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第十五章 脳筋令嬢のダンジョン攻略(?) そのいち

本日投稿1話目です。

 早退したその日のうちに私はマイラ鉱山へ向かう辻馬車に乗り込みました。これなら夜にマイラ鉱山の街マイラ―ドに到着して、明日の早朝からマイラ鉱山へ討伐に行くことができます。

 とにかく気が急いて慌ただしく出発してしまったので、改めて私はこの手紙のことを考えることにしました。

 手紙の内容はこうでした————



『シャーリー=メイ

 突然の連絡がこんな内容ですまない。

 私はいま、横領の罪で捕えられている。

 私は長年皇宮に務め、税の徴収官吏として真面目に働いてきたつもりだったが、つい出来心でしてはいけないことに手をだしてしまった。

 それは、“内陸街道”の納税に関することだ。

 アンシェル男爵領、イレーニア男爵領、コレット子爵領の街道の通行税納付分を長年自分のものとしてしまっていた。

 皇宮に官吏として勤め、男爵の位をいただいていても、所詮は領地なしの貴族。五人もの子供と屋敷、男爵としての体裁を整えるには、とても賄いきれるものではなかったのだ。

 それをとうとうシモン伯爵の指摘によって暴かれてしまった。

 シモン伯爵を恨むつもりは毛頭ない。

 むしろ、いまは暴かれて心の重荷を降ろせたような、そんな気持ちでいるのだ。

 ただ、現在私には、横領の課徴金として五千万ネイもの金額を支払う義務が生じている。

 それを□月□日までに支払わなければ、家屋敷・家財を差し押さえられてしまうのだ。そんなことをされたら残されたお前たち家族がどう暮らしていくのか、不安しかない。

 こんなことになったのは私の不徳の致すところでいい訳のしようもないし、誰かに背負ってもらうものでもないと思う。

 だが、私の境遇に同情してくださったシモン伯爵がこんな提案をしてくれたのだ。

 五千万ネイをシモン伯爵が肩代わりをして支払ってくださるかわりに、シャーリー=メイ、お前を次男エイベル様の嫁に貰い受けたい、と。

 この手紙を届けてくれるエイベル様は、以前にもお前に求婚してくれた方だ。

 お前が五千万ネイ用意できるのならば、この話はなかったことにできるが、私は是非お前にこの話を受けて欲しいと思っている。

 どうか、私や家族のことも考えて、受け入れて欲しい。

 よろしく頼む————』



 こんなオレオレ詐欺みたいな話あります?!

 何度読んでも、お父様らしくありません! 全くらしくないです! お父様の筆跡じゃなかったら、鼻で笑っちゃうような内容です。

 それに、シモン伯爵って、あの縁談以外で聞いたことがないのですが、五千万ネイものお金を肩代わりできるほどの人物なんですか? もう、怪しさしかありません。

 でも□月□日は四日後で、皇都に確認に行って、もしこれが本当の話だった場合、お金を工面する時間がありません。

 こうなったら、嘘だろうが本当だろうが、とにかく五千万ネイを用意するつもりです。

 いま、私のアイテムボックスの中には、過去に貯めたお金が三千万ネイちょっとあります。これに、もし宝箱の質問に回答ができれば、問題はすぐ解決できますが、この五年近くで回答できたのはたった二回という話……。おばかな私に答えられる可能性は、おそらくゼロに近いでしょう……。

 となると、あとは魔獣を狩って、高品質の魔石を手に入れる! コレです! コレしかありません。

 マイラ鉱山の魔獣は、虫系が多いそうです。はっきり言って虫は苦手ですが、もふもふ系の魔獣を狩るよりは心が痛まないかもしれません。多分。うぅ。……害虫駆除だと思って頑張るぞぉ……。




 翌日の早朝、早速マイラ鉱山の冒険者ギルドへやってきました。


「宝箱の挑戦にきました!」


「はい。そうすると、“直通ルートのマップ”をご購入されますか? マップなしですと、入場料しかいただきませんが、マップは追加で二千ネイとなります。こちらをご購入されますと、本日の“挑戦”は、宝箱に辿り着ける限り、何回でもできます」


「マップください!」


 宝箱の挑戦は、一回挑戦して失敗すると、スタートに戻ってから再び宝箱の場所に辿り着かないと質問に答えられない、というルールがあるのです。ですので、何回も挑戦したいなら、最短ルートをとる必要があります。


「はい、ありがとうございます。こちらに『冒険者登録証』を置いてください」


 首に下げているドッグタグのようなペンダントトップを受付の法具の上に置いて、本日の討伐登録は完了です。

 魔獣は、上級に近くなるほど一日一人当たりの討伐頭数が制限されているのです。そのカウントをしっかり取る為に、中級以上の魔獣が出る区域は結界が張ってあります。今の登録は、その結界の中に入れるようにする登録なのです。これによって、入った区域と討伐した魔獣に誤差が出た場合、ものすごく厳しいチェックを受けるのです。



「えっと……、Aランク冒険者の、リノ、様……」


 ふと、受付の女の子が視線をあげました。なんでしょう。


「はい」


「……こちらのマップをどうぞ。おひとりで行かれるのですか?」


「はい」


「そうですか。宝箱の場所は、たまに上級魔獣も出現しますので、どうぞお気をつけて」


「ありがとうございます」


 はて、気のせいだったかな。さて、出発です!



