03 Neg 著 妖怪(怪物) 『猫のおんねん』
「ネコの怨念は怖いものなのだ」
俺の家に居候している猫娘のララはおもむろに怪談話を語り出した。
「その家には美夜という三毛ネコが飼われていて、大変かわいがってもらって幸せに暮らしていたのだ」
「ふーん。じゃあ何で怨念なんか持つんだよ。意味分からねえ」
「黙って聞くのだ。ここからが本題なのだ」
ララは睨むように俺を見てきた。
「美代は、いつも通り散歩にでかけてそこら辺をほっつき歩いていて、程よい時刻になったからご飯を食べに家に戻ろうとした」
「ふーん。それで」
「それで家に戻ってみると、どうも様子がおかしくて、夕暮れの頃には必ずついているはずの電灯が、ついていない」
「なんで」
「それは美夜のセリフで、どうしたんだろうと思ったのだ。どこかに出かけたのかと思い、待っていたが帰ってこない。夜になっても、朝になっても帰ってこない。よく見ると、窓は開いていた。そこで中に入ったが、誰もいない。なぜかエサだけは用意されていて、美夜は待ち続けたが、何日経ってもとうとう飼い主の家族は帰って来なかった」
「失踪かよ。どこに行ったの」
「それが、分からない。実は一家は借金を抱えていて、家を手放す破目になっていた。それで、姿をくらませたのだ」
「ふうん。ネコは置いてっちゃったの?」
「そう。美夜は一匹取り残されて、その後も家の中で待ち続けていたのだ」
「あーはいはい、それで飼い主を恨むようになったって話ね」
「いや、そうじゃない。全く逆で、美夜は飼い主の一家が帰って来るのを信じてずっと家の中で待ち続けたのだ。いつまでも信用し続けたのだ」
「なんだよ、主人想いで、いいネコじゃねえかよ。かわいそうだけど」
「黙って聞くのだ。異変が起き始めたのは家が売りに出され始めてからで、その家に新しく住もうとする人間には必ず不幸が訪れるようになったのだ。それで誰かが入居してはすぐに出て行くという事が続いた」
「へー。ネコはどうしたの。中にいたんじゃないの?」
「それが、いつの間にか姿を消していたのだが、代わりにヒトの姿の女の子が家の中にいるという目撃情報が相次いだのだ。家に入ると、どこからか『ここはお前の家じゃない。早く帰れ』という声がする。振り返ると、爪を立てて毛を逆立てた着物姿の女の子が牙を剥いて立っているという」
「うわ、怖、怖。化けて出たっての?」
「そう。警告を無視すると、実害が出た。しかし翌朝に警察が調べても何も出てこない。そのうち、その家には買い手がつかなくなって、手入れもされなくてぼろぼろの空き家になってしまった。しかし、女の子が住んでいるという目撃情報は続いたのだ。美夜は直感で誰かが一家を家から追い出したのだと分かって、その誰かを恨んで怨念で化けるようになり、家を守り続けるようになったのだ。その空家は、今でも町の外れにあって美夜はいつまでも飼い主の帰宅を待っているが、近づいてはいけないのだ」
「へー。怖いじゃん」
「だから、ネコの怨念はとても怖いものだという事なのだ」
「なるほどね。それで?」
「だから、鮭缶を買ってほしい、という事なのだ」
ああ、そういう事ね、と俺は思った。それで俺はララに「だめ」と言ってあげた。
(おわり)