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世界史の教科書には宇宙人も超古代文明も載っていない  作者: 喜多里夫


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第22話 謎の店員

 3月。


 後期の期末考査も終わり、令和28年度ももうすぐ終わりである。


   ◇


 ユキはいよいよ明後日に迫った国防軍の新型ミサイル実験に興奮してソラに一席ぶっていた。


 ソラは黙って聞いていたがそのうちトイレに立ち、ユキが一人になったのを見計らっていたかのように、またあの店員が現れた。


 そして、ユキの側に寄ってきて、


「お客様、本日は都合により午後8時で閉店させていただきます」


と、丁寧に言って、頭を下げた。


 しかし、ユキはその時ちょっとゾクッとした。


 店員の声は小さかったが、大げさに言えば何気(なにげ)に殺気のようなものを感じたからだ。


 気がついたら自分たち以外に店内にお客は見当たらない。妙にだだっ広く感じられる店内に店員の声が響いて、小声だけにかえって不気味に感じられた。


 ユキは、


「あ、すみません、友だち、今、トイレに行ってるんで」


と、言った。


 店員は、


「はい」


と言ったが、今度はユキの側をまるでつきまとうようにして離れようとしなかった。


 うわっ、今度は何だろう?


 ユキは困った。どうしたものだろう。


 そして、この店員は少し間を置いて、


「……ところで、お客様」


と、ユキに話しかけてきた。


 今までで、こんなことは初めてだ。


 今までこの店員はユキとソラが話しているところに、自分の発言を滑り込ませてきたようなものだったが、今は違う。


 自分の方からユキに、ユキだけに積極的に話しかけてくる。


「はい?」


と、何ごとかと(いぶか)るユキ。


「本来、地球は私たちのものなんですよ」


と、その店員は口にした。


 いきなり何を言い出すのか。


 何、この人、いきなり。困ったな。相手にしない方がいいのかな?


 ユキは返事に困ったが、小声でこれだけ言った。


「それって、どういうこと?」


 すると、店員はすぐにまた小声で、


「私たちこそ本当の地球人ということ」


と、答えた。


「地球人って?」


 いきなりこんな単語がこんな場面で出てくるなんて、ユキは想定していない。そんなことはおかまいなしで、


「私たちは今から20万年前まで、あなたたち人類より以前から地球に住んでいたのよ。でも、20万年前、この太陽系で起こった星間戦争により、火星から地球に侵略してきたホモ・サピエンスによって海中に追いやられてしまったの……ホモ・サピエンスは、今では自分たちが地球人だと思っているけれど、本当は異星人、侵略者なのよ」


 やばい、とユキは思った。


 この店員さん、ちょっと変な人かも。


 まさか、本当のことではないよね。


「ふ、ふ、ふ……まさか、信じられないっていうふうな顔をしていますね」


 店員は妙に甲高い声で笑うと、ユキの顔を眺めながら言った。


 ユキは背筋がゾクッとした。


 いかにも不気味な感じがしたからだ。


 それでも何とか声を絞り出した。


「私たちが地球の侵略者ですって?」


「……」


 店員は、今度は黙ってうなずいた。


 その手の話は『モー』などを読んで多少は慣れているはずのユキでも、実際に面と向かっていきなりそう言われると、頭がクラクラしてきた。


「まさか、まさか……」


 信じられない、と言おうとした前に、店員はたたみかけるように言う。


「本当のことです」


 ユキはかろうじて、声を絞り出して尋ねた。


「あなたは地球の先住民なの?」


「……」


 店員はまた黙ってうなずいた。


「私たち人類より先に未知の地球人がいたなんて……というか、私たちの祖先は侵略者? そんなバカな。信じられない」


 店員に、いきなり思いがけないことを言われて、ユキの頭は混乱していた。


 そこへトイレから戻ってきたソラが何もこのやりとりを知らずに声をかけた。おそらく、ユキと店員の間の妙な雰囲気は感じたのだろう。


「ユキちゃん、どうしたの?」


 はっと我に返ったユキは、店員を指差しながら大声を上げた。


「ソラ君! あの店員さんが、あの店員さんが!」


 とりあえず、そう言うのがやっとだった。


「店員さんがどうかしたの?」


と、ソラが怪訝(けげん)な顔をする。


「自分たちは地球の先住民で、私たち人類は侵略者だって言うのよ!」


 途端にソラの顔に緊張が走った。


 ユキはソラのこんな顔を今まで見たことがなかった。


「ちぇっ、やっぱりそうか!」


 ソラは素早くユキと店員との間に割って入り、店員と向き合った。


「ソラ君、何をする気?」


 ユキの声を無視して、ソラは店員に対して言う。


「店員さん、あなた、モンマルトの地上工作員ですよね?」


 モンマルト? 何、それ?


