6 歴史と悪意の存在
騎士様にとんでもないことをしてしまい反省するワグモカズキ。ギクシャクした雰囲気のままだが何とか人の国に向かえる事になったがその先にこの世界のどうしようも無い歴史が生んだ悪意が潜んでいた。
あの悲劇のような時間から数十分経った。女騎士は近くのベンチに腰掛けて目の前で石を上にのせ土下座しているを男を睨みつけていた。
「私が早とちりな上に勘違いをして、ギカントに危害を与えた事は認めましょう。ですが部下の前で裸にするというのは些かやりすぎでは??」
「そうだぞやりすぎだ。変態。」
「ええ。やりすぎです変態。」
「やりすぎだ変態。」
女騎士に続きクレア、カレン、グレアスも続いて罵倒する。ワグモカズキは恐ろしい程の冷たい視線から目を背けながら
「本当に申し訳ありませんでした。このゴミ虫を好きなだけ罵ってください。でもやっていいって·····」
「は?何か言いましたか?」
そっと顔を上げたワグモカズキは女騎士の鬼のような形相に完全に失言をしたと思い
「いいえ。全てこのゴミ虫が悪かったです。ごめんなさい。」
「よろしい。そしてクレア様、カレン様色々とご迷惑をおかけしました。私の勘違いで門を、、私の部下が今頑張って修理してますので、、」
女騎士は鬼のような形相から一転しょんぼりした顔つきに変わり謝罪をする。クレア、カレンは
「いや、いい。私達も敵意が剥き出しだったことを詫びよう。」
「ええ。お互い様ですわ。」
女騎士は少し顔が明るくなり疑問を投げかけた。
「何故、亜獣国ギガントはこのような男を受け入れたのですか?魔族の可能性もあったはず。」
クレア、カレンは顔を見合せクスッと笑いカレンが
「理由は目の前のマヌケさですよ騎士様。」
続きクレアが
「こちらの気も知らないでこんな姿をみせおって。我々の時もこうだった。それにな、、こいつはウチの試練を超えた。認めた理由はそれだけだよ。」
女騎士は恐ろしく落ち込んだワグモカズキを見て
「ふむ。もう少しこの男について聞かせてください。」
ワグモカズキは今から自分の説明が入ることを察し
「その前に石をどけ」
「黙りなさいケダモノ。」
「はい。」
言い切る前に女騎士に否定され縮こまる。その後クレアとカレンは自分の説明に入った。異世界から来た事。なぜ来たのか。特殊な能力を持っている事。保身のためその全ては明かせないこと。人の国を目指してること。この世界の今の有り様を聞かされて混乱してる事。女騎士は鬼のような形相で
「なんて可哀想なケダモノなのかしら·····同情します·····」
「セリフと顔が一致してませんよ騎士様。」
ワグモカズキは痛さでの苦悶の顔で必死の抵抗の声をあげる。すると女騎士は立ち上がり上にのっていた石を退かし始めて。
「え?」
「事情は分かりました。人の国に行きたいのでしょう?」
「いいん·····ですか?」
「あなたというケダモノを入れるのは反対ですが、何やら貴重な能力をお持ちのようなので。それにこのまま放置しても目指してくるんでしょ?知っていて放置していたなんて状況になりでもしたら大変なので。私は断固として反対ですが。」
「あ、ああ、なるほど」
女騎士にも優しさがあったと一瞬でも思った自分を殴りたいと思った。用は役に立ちそうだから連れていくということだろう。でもそれでもこれ以上ないくらいの進歩だ。痺れたヒザに手を置きゆっくり立ち上がり頭を下げ
「ボクで役に立てるならなんでもします。連れてってください。」
「連れてくのではなく連行です。」
女騎士は不満そうな顔でそう言い恐らく亜獣国ギガントも同じような理由で滞在を認めていたに違いないと思う。女騎士は男の手首を握り上にあげクレアとカレンに
「すみません。という事なのでこれ連行させて頂きます。」
