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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

軍人気質な幼馴染のドイツ人美少女は今日も俺を厳しく指導するが、俺にだけデレを見せてくれるので全く問題ありません。

作者: 三氏ゴロウ

ロシア人美少女のラブコメが流行っているので僕も書きました。




ドイツ人美少女のラブコメを。

「ユーゴ、起きなさい。朝です」

「んぅ……」


 聞き慣れた凛々しく心地よい声が、耳に入る。


「あー、おはようシル」


 そして俺――加賀美勇吾かがみゆうごはゆっくりと目を開け、起こしてくれた彼女の名を呼ぶ。


 キリっとした目元に凛々しく美しい顔立ち。

 艶やかで先端が少しクセっ毛の金髪ブロンドヘアと引き込まれそうな碧眼。

 引き締まっているが出るところはしっかり出ているボディライン。


 ――シルフィ・ヴァルヘルム、俺の幼馴染だ。


 ドイツ軍人の父親と日本人の母親を持つ彼女は、『超』が付くほど優秀にして真面目。

 彼女と家が隣同士の俺はこうして毎朝起こされるのが日課だった。


「おはようございます。さ、今日も一日頑張りましょう」

「おーう……」


 おぼろげな意識でベッドから出た俺はそのまま服を脱ぎ、トレーニング用のジャージに着替えた。


「ユーゴ。貴方に緊張感や恥じらいがあまり無いのは理解していますが、人前で肌を晒すという行為にはもう少し躊躇いがあっても良いと思います」

「あはは、俺だって見ず知らずの女の子の前でいきなり服なんて脱がねぇよ。シルだったら別に怒らないから良いって思ってるだけだ」

「……っ。ま、まぁそういうことならば良いでしょう」


 俺の答えにシルは少しだけ頬を赤らめ、コホンと咳払いをする。

 ――うん、照れている俺の幼馴染は今日も可愛いな。



eins()zwei()! eins()zwei()!」

「1、2。1、2」


 綺麗なフォームで走る軍人用の迷彩服姿のシルフィ。その背中を見ながら、俺は後ろを走る。

 時間は朝の六時。人はほとんどおらず、東から上がった太陽が俺と彼女を照らしていた。


 河川敷でのランニングを終えたら次は公園で腕立てとスクワット、鉄棒での懸垂、タイヤ引きetc……。

 これらのメニューはシルが課したものだ。

 メニューに慣れる度に新しいメニュー(前よりキツい)に更新されていくため毎日ゲボを吐きそうになり死にそうになりながらこなしてる。


「ぜはー……はぁ……はぁ……」

「お疲れ様ですユーゴ」


 公園のベンチで横になっていると、シルが飲み物を持ってこちらに歩いてきた。


「今日も良く頑張りました。褒めてあげましょう」

「あー……サンキュー……」


 シルから飲み物を受け取ると、俺はそれを額に当てる。

 そしてどうしてこうなったのか思い出す。


 俺は中学三年生までバスケ部だった。ここで重要なのは「バスケ」という部分では無く、「運動部に入っていた」ということである。

 今の俺は高校二年生。部活は運動部どころか文化部にも入っていない。いわゆる帰宅部だ。

 そんな俺の体力低下を見かねたシルが朝のトレーニングを提案(強制)してきたというのが事の発端。


 こうして俺は体力を維持するためにトレーニングをしているというわけだ。だが実際の所間違いなく中学時代よりも肉体は強くなっている。幼馴染のトレーニングは部活動など可愛いくらいには辛いのだ。


 ちなみに夜はシルの家にあるトレーニング施設で格闘訓練を行う。最早シルは俺をどうしたいのか分からない。


 俺はチラリとシルに目をやった。

 彼女は迷彩服の上着を脱ぎ、上はノースリーブの白いTシャツ姿になっている。滴り落ちている汗とTシャツ越しに分かる上半身がとてつもなく魅力的だ。

 正直シルのこの姿が見られなければトレーニングを頑張ることはできない。

 

