない王国民がここにきているとは。






「存分に気をつけないとだねぇ〜、イルージオ。寝首かかれちゃうかもよ?」



「ほんとな。現にかかれるかと思ったよ」








 誰ともわからぬ女子にいきなりバックハグをされたが、一瞬でそんな甘いものではないと悟る。




 談笑しているかのようにさらっと話していたが、実際は違う。



 今の数瞬、互いに自身の脳内で殺し殺されてからこの会話に辿り着いた。



 その脳内での出来事、実に約0.8秒である。







「久しぶりだな、会えて嬉しいよ。例の元SSSランク冒険者ってのはお前か?〔エミル〕」



「いやはや、そんな噂されるほど有名だと思う?そうだけど」





「なんだエミルかよ……警戒する必要なかったのか?」




「ざんね〜ん。可愛い可愛いエミルちゃんの他にも、SSS冒険者はいるよ?」






 元SSSランク冒険者であり、俺の旧友、エミルは試験会場のど真ん中を指差した。




 その指の先には、小さくて高価な装備を纏った、軽装の集団だ。



「アイツら見える?アレ、私のパーティ」



「うへぇ。パーティできたのかよお前」



「パーティで受けにきたんじゃなくて、パーティのほとんどが受けるから強制的にね」



「いやだぁ………」









 エミルとは昔馴染みであり、冒険者という職業柄か、組織とも少ない交流があった。




 だが、エミルがパーティに入ってからと言うもの、あまりそういった行動を警察に取れず、今まで連絡が取れずにいた。






 まぁ、無事なようで何よりだ。









『では、これより第二次試験。実技試験を始める』




 厳格な声による放送が聞こえ、あたりは静まり返る。






『今年の実技試験は、各個人による競い合い……。脱落は死、または気絶、降参、戦闘不能である。定員である300人の内に残ることができれば試験は合格だ。後衛職希望の者は協力しても良いものとする』






 なんというか……脱落の基準がすげぇ訴えられそうだな。




 あ、そういえばモートマンからもらった書類の中に『入試に関わる命の危機に一切の責任を〜』って契約書があったな。





 流石に命掛けてこの学校行こうと思わなぇんだけど………。






 まぁ、人を殺さない程度に、だな。





 俺が得意としているのは『幻術』であって『魔術』じゃないし。



 攻撃手段もかなり限られてくるんだけどさ。






「んじゃあ、私、そろそろパーティの方戻らないと。互いにがんばろーね!」




 エミルは快活にニッと笑うと、そのまま自身のパーティに戻っていった。






 やれやれ、エミルにもあー言われたことだし、まぁぼちぼち頑張りましょーっと。






 欠伸をしながら、イルージオは幻術の中に消えていった。















 →→→→→








『各受験者、配置についたか?』





 支給されたバッジをトントン、と2回叩く。





 支給されたこのバッジは学園が用意した特殊なバッジであり、位置情報共有、タップ一回で現状生き残りメンバー表示、タップ二回で本部への報告、タップ五回でリタイアだ。





 ちなみに、支給時に自身の指紋を登録するので、勝手にタップされてリタイアさせられる心配はない。







『全受験者からの信号を受け取った。これより、第二次試験を開始する』








 プァーッ!



