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そのに

本日投稿2話目です。


 第二十三坑道は、ガランとした円形の空間でした。壁には三つの出入口、今入ってきた第二十坑道に繋がる出入口と、左側に次の第二十四坑道へ繋がる出入口と、もうひとつ右側に第十八坑道につながる出入口があります。

 そして、向かって奥に“宝箱”が鎮座しておりました。

 さっきのように上から降ってきたりしますからね、注意して近寄らなければ、と恐る恐る宝箱に近付きました。

 その“宝箱”は、もうテンプレの宝箱でした。赤い革張りに金の金具で縁取ってある、ザ・宝箱!


「わ…ぁ……。どきどきしますー。ダンジョンで初めての宝箱ゲットだぜー」


 宝箱に触れて、封印を解くために魔力を流しました。

 すると————ジャカジャン! 軽快な音楽が流れました。


(んん? クイズ?)


『誰もが知っているコメディアン、志村〇んのギャグを一発おねがいします!』


「へっ……?!」


 なになになに? 志村け〇? この世界(サスキア)で、なにゆえ〇村けん???

 どういうこと————??


『あと、五秒です』


「ええっ……あ、あのっ」


『あと、三秒です』


 ええい、もうやるしかないっ!


「あ…………ア〇ーン!!!」


 咄嗟とは言え、もちろん決めポーズと変顔付きです。


『正解です! おめでとうございます!』


 ぱきんと宝箱の封印が破れる音がしました。


「やった……。これで、クソ虫の嫁にならなくて済むし、虫も退治しなくて済む……!!」


 思わず胸の前で手を組んで、どこかの神に感謝の祈りを捧げました。ワケの分からなかった質問も封印の解けた今となっては、もはやどうでもいいことに思えました。


「では早速、中身拝見しまーす……」


 現金何千万ネイかしら……と、どきどきしながら、ギギィッと宝箱の蓋を開け、中を覗くと……


「————え、紙?」


 中には紙っぺらが一枚しか入っていません。


「嘘! なにこれ!」


 慌てて中の紙をとって見てみると、『第十八坑道へ来られたし』と書かれていました。


 第十八坑道って、向かって右の壁の出入口ですよね。


(一体、どういうこと……?)


 なんだか聞いていた話と全然違います。

 不審に思いつつも、指示された第十八坑道へ続く出入口を潜り、狭く薄暗い坑道を少し歩きました。その先が明るく広い空間になっているのが見え、そこが第十八坑道であろうと一歩踏み出しました。

 そこへ足を踏み入れた途端、強力な結界の中に入ったぐにゃりとした感覚が襲ったうえ、いきなり誰かに抱き着かれたのです!


「ぎゃあっ!」


「シャーリー! 無事でよかった! ずっと気が気じゃありませんでした……」


「え?! リード君? なんで?! どうしてこんなところに?」


「それは……。その、怒らないで聞いてもらえると約束してもらえますか」


「その前振りが約束できない話だと証明しているのです! ……ていうか、あの、お願いだから、離して……!」


 ここに入ってから、ずっとリード君にぎゅうぎゅうに抱き着かれて、羽交い絞めにされています。リード君の逞しい胸筋が密着してきて、ちょっとこれ以上は、私の心臓が持ちそうもありません。昇天しそうです。



「リード、彼女が硬直しているぞ。離してやれ」


 ————ん? 他に誰かいるのですか?

 やっと渋々ながら解放してくれたリード君から体をずらし、周りを見渡しました。さっきの第二十三坑道と同じ様な空間の中央に大きなテーブルが置かれ、その上にスタンドミラーのようなものがいくつも置かれています。でもそれは鏡ではないようで、鏡面にあたる部分が黒く見えました。

 そして、そのテーブルには四人、手前の二人は腹を抱えて笑いながら、奥の二人は真面目な顔をして、席に着いています。

 一番手前が、煌く銀髪に青空のような青い瞳の超絶美少女…いや、美少年(?)、その奥がふわふわのストロベリーブロンドに碧玉のような緑の瞳の美少女、そしてそのまた奥が藍色の髪に琥珀の瞳、鷹の様に鋭く精悍な顔の美少年。どうしたコレ。この高すぎる顔面偏差値は。そして、その奥が、なーんだ一般レベルのイケオジ……って、