「何ですか?」


 俺の視線に気付いたのだろう。シルはそう聞いてきた。


「ちょっと失礼」

「ひゃん……!?」


 シルの腹筋に触れると彼女は可愛らしい声を上げる。


 うーん、やっぱり固いな。


 シルの腹筋は美しく引き締まり、鋼鉄のようだった。俺もトレーニングのおかげで相当腹筋は鍛えられているのだが、シルには及ばない。


「い、いきなり何をするんですか!」


 腹筋に触られたシルは俺から一歩距離を取る。


「悪い悪い、まぁでもいいだろ。俺とシルの仲なんだし」

「親しき仲にも礼儀ありです。今後はこういった唐突なスキンシップは控えるように」

「うぇー……」

「な、何ですかその顔は……」


 上目遣いで懇願するような表情をする俺に、シルは動揺する。

 大して童顔でも無いのにこんな表情をするのは俺自身あまりしたくない。だがこれならばシルに通用すると長年の幼馴染の経験則が物語っていた。


「本当に、ダメか? 俺はもう、シルの腹筋を触っちゃいけないのか?」

「……っ。わ、私は『唐突な』スキンシップは控えるようにと言っただけです。しっかりと事前に許可を取るのであれば問題ありません」


 へ、チョロいな。


 懇願の成功に俺はシルの見えない角度でゲスい表情を作る。


「て、では……どうぞ」


 そしてシルはTシャツをたくし上げ、頬を少しだけ赤く染めながら自らの腹部を露出させた。

 それはとても洗練された美しいシックスパックだ。

 幼馴染の俺はシルが水着を着た際に何度もソレを目撃しているが、Tシャツをたくし上げて恥じらいながらも腹筋を露出しているという構図に、とても興奮した。


「は、早くして下さい」

「お、おう。では……」


 急かすようなシルの言葉に、見とれていた俺は我に帰る。そしてゆっくりと手を伸ばし、シルの腹筋に、直接触れた。


「す、すげぇ……」

 

 先程鋼鉄と思ったが、それだけではない。

 シルの腹筋は山だ。そしてそれに触れている俺は登山者だ。何が言いたいかというと、自分がとてもちっぽけに錯覚するほどに、シルの腹筋は壮大で偉大だった。


「んっ……」


 次いで、シルから妖艶な声が漏れ出るのを耳にする。何かとてもいけないことをしている気分だ。

 いや、冷静に考えれば人気の無い時間帯とはいえこんな人の目につく場所で服をたくし上げた美少女の腹筋を触っているのはいけないことなんじゃないか……?


「はい、おしまいです」

「うぇ!? もうかよ!!」

「『もう』じゃありません! 一分も触れば十分でしょう!」

「一分!?」


 な、何だと……まさかそんなに触ってたとは……。


 どうやらシルの腹筋の素晴らしさに時間感覚が狂ってたみたいだ。 


「それで……その……どうでしたか?」

「え、どうって何がだ?」

「私の腹筋です。よ、良かったですか?」


 恐る恐る、恥じらうように聞くシル。


「おう。それは勿論だぜ! 他の奴の腹筋触ったことねぇけど、多分お前のが一番だ」

「そうでうか……ふふ、まぁ当然のことです」


 俺の回答にシルの表情は一気に晴れやかになった。

 勝気で自信家である彼女のデレが見れるのは幼馴染の俺の特権だな。


「さぁもう時間です。家に戻りましょう」

「へいへい」


 数秒の内に毅然きぜんとした態度に戻ったシルの言葉に従い、俺たちは家に戻った。



 家が隣同士で幼馴染の俺とシルは、当然のように家族同士での付き合いもある。

 仕事柄しょっちゅう海外に行く父さんはドイツでシルフィの父親と飲んでるみたいだし、母さんはシルの母親としょっちゅう国内を旅行するくらいには仲良しだ。


 そして今日も例によって父さんは海外出張、母さんはシルの母親と旅行に行っており、今俺に家にいるのは俺とシルだけであった。


「朝食は一日の始まりにして、健康な体作りの第一歩です。しっかり食べなさい」

「うぇー、やっぱ朝食べんのはキツいって」

「私はお母様から貴方の私生活の管理を任されています。つべこべ言わず食べなさい」

「んもぐ……」


 少し高圧的な態度でシルは俺の食器で朝食を摘まみ、そのままそれを俺の口に「あーん」してきた。

 それを繰り返し、俺は皿の食事を全て胃に放り込むことに成功する。


「よくできました。偉いです」


 朝食を完食した俺に対し、シルは微笑んだ。



 そんなこんなで朝食を終えた俺はいつものようにシルと二人で学校へ登校した。


「おい見ろよシルフィだ」

「うわぁ今日もすげぇ美人だなぁ……」

「おい誰か告ってこいよ」

「ばか、いけるワケねぇだろうが」


 学校の正門をまたぐと、同じく登校中の生徒が口々に小声でシルに対してそう漏らした。


「シルは今日も大人気だな」

「そのようですね。あのようにささやかれることは悪い気分ではありません」

「はは」


 シルはいつも堂々と悠然としている。

 賞賛や賛辞も素直に受け取る。彼女のいい所だ。

 

