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第十八章 脳筋令嬢の使命と誓約

 

「俺は、契約する」


 アルディス様、即答でした。えー。ちょっとは悩もうよ。命にも関わるんですよ?


「転生者に関わることなんだろ? それにヴィーにも関わるなら、俺に断るという選択肢はない」


 ドヤ顔で宣言しています。あれ、でもなんだかちょっとカッコいいです。アルディス様。


「私も古代の魔法、見てみたいわ~」


「僕たちも転生者だからね。興味がある」


 ピンクゴールド美少女と藍色髪の美少年も全く躊躇していません。お二人とも転生者だったのですね。ていうか、ノリが軽くないですか。

 リード君をちらりと見ると、晴れやかな笑顔を見せました。


「シャーリーと同じ誓約で縛られるなんて、僕の望むところです」


 ひぃ。こっちは重いです……。




「じゃあ、ぱぱっと契約して、早いとこ喋ってくれないか」


「は、はい……」


 アルディス様の深刻さのかけらもない言い方に本当に誓約して大丈夫かと心配になりますが、どうにも規格外な人達だということは理解しました。名前の分からない二人のことも深く追求するのは止めた方がよさそうです。きっと聞いたら後悔しそうです。


「では、私の周りに集まってもらえますか」


 そう声を掛けると、四人が私を囲むように側に立ちました。


「じゃあ、始めます……」


誓約(ゲッシュ)

 私が古代エルフ語で宣言すると、複雑な文様の魔法陣が足元に現れました。その魔法陣の中に四人ちゃんと入っているかを確認して、詠唱を続けました。ちなみに、私が使えるエルフ語はこの誓約のみ。話せるわけじゃありません。なぜか誓約を結んだものは、これだけは喋れるようになるのです。不思議ですね。


【この輪の中にいるものに“転生者の使命”について、沈黙の誓約を課す】

【同じ誓約を交わした者以外に、その使命を口外することは罷りならぬ】

【その誓約は魂の契約。これが破らるる時、破ったものに天より罰が下されることになろう】

【誓約するものはそのまま輪の中に。出来ぬものは即刻輪から出でよ】


 誰も魔法陣から出ないまま、数秒。魔法陣が発光し、光の柱となって、私たちを包み込み、それはすぐに収束して、魔法陣は消えました。


「……これで、誓約終了です」


 ふぅ。結構魔力が削られるのですよね。これ。


「……特に、体が変わったとか、違和感もないな」


 四人共、これで終わり?みたいな顔しています。疲れているのは、私だけなのですね。


「あの、これからよくよく注意してくださいね?」


 心配になったので、一応言っておきます。


「シャーリー嬢よりは、迂闊に喋ったりしないと思うよ」


 うっ。アルディス様、キツイです。他の三人も、そんなに笑わない!





「それでは、“転生者の使命”についてお話します」


 私は、タクミさんや、『カナリーエイド』の皆様から伝わっている使命を話し始めました————



 それは、最初に召喚された勇者が聞いた話。

 この世界には、〈大いなる意志〉という創造主たる神が御座し、神は世界が改変された時に、必ずその世界の存亡をはかる血筋をひとつ決めているという。

 その血筋のものは、その任務を自覚し、世界の趨勢を見守るものとなり、その血筋のものが全て途絶えたり、血筋の中で〈大いなる意志〉の加護を受けたものが絶望や恨みの中で儚くなると、その世界は滅びを迎えるという。

 この世界(サスキア)において、その『血筋』は『アルバート男爵家』なのである————



「だから、私は、私たち転生者は、昔は『マルツフレイの聖女』、後に『ルッツ家』、現在は『アルバート男爵家』を影ながら、血筋が絶えないようにあらゆる危難からお守りし、加護をもつ『聖女』となられた方が絶望に喘がないように見守っていかねばならないのです」


 話し終えて一息つき、四人の顔をみると、全員目と口がぱっかりと開いています。

 わかりますよ。私も最初に聞いた時、荒唐無稽すぎて同じ顔をしましたから。

 いち早く復活したのは、アルディス様でした。


「その、それは信憑性のある話なのか? ただ、そう伝えられているとか、そういう話ではなく?」


 その質問も、誰もが一度はする問い掛けです。


「はい。最初の勇者召喚をした神官が、その『血筋のもの』だったそうです。特に勇者を召喚しようとした訳ではなく、転移の魔法陣を発動したところ、近くにいた別の神官に異世界人が憑依したそうです」


「勇者召喚は、偶然の産物だったのか……」


 藍色髪の美少年が呆然としています。その気持ちもわかりますよ!


