第四章 脳筋令嬢の昔語り・冒険者に転職しました
シャルハーリ国のダンジョンの魔王討伐は、一月程で為されました。
討伐後、私は神殿には戻りませんでした。神官たちに畏れられる生活に戻る気持ちはさらさらありませんでした。もう親に捨てられたと嘆き、日本を懐かしんで泣いて暮らす日々からは卒業です。
私は、討伐の間にすっかり父親か兄貴の様に慕うようになっていたタクミさんに付いていくことに決めました。
冒険者に、転職しちゃいました! 憧れの女戦士ですよ!
今世では十五年間神殿の中にずっと引き籠っていたので体力と筋肉がまるでなかった私は、討伐中は魔法でのサポートのみというていたらく。前回憑依した時の、憑依体の方が持っていた剣技が使えないのは仕方がないにしても、得意だった空手が全く使えなくなっていたのは、結構ショックでした。タクミさんが言うには、転生すると体力的な面ではリセットされてしまうので、鍛錬が必要だとのこと……。そうですよね、なんのトレーニングしないで元の通りに体が動くわけがありませんでした。今までのだらだら生活を反省です。
でも鍛錬して得た熟練度やスキルは次に転生した時にもコマンド画面に追加されたままなんですって! すごーい! 筋肉さえつければ、元に戻るってことですよね。これこそ転生チートですね!
さて、いつまでも失恋を引きずってはいられません。もうこれからは転生者としての使命を全うすることに決めたのです。タクミさんが教えてくれた、勇者の転生者に代々伝えられてきた、この世界の存亡に関わる秘かな使命……。これって、少女…いや、どちらかというと少年漫画的展開? 燃えてきました。私、頑張りますよ!
この後、私は二回転生しました。でもタクミさんの教えのおかげで、最初の転生のようなことは一度も経験することはありませんでした。どちらの転生の時の両親にも、転生者だとバレることなく成人し、体を鍛え冒険者となりました。
最初の転生以外では魔王顕現に再び遭うこともなく、大きな戦乱に巻き込まれることもない、概ね平和な時代に生まれたので、使命を全うする為の活動と鍛錬に勤しみました。
転生者となって良かったことは、どんなに激しいトレーニングをしても、勇者のステータスを持つ私の体は、元の世界の時のように壊れることがなかったことです。鍛錬をすればするだけ、伸びるのです! 素晴らしいです。どの生でも私は、体を鍛えまくっていました。いけません、また深追いする悪い癖が出ています。
この二回の転生では、使命のおかげで他の市井に紛れた転生者と知り合う機会も多くなり、最初の転生のような孤独感に襲われることもありませんでした。
でも、最初の転生も含めて三回の転生中、何故かまともな恋愛が一回もできなかったのです。決して、鍛えすぎて筋肉むっきーになっていたから……とは思わないのですが。た、たぶん。きっと体を鍛えることと使命に夢中になり過ぎていたからでしょう!
きっとそうです! なんて自分に言い訳をしてみても、心のどこかでリドさんを探していることに気が付いて、時々自嘲するのです。
私、いつまで初恋を引きずるんでしょうね?
そんな残念女子な転生人生も、今回で四回目。
何故か、今世の私、貴族に生まれてしまいました————
ありがとうございました。