「お父様ッ?! なんでこんなところにっ!!」


 思わず三度見ぐらいして叫びました。


「ああ……、シャーリー。その、久しぶりだな」


 非常に困惑しているのがわかる表情です。そうですよね。私も驚きすぎてなにがナニヤラ分かりません。


「アルディス様、いい加減笑うの止めてくれませんか。シャーリーに失礼ですよ」


 リード君が憮然として銀髪美少年に注意しています。リード君がこんな態度をとるなんて、一体誰なんでしょう。


「……だってさぁ、あのギャグやった時の顔! まさか変顔までしてくれるなんてなぁ」


 まだ笑いが止まらない様です。笑い上戸ですか。


「そうよねぇ。ポーズまで決めて、想像以上の面白さだったわ!」とストロベリーブロンドの美少女。可愛いけど失礼ですね。


「マキもやめなよ。確かに面白かったけど」


 藍色髪の美少年、君も真面目そうな顔をしてかなり失礼ですよ。

 ところで皆様、それ、さっきの私の件ですよね? どうして知っているのですか。いったいどこからどうやって見ていたのですか。


「すまん、すまん。こんなに楽しませてくれた君には本当に申し訳ないんだが……。実はシャーリー嬢がさっき封印を解いた宝箱は————偽物なんだ」


 銀髪の美少年、リード君にアルディス様と呼ばれた少年がその美しすぎる目に笑いで涙を滲ませながら、とんでもないことを言い放ちました。


「はあっ?! ど、どういうこと……」


「本物の宝箱は、“第二十二坑道”だ。シャーリー嬢は“第二十三坑道”で宝箱を開けただろう?」


 そうです。でも、冒険者ギルドの受付で貰ったマップにはちゃんと“第二十三坑道”と書いてあって……。そういえば、受付の方の様子がちょっとおかしい気がしました……。


「最初から……、マップもギルドの方まで、どうしてそんなことまでして……」


「リードに頼まれたんだ。シャーリー嬢の本音を引き出して素直にさせるには、まずは君の秘密を暴かなきゃならないってね。まぁ、俺も君の実力を知りたかったから、ちょうどいい機会だと協力したんだけど」


 思わずリード君を見ると、「だから、怒らないと約束を……」とまたさっきと同じことをごにょごにょ言っています。もう遅いです。私、わりと怒っていると思います。


「これだけの仕掛けを半日で作るのは、この俺たち三人といえども大変だったんだぞ。新作法具の“監視カメラ”を最短ルート全部に設置して、フェイクの宝箱に細工を施した封印をしたり、ほとんど徹夜だったんだからな! ま、その代わりに滅茶苦茶面白いモノいっぱい見せてもらったけど」


 あなたの徹夜とか笑いのツボなんて知らないのです。しかも、さっきから何を言っているのかサッパリ分からないのです。ワケが分からな過ぎてだんだんイライラしてきました。

 いくら相手が美少年でも、もう我慢の限界です。

 ここで、苛ついている私に気が付いたのか、リード君が申し訳なさそうに説明を追加してくれました。


「シャーリー。君がギルドで買ったマップもフェイクで、そこに書かれていた最短ルートには、“監視かめら”という法具が至る所に設置されていて、君が鉱山に入るところから、宝箱が置いてある第二十三坑道まで、全てあのテーブルの上にある“もにたー”というものに映し出されいて、皆で見ていたんだ」


「か……監視カメラって……プライバシー何処行った……」


 ここまでたどり着くための苦労が、全くの徒労だったなんてひどいじゃないですか!

 あんな黒光りするアレとか足がいっぱいのアレとかを我慢して、ここまできたのに。なんでこんなことされなきゃいけないのですか。文句のひとつでも言ってやらなきゃ、もう気が済まないのです!

 さあ言ってやるぞと身構えたのに、銀髪美少年は私よりも先に話しはじめました。ちっ。


「さ、でもこれで、言い訳はできなくなったんじゃないかな?」


 ゆっくりと立ち上がって、私の方へ歩いてきます。近くでみると、まさに人外レベルの美しさ。これはまばゆすぎて目が潰れます。


「……なにが、でしょう……」


 思わず眼を眇めながら答えました。文句なんてもう言えませんでした。眩しすぎる美貌に乾杯、いえ完敗です。


「何がって、わかっているんだろう? …………あれっ? その眼鏡」


 途中まではまるでミステリの探偵のごとくカッコつけて話していたのに、この眼鏡をみて急に目を瞠っています。


「この眼鏡がどうか?」


 至近距離まで顔を近付けられて、じーっと眼鏡を見られました。お顔がキレイすぎて恐怖感すら覚えます。


「アルディス様、近いです」


 そう言って、リード君は私とアルディス様の間に掌を挟み込み、反対側の手は私の腰にまわして自分の方へ引き寄せました。ひぃ! あなたの方が近いです。さっきからどうしたんですか、リード君!


「まったく、嫉妬が過ぎると嫌がられるぞ。リード」


「そのお言葉、全てアルディス様にお返しします。それで、シャーリーの眼鏡がどうかしたのですか?」


「あ、ああ。それ、懐かしくてついじっと見ちゃったよ。カイリアムの時に作った、試作品だよ。全部回収したと思ったのに、洩れたものがあったんだな」


「回収というと、何か問題があったのですか?」


「まぁ、そうだな。……リード、お前の魔力量って、平均よりちょっと上ぐらいだったか」


「急になんですか? でも、そうですよ。そんなものです」


「へぇ……、そうか。ふーん、なるほどねぇ。それでその執着か。たいしたものだな」


 銀髪美少年、急ににやにやと揶揄うように、リード君と腰をリード君の腕にがっちり掴まれている私を見ています。その視線でこの体勢を許していた自分が急に恥ずかしくなり、リード君の腕をひっぺがし、少し離れました。リード君がものすごく不満げな顔をしています。だから、リード君。どうしたんですか。



「ねぇ、ちょっと、どういうことなの? 教えて頂戴」


「僕にも是非」


 銀髪美少年とストロベリーブロンド美少女と藍色髪美少年は、額を突き合わせてくすくすと三人で集まって内緒話です。仲いいですね。ちょっとヤな感じですけど。

 それに、私には教えてくれないのですか。この眼鏡の事がわかっているなら、説明をプリーズなのです。


「………なんだよ。見てみなよ」

「えぇ……。それで、あれなの……」

「愛ですね……」


 そして、急に内緒話は終わって、ぱっと銀髪美少年は私に向き直りました。


「で、話を戻すけど————シャーリー=メイ・ウォルター嬢。君、転生者だろう?」



ありがとうございました。

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