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こちら、勇者救出部隊

小古瀬 将

作者: 一条柊

一四○三、事件発生。小古瀬さんちのショウ君が誘拐された。至急出動準備せよ。繰り返す。至急出動準備せよ。また、本件容疑者は、異世界番号○○四である。前出動時第一時通告済みにより、今出動時にて救出とともに最終通告せよ。繰り返す。救出と合わせて最終通告せよ。本件タイムリミットは、110分である。繰り返す。タイムリミットは110分である。転移開始まで、残り119秒。至急準備せよ。




一瞬の驚きの後、俺はすぐに理解した。目の前には、シャンとした姿をした王冠を被ったおっさんと、きつめの顔立ちのおばさん、その隣にデブのブスが豪華な椅子に座って俺を見据えていた。周りには、鎧を身につけた近衛兵っぽいのが並んでいる。おっさんとおばさんとデブを睨んでいたら、デブが俺に向かって何かわめいてきた。興奮しているようだが、豚語で何か言われても俺は理解できない。人の言葉で話してくれ。俺が何も答えないのに腹が立ったのか、豚が何かおっさんに言った。そこで初めて、おっさんが俺に向かって勇者がどうたら、国を救ってくれだか、娘の婿にだか、喋りだした。はっ!ふざけんな!なんで、俺がそんなことをしなくちゃならない?勝手に人を勇者召喚で召喚しておいて、自分達の要求を話し出す。厚顔無恥も甚だしい。なぜ、コイツらは当たり前のように自分達の要求が通ると思っているのだろう。コイツらのような屑どもが、俺の友達をあんなにしたのだと思うと、怒りが込み上げてくる。昨日まで笑って遊んでいたのに、突然会えなくなった友達。数ヶ月して、やっと会えた彼女は別人になっていた。何があったかは聞けなかった。ただ、彼女は勇者召喚で異世界に誘拐されていたらしい。そこで、人格が変わるほどの苦痛を与えられたようだと、父さんと母さんが話しているのを聞いた。ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!返せ!彼女を返せ!俺の友達を返せ!クソみたいなことを永遠と話続けるおっさんに俺の我慢の限界がきた。死にたくないなら、歯向かうことはしないで、勇者救出部隊がくるのを待つのが最善と頭では分かってる。でも、心は納得できなかった。ベラベラ喋り続けるおっさんの言葉をぶったぎって、怒りを、怨みを、憎しみを込めて俺は歯向かった。



現場より緊急要請!緊急要請!座標11.67。座標11.67。蘇生班!至急派遣願います!繰り返す。蘇生班、至急派遣願います!



いってぇ。身体中が痛く痛くて、動けねぇ。容赦なくボロッボロッにされて、頭がうまく働かない。たぶん、熱があるんだろう。ぼんやりする。でも、気分は悪くない。あの豚の真っ赤になった顔を思い出すだけで、スカッとする。わたくしの奴隷になれば、助けてあげなくもないわよ?オマエのような綺麗なのが欲しかったの。さあ、私の足を触れる許可を出すから跪いて、誓いなさい?だったか?頭沸いてる豚に、言葉の変わりに唾を吐いて答えてやったら、怒りだした。唾を吐かれたことよりも、自分の思い通りにならないことが心底、気に入らなかったらしい。はははっ!ザマァみろ!誰がオマエらなんかの言いなりになるか!たとえ、どんなに痛めつけられても、俺は自分の意思を曲げない。その事でどんどん命が削られているのは、分かってる。生きたいなら、死にたくないなら従うのが正しい。でも、彼女の、友達の姿が頭をよぎるたびに、生への執着よりも激しい怒りが燃え上がる。たとえ、ここで俺が死んだとしても、アイツらの思い通りになるものか。アイツらの望みをひとつたりとも叶えてなるものか。誰も幸せにならない、誰も望んでいない俺の意地。でも、譲れない意地。友達が苦しんでいた時、俺は何も知らないでバカみたいに遊んでた。友達が苦しんでいたのに、助けられなかった。彼女を助けられなかった。どう足掻いても、俺が彼女を助けることなんて出来なかったのはわかってる。でも、彼女を助けたかった。傷ついて欲しくなかった。ずっと笑っていて欲しかった。こんなことをしても、何にもならないって分かってる。でも、どうしても、曲げられない。俺が死ぬのが先か、アイツらが駆除されるのが先か。さぁ、我慢比べだ。もし、俺が負けたとしても、オマエらが待ってるのは地獄だけだ。




現場より報告。ショウ君発見するも、死亡を確認。総員、帰還します。


現場からの報告に、勇者救出部隊、本部基地司令部では沈黙が落ちた。異世界へと子供たちが誘拐されるのは、この村にとっては日常である。しかし、誘拐された子供の救助が間に合わず、亡骸を回収し帰還するという最悪の事態は、ここ数年起こっていなかった。生きているのが不思議なぐらい酷い傷や、もう正気に戻れないと思えるぐらい狂ってしまった子を連れて帰ってくることはあった。痛ましいことに、そんなことは少なくないが、みな息をしていた。命は助かっていた。どんなに酷い傷でも、どんなに狂ってしまっていても、生きていさえすれば、治療することができる。勇者救出部隊のこれまでの研究、技術、実験など全ての英知を集結して完治させてきた。しかし、死んでしまっては、どうすることもできない。蘇生技術については、死後一時間までは蘇生することに成功しているが、それも限られた状況下で特殊な状態のみである。研究員たちも完全な死者の蘇生については、神の領域であり人間には不可能だと結論がでていた。つまり、死んでしまってはどうすることもできない。帰還した隊員たちは、憤怒にかられていた。司令部本部の隊員たちも、彼らが抱え連れて帰ってきた亡骸を目にし、現場隊員たちの憤怒を正しく理解した。そして、報告を受けた時よりも、怒りを燃え上がらせた。無残だった。尊厳を踏みにじられた酷い姿だった。とても、そのままでは家族に帰せる状態ではなかった。それほどまでに、悲惨であった。嘆いている、悲しんでいる暇はない。我々は勇者救出部隊。散ってしまった命を無駄にはしない。これより、報復部隊編成を行う。我々は決して、異世界人を許しはしない。

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