 トランペットのような音により開始される。






 試験会場は学園が用意した荒れ果てた市街地。




 煉瓦造りの建物はところどころ欠けていて、崩れている建物もあった。




 テーマとしては戦争中ではないだろうか。









 物騒なものだと思いながら、フラリと背後を振り向くと、そこではちょうど魔法が放たれるところだった。




 俺に向かって、爆発しそうな火球がまっすぐ飛んできていた。





 《幻術》を使ってもいいのだけれど、《幻術使い》はかなり珍しい。




 なんと言ったって、《幻術》よりも《魔術》の方が使い勝手がいいからね。



 好きこのんで《幻術》を使うやつは少ない。




 さっき見つけたが、監視カメラによって戦闘風景は記録されている。






 ここで《幻術》を使えば好奇心の的になりかねない。



 ので…………。













「失礼するよぉ………」





 両手の10指からそれぞれ()()()()を出す。








 それは俺に当たる前に火球を爆発させて、目眩しをさせた。



「!?やったのか?でも、着弾するのが早かった気が………」



 自身の10指から出たあるものは、迂回して術師の背後に回り、術師を縛る。





「………っうわ!!なんだこれ!!硬い………糸?」







 そう、糸である。




 この世界では、まだ操糸術は実用化されていない。





 彼が作り出した特別な手法。




 しかし、細く硬い糸のため、監視カメラには映らない。




 よって、当事者以外には糸が見えず、《魔術》の使用によるサイコキネシス的なものであると結論づけられてしまう。



 これにより、彼は目立つことなく試験に参加できるわけだ。





 まぁ、当事者には光の加減によっては糸だとバレてしまうのだが、そこは気づかれる前にやってしまえば問題なかろう。



「なんだこの糸……!!」



「君の身体、少し借りるよ」





 体の各所に糸を張り巡らせ、襲撃してきた魔術師を操り人形のように操れるようにする。





「おい!こんなことして、反則にならないとでも……っ!!」



 術師の口を縫い合わせられて、言葉は中断される。




「じゃ、俺は《幻術》を使わずに隠れるかぁ」




 うまいこと隠れ、微動だにしない魔術師に寄り付く奴らを待つ。










 捉えた魔術師は今、大通りのど真ん中に突っ立っている。





 そこに王子がやってきた。




(王子か………。糸で相手すべきか、魔術師を操って相手してやるか…………)






 そう考えていると、王子は魔術師に近づき、咄嗟に一言つぶやいた。











「この世界にもあるんだな……操糸術」






 『操糸術』。


 その単語を聞いたその瞬間、イルージオから殺意が漏れる。





 ……おっとまずい。


 落ち着いて深呼吸し、心を落ち着かせる。





 待て待て。


 今回の任務は王都の悪政を摘発するための潜入調査。




 こんなところで慌てるわけにはいかないんだ……。





 →→→→→















 僕の名前は、府入 明(ふいる あきら)




 名前の通り日本人だし、社会の中で人として当たり前のことをやってきた。




 人助け、勉強、部活、運動、恋愛………。





 一つ一つ達成するごとに得られる達成感が心地よくて、献身を忘れずに人生を楽しく励んで行った。






 だが、15歳のとある日のことである。




 正月、お爺ちゃんとお婆ちゃんの手伝いをしていたら綺麗なほど転んでしまいまして。


 そのままトラクターに轢かれて、綺麗な血飛沫をあげて細切れになりまして。






 何やら僕は現代世界では珍しいほど勤勉な者であったため、融通してくれて記憶を保持したまま来世を楽しめることになった。





 来世は〔スレッド〕王子として生きていけるらしい。





 2回目の子供を体験するのは恐怖を感じだが、まぁ慣れるしかなかった。





 そしてこの年、ようやく15歳になった。



 この世界の物理法則は元の世界の物理法則と全く違ったから、この試験勉強は大変だった。




 元の世界と合わせて30年分の情報が詰まっているわけだから、もう頭がパンクしそうだ。


 だが、ピチピチの15歳がこんな弱音を言うとなんか怪しまれそうだから黙っていた。




 筆記試験は頑張って解いてみたが、正直自信はない。





 さらに言えば実技試験なんて、もうできるものでもない。


 だって現代体育のレベルを遥かに超えた魔術。



 圧倒的な膂力による拳術。



 もう人生終わりだと思ってたよ。









 まぁでも、この身体若いし。


 この15年は堕落せずに生きてきた。





 戦闘、魔法、勉強。



 何においても王子と言われても恥じない様に、素晴らしい成長をしたと思う。





 それに、元の世界の知識が役立つ時だってある。



 今回の実技試験だって、今僕の知識が役に立とうとしている。







(この技………)






「この世界にもあるんだな……『操糸術』」





 その瞬間に起きた、背筋が凍る殺気。



 どこから出たのかはわからない。



 だが一瞬、敵に回してはいけない者を敵に回す手前まで行った気がする。






 たまに元の世界の言葉を喋って周囲を困らせてしまうから、なるべく言わない様にしていたのだが……。





 目の前にいる魔術師を操っている何者かがそれを聞いていたのだろう。


 糸に縛られた魔術師を警戒していると、その背後から、ジリジリと何者かがやってくる気配がした。




 奇襲の気配がしたため、隠れて隙をつく。



 多分今来ているのはこの魔術師の操り主だ。





(ここで倒せば2人一気に脱落させられる……っ!!)


