2 優しさとチャンスと価値
異世界で待ち受けていたのは?!
「ん、ここは…」
目を覚ますとそこは知らない天井だった。記憶はしっかりしている。最後駆け寄ってくれていたしおそらく助けられたのだろう。ゆっくりと体をおこし辺りを見渡す。何の変哲もない宿のような部屋だった。右手側で外の光が窓からさしかかりそっと目を細める。そこでドアからノックがかかる。
「入るぞ。」
「あっ、はい。」
ふと返事をしてしまった。がっそれが正解だった事に入ってきた人物の容姿を見て安堵する。褐色の獣人。恐らく無視なんかしてたらとんでもない事になってたに違いない。
「あっ、服着てる」
「開口一番がそれか。随分と元気になったものだな。」
「あっ、いやそうゆう訳じゃ!あっ、僕どれぐらい寝てました?」
「丸一日だ。…」
「なんだ…良かった何ヶ月も経ってたらどうしようかと。」
そこでふと鋭い視線を感じて前に目線を返す。褐色の獣人がこちら鋭い目付きで睨みつけていた。
「あのぉー何か?」
「…私が怖くないのか?」
「なぜ僕が怖がるのですか?」
「お前を殺そうとしたんだぞ。覚えているだろう。」
「でも僕がここにこうして服まで綺麗に着替えていて寝転がってたって事は…助けてくれたんですよね?」
「助けたか。物は言いようだな。だがそれを裏切るようで悪いがお前には今すぐ私の尋問に答えてもらう必要がある。」
覚悟はしていた。こうなるのだろうと。当然だ。突発的に超能力を使いハイになって色々忘れていたが俺のやった事はおそらく不法入国に近いもの。
「なんでも答えれる限り答えようと思ってます。」
「ならばこちらも悪いようにはしない。お前の昨日の醜態を目の当たりにすれば戦士では無いのは一目瞭然だからな。」
「返す言葉もありません……」
恥ずかしさでものすごく顔が赤くなっているのが分かる。
「ふっ。ほんとお前は何がしたいのかさっぱりわからんヤツめ。よし。ではこの辺でいいだろう。始めるぞ。」
「はっはい!!」
ゴクッと固唾を飲む。初めての経験で緊張しているのであろう。でもこの人はなんだかんだ優しいだなやっぱり。
「それでは。一つ目どこから来た?いや正確にはどこの国の者だ。」
「日本です。」
「そんな国は存在しない。さっきまでの緩い感じだと思ってるなら殺っちゃうぞ。」
(うぉおおおキャラがわかんねええぇぇ。ってかそれ否定されたらもう詰みなんですけどぉぉぉぉぉ)
「どうした?まさか答えられないなんて言わないだろうな?」
(詰んだァァァ終わったァァァァ!くっ。こうなったら奥の手を使うしかない!リスクはかなりあるが!)
「ひっ、人の国から来ましたァ」
「…ふむ。お前が人である事は治療した私達が一番わかっている。それに人の国はお前がおりてきた反対側におりたとこにある国だ。予測はしていたが…」
「な、なんだぁ知ってたんですねぇ!」
(神は存在して…た)
心の中で大きな安堵をつく。
(ん?だとしたらどうして。聞いたりしたんだ?)
「では二つ目。あのような薄い服でどうやって傷1つ疲れなく山をおりてきた。人の国から登りここまでおりてくる。並の高さじゃないあの山は。それに私達側の方の森には野生の獣がうろついている。野生とはいえお前のような軟弱者が勝てるものではない。」
「えっ」
(なんだそれ…やべぇ助かったって思ったのにとんでもねぇハイリスクを自分で掘っちまった。)
空気が変わる。それを感じとる。昨日の彼女の視線と全く同じものが向けられてることに気づく。
「もう一度聞く。人の国から来たのだな?」
出来ることはもうただ一つ。
「馬鹿らしいかもしれませんが、こことは違う人の国から来ました。」
「……本気か?貴様。」
「はいマジのまじです。」
しばしの沈黙が訪れる。
「お前本当にめんどくさいぞ。勝手に入ってきて泣いて気を失い異界から来ただの私を困らせる天才か?」
「信じて…くれるんですか?」
「はぁ…信じるも何も昨日と同じような怯えた目でそう何度も訴えられては疑う事もできん。」
一気に自分の中で緊張が止めていた安堵と恥ずかしさが混み上がる。そして。
「あっあの!本当に申し訳ないんですが僕も聞きたいことがあるんですけど…それって許されます?」
「…構わん。続けろ。」
「ここってどこです?」
ずっと疑問になっていたものを切り出す。
「本当に何も知らないのだな。ここは亜獣国ギガント。獣人や亜人の国だ。」
「は、はははすげぇ。」
目がキラキラして心が今にも踊り出しそうなぐらいバクバクしてるのが分かる。
「ここは…えーーと貴女の家かなにかですか?」
「家のようなものだな。戦士が住む戦士寮といったところだ。」
「寮…随分とデカいんですね。」
窓の外からみれる景色だけでもとんでもない広さのとこだって分かってしまうぐらい広大な庭のようなものがある。
「二階に王が住んでおられるからな。」
「へーーー、王様が。って王様?!」
「1階が戦士寮。これ程安全なものないであろう?」
「た、確かにそうですけど。。」
(物凄い距離感だなぁ。王様とこんな近くにいると思うと急にドキドキしてくる)