「お、お二人さん今日も仲睦まじいね」


 俺たちが教室に入ると、開口一番そう声を掛けてきたのは友人の反町隆也だ。


「当然ですタカヤ。私とユーゴは幼い頃から共に過ごしてきた……言わば戦友なのですから」

「その言い方は違う気がするぞシル」


 明らかに表現を間違えてるシルに俺はツッコミを入れる。


「はは、やっぱお似合いだよ二人は。もうすっかり熟年夫婦だし」


 隆也はそう軽口を叩いた。


「夫婦……」


 それに対し、シルはそうポツリと呟き何かに浸るような表情になる。


「タカヤ。今度何か奢ってあげましょう」

「え、本当? それは嬉しいな」


 機嫌良さげに言うシルの言葉に、隆也はガッツポーズをした。


「ねーシルフィー! 宿題見せてー!」


 そんな中、一人の少女が会話に割って入ってくる。

 新田玲音にったれいね、活発なスポーツ少女だ。


「駄目です。それは学問の本質に背きます。自身の怠慢を恥じなさい」

「うーケチー!」


 玲音の懇願に対し、シルは断固とした態度を見せる。

 NOを濁さずNOと言う所は流石と言った所だ。


 まぁこんな性格だから周囲から浮いているのではないか、と懸念されるかもしれないが……そんなことは全く無い。

 シルはあの外見に加え、男勝りでイケメンな性格をしているので女子人気は非常に高い。男子人気は言わずもがなだ。


 まぁ確かに最初はシルに対し周囲は一歩引いていた奴も多かったが、それに関しては俺が間に入って何とかした。


 そんなこんなで、今日も学校での一日が始まった。



 一限から三限が終わった。

 行われたのは数学や理科の授業。教師に指されたシルは、全て的確に一部の隙も無く完璧な回答をしていた。

 

 そして今は四限、体育の時間。これも言わずもがな、


『シルナイスー!』

『当然のことです。どんな戦場であろうと、私は完全に制圧します』


 ――シルの大無双だ。


 彼女は帰宅部にも関わらず日ごろのトレーニングによる体力と抜群の身体能力でバスケコートを駆けまわりシュートを大量に決めていた。


「はー、ホントにすごいねシルフィは」


 隣のバスケコートを眺めながら、隆也はそう呟く。


「はは、本当にね」


 俺は横目で隆也を見ながらそう返した。


「もったい無いなぁ。あれだけ動けるんだったら部活でもすればいいのに」

「……」


 隆也の言葉に、俺は無言。

 肯定したく無いわけではない、むしろ俺もそれには賛成で心の底からそう思った。

 だが、言葉が出なかった。


 シルは頭の良さも運動神経も飛び抜けており、それは幼い頃から一緒にいる俺が一番良く分かっている。

 これまでも何度もシルは様々な部活から勧誘を受けたり、学校側から特別進学コースの編入を勧められている。

 しかしその度にシルはそれらの誘いを断っていた。理由は『俺の世話をするのが大事』だから。


 これまではあまり意識してこなかったが、冷静に考えれば良くない。

 だってそうだろう、シルは自らの可能性を俺の世話で潰しているのだ。部活に入れば大会で良い成績を残せるかもしれない。特別進学コースに入れば良い大学からの推薦がくるかもしれない。


 シルにとって、俺はアイツの輝かしい未来への足枷でしかない。


 そう思った矢先、転機は訪れた。



「す、好きです。私と付き合ってください!」


 その日の放課後、俺は隣のクラスの女子から告白された。

 声音や態度から意を決して俺に想いを伝えてくれたことを痛感する。


 ……千載一遇のチャンスだと思った。


 俺がこの告白を受け入れれば、シルが俺から離れる理由ができる。そうなれば、アイツは自分で自分の人生を歩めると考えた。


「……ごめん」


 だが、俺はその告白を断った。

 そんな理由で告白を受け入れることは、告白をしてくれた彼女に対して……あまりにも失礼極まりないからだ。

 

 いや、違うな……。


 そう思いながら、俺は苦笑する。

 彼女に対して失礼……そんなのは建前であると、自分で分かっていた。

 

 ――俺は、自分の気持ちを理解した。


 伝えなければならない。シルに……俺の気持ちを。


 そう考え、教室を出た。


「やぁ」


 教室を出て、少し歩くと隆也と遭遇した。

 その顔を見た俺は、コイツが事情を把握していると悟る。


「シルは?」

「さっき屋上行くのが見えたよ」

「サンキュー」


 親友の有難い情報を手に入れ、俺は屋上へと駆け出した。

 