「その時、たまたま魔王が顕現していて世界が荒廃していたそうです。しかし憑依した異世界人が『ゲームみたいだ』と喜び勇んで魔王討伐を果たし、それ以降魔王が顕現すると異世界人を召喚する、という流れになったそうです」


「たまたま魔王が顕現している時に、『血筋のもの』が勇者召喚……? それほんとに偶然なの」


 ピンクゴールド美少女のつぶやきが聞こえました。私もそんな偶然どうなのと思いますが、それも〈大いなる意志〉の御意思なのでしょう。


「その召喚をした神官は、過去の『血筋』のこともよく調べていた方だったらしく、同じ世界の人間には話し難いことでも、異世界人の勇者には話しやすかったのか、いろいろなことを教えてくれたそうです」



 曰く、この世界の滅びは一度や二度ではない————


「「「「えっ!」」」」


「どういうこと? そんなに何度も滅びているというの?」


「はい。その神官が調べたところによると、最初の世界は『エルフの民』だったそうです。ですが、エルフの民は不老長寿ゆえに子孫を残すという概念が希薄で、だんだんと人口が減ってゆき、『血筋のもの』が途絶え、この大陸のエルフの民は滅びました。ただ、この大陸の遥か東にある島に移り住んでいたエルフの民の一族がいて、その方たちはいまだ存在するそうです。その方たちに会ったことのある転生者がいて、その話も伝わっています」


「エルフに会ったことがある人がいるのね?!」


 ピンクゴールド美少女が物凄く興奮しています。エルフの民のファンなのでしょうか。ちょっとビビりながら、頷きました。


「世界の滅びは、三日三晩大陸が霧に閉ざされるそうです。その霧が晴れると、それまであった世界とはまるで違うもの。街も村も人々さえも、全てが違う……、まるで異世界から世界をまるごと切り取ったか、丸写ししたかのような別の世界に変化しているそうです。そしてその世界の住人は、あたかもずっとそこに存在していたかのように生活しているのだそうです」


 誰もが言葉を無くしました。

 私も、滅びと聞いた時は、ほら、いわゆる昔漫画にあったような、世紀末後の世界みたいなものを想像しました。ですけど、この世界の滅びは違います。全く違う見も知らない世界に書き換えられるのです。そんな世界に、記憶を持って転生したら? 考えるだけで恐ろしいです。


「ちなみに、獣人は世界(サスキア)の前の世界の住人だそうです。エルフの民と同様に、大陸の外にある島には滅びを免れた前の世界の生き残りが多少存在しているそうですよ。獣人以外には会ったことがないので、これは噂ですけど」


「……例えばだけど、その『血筋のもの』を保護、というか特権階級のような存在にして世界で大事にするという手段を取った世界はあるのかな?」


 アルディス様がこんな意見を言った藍色髪の美少年を噛みつきそうな勢いで睨んでいます。婚約者が『血筋のもの』なら、そんな珍獣みたいな扱い許せませんよね。怒るのは当然です。


「それは、まさに獣人の世界が取った手段です。その世界での『血筋のもの』は、獣人の王家が囲い込み、特権階級の神官として優遇した、と言えば聞こえはいいですが、実際には自由な勉学も、外出も、結婚も何もかもが許されず、監禁も同然の扱いでした。いつしかその『血筋のもの』は短命で精神を病むものが多くなっていったそうです。そして魔王の顕現が頻発し、恐らく加護をもった『聖女』が一族の中にいたのでしょう。ある日突然、獣人の世界は滅びを迎えたということです」


 私の話に、水を打ったように静かになりました。


「そして、この後出現したのが、この“スキモノ”に似たこの世界(サスキア)だそうです。この世界は勇者召喚という今までの世界にはなかったことが起きたせいか、すごく長く続いているのだそうです。ちなみに、魔王の顕現は〈大いなる意志〉の警告だと言われています。魔王が顕現して、何の手も打たずに『血筋のもの』が絶望に囚われて亡くなると滅びがきます。

 だから、前世の記憶のある私たち“転生者”が、世界の滅びを迎えないよう、誓約(ゲッシュ)を結び協力してきた集団を『カナリーエイド』、あの潰れた居酒屋を拠点にしていた転生者の集団なのです。だって、次に転生したら知らない世界って嫌じゃないですか、せめてゲームと言えども自分たちに馴染みのあるこの世界のままでいて欲しい、という願いのもと、結成されたそうです」


「……………………」


 皆様、目がうつろです。私が聞いたのは、もうずいぶん前のことなので、いまさらオタオタはしませんが、初めて聞いた時の衝撃は忘れられません。誰もが世界の滅びがそんなことで…と呆然として、やるせない気持ちになって一度は落ち込みます。

でも、要は『血筋のもの』を守っていけばいいだけの話です。単純明快なのです!




