七味とお父さんと私
こちらは柴野いずみ様主催「スパイス祭り」参加作品です。
私の名前は朝倉七美。
某大学に通う学生で、今2年生です。
私にはコンプレックスがあります。
もうお気づきかも知れませんが。
そう、私の名前です。
初めての人はこの名前を見たら必ず「ななみ」と読みます。
初めてでない人でも。「ななみちゃん、おひさぁ〜」といいます。
どうしてこのような名前をつけたかと言うと。
お父さんが七味が大好きなのです。
私が「どういう理由でそういう名前をつけたの?」と聞くと。
「人生にはスパイスが必要だろう」
と、わけのわからない答えが返ってきました。
さすがに「七味」とするのはまずいと思ったのか。
「七美」となったのは不幸中の幸いだと言ったらいいのか。
お父さんは「七味」とつけようとしたらしいのですが。
お母さんが全力で止めたらしいです。(グッジョブ)
でも私はこの名前が嫌いと言うわけではありません。
しかし。
小さい頃から「ななちゃん」だとか「なーちゃん」とか「セブン」とか。
私の名前の文字がひとつも使われていないニックネーム。
「ケイコ」さんなら「けいちゃん」
「ミレイ」さんなら「みっちゃん」
「チエミ」さんなら「ちーちゃん」
「シチミ」のいったいどこに「な」がついているのだ。
それに。
「しち」というのは言いにくい。小さい頃ならなおさらだ。
「しゅち」になってしまう。
お友達も気を遣ってか、私の名前を一生懸命に呼ぶのですが。
「しゅちみちゃん」となってしまいます。
そんなお友達をかわいそうに思っていました。
今となっては昔の思い出のひとコマに過ぎなかったのですが。
満面の笑みで七味を振り掛けるお父さんを見ていると。
だんだん腹が立ってきました。
それで、お父さんに仕返しをすることにしました。
そして調味料の七味の入れ物の中に一味をいれて。
「お父さんに七味じゃなくて一味を食べさせよう作戦」
を、決行することにしたのです。
しかし。
「これは一味じゃないか!」
あっさりバレてしまいました。
どうやらお父さんの七味好きは本物のようです。
なので作戦変更です。
「七味」の中に「一味」を7対3の割合で混ぜてみました。
もちろん、3が「一味」です。
それでもバレてしまいました。
むむ、恐るべし七味好き。
それならと。9対1にしてもやっぱりバレてしまいました。
「くそぅお父さんの七味好きをナメてた」
そして七味ついていろいろ調べることにしました。
七味は一味に他の香辛料を混ぜて作られる調味料です。
一味は、文字通り一種類の唐辛子が原料となっている調味料で、赤唐辛子の実を乾燥させてすりつぶし、粉末にして作られます。
七味は、一味に山椒、麻の実、ケシの実、白ごま、黒ごま、陳皮、紫蘇、青のりなどをブレンドしてつくられます。七味は辛いだけではなくコクがあり、クセも少なく万能調味料として幅広く使われているのです。
「ふむふむ、なるほど。七味は一味にいろいろ混ぜて作るのか。確かにクセはないし、いろいろな料理にも合うなぁ。これが山椒や胡椒なら結構好き嫌いがハッキリ分かれるかもしれないわね」
自分の研究結果に満足し、そして七味の良さをも知る事となった七美でした。
しかぁ〜し! それはそれ、これはこれなのだ!!
「お父さんに七味じゃなくて一味を食べさせよう作戦」を諦めるわけにはいきません。
うんうんと考えて。
ぴこん!
いいアイディアが浮かびました。
「よしこれらを使って自分で作ろう」
七美が何を考えたかと言うと自分で作って、一味を七味のように見せかけて食べさせようとする作戦です。
名付けて!!
「一味を七味のように見せかけて食べさせよう作戦」
そのまんまである。
はじめに普通の、ごく普通の一味を買いに行きました。
それから他の材料買いに行きましたが、それは大変でした。
それはそれは大変でした。
本当に大変でした。
陳皮なんて中国まで買いに行ったくらいです。
(嘘です、それぐらい大変だったという事です)
カン カン カン
七美が何をやっているのかというと、これから作るものの道具を作っているのでした。
底の深いフライパンにきっちりはまるような金網を作っているのです。
そう。スモークサーモンを作る要領で、一味を燻製にしようとしているのです。
「よぉしできた」
どうやら完成したようです。
「あとは」
ぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつ
今度は何をやっているのかというと。
耐熱用のクッキングシートに針でたくさん穴を開けているのです。
「よし、これで一味に味が染み込み易くなったな」
どうやらこのクッキングシートに一味を包み込むようです。
トントントントントントントントントントン
ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごり
材料を細かく刻みはじめました。
葉物は包丁を使ってきざみ、山椒や胡麻はすりこぎを使って細かくします。
この作業も大変でした。とぉーっても大変でした。
もうね、腕が上がりません。
しかし諦めるわけにはいきません。
「頑張れ私」
「負けるな私」
「よし!」
「がんばるぞー」
コトコトコトコト
フライパンに少し水を入れ、細かく刻んだ材料も入れてコトコトと弱火で煮詰めて、ゆっくりかき混ぜています。
何だかいい臭いが立ち込め始めました。
「クッキングシートに一味を入れて包もう」
先ほど作った金網をフライパンにはめて、穴を開けたクッキングシートに一味を包み込み、そっとその金網の上に置きました。
「♪ふふん ♪ふふん」
今までが物凄く大変だったので、やっと終わりが近づいてきてご機嫌な七美でした。
「これくらいでいいかな」
どうやら出来たようです。
一味をペロっと味見をしてみました。
「うん、わからん」
どうやら七美には違いがわからないようでした。
「これを、きれいに洗った七味の瓶に入れて、と」
七美は左手を腰に当て、七味(に見せかけた)瓶を持った右手を高く上げて。
「やったぁぁぁぁかんせぇぇーーーーー!!」
物凄く、本当に物凄く大変だったので、感極まって叫んでしまいました。
ーーー作戦決行当日
「ふっふっふっ みてろよ」
七美は作戦の成功を信じて不敵な笑みを浮かべていました。
「七美ご飯よ」
お母さんが七美を呼びました。
どきどき
胸の鼓動が収まりません。
「ふうぅ」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。
「よし!」心の中で活を入れます。
「お父さん、美味しいみたいだからこの七味使ってみて」
お父さんは少し怪しそうな顔をしましたが、受け取ってブンブンと振り掛けました。
そして。
パクリ
「美味しいじゃないかこれ、会社に持っていくからあと2〜3本買ってきて」
バタ!
成功しました。いや本当に成功はしたんですが、あまりにも作るのが大変だったので、また作る事を想像して倒れてしまいました。
七美にとっては刺激的すぎるスパイスだったようです♪
おわり
誤字報告ありがとうございました。