「はぁ……はぁ……」


 開けた屋上で、シルフィは息切れを起こしていた。

 普段から相当なトレーニングをこなしている彼女が、屋上までの階段を駆け上がったからという理由で息を切らすはずがない。


 彼女が息を切らしていたのは動揺していたからだ。

 いつものように勇吾と帰ろうと彼を探している途中、彼が他クラスの女子に告白されている様を目撃したからだ。


 勇吾が女子に告白される――今までに無い不測の事態にシルフィの脳みそはパンク寸前であった。


 ユーゴが、告白されていた。戦友として、喜ばしいことだ。

 それなのに……何だ。何なんだこれは……!!


 胸が締め付けられるような思いに、シルフィは歯を食いしばる。

 そうして、彼女は思い出した。勇吾と出会った頃のことを。



 私は小学一年生の時、母と共にドイツから日本へ来た。

 当時は目の色や髪の色で周囲から浮いており、誰も私に近づこうとはしなかった。

 私は別にそれで構わなかった。私自身人との繋がりを必要としておらず、煩わしいものだと認識していた。


 そんな時である。


「おーい!」


 私が家にいると、外からそんな声が聞こえた。

 二階の窓から顔を出すと、そこにいたのは同じ小学校に通い、私の家の隣に住んでいるユーゴだった。


「一緒に遊ぼうぜ転校生ー!」


 彼は笑顔でそう言いながら、私に向け手を振った。

 

「嫌だ」

「うぇ!? 何でだよ!!」

「何故私が見ず知らずのお前と遊ばなければならなのですか?」


 私は冷たくあしらい、ユーゴを拒絶した。しかし、


「う……うぅ……」

「え、ちょ……何で泣くんだ!?」

「うぇ……そ、そんな風に言わなくてもいいだろぉー……」

「わ、分かった。遊ぶ、一緒に遊ぶから……!」


 初対面でいきなり泣かれどうすれば良いか分からなかった私は、ユーゴと遊ぶことを選んだ。


「え、マジで!?」


 私の答えに対し、ユーゴは先程までの泣き顔が嘘のように消え、キラキラと目を輝かせた。

 あまりの変貌っぷりに、当時の私は何とも言えない気分になった。


 だが、何はともあれ私は公園でユーゴと遊んだ。

 あの時は、子供ながらになんだかんだ楽しかったのを覚えている。


「一つ、聞いてもいいか?」


 夕暮れ、もうすぐ帰宅するという時、大きな遊具の上で私はユーゴに聞いた。


「ん、何だ?」

「どうして、私を誘ったんだ……?」

「え、ンなのお前と遊ぶと面白そうだと思ったからに決まってんだろ」


 何を言っているんだと言わんばかりの顔で、ユーゴはそう返した。

 今思えば、何とも根拠薄弱こんきょはくじゃくで馬鹿馬鹿しい理由だ。

 けど、不思議と悪い気分はしなかった。

 