「ああ、好きに扱ってやってくれ!」
「よかったですね。ワグモ君。」
2人の女王にワグモカズキは頭を深々と頭を下げる。この異世界に来て本当にこの国にはお世話になったと改めて実感する。短い時間だったがその中でこれだけ仲良くなれたのはきっと優しさと強さを併せ持っていた亜獣国ギガントだったからだと。ここでなければ死んでいた。
「本当にお世話になりました!!!!!」
ワグモカズキは最大限の気持ちを声にだし礼を言った。それに対しグレアス、カレン、クレアが
「別にこれでおしまいって訳じゃねえんだ。こっちが恋しくなったらいつでも戻って来やがれ。」
「ええ。いつかまた会える日を楽しみにしています。」
「次はあんな物騒な歓迎ではなく友人として迎え入れよう…行ってこい!」
そんな別れの挨拶に思わずウルっとくる。こんな怪しい者を。この人達には落ち着いたら必ずまた会いに来ようと心に誓い
「はい!!!!皆さんもお元気で!!!!」
そこまで見届けた女騎士は人差し指と親指を口にくわえ音を鳴らし馬を呼び男を上に放り投げ自身も跨ると
「ではクレア様、カレン様本当にお騒がせしました。」
「ああ、悪いやつじゃないんだ。」
「気にかけてやってください騎士様。」
「ええ善処します。」
そんなクレア、カレン、女騎士の3人のやり取りが終わり女騎士は馬にアイコンタクトを送りそれを合図に馬は駆け出した。ワグモカズキは焦って目の前の騎士に抱きついてしまう。
「ひゃっ?!ケ、ケダモノ!場所を弁えなさい!!」
「いきなり動くからだろ!雑すぎんだよ俺の扱い!!」
「むぅ。着いたら離しなさいよ!全くもう。ただじゃおかないんだから。」
「めちゃくちゃだ·····」
「何か言いましたか?」
「ごめんなさい。」
「よろしい。」
それを見届けてたグレアスは
「ありゃぁ、向こうでも苦労しそうだなあいつ」
そう呟きクレア、カレンと共に彼等が見えなくなっていくまで見届けた。
しばらく走り門前にきた。斬られた門はもう修復されており騎士2人が待っていた。
「お疲れ様です隊長。」
「後ろの男は?」
「訳あって彼を連れ帰ります。向こうでは王には私が説明しますのでまずは待ってくれている仲間の元に合流しに行きます。」
そんなやり取りを聞きワグモカズキは
「瞬間移動で一瞬で行きますか?」
と、提案するが女騎士に即座に否定される。
「まだ私は完全に信用していません。そんなリスクのある行動はとらせません。時間は確かにかかりますが馬の脚で行くのが条件です。いいですね。」
ワグモカズキはそりゃそうだよなと妙に納得し
「分かりました。それで大丈夫です。」
と頷く。女騎士は騎士二人と馬にアイコンタクトをとり門を後に駆け出した。先程も思っていたが凄いスピードだった。これならこの山でも早く登ることが可能だろうと。そんなことを考えてる時に女騎士が語りかけてきた。
「ワグモカズキだったな。君はこの世界に来てこの世界のことをどう思った?」
ワグモカズキは聞いた歴史を思い返し
「正直。魔族がとんでもなく可哀想だと思ったよ。」
「·····やはり私達を汚いと思うか」
「いいや。その時の奴らは正直クソだと思ったけど今のあんたらは違うんだろ?」
「…!そうだな。だが恨みは残る。魔族に対してどこまで聞いた?」
「散り散りになって逃げていったって所までかな?なんかあるのか?」
女騎士は少し間をあけ
「4種族と魔族の争いは4種族が圧倒的だったって説明していたらしいが恐らくそれは君の心に負担を与えないために嘘をついている。」
「え?なんでそんな嘘を」
「仲良くなったからであろう。獣人や亜人は優しいからな。事実は4種族と魔族は拮抗していた。」
「え?!」
