02 柳橋美湖 著 空港(インフラ) 『北ノ町の物語 81』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。
挿図/ⓒ奄美剣星「第九階層の空港」
81 空港(インフラ)
ご機嫌いかがですか、クロエです。異世界を調整している浮遊ダンジョン全十三階層中第九階層にたどり着きました。
◇
――大破しているけれど、まだ生きている――
ここで彼を見つけたとき、すぐに助けを求めていることが分かりました。炎龍であるピイちゃんを模した機械。たぶん、この階層の守護者に違いありません。
工科大学を卒業して会社を起こした従兄の浩さんは、近くに置いてあった工具箱や、パーツを使って、守護者を修理し始めました。
「クロエ、本当に無害なんだろうな。治してやった途端に、襲い掛かってきたらたまらんと思わないか?」
「この子、こちらに対しての敵意がまるでありません。大丈夫です。うまくいったら、仲間になってくれるかもしれません」
「メカ・ピイちゃんとういうところか。――不思議系最強生命体は、両刃の剣、ピイちゃんだけで十分なんだがな」
横で聞いていた魔法少女OBのマダムが話しに割り込んできました。
「犬も、餌をやったらなつくわよ。命の恩人だったらなおさらよ」
「――だといいのですが」
第九階層は円筒形で、奥に空が見え、時折、風が吹き込んできます。そこで閃光が瞬きだしました。偵察しに行った瀬名さんが、敵と遭遇し、守護者の護法童子くんと一緒に、戦いを始めた様子です。……この様子を見ていた審判三人娘の皆さんが申し送りをしました。
「第九階層攻略条件は、メカ炎龍の守護者を補修。メカ炎龍と協力して、第九階層を不法占拠している『ウィルス』を倒すこと」
審判三人娘の皆さんがミッションを告げた直後に、金平糖のような形をした敵対者が、体当たりを仕掛けてきました。ウィルスは赤・青・黄色、そして白の四種からなんています。
――〝金平糖くん〟たちが階層守護者のメカ炎龍さえも倒してしまった? みかけは可愛いけれど、けっこう強いみたいね。
赤が炎、青が水、黄色が雷、そして白が氷を表しているようです。それらが円筒型内部構造をした第九階層に、ウヨウヨ出没して、特性に応じた攻撃してきました。……見習女神の私、魔法少女OBのマダム、
そこに、護法童子くんを従える弁護士の瀬名さんが合流してきました。そうして、私たちは、宙に浮かんで攻撃してくる〝金平糖くん〟たちを片端から撃ち落としていきました。……サッカーボール程度の大きさの〝金平糖くん〟たちは、一体一体は、術式もさほど強くないのですが、なにぶんにも数が多く、きりがありません。
瀬名さんがおっしゃるには、「内部が筒状になった第九階層の開口箇所から、際限なく敵は侵入してくる。ゲートを閉じて、内部に閉じ込めた、〝金平糖くん〟たちを殲滅しなくてはならない」とのことです。――ゲートを閉じることができるのは恐らく〝メカ・ピイちゃん〟だけに違いない。
――浩さん、早く治して。
浩さんは壁際で、守護者の電脳執事さんを助手に作業を続けています。……彼と〝メカピイちゃん〟を守りながら、残る私たちで〝金平糖くん〟の襲撃を防ぐの図になっていました。――私は四大精霊を召喚、マダムは攻撃魔法。瀬名さんはその辺で拾った鉄パイプを両手に持って、護法童子くんと共闘。そして、小型化している炎龍のピイちゃんは、ファイアー・ブレスで「弾幕」を張ったのでした。
そして私たちが〝通力〟の大放出で消耗し、立っているのがやっとという状態になりかけたころ、浩さんは仕事をやり終えました。
メカ・ピイちゃんは立ち上がると、一度私たちにお辞儀して、筒状構造をした第九階層の奥にある開口部を一瞥。ピコピコと信号音を鳴らします。するとどうでしょう。瞬く間にゲートで遮断され、〝金平糖くん〟たちの新手は入れなくなりました。――あとはヘロヘロだけど、なんとか、浩さんと電脳執事さんが加勢してくれたことで、内部に閉じ込めた〝金平糖ちゃん〟たちを殲滅することができました。
――第九階層クリア!
審判三人娘さんたちが、ゴール旗を振って、祝福してくれました。
私たちは第十階層の階段を上がっていくとき、振り向くと、メカ・ピイちゃんが、また深々と一礼していました。それから彼は、ピコピコと信号を送って、再びゲートを開けました。――SF映画に出てくる宇宙艇のような形の航空機が、着艦してきて、パイロットが降りてきました。――ゲートが閉じられる前に、数十体の〝金平糖くん〟たちが侵入してきたのですが、その人が一瞥すると、宙に浮いた〝金平糖くん〟たちはバタバタと床に落ち、動かなくなりました。――実は死神だった、チートなお爺様が、新たにディフェンス側に加わった。――きゃあ!
◇
それでは皆様また。
By Kuroe.
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。