「あ、あの僕この後どーしたらいいんでしょう。」
「お前のことは私が昨日王と話し一任されている。異界から来たと言っていたが戻るあてはあるのか?」
「戻っていいんですか?!」
「害の無いものをずっと捕らえてたなんて馬鹿話にも程があるだろう。」
この人は一体どこまで甘く優しいんだろうと心の中で思う。でも戻る気などサラサラない。ってゆうか戻りたくない。何処か誰も知らない所で何かを始めるつもりだったけど異世界だなんてロマンの塊じゃあないか。だとすると俺はどうしたら…
「そうだ!!!」
「なっ何だ急に」
思い付いた。そう俺は超能力を活用し自分の可能性をみるため変わろうとしたんだ。なら異世界でも変わらない。目の前の腕をくみながら少し呆気にとられている獣人をみて。
「何か決まったのか?」
「はい!俺をここで住ませてください!!!」
「はぁ?!」
驚いたリアクションの獣人を前に続ける。
「必ず役に立つと思いますよ。」
「お前が…役に?なぜお前がこの国に役立ちたい?」
「深い意味は無いんです。恩返しがしたいんです。」
昨日あれで殺されていてもおかしくなかった。だが助けて貰った。なんなら治療もしてもらいベッドで寝かしてもらい。尋問は怖かったけど今こうして普通に話してくれている。この異世界で1から始める手助けをしてくれた運命的なこの国に。
「その気持ちは…大変嬉しいが…それを本気で言っているなら考えてやらんこともないが…厳しい試練があるぞ。」
「試練??」
「ここの国の者は昨日侵入者が入った事を知っている。ここに捕まっていることもだ。その者が今どうなったのかみんな知りたがっている。害はなかった。大丈夫だ。なら納得するだろう。だがここで住むという話になると変わってくる。お前の評価は最悪だ。侵入者を住ます等前代未聞だからな。」
「確かに…えっじゃあなんでアナタは俺を?」
「獣の勘というやつだ。お前に害は無いし話した感じも悪いやつにはみえない。私の連れもそう言ってたしな。」
「ははは、所々甘さというか優しさがみえちゃってますよ」
「ふっ。物は言いようだ。それに異界の者など私も初めてだ。そうだな。楽しみなのかもしれないな。お前がこの国に関わることでどうなっていくのかが。」
「本当に変わってますね」
「お互い様だろ?」
目を瞑り現代での我慢の日々。昨日の醜態。色々思い出す。全て俺に偽りの覚悟しか無かったからまねいたものだ。ここで俺は自分の力を全て使って1から最悪を変えていく。周りも全部。覚悟は決まった。
「やり方を教えてください。俺がこの国に何かを残せる方法を!」
ニッと自分の目をみて獣人の娘は笑う。そして。
「ここは亜獣国ギガント。個々の我がとにかく強い。外に狩りに行く時も大体一人で行くし喧嘩なんてしょっちゅうだ。だが誰も文句は言わねぇ。そうする事で自分の価値を示しているからだ。簡単に言えば弱肉強食だ。てめぇがこの国に役立ちたいなら自分の価値を力で皆に示すしかねぇ。やり方は自由さ。文句なんて言えないようとんでもねぇ狩りをするのもあり。喧嘩で分からせるのあり。だが悪魔で価値を魅せるためにやる事。できるか?てめぇに。この最悪から。」
「もちろん。最悪をマイナスを1に変えるために来たのだから。僕が魅せれたらここに住ませてね。」
「約束する。その時はそうだな。お前が盛大にかませたのなら戦士も考えてやっていい。」
「勝手に決めちゃっていいの?」
「決めるもなにもみんなが認めた後でだ。部下にする。何ら変じゃないだろ?まぁせいぜい頑張れよ。そこに軍服かなんか適当にあるから着替えたらさっさと行ってこい。じゃあな。」
指で近くのクローゼットを指しそう言ってドアからでていった。なんだかんだで面倒見のいい人だなと心の中で思いベットからおりクローゼットを漁り白のかっこいい軍服みたいなもの気に入りそれに着替えてドアの外にでて寮からでる。門を抜けた所で後ろを振り向き改めて馬鹿でかい寮なんだなと認識。ここに王様がいるってまじかよとも思い作りも日本のに似ていて迷うことなく出れた。何か引っかかるが今は気にぜずやるべき事をやろう。力を示すのが住む条件。最高だ。まだ試していないやつもあったからこれは俺が望んでいたシチュエーションと言っても過言ではない。そうしてワグモカズキら両脇に森がある1歩道を進んで昨日見た倒れた場所へと進むのであった。
「上手く誘導できましたわね。」
「ああ。かなり出来すぎな話だったてのになんの疑いもなくあっさり行っちまったよ。本当に脳内花畑やろうかと思ったぜ。逆に怖くなってくるぜ」
「ふふ。どちらにせよ正体がこれで分かりますわね。あのアンチ魔法の壁を瞬間的に超えてきた彼が一体何者なのか。」
「ああ…悪いやつじゃないと思うが…頼むぜ私にあんたを殺させる事になんかなんないでくれよ兄ちゃん。」
とんがった耳の少女と獣人の娘はさっきまで彼のいた部屋でそんな会話をしているのだった。
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