「驚くだろう?4種族の連合軍は囲い徹底的に攻めた。が、魔族は種族としてかなり優れていた。異常な魔力に獣人並のパワーを持つものもいたという。だが4種族も馬鹿じゃないそこまでは想定内だった。だが魔族は1つ隠していた。それが想定外だった。」
「一体何を、、、その戦力差をひっくり返すほどのものだったって事ですか?」
「ああ。それは限られた魔族の中の魔人が使える魔能と呼ばれる特殊な力だ。」
「魔能、、?」
「魔法や精霊術などでも無いもの。そうだな。どちらかという貴様が私達の前でやってのけた様なものだ。」
「超能力ってことですか???」
「奴らの使っている物はかなり近しいものだろう。魔力を使わず発動できる。魔能は恐ろしく強力なものばかりだったときく。」
「きく??」
「見たものは全員死んで死体しか残っていない。その魔能を使える者達があらゆる箇所に穴を作り散り散りになって逃げていった。そしてそれを追ったのが鼻がきく獣人と魔力感知にたけている亜人のエルフだった。」
「まっまさか!!」
ワグモカズキの中に考えたくない想像が膨らむ。
「ああ。そこで追った獣人とエルフはほぼ皆殺しにされた。故に後に分ける時に獣人とエルフは手を組み合うことに同意した。それでできたのが亜獣国ギガントだ。」
「そんな、、なんで、、」
「恐らく貴様の超能力を知ったからであろう。それを言えばこの世界では彼は孤立してしまうとでも思ったんじゃないのか?」
「·····。それで逃げた魔族はどうなったんですか?!」
「今も行方不明だ。魔人に寿命などは無いと思われている。それ故に我々は常に彼等の警戒を怠ることができない状況だ。」
「寿命がない?!そんな事有り得るんですか?」
「人種族以外のものは寿命死等あまり聞かないからな。寿命で死んでましたなんてのは期待できん。それに·····」
「まだなにかあるんですか·····」
「つい先日、うちの妖精の国との貿易隊が全滅していた事が分かっている。」
「え、、?全滅?」
「我が国は食べ物等を分け与える代わりに色々な属性の魔力のこもった魔石を頂いている。直接精霊と契約しているものもいるがそれ以外は戦いのレパートリーを増やすために使っていると言う印象だな主に騎士が。そしてそれの貿易隊が道中で全滅しているのが見つかった。貿易隊には腕のたつ騎士も同行していたのにだ。国はこれを魔人の仕業とみている。そして私達は国の周りに来ていないかの偵察中にあの家をみつけ今に至るというわけだ。」
そんなこんな話を聞いてるうちに目的の場所に着いたことに気づく。懐かしきボロボロの家がある所だ。夜に来るのは初めてだった。
「その、、なんというか俺ってホントとんでもない程掻き乱してませんか?この状況を。」
「気づいてくれてなによりだが。。これは一体どうゆう事だ?なぜ誰もいない。」
「確か、、ここに仲間がいたんでしたっけ」
「隊長私共でみてまわってきます!」
女騎士は2人の騎士にそう言われ頼むと返事をした。2人の騎士は捜索しに家の方に向かった。
「静かすぎる·····一体どうゆう事だ?」
妙な胸騒ぎがする。すると前方から
「「ぎゃああああ」」
と断末魔のような悲鳴が聞こえた。その声に反応しワグモカズキと女騎士は
「ひっ、悲鳴?!」
「くっ!!捕まれ!行くぞ!!」
「はっはい!」
そう言い馬を走らせる。家の近くまで駆けていき家の真横で馬が止まる。
「どうした?」
「おおっと??!」
急な停止に女騎士とワグモカズキは驚き辺りを見渡す。するとそこには残った兵達の手足や頭、胴体が転がっていた。
「なっ、誰がこんな事を!!!!皆!!何者だ!!どこにいる!でてこい!!」
手を強く握りもう片方の手で刀に手を置く。。憤る女騎士。それに対しワグモカズキは馬からおり
