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第五章 脳筋令嬢の貴族生活 そのいち

 

 転生四回目、ウォルター男爵の次女、シャーリー=メイとして生まれた私。

 すっかりベテラン(?)転生者を自負しておりましたが、今回まさかの貴族転生。タクミさーん! 貴族に転生した場合の心得はまったく聞いていませんでしたー!!

 心の中で叫んでみても、助けてくれる人は誰もいません。



 三歳頃に“目覚め”をむかえた私は、内心非常に焦っておりました。豪華な部屋の様子や使用人がいるところを見ると、ここはどうみても貴族の御屋敷。一体何がどうして私の生まれていた血筋が貴族になったのか皆目見当つきませんが、とにかく様子見が肝心と、大人しい子供のフリをして、五歳位までなんとかやり過ごしました。

 今までの人生、お気楽な平民生活を送ってきたので、貴族の生活は非常に窮屈に思えました。何しろ、いつでも乳母だ、メイドだと周りに人がいるのです。これでは、体を鍛える暇が……、いえ、周囲の状況を調べることができません。なんとかならないかと思案していた六歳になろうかという頃、姉と一緒に家庭教師に勉強を教わることとなったのです。

 場所は、ウォルター邸の図書室。心の中で「よし!」とガッツポーズです。こうなったら、これを機に貴族ならではの情報を手に入れてみせます!

 最初はおとなしく、二歳上の姉と一緒に机を並べて文字の読み書きの勉強をするフリをしていました。一時間ほど我慢して机にむかい、勉強に飽きた体を装って、絵本を持って家庭教師の先生に「あちらでご本よんでるのー」と言えば、幼い故に許されるだろうという目論見通り、先生は笑って許可してくれました。そうして、先生と姉の死角になる場所まで移動し、絵本を読んでいるフリをしながら、隠れてここ三百年分くらいの歴史書を読み漁ったのですが……、如何せん、皇宮で官僚をしているお父様の蔵書は専門的過ぎて、私のアタマでは……難しくて理解できませんでした! 残念! 結局、平民の時以上の知識は得られませんでした。そのかわりに隠れて筋トレしていたのは、誰にも内緒です。

 ちなみに、この世界では元の世界の民主主義・社会主義革命や産業革命にあたる様な大規模に世界の在り様が変わるという事態は長いこと何故かありませんでした。私の知っている限り千年以上、サスキアは  五大王国、王家と貴族の支配する専制君主国家のままでした。

 それが、私が三回目に転生する前、今現在から約三百五十年前に、サスキアの歴史は大きく変わりました。

 五大王国という形は無くなり、サスキア皇国というひとつの国家に生まれ変わったのです。

 それを先導したのが、三百五十年前に顕現した、今では『最後の魔王』と呼ばれる魔王を討伐する為に召喚された貴族を憑依者とした勇者四人と転生者三人の七人でした。

 その七人は、魔王討伐後、魔王を討伐するために勇者を召喚するというシステムを糾すために立ち上がった人たちでした。彼らが魔王顕現の原因を推測し、その原因を取り除くべく国の在り方を変えてくれたおかげで、それ以降魔王の顕現はありません。すごいです! 同じ勇者でも私とは頭の作りが全然違うんじゃないかと本当に思います。貴族を憑依者にすると、何か違うのでしょうか?!

 頭の作りが違うと言えば、今回転生してみたら、世の中に『法具』という魔石を動力とする新しい道具が満ち溢れていました。これがどうみても、元の世界の家電と同じ様な使い方をする道具ばかりなのです。名前も、“メール”だの“ドライヤー”だの“ランドリー”だの“クリーナー”だの……。まんまじゃん……、ってものばかり。どう考えても、これらを開発したのは転生者としか思えません。

 この『法具』が作られ始めたのがつい百五十年程前からなので、時期的にみても貴族を憑依者にした転生者なのでしょう。

 この法具のおかげで、生活がとても便利になりました。かなり元の世界の便利さに近づいた感じがします。



 現在では、転生者=貴族という図式が当たり前になっていて、私のように平民の中に転生者(いまは何故か貴族ですが……)がいることなんてすっかり忘れ去られてしまいました。

 タクミさんが予想した通り、私の最初の転生から百年以上経っていた二回目の転生の時には、“勇者降臨の儀”は神殿ではなく王家が取り仕切っていました。

 魔王が顕現すると、五大王家の五人の王の承認の元、各国の王族・貴族の中で魔力・体力・武術の秀でた憑依者候補が集められて選定が行われました。少数ながら冒険者からも特に優秀な者が選ばれたようですが、憑依者となった後は有力貴族の養子や婿となることが通例となっていたようです。

 憑依者、後に選定者と呼ばれる者が決定すると、魔導塔が“召喚の儀”を行い、勇者を召喚し、勇者と共に各国から召集された騎士や魔導師で編成された討伐隊と共に魔王討伐へ向かうという大規模なものになっていました。

 というのも、私が最後に討伐に参加したシャルハーリ国の魔王以降、格段に魔王が強くなり、一国の討伐隊では太刀打ちできなくなったからだと聞いています。


 閑話休題。ずいぶん話が横道に逸れてしまいました。

 このように、貴族として生まれた転生者は華々しく活躍しているかのようにお話しましたが、その素晴らしい功績の反面、昔よりも転生者は神の如き崇められ、畏れられているように感じます。

 そして、タクミさんが貴族として生まれた転生者が『崇め奉られるか、何かの神輿にされるか、それとも畏れて腫物のように扱われて、どこかへ閉じ込められるか、拗らせて魔王以上の暴君になるか』と、危惧していた事態のひとつが、私の知る由もないところで実は起こっていたのです。




ありがとうございました。

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