そのに
投稿2話目です。
「手紙の件が片付いたなら襲撃の話に戻すが、いいか?」
銀髪美少年が待ちかねたように口を挟み、私たちが頷くと話を続けました。
「黒幕のウィラージュは、ある目的の足掛かりにアルバート家を乗っ取るつもりだった。
裏ではアンシェル男爵とイレーニア男爵に命じて『内陸街道』での盗賊行為をさせ、表ではコレット子爵家領主代理として盗賊団討伐隊を指揮していた。
そして襲撃の当日は、自分が討伐隊を率いて救助に向かったものの、盗賊たちによって傷ものにされたヴィクトリアを、無傷で救えなかった責任をとるという理由で結婚し、その後アルバート男爵家の婿として実権を握る、という計画だったらしい。
まあ、事前にその情報を察知していたアルバート男爵によって、最悪の事態は避けられたが」
クソ虫の上司らしい、とてつもなくご都合主義な計画です! 吐き気がします。ヴィクトリア様がご無事だったのが本当に心から良かったと思えます。
私の安堵の表情をちらりと見て銀髪美少年は難しい顔をしています。なんででしょう。
「今回の件は失敗に終わったが、今後ウィラージュがまたアルバート男爵家とヴィーを狙ってくる可能性が捨てきれない。だから、いまヴィーの周囲の守りを固めるのが急務となっていて、それでシャーリー嬢を転生者だと自ら認めさせるという理由もあったが、それとは別にシャーリー嬢の戦闘能力を測るために、今回の偽宝箱を用意させてもらった。こちらの都合で、シャーリー嬢を騙すようなことになってしまったのは、謝罪するよ。申し訳ない」
「……いえいえ。とんでもない……?」
はて。またもや話がよく分からない方向へ進んできましたよ。
ヴィーとは、おそらくヴィクトリア様ですよね。ヴィクトリア様を愛称で呼ぶこの御方は一体……?
「あの、あなたはどちら様で……?」
「いまさらか。俺は、アルディス・ルキア。ルキア侯爵家の次男で、ヴィクトリア・アルバート嬢の婚約者。そしてリードの主だ」
な、なんと。
「あれ? でもカフェで見た婚約するって言われていたルキア侯爵家の方とはアナタ別人ですよね」
「カフェにいたのは、僕の兄だ。本当の婚約者は、お・れ・だ!」
「そうですか……」
わぁ。ものすごく面白くなさそうな顔です。あ、だからルキア侯爵子息(兄)があのとき、婚約に関して曖昧な返事をしていたのですね! アレは貴族的な言い回しじゃなかったんだ~。なるほど~、納得です。
それはまあ置いておいて、私の戦闘能力を測る必要がなぜあったのでしょう? というか、威圧で逃げ切ったアレで、測れたんでしょうか……。
思い切り首を傾げていると、銀髪美少年がまたもや、どストレートに提案してきました。
「シャーリー=メイ・ウォルター嬢、いや冒険者リノ。俺の婚約者ヴィクトリア・アルバート嬢の護衛にならないか? 俺がシャーリー嬢を召し抱えよう。俺の推挙でアルバート男爵家に入り、ヴィーを守って欲しい」
「えっ……」
「ちなみに、シャーリー嬢の戦闘能力も申し分ない。指定したルートはほとんどが中級魔獣の区域だったにも関わらず、【威圧】だけで走り抜けたのは驚嘆に値する。それに、最後の蜘蛛の魔獣は中級でも上位クラスのものだったが、ソロで攻撃魔法も使わず、しかも短時間での討伐。目にも止まらぬ速さとはこのことかと感心した。素晴らしかった!」
「あ、ありがとうございますっ!」
わぁ~。すごい褒められました!
しかも、こんな願ったり叶ったりな提案、これこそ一も二もなく飛びつきますよ!
護衛騎士団に入団するよりも、直接お守りできるじゃないですか!! こんなご都合主義的展開いいのでしょうか?!
喜び勇んで「やります!!」と返事をしようとする前に、銀髪美少年、いえアルディス様から待ったがかかりました。
「ただし俺の懸念が晴れたら、の話だ」
「えっ……」
懸念とは?
「シャーリー嬢、君はずいぶん前からアルバート男爵家を嗅ぎまわっていたな。
最初は三年程前。潰れた居酒屋を訪ねた後図書塔へ行き、『ルッツ商会』のことを入念に調べていた。アルバート男爵家とルッツ商会に深い関係があるのは誰もが知るところだ。
そして君が訪ねた潰れた居酒屋は、なぜかサスキア中のトップクラスの冒険者が集まる為に秘密結社や反社会組織の疑いありとして皇宮では要監視体制を敷かれていた店だったのは、御存じか」
すみません。私、本当に御存じなかったのです。トップクラスの冒険者はきっと転生者のことなんですが、それは……言えないのです。
「……一年ほど前から、『内陸街道』に出没する盗賊の討伐に精を出していたな? それもアルバート男爵家に関わる隊商の護衛がメインだった。アシェラの街にもよく立ち寄って、就職口を探していたな。……それは、どうしてなんだ。どうしてアルバート男爵家に関わろうとする?」
どうして、そんなに詳細に私の行動を知っているのですか?! 監視されていたのでしょうか。でも、言えません!
「また、だんまりか。おい、リード。転生者と白状させたら素直になるだろうって言っていたのはお前だよな? 全然ならないぞ!」
アルディス様はぷんぷんと腕を組んでお怒りの御様子ですが、私の事情とこれはまた別問題なので言えないのです! ですので、口を噤むしかありません。
「シャーリー。あなたは、アルバート家の護衛になりたかったのでしょう? ギルドで相談していたのを知っていますよ。どうして何も言わないのですか。理由さえ話せば、あなたの希望が叶うのですよ」
必死にリード君が説得してきます。どうしてギルドでの会話まで筒抜けなのか。でも無理なものは無理なのです。
「このままでは、あなたはアルバート男爵家とルキア侯爵家に敵対するものと判断されかねません。そうなると、僕はアルディス様に仕えている身として、今後シャーリーと一緒に居られなくなる……」
声を詰まらせて、悲し気に瞳を揺らすリード君に心はぐらぐら揺さぶられます。ですが…
「分かっています! 話せるのなら話していますが、使命に関わることは話せないのです!!」
「「「「使命??」」」」
少し離れたテーブルで事の成り行きを見守っていたピンクゴールドの美少女と藍色髪の美少年までもが一緒になって、四人で声を揃えて聞き返してきました。
またうっかりと口を滑らせました。本当に私という人間はッ……。ほとほと自分に愛想がつきそうです。
「使命とはなんなのです? シャーリー。なにか言える範囲のことはないのですか。せめて話せない理由でも……」
私のただならぬ雰囲気に、リード君も私が全部は話さないと判断したのか、真剣に落しどころを探ってきます。
ただ黙っているだけでは、もう済まないようですね。
「……話せない理由は……、私は誓約に縛られているからです」
「誓約ですって……? それは古代の魔法ね! エルフの民が使っていたという伝説の」
ピンクゴールド美少女が食いついてきましたよ。
「はい。これは“転生者”と“使命の協力者”がある目的を誓約を誓い合ったもの以外に話さないという契約です。これを破ると、私……死にます」
全員がさっと青褪めました。そこまでのものとは思ってなかったのでしょう。
「もし、私に話をさせたいのなら、皆さんにも誓約を結んでいただかないとなりません。これは魂に刻まれる契約なので、未来永劫来世にも影響します。それでも、聞きたいですか」
ありがとうございました。