 ところがそこで、店員もユキが今まで彼女からは聞いたことの無いような大声を上げた。


「なんですって! どうしてそれを……そう言うあなたは?」


 店員は一瞬、驚愕(きょうがく)したようだったが、すぐにソラに向かって尋ねた。


「僕は……」


 ソラはユキの方を見て一瞬ためらったようだったが、すぐに胸を張ってはっきりとした声でゆっくりと答えた。


「僕は、地球から3万5,400光年離れた球状星団M91ハンター星系から派遣されている地球監視員です」


 一瞬、ユキはますます何のことだかわけがわからなくなった。


「ちょっと、ソラ君、何わけのわからないこと言ってんのよ!」


 わけがわかるはずがない。自分のクラスメイトが、実は地球人ではない、異星人だと名乗っているのだから。


「ユキちゃん、悪いけど、ちょっと黙ってて」


 ソラは右腕をユキの前へ突き出して、今にも店員につかみかからんとするユキを押しとどめる姿勢をとった。


 店員はすぐに驚愕の表情を消し、つとめて冷静さを保とうとするかのように言った。


「ハンター星系の地球監視員!……それは奇遇(きぐう)ですね……いかにも、私は地球先住民パイラの地上工作員7号。それにしても監視員さん、とっても上手に地球人に変身したわね」


 そして、ユキの方を指差して軽蔑するような眼差(まなざ)しで言った。


「あなたたちから見れば、こんな下等で醜い生物に化けるなんて、プライドが傷つきませんでした?」


 いきなり店員から、「下等で醜い」などと言われたユキは、ソラの後ろから、


「下等で醜いって、何よっ!」


と言い返す。


 すると、7号はますますユキを蔑むような目で見て、


「まあ、その歯をむき出して怒った顔。まるで、ゴリラかチンパンジーみたい」


「キ~ッ!」


 その言葉を聞いたユキは頭に血が上る。まるで本物のゴリラかチンパンジーのようだ。


「ユキちゃん、相手の挑発に乗っちゃだめだよ」


 ソラはユキを右手で制して冷静に言った。


「言いたいことはそれだけかい? 今はこうして、地球人の姿を借りているけれど、なかなか快適だよ……工作員7号、君たちが監視委員会に無許可で地上に出るなんて、これは明らかに停戦協定違反だ」


 しかし、7号は悪びれずにユキを指差して言った。


「何を言うかと思えば……停戦協定に違反してるのは、はっきり言って、この人たちの方ですよ」


「何を馬鹿なことを言ってるんだ」


 ソラは言い返すが、7号も負けじと喋る。


「本当の馬鹿はどちらでしょうか? いいですか、過去に両者間で結ばれた停戦協定では、この太陽系第三惑星の地上はホモ・サピエンスのもの、海中はモンマルトのものと定められました……ところが、最近のホモ・サピエンスは何をやってるの? 私たちの大切な海をゴミや放射能で好き放題汚染し、とうとう新型兵器の実験まで……南鳥島近海には、私たちの、私の故郷である海底都市があるのよ。もう我慢の限界よ!」


 ユキには工作員7号と名乗る店員の喋る言葉の内容も、その時には理解できなかった。


「も~っ、何言ってるの? ホント、意味わかんない!」


 そんなユキに、ソラは静かに諭すように言った。


「ユキちゃん……僕の生まれ故郷M91星団では、地球人のことを『モンマルト』って呼んでいるんだ。それはどういう意味だかわかる?……もともと地球に住んでいたのは、この人たち、モンマルトっていう種族なんだよ」


そう言うと、ソラは火星と地球の歴史を語り始めた。

お読みいただきありがとうございます。

少しでも興味を持っていただけましたならば、作者の励みになりますので是非とも【ブックマーク】【評価】や感想をお願いいたします。

それでは引き続き、よろしくお願い申し上げます。

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