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第二十章 脳筋令嬢の告白 そのいち

本日投稿3話目です。

 

「僕は、『本物』の『婚姻誓約書』を手に入れたい。……だから、もう一方のここにシャーリーの名前を入れてもらえませんか?」


 真っ直ぐに私を見据えるリード君の視線は真剣で、怖いほどです。

 いままで、私に対する好意を隠してはいなかったリード君ですが、こんなにもはっきりと私との将来を提示したのは初めてでした。

 すごく、嬉しい。こんなに全身の毛穴が粟立つほどの感動に近い喜びはいままで感じたことがありませんでした。

 でも、でも————胸が苦しくなって、俯きました。



 私の逡巡を感じ取ったのか、リード君が私の顔を覗き込んで、聞いてきました。


「シャーリーの今度の心配事はなに? ちゃんと話して。絶対に、僕は君を嫌いにならない」


「り……、リードく、ん……」


 あまりの優しい声色に、涙が滲みました。

 いまなら、リード君になら、言える気がします。いいえ、言わないときっと前に進めない————



 私はリード君に、この世界に召喚された時の話をはじめました。

 訳も分からず、魔王討伐に連れ出されたこと。

 憑依体が男性で、すごくショックだったこと。

 リドさんという神官さんが心の支えになっていたこと。

 自覚はなかったけど、リドさんが初恋だったこと————。

 ここで、リード君がぴくりと反応し、低い唸り声を出しました。


「え?」


「……なんでもありません。続けて。ただ、名前が似ていてすごく不愉快です」


「へっ……?」


「なんでも、ありません、からっ」


 なんとなく不穏な空気は感じましたが、続けることにしました。


「リドさんは、私が元の世界に還される時に、こう言ってくれたのです」



『私はあなたがどんな姿をしていても、きっと心惹かれるでしょう。次に逢う機会があれば、私はあなたを離しません。生まれ変わっても、私の魂が憶えていると思います。

 ————また逢いましょう』



 ギリ…ッとまた不穏な音がしました。リード君が歯を食いしばっているようです。


「ちょ、リード君、どうしたの。きれいな顔が凶悪になっているのです」


「大丈夫です。それでその時、シャーリーはどうしたのですか」


「なんにも。なんの反応もできなかった。リドさんがどういう意味で言ったのかも、いまでもわからないのです……」


「ふぅ…ん……」


 リード君は何か思うことがあるのか、自分の考えに耽るように目を瞑りました。

 しばらくして、ぱちりと目を開けると、「それで? それだけじゃないですよね」と鋭い指摘をしてきます。

 私は、一呼吸おいて、初めての転生の時の話をはじめました。


「この世界に転生者として生まれた時、私は三歳頃に前世の記憶を全部思い出したのです。初めての転生で、訳も分からず、近くにいた大人に矢継ぎ早に質問したのを憶えています。それは、その時の私の両親で、驚いた両親は私を神殿に連れて行き、転生者だとわかると、神殿に私を置いていってしまったのです」


 リード君が息を飲む音がしました。


「シャーリー……」


「大丈夫です。もうそんなに辛くはありません。でも、当時の私は、辛くて、悲しくて……。生きていく支えになったのが、リドさんの『また逢いましょう』という言葉だったのです。

 あの時の私は、本当にこの世界のことを何も知らなくて、自分に前世の記憶があるから、この世界の人達もみんな記憶持って生まれてくるのだ、と思っていたのです。

 だから、いつかリドさんが私をみつけて、檻のような神殿から連れ出してくれる、助け出してくれると信じて、ずっと待っていたのです……。でも、いつまで待っても逢いにきてはくれなかった……」


 リード君が私の震えている冷たくなった手をきゅっと握ってくれました。とても暖かいです。


「それから二回転生しましたけど、なんとなく怖くて恋はできませんでした」


「……どうして?」


 どうしてでしょう。過去に好きだと言ってくれる人はいました。けれど、心のどこかでダメだ、って……いつも、そう思ってしまって……。


「私、いまだにリドさんを待っているのでしょうか……?」




 ※※※


 シャーリーの過去の話を平常心で聞くことは、無理だった。

 特に、リドとかいうヤツには、吐き気がするほど腹が立つ。

 きっと、シャーリーの中身に惚れたけど、外身は憑依体だし、男性だし(どうやら筋骨隆々の戦士だったらしい)で、手が出せないから、最後にシャーリーの心に自分という楔を打ち込みたくて、『また逢いましょう』などという胸糞悪い台詞を吐いたのだろう。

 なんとなく、リドの気持ちが手に取るように分かってしまう自分にも苛ついた。

 そのうえ、初めての転生の時、シャーリーが辛い思いをしていた時の支えになっていたなどと聞いたら、嫉妬で気が狂いそうだ。

 あげくに、『いまだに待っているのでしょうか?』だって?

 そんこと知るわけがないし、考えたくもない!

 ————そうだ。

 過去の亡霊には退散願って、全てを僕に塗り替えてやればいい。

 リドなんてヤツのことは彼女の心の中からすべて消してしまいたい————


 ※※※



ありがとうございました。

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