「ウェエエエエエエ」
と嘔吐する。
女騎士は1度冷静さを取り戻し馬からおりワグモカズキの背中を揺すりながら
「落ち着け!!!!!大丈夫か?!」
と声をかける。少し冷静さをワグモカズキも取り戻し
「ハァ、ハァ有難うございます·····一体なにが·····」
「分からない。。ただ1つ分かっているのは何者かの襲撃をうけたという事だ。」
「襲撃って、、こんなの誰が·····」
とんでもない程の恐怖と寒気がワグモカズキを襲う。が、そこで女騎士の顔を見てハッとなる。女騎士は部下達をずっと見て今にも泣きそうになっていた。そりゃそうだ。あれだけ慕われていたんだ。きっと仲も良かったに違いない。そんな部下をこんな目にあわされて平気でいられるはずがない。するとそこで男の不気味な笑い声が響く。
「イヒ…イヒ…イヒャハハハハハハハハハハハハハ·····これはこれは今日はいっぱいだァ!!!!」
笑い声はの正体は少し前方から歩いてきた。全身を黒いマントで隠し両手に先程捜索に行った騎士達の頭を持って。女騎士は立ち上がり
「お、お前達!!!おのれ貴様!!!炎の精よ私に力を!」
剣を抜く。そこから発火し炎の剣ができる。ワグモカズキは精霊使いだったのかと驚く。女騎士は刃を振るう。風に炎がうつり炎の刃として敵に襲いかかる。物凄いスピードで迫るそれをかわし男は
「残念。今日はは沢山殺したからもうお腹いっぱいなんだ。」
「·····ッ!貿易隊をやったのも貴様か!!!」
「話が早くて助かる。だから見逃してあげるよ。」
その言葉に女騎士はさらに激昂し
「死ねッッ!!!」
女騎士は炎の刃を何度も振り斬撃を飛ばす。それを全て危なげなくかわし男は
「しつこいなぁ。それは俺にはあたらないよ。やめてくれるかなぁ疲れるんだけど。」
「ぐッ!」
男は手に持っていた頭を後ろに放り投げ
「明日の分だと思えばいいか。じゃあね勿体ない人。」
「えっ·····」
女騎士はなにかくるがかわせないと悟る。その時ワグモカズキの本能はその瞬間に5つ目の超能力を使っていた。近未来視。10秒先までの未来が視えるもの。それに視えたものは女騎士が何かに斬られたかのような傷を肩から腰までに斜めにできて血を流し倒れている所。ワグモカズキは瞬時に彼女の前に移動しすぐに移動するつもりだったが身体に激痛がはしる。自分の身体から視たまんまの傷を負ったことを感じたが痛さを我慢して後ろを振り向き彼女を抱きしめボロボロの家の中に移動する。
「んん?!消えた?どうなっている。」
男は困惑する。ワグモカズキは家の中で痛いのを我慢して小声で彼女に告げる
「精霊術を解いて気配を消して!」
女騎士は何が起きたのかわからず困惑していたが血を流してるのを見て庇ってくれたことを察し言う通りにした。家の中で2人で抱き合いながら静かに過ごす。すると男は
「奇妙だな、、、あの男が何かしたのか·····」
しばらく考えた後男は
「まっ、どっちにしろあの深手だ。何も考える必要は無いか。最近はいい日が続く。」
男はそう言い残し、山の中へと消えていった。それを感じた女騎士は男を突き放し傷をみて驚く。
「なっ?!まずいじゃないかバカ!なぜ庇った?!」
「ハァ、ハァ、ハァ。そう言われてもな、、ガハッ」
ワグモカズキは血を吐く。あまりの痛さと出血で意識が朦朧としていた。女騎士は
「バカ!!目を閉じるな!意識を強くもて!」
彼女が涙目になりながら叫んでる。が、上手く聞こえない。ワグモカズキは消えゆく意識の中で思う。
(あーークソ。。俺、、こんなんばっかじゃねえか)
その思いが最後に意識は途絶えた。
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