 今日は平日ということもあって、例の『宝箱挑戦ツアー』とやらは開催されていないとのこと。人が少ないのはいいけれど、そのぶん魔獣の遭遇率もアップするかも……。

 マイラ鉱山は、元々地下に伸びる大きな洞窟で、そこから貴石や貴金属の鉱脈がみつかって、鉱山と呼ばれるようになったそう。

 目の前に広がる、ぽっかりと開いた真っ黒な空間。きっとここには、黒光りするアレとか、足がいっぱいのアレとかが、たくさんいるに決まっている。

 それを考えると、なかなか足が進みません。なので、心を落ち着かせるためにマップをみることにします。

 マップを見ると宝箱のある「第二十三坑道」までは分岐さえ間違わなければほぼ一本道ですが、ルートの三分の二が結界の張ってある区域、つまり中級以上の魔獣がいる区域です。


「うわぁ……。思っていた以上にハードな感じ」


 しかも、虫…………。駄目です。ちっとも落ち着きません。余計にザワツキました。でもこんな入り口で立ち止まっているわけにもいきません。


「い、行くかぁ……」


 覚悟を決めて、足を踏み出しました。




「ぎいぃやああああぁぁぁ」


 やだやだやだ! やっぱり黒光りするゴ〇が、いーるー!! しかもでっかいー!!

 こんなの触りたくないよぉ!

 私は【スキル】威圧を最大レベルにして、この区域を走り抜けました。

 黒光りする〇キたちは、膝丈くらいの大きさの下級魔獣。最大レベルの威圧の前には出てこないでしょう!

 十分も走っていると、結界を抜けた感覚がしました。どうやらここから中級魔獣区域のようです。威圧のレベルはそのままに、全力疾走から小走りに切り替えました。

 なんか、岩の間とかに触覚ぽいのがわきわきしているー! ぞわぞわするぅー!

 やっぱり全力疾走で十五分程、駆け抜けました。



「はぁ……、さすがに身体強化しているとはいえ、トータル二十分以上走り続けるのは、キツ……」


 ぜーはーしながら、坑道の壁に貼ってある案内板を見ると、「第二十坑道」。

 ここの分岐で、第二十一から第二十五坑道に行くことができます。いよいよ次の坑道が“宝箱”です。


「ああ、よかった……。ここまで襲ってくる虫がいなくて……」


 でも、宝箱の質問に答えられなかったら、狩って狩って狩りまくるコースが待っているわけで……。


「いまは考えるのをやめ……」


 ————たすっ。


 かすかな音が聞こえ、何本もの毛の生えた足が私を囲っているのに気が付きました。

 とっさに足の隙間からぐるりと寝転がって壁際へ移動しました。その時垣間見えたのは虫の腹……。


「わあああああ! キモっ」


 アイテムボックスから長剣を出し、両手で構えました。

 目の前にいるモノ、それは私の倍くらいの背の高さの蜘蛛でしたー!

 お口にあたるあたりにある鎌状の牙がガチンガチンいっています。確かあれに噛まれると毒を注入されちゃうんでしたよね。気を付けないと~。

 身体強化を強くして、思いっ切りその場でジャンプしました。蜘蛛の背にとすんと着地して、前体と後体の間の体節、すなわち蜘蛛の体の中心部の細くなったところをめがけて、すかさず剣を振り下ろしました。手にぐにゃりと嫌な感覚が伝わります。すぐに蜘蛛の体から跳躍して、また壁際に着地をしました。どすんと蜘蛛の体は二つに別れて頽れましたが、まだ牙と足がわきわきと動いています。


「あぁ。もう、ダメです……」


 とても直視できません。気色悪さで眩暈がします。

 あの蜘蛛の魔獣から、頭部にある魔石を抉り取らなければならないのですが、とてもいまはやる気がおきません。


「宝箱のあとで……、もし回答できなかったら、覚悟を決めます……」


 そして私は、よろよろと第二十三坑道に足を踏み入れました。



ありがとうございました。


お気付きの方は多いかと思いますが、

シャーリーはダンジョン攻略していません! すみません……

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