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第八章 脳筋令嬢の就職活動

 

 転生者の『使命』のために、図書塔で『ルッツ商会』に関することを調べに行き、そこを糸口にして探していた血族はすぐに判明しました。

 神官の血筋であった『血族』は、腐敗した神殿とは袂を分かち『ルッツ商会』というお金の力で『血族』を守ろうとしました。ここまでは私も前世で知っていました。

 ですが、現在『ルッツ商会』はあるのですが、その会頭は『血族』のものではありませんでした。それを過去の商会一覧と新聞を地道に遡って調べて辿り着いたのが、アルバート男爵家でした。

 百年程前に、没落寸前のアルバート男爵家に『ルッツ商会』の会頭夫妻が莫大な持参金と共に養子に入ったのです。お金の力から権力へ『血族』を守る力をシフトチェンジしていたのですね。

 現在では、『ルッツ商会』自体の経営は別の家門に任せているようですが、本拠地をアルバート男爵領の領都であるアシェラにうつし、衣料品の流通ではサスキアでは屈指の商会となっています。アルバート男爵領も没落寸前だった領地がいまではサスキアでは有名な豊かな領地へと変貌していました。さすがです!

 でも、おかげでどうお近付きになって守っていけばいいのか、さっぱり見当がつきません。貴族同士のお付き合いはちょっと無理そうです。同じ男爵位といってもウチの貧乏男爵家とは全く格が違います。

 思いつくのは、冒険者ギルドに登録して、前世のように護衛任務につくか、もしくはアルバート男爵家の護衛騎士団に入団する、とかになるのでしょうか。そうなると、今度はいまの男爵令嬢の身分が邪魔になりそうです。困りましたねぇ。

 こうしていろいろ悩んだ結果、身分を隠して平民として冒険者ギルドに登録することにしました。護衛の任務を地道に積み重ねていけば、アルバート男爵家の護衛の任務や、護衛騎士団への紹介がもらえるようになるかもしれません。ナニゴトも努力と不屈の精神です! 燃えてきましたよ!

 冒険者ギルドに登録をしてから、皇都からアルバート男爵領、もしくはその隣のアンシェル男爵領の商人の隊商や貴族の護衛の仕事を中心にこなして、実績作りと情報収集をしていました。

 一応、私は貴族令嬢なので、そんなに外泊もできません。月に一度かせいぜい二度、他領の神殿へ慈善活動に行くと(若干苦しい)言い訳を家族にして出掛けていました。

 ただそのせいで、将来的に修道院に入るつもりでいるのだと思われていたらしく、『あの容姿ではね』と家族どころか使用人たちにも諦めと憐みの目で見られていたと知った時は、かなりの衝撃でした。まぁ、おかげで特に外泊することに何か言われたことがないので、良かったと言えば良かったのでしょうか……。

 護衛としての実績は着々と積み重ねていたのですが、情報収集という点ではそれほど進展がありませんでした。いまだに私以外の転生者にも出会えていませんしね。

 護衛の仕事を始めてから一年程経ったころでしょうか、皇都からアルバート男爵家やアンシェル男爵家に通じる街道を使う商人の隊商に付く護衛の仕事が急激に増えました。

 なんでもその街道沿いに盗賊団が巣食っているらしいのです。アルバート男爵家の安全を脅かす輩の退治に、この私が心血を注がない理由はありません。集中的に仕事を入れて、相当数の盗賊を討伐したと自負しております!

 討伐した奴らの中には、時々冒険者ギルドから頼まれて参加した魔獣討伐で問題を起こした冒険者——アンシェル男爵領やその隣の領のコレット子爵領にある狩場(魔獣が生息する森や洞窟)を荒らしたり、違法行為をしてギルドへの出入りが禁止になった冒険者崩れ——がいたので、身元の分かった者は一言添えて護民官につき出すことも忘れませんでした。

 こういう人たちがいるから、冒険者が荒くれものだって言われちゃうんですよね! ホントいい迷惑です。

 ですが、いいこともありました。この時にアルバート男爵領の領都アシェラに寄る機会が増えたので、アシェラの街の職業斡旋所を何度も訪ねていたのです。その努力の甲斐がありまして、今度就職予定のカフェをみつけることができたのです!

 そのカフェは、異世界のスイーツを看板メニューにしたカフェで、大正レトロのインテリアを模倣したという、このサスキアではかなり異質な雰囲気のお店です。大正レトロっていうのが、具体的にどういうインテリアかは知らないのですが、私には華族の邸宅とか一昔前の高級老舗ホテルの内装といった感じに見えました。メニューはパンケーキやフォンダンショコラ、パフェといった、サスキアでは目新しいものでも、私には懐かしくも馴染みあるものばかり。

 しかも、しかもですよ。このお店は、アルバート男爵家がオーナーなのです。もうここに務めることになるのは、私の運命だったとしか思えません。

 いつか、アルバート男爵家の方に会える日がくるかも、ですよ!

 ————なんていう希望は、はからずも初出勤の前日に思わぬ形で叶ってしまいました。


ありがとうございました。

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