 そこから私はユーゴとよく遊ぶようになり、学校でも一緒に過ごすようになった。

 しかし、ある時事件が起きた。


「何の用ですか?」

「ねぇ、アンタ調子乗らないでくれる?」


 そう言うのはクラスのリーダー格の少女だった。私の外見が美しいのが気に入らないらしい。

 あまりにも下らない理由に、私は溜息が出た。


「何その態度……あーもうやっぱりムカつく! やっちゃって翔太!」

「おうよ!」


 リーダー格の少女はそう言って、一人の男子が私の前に立った。

 どうやら彼に暴力を振るわせて、私を脅したいらしい。


「私に掛かってくるか。なら……覚悟はできているんだろうな?」


 私は構えた。

 ドイツ軍人である父親から色々と仕込まれていたため目の前の男子に全く臆することは無く、むしろこれから始まる戦闘に心が躍っていた。


「へ、へん! 女のクセにまさか俺に勝てるとでも思ってんのか?」

「下らない価値観だな。いいから来なさい、見事に沈めてあげましょう」

「てんめぇ……」


 怒りの沸点が最高点に達したとばかりに、男は私に向かって拳を振りかざした。


 単調な攻撃、速度も大したことが無い。これでは何も楽しめないな。

 このまま拳を避け、相手の懐に入り、腹部に私の拳を入れる。それでおしまいだ。


 拳が迫る中、私はそんな思考をしていた。そんな時、


「やぁめぇろぉぉぉぉぉ!!」


 そんな声が聞こえたかと思うと、突如として現れたユーゴが私を庇い、目の前の男子の拳を頬に受けた。


「大丈夫かシル!」

「ユーゴ、それはこちらの台詞セリフなのですが」

「そりゃそうか……って痛てぇ!! おい翔太!! てめぇよくもやりやがったな!! 許さねぇぞ!」

「お前が勝手に入って来たんだろ!!」

「うるせぇ知るかそんなことぉ!!」

「ぐはぁ!?」


 ユーゴの拳が、今度は目の前の男の顔面に炸裂する。


「てめぇ何しやがんだぁ!!」

「先にやってきたのはそっちだろうがぁ!!」


 そうして、何故かユーゴとの戦闘が始まった。それは教師が止めるまで続いた。



「……ててててて」

「全く、何をしているんですかユーゴ。私が強いのはお前が一番知っているでしょう」


 私はユーゴの頬に絆創膏ばんそうこうを張る。


「いやぁ、それはそうなんだけどよぉ。お前が殴り掛かられそうなの見たら、飛び出してた」

「……」


 あはは、とあっけらかんとした様子で答えるユーゴ。

 それに対し私は……、


「っ……」


 身体からだ中の体温が上昇するのを感じた。


 ――その時からだ。


 私はユーゴを『本当の意味』で大切な友人だと、認識したのだ。



 気付けば、勇吾との思い出がとめどない勢いでシルフィの中を駆け巡った。

 

 嫌だ……嫌だ……嫌だ……!! 消えろ、消えろ消えろ消えろ!!


 シルフィは必死で自分にそう言い聞かせる。だが、思い出が止まることは無い。同時に、勇吾への思いは強さを増していく。


 ガチャ。


 自分をコントロールできないシルフィ、そんな時屋上の扉が開いた。


「シル!!」


 現れたのは、勇吾だ。

 

「……」


 シルフィはゆっくりと勇吾の方へ顔を向けた。


「シル、お前……」


 その表情を見た勇吾は、言葉に詰まった。無理も無い、シルフィの目からは涙が流れていたのだから。


「すみませんユーゴ。私は、おかしい。幼馴染として、戦友として、貴方を祝福しなければならないのに……笑えない。涙が、止まらない」


 いつもの毅然とした態度も、勝気で男勝りな性格もそこには無く『普通』の少女が、そこにいた。

 明らかにいつもと様子が違うシルフィを見て、面食らう勇吾。

 しかし、それは一瞬で……息を吐いた彼は、言った。


「……奇遇だな。俺もおかしいんだよ」

「え……?」

「今日の放課後まで全然そんなこと無かったのに、今は……お前を目の前にしてメチャクチャドキドキしてる」

「そ、それは……」


 恥ずかしそうに、照れくさそうに放たれる勇吾の言葉に、シルは悟る。


「俺は……お前が好きだ。男よりカッコいい所も、スタイルが良い所も、顔が良い所も、頭が良い所も、お前の内面も、全部好きだ。そんで、そんなお前が俺にだけ見せてくれる照れた顔とかがすげぇ嬉しくて、優越感に浸ってた」

「ユーゴ……」

「あー、まぁこれ以上話しても無駄だな……単刀直入に言うぜ、シル。俺と、付き合ってくれ」

「……」


 勇吾は一歩踏み出した。

 幼馴染でも、親友《戦友》でも無く、男女として……シルフィと付き合いたいと。


「いいん、ですか? 私で……」

「あぁ? 逆にお前以外じゃヤダよ俺は。え、まさかお前は違うの!? 待て! ここまで来てフラれんのは流石に心に……!?」


 頓珍漢とんちんかんな思考を繰り広げる勇吾。

 そんな彼が全てを言い終わる前に、シルフィは彼に抱き着いた。


「……」


 涙を流しながら、勇吾に抱き着くシルフィ。そんな彼女に対し勇吾もまた、彼女を抱き返す。


「ユーゴ。私も、貴方がたまらなく好きです。貴方無しの人生など、考えられないほどに」

「……俺もだ。いつの間にか、お前が俺の中ですげぇデカいモンになってた。こんだけデカくなってたのに、気付かないなんて、バカだな俺」

「でしたら、私も馬鹿です。私だって……気付かなかった」


 そう言って顔を上げ、勇吾と目を合わせるシルフィ。

 その顔は凛々しく、美しく――そしてたまらなく可愛いと勇吾が思ったのは、言うまでもない。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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シルさんは書いてて楽しいのでまた短編か何かで書こうと思います!

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