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そのに

本日投稿4話目です

 

「私、いまだにリドさんを待っているのでしょうか……?」


 思わず口をついて出た言葉に、自分でも馬鹿なことを言っている、と思いました。

 私はリード君に、なにを言っているのでしょう。


「ごめんなさ……」


「シャーリーは、一体何を怖がっているの? リド以外を好きになるのが怖いの? 僕を好きだと認めると、リドを裏切ったみたいで怖いの?」


 リード君が、私の目を覗き込みながらかぶせるように聞いてきました。


「えっ?」


「どっち?」


 挑むように私を見る目がいままで考えないようにしてきたことから逃げるのを許してくれません。



 別のひとを好きになって、また期待して裏切られて傷つくのが、怖い……。

 リード君を好きだと認めると、あの辛い時の支えになったリドさんを裏切ってしまったようで、怖い……。

 私の心の中の『莉乃』が約束を守ってくれなかったと傷つきながらも初恋にしがみつき、それをいまだに手放そうとしてくれません。自分はこのままでいいのだと……。

 でも、『シャーリー』は辛かった初恋を昇華させるような、リード君と心通わせる日々がいまでは何よりいとしくて、けれどそんな思いを抱くことはリドさんを裏切っているのではと感じています。



「……たぶん、どちらも……」


 リード君の瞳は妖艶に煌めいて、口元にふ、と不敵な笑みが浮かびました。


「どちらでも、問題ないよ。 ————どちらも僕だから」


「へっ?」


 どういうことですか? リード君に前世の記憶はないですよね?


「もちろん、僕には記憶なんてないけれど、シャーリー、君にはあるよね?」


「はい。転生者ですから……?」


「と、言うことは、僕とリドが同じかどうかを判断できるのは、君しかいないワケだ。

 そして、リド以来、君の心が動いたのは、いまここにいる僕、リードリーク・アロウ唯一人。これこそ、僕とリドが同じ人物だっていう答えに他ならないんじゃないかな?」


 ええぇ??? そうなのでしょうか???

 でも、リード君は自信満々です。


「シャーリー。だから安心していいよ。リドが前世の僕なら、裏切った訳でも、別の人間を好きになった訳でもない。今の僕を君が受け入れることに、何の問題もないだろう?」


「は、はぁ……?」


「それに、来世で君が好きになる人物も、それはきっと僕だ。だって、君が好きになるのは僕しかいないはずだから」


「えぇ? リード君、それはずいぶん自信過剰ではないですか?」


 思わず笑いがもれます。リード君も私を軽く抱きしめて、くすくす笑っています。

 やっぱり冗談なんですね! でも、すごく心が軽くなった気がします。


「過剰なんかじゃないよ。事実を言っているだけ」


 リード君は、私から腕を外すと、真正面から目を見て真剣な顔をしました。


「だって、僕はシャーリーをこれから、シャーリーが考えたこともないくらい、想像もしたことがないくらいに、滅茶苦茶に甘やかして、愛していくつもりだよ。だから、きっと君は来世でも僕を探さずにはいられないはずだ。その君が心を動かしたなら、その人物はやっぱり僕だということだよ」


「……リード君……」


「それにリドは君との約束を守らなかったかもしれないけど、僕は守ったよ。十年前に約束した通り、ちゃんとこうして君を探し出して、これから君を僕のものにする」


 にやりとリード君はいたずらっ子のように笑いました。


「だからもう怖がらなくていい。次に君が転生した時も、心が動くのを止めなくてもいい。君が出会って愛する人は全て、僕なんだから」


「やっぱり、自信過剰……です」


 私は、今度は自分からリード君の腕の中に飛び込みました。もうちっとも抵抗感や恥ずかしさはありません。ただただ、心地よいだけなのです。ずっとこのままでいたい、とさえ思います。



「……本当に、シャーリーは疑うことを知りませんね……」


「え……? 何か言いました?」


「……シャーリーのことがとても好きだな、と思っただけです」


 リード君は抱擁をとき、こつんと自分の額と私の額を合わせると、とても満足そうに微笑みました。超々至近距離の微笑みと告白が破壊力強すぎで死にそうです……!



「……シャーリー、あの書類を『本物』にしてくれる?」


 リード君がそっと私の耳元で囁きました。

 それに私はこくり、と素直に頷くことができました。

 そして、書類に『シャーリー=メイ・ウォルター』とゆっくりと署名しました。

 リード君は「ありがとうございます」と、きゅっと細くなった目元を赤くして、また過剰な色気を漂わせています。心臓が掴まれたような衝撃です。これには、たぶん一生慣れそうもありません。

 そして、なにか言いたげに、ちらちらと横目で私を見ています。

 どうしたのでしょう?


「シャーリー……。その、続きをしてもいいです、か?」


 わわっ。その流し目は犯罪レベルです! ヤメテくださいっ。


「つ、続き、とは?」


「……だから、ファーストキスの、やり直し、です」


 がばっとリード君を仰ぎ見ました。リード君は、口元を手で抑えて、真っ赤になって少し震えています。やだ。可愛い……。いや、リード君にここまで言わせたのですから、私も覚悟を決めましょう!