「『カナリーエイド』……、それを聞いていれば話は早かった……」


 きょとんとしている私をじろりと見てアルディス様は恨みがましそうな声で言いました。


「シャーリー嬢が『カナリーエイド』の名を早く出してくれれば、もっと早く気付いたのに……」


「え? でも潰れた居酒屋の店名も『カナリーエイド』でしたよ」


「……なんだって? ったく! 報告書には店名なんて書いてなかった……!」


「調べたものは、潰れた店の名など重要とは思わなかったんじゃないですか?」


 リード君が控えめに誰かをかばいました。きっとその報告書を書いた人物は後で怒られるのでしょう……。


「『カナリーエイド』って、何かそんなに深い意味があるのですか?」


 私の言葉に、アルディス様とピンクゴールド美少女と藍色髪の美少年が「えっ?」という顔をしました。


「シャーリー嬢は、“スキモノ”はプレイしていないのか?」


 アルディス様は信じられないというような顔です。何故だ。


「実は、復刻版のⅠしかプレイしていないのです。だから、私あまり攻撃魔法が使えなくて。ほら、Ⅰの主人公って勇者だったじゃないですか。だから、身体強化系と防御系の補助魔法以外はからきしで。あ、でも持っているスキルはほぼカンストしていますよ!」


 このとき、アルディス様の頭の中に「一対一(タイマン)なら無敵じゃないのか、コイツ」と浮かんだのは、私の知るところではありません。


「じゃあ、『カナリー』を知らないのか……」


「説明はされましたけど……。確かⅤかⅥだかに出てくる女の子ですよね? 世界の命運を握っているとかいう……。実際プレイした訳じゃないからピンとこなくて」


 そう言う私に、どうしてかアルディス様は複雑な顔をしました。だから、何故。


「うん。理解した。シャーリー嬢への疑いは完全に晴れたよ。ここは是非にも、ヴィーの護衛をお願いしたい。いや、むしろ君以上の適任はみつからない。早々にカフェの方は引き払って、俺のところにきてくれないか?」


「はいっ!」


 やった! やりました! これで今世も無事に使命を果たせそうです! 良かったですっ。

 それにしても、また一番復活が早かったのはアルディス様でした。ヴィクトリア様への愛ゆえでしょうか。すごいですねー。


「……なるほどねぇ。誓約が必要になるはずだわ……。でもいろいろ謎が解けたわ、もっと調べなくちゃね」


「考えなくてはならないことがさらに増えましたね……」


 ピンクゴールド美少女と藍色髪の美少年は少々お疲れの御様子です。でも、なんだかヤル気に満ちた発言をしているのがいままでの転生者の方たちが初めて話を聞いた場合と違います。やっぱり規格外な人達です。


「それでは、私たちは先に帰らせてもらうわね。シャーリーさん、また話を聞かせてね!」


「シャーリー嬢、ではまた」


 そう言うとピンクゴールド美少女と藍色髪の美少年は転移魔法を無詠唱で発動させて、一瞬で消えました。

 それを見届けるとアルディス様は、テーブルと椅子をアイテムボックスに仕舞い、私とリード君に向かいました。


「リードはシャーリー嬢をひとまずアシェラの宿舎に送ってくれ。お前もカフェの方は早いとこ引き上げて、俺の元に戻ってこい。では、シャーリー嬢、待っているから」


 そう言うやいなや、アルディス様も一瞬でその場から消え去りました。


「はぁ……。なんかとんでもない人たちですねぇ」


「……シャーリーも、転移は使えるのですか」


「あー。使えないこともないのですが、あれは転移先をはっきりイメージできるかどうかが、ネックで……。コワくてあんまり使ったことないです」


 なんとなくリード君の目がちょっぴり残念な子を見るようで、辛いです。


「……リード君は、全然動揺していないのですね?」


 あまりにもいつも通りのリード君なので、思わず聞くと、こてん、とリード君は首を傾げました。だから、それ可愛すぎます。


「うーん。僕は転生者じゃないから、来世に世界が変わっていたとしても分からないしね。それよりも、シャーリーが僕に秘密の全てを隠さずに教えてくれたことの方が……嬉しくて。それでいまは胸がいっぱいですよ」


 にっこりと微笑みます。だから、それ以下同文。


「さて、僕たちも宿舎へ戻りますか」


 そう言って、リード君はベルトに付いているポーチから、転移魔法陣を取り出して発動させました。



ありがとうございました。

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