 その思考に入ってからは早かった。





「…………っ!もらった!!」



「!?ぐぁっ……」


 見つけた隙をすかさず突き、回り込んで背後から切りつける。




 さすがに王子が自国民を殺すことはしない。


 峰打ちで気絶させてもらった。





 そこで油断し切った瞬間、王子の背後にいた、操糸術にかかっていた魔術師が動いた。









 →→→→→










 糸で操られた魔術師の攻撃を、王子は間一髪でいなし、体を捻りながら脇腹に反撃する。






 なるほど、戦闘面も一般人よりかはマシなようだ。





 『操糸術』について知っていることがあったのは驚きだったが、王子がどこまで知っているのかもわからない。




 ここは諦めて、王子と戦うのは無しにしよう。








 そう思い、魔術師を放置して、一瞬の《幻術》により監視カメラがないところまで退避した。







 それから数十分後、実技試験は終了した。



 王子は操糸術の使い手が誰かわからず、ちょっとモヤモヤしながらも合格していた。




 イルージオも、《幻術》を最低限の使用に控えて合格していた。















 →→→→→








「って感じだな。他に報告した方がいいことあるか?」




「いや、大丈夫だ。よくやったな」




「りょーかい。それでは、これで定時連絡を終了する」



 腕に取り付けられたデバイスで連絡を終了した。




 希望の通り、俺は合格。



 王子もエミルも合格していた。







 正直、正体を知っているエミルが合格するのはちょっとどうかと思っているが、エミルには協力してもらうということで話がついている。





 他に正体を知っている奴はいないため、俺がヘマをしなければバレるリスクは無いだろう。









 正式に居住できた寮の団らんスペースの隅っこから連絡し終え、自室に戻ろうとすると、廊下の途中で人だかりができていた。






 断片的に聞こえてくる単語から推測して、話題の中心は王子っぽいな。






「王子!!俺だ!!入学試験で一緒に戦った〔アスティアン〕様だ!!互いにいい戦いだったな!!」


「王子様ぁ〜♡♡お願いですぅ、私と結婚してくださいぃ♡♡」




 うん、アイツらの目、$マークになってやがる。




 完全に守銭奴、多分親からの入れ知恵で出世のために仲良くなろうって魂胆のやつが大半だ。





 これに対して王子は、気づいているが言い出しにくいって顔してやがる。



 まぁ、臆病なところも愛嬌ってことで、王宮じゃ許されちまうのかもな。




 ま、ここは助け舟が必要そうな場面だな。










「あっ!!王子じゃ〜ん!!おひさぁ!!」




 旧友()()()()で接触を試みる。







「え、俺たち会ったことな………」




「(はなし、合わせて。おけ?)」



(………コクリ)







「いつ以来だっけ?入学試験で会ってた?俺見つけられなかったんだけどー!!」


「え、えー?俺は、見つけられてたけどなー?」







 …………コイツ、大根だ!!




 非常にまずい!!


 想像以上に演技が下手だ………。



 と、とりあえずこの場を切り抜けなければ……っ!!




「積もる話もあるだろ?どうだ?俺の部屋きて昔話でもしようぜ?」



「そうだな、お前の、部屋、ドコ、ナンダ??」




 カタコトすぎだ!!王子馬鹿野郎!!!



「あっちだあっちだ!!さぁ行くぞ!!」









「あっ!ちょっとぉ!!王子の昔の頃の話聞かせてくれよ!!」


「あぁ〜♡王子様の過去……教えてくださいましぃ〜♡♡」





 チッ、着いてくんなやあぁ!!!!














 →→→→→














「はあぁ、はあぁ、はあぁ、はあぁ」




「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございます?」



「いえいえ、王子殿。この国の未来を担う御方であれば、この忠誠心は王国民の義務であると考えております(自分は帝国人だけど)」




 跪いて服従のポーズをする。





「いえいえ。僕がこの国の未来を担うことはありません。お父様に嫌われていますから………」



「………?」




 一時期噂されていたスレッド王子と国王の不仲説のことか?



 結局何かしらのすれ違いでちょっとギスギスしていただけだって聞いていたが…………。



 それが実はまだ不仲でしたと考えると、ちょいと懸念点が出てきてしまう………。





「いえ、忘れてください。そうだ、お礼をしたいので、お名前をお聞かせ願えますか?とても優しく強き王国民さん?」




「イルージオと申します。これからよろしくお願いいたします」




「はっはっは、堅すぎるよ。僕はスレッド、ご存知の通り、王子だよ」










 これが、次期国王と最強のスパイ。



 超仲良しコンビができるきっかけだった。





















書いてる途中に連載出来そうになったので、評価が付けばこの先書こうかなーって考えてます。



評価、感想、誤字脱字

よろしくお願いいたします



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