「……い、いいですよ?」


 上目遣いで、リード君を確認しました。真っ赤になりながらも、すごく嬉しそうです!


「じゃあ……」


 リード君と私は、正面に向かい合うように、座り直しました。なんだか、こう、するぞーと思うと馬鹿みたいに緊張して、心臓がばくばくします。

 私は心を落ち着ける為に、そっと瞼を閉じました。さぁ、いつでもこい!!


「シャーリー……。眼鏡邪魔だから、取るよ?」


 するりと私の顔から眼鏡は抜き取られていきました。





 ※※※



「ねぇ……、リードとシャーリーさん、うまくいったと思う?」


 ピンクゴールド美少女が頬杖をつきながら、ぼんやりと問い掛けた。


「いったんじゃないの? リードがあれだけ執着しているんだから」


 手に持った書類に目を走らせながら、藍色髪の美少年が答えた。


「まあ、そうよねぇ。でも、シャーリーさんって、転生回数が多い分だけ、すごくトラウマ抱えてそうだったじゃない? 明るそうに見えて」


「え? そう?」


「そうよ! はぁ、全くこれだから……」


「まぁ、でも、なんとかなるだろ。アイツあれで相当頑張ったし」


 アルディスも新作の法具の魔法陣を考えながら、そう答えた。


「そういえば、宝箱より前からリードはどうしてシャーリーさんが転生者だと確信していたの?」


「あ? ああ、なんでも街の食堂に入った時に、“チャーハン”の発音が俺たちと一緒だったんだってさ」


「まぁ! チャーハンがネイティブに聞こえたのが決め手!」


 どっと三人の笑い声が響いた。


「そうそう、リードはシャーリーさんの素顔も知らないのよね? いつバレるか、バレた時どんな反応するか楽しみだわ~。後でシャーリーさんにどうだったか聞かなくちゃ!」


「そうだなー。リード程度の魔力量じゃ、認識阻害が掛かっている上にひどく不細工に見えているはずだからな。なのに魔力量が上級魔導師クラスになると、タダの眼鏡になっちまうし。だから回収したんだけどなぁ。誰か隠し持っていたのかな」


「じゃあ、リードがシャーリーさんの素顔見たら、相当びっくりするでしょうねぇ~」


「そうだな。俺もシャーリー嬢を初めて見た時は、リードすげぇ面食いかと思ったが、実はそうじゃなかった……。むしろ、あの眼鏡をしたままで、あの執着ってのが逆に怖い……」


「あ、はは、ははは……。ソウネー」


「うん。シャーリー嬢は確かにすごい美女だったね。あのヘンな眼鏡でも隠し切れない……」


「ヤダ! リョウタまで饒舌にする、シャーリーさんの美貌!

 銀灰色の波打つ艶のある髪に、けぶるような青灰色の瞳。きりっと華やかな目鼻立ち。そして、それをさらに際立たせるメリハリがある上に筋肉で引き締まった、最強なナイスバディ!! 最高だわ」


「いつ、気付くかねー」


 また、どっと三人の笑い声が響いたのだった。



 ※※※



「————!!!!!!」


 ひぐっと喉を詰まらせたような音が聞こえました。

 いつまで待っても、唇が落ちてきません。


「…………?」


 ゆっくりと伺うように瞼を上げました。


「……リード君……?」


 尋ねるように首を傾げると、リード君がびくりと飛び上がりました。


「あ……あぁ……」


 どうしたのでしょう? いままで見たことがないほど顔が真っ赤です! 口元を掌で押さえて、ひくひくと変な呼吸音がして、ぶるぶる震えています。


「え? なに、酸欠? どうして?」


 とにかくその口に当てている手を外さなきゃ! とリード君の手を掴みました。


「わぁ、ああっ!」


 リード君が私の手を弾いて、両手で顔を押さえています! 何があったのです?!


「リード君! 大丈夫ですか?」


「シャーリー! 君のその、顔っ!」


「え? 私の素顔、やっぱりそんなに変なのですか?」


「ちが…、逆! そんな綺麗なんて……、聞いてないっ!」


「へっ……?」


 リード君は真っ赤になった顔を両手で顔を押さえて、指の隙間から覗き見ています。その目は、潤んでいるようです。えぇ。


「シャーリーは、一体何回僕を落とせば気が済むんだ……!」


「濡れ衣です……」


 あの、ファーストキスのやり直しは……?


「シャーリーのその美貌に慣れるまで、とても顔を直視できない……」


「そ、そんなぁ……」




 数々の少女漫画的ベタな出会いを画策してきたリードだが、『眼鏡っ娘が眼鏡を取ると美少女』という展開が最もベタなものであることを彼はもちろん知らない————



 了



これにて、完結です。

同じ世界のお話をこつこつと書き溜めていますので、そのうちに投稿したいと思います。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、嬉しいです。


ありがとうございました。

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