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自作小説倶楽部 第22冊/2021年上半期(第127-132集)  作者: 自作小説倶楽部
第128集(2021年02月)/「季節もの」怪物(鬼・妖怪・怪獣)&「フリー」インフラ(港 空港 駅) 
7/28

01 奄美剣星  駅 『ヒスカラ王国の晩鐘 11』

*あらすじ


勇者とは、超戦士である大帝を討ち果たすことができる王国唯一の超戦士のことをさす。二五年前、王都防衛戦で帝国のユンリイ大帝と刺し違えた指揮官ボルハイム卿がそうだ。やがて二人の超戦士がそれぞれ復活。暫定的な講和条約が破綻しようとしていた。そして、大陸九割を版図とする連合種族帝国が、最後に残った人類王国ヒスカラを併呑しょうとする間際、一五歳の女王は自らを依代に勇者転生を決断した。


挿絵(By みてみん)

挿図/ⓒ奄美剣星「生体兵器カブト初号機『カミーユ』」

   11 駅(インフラ)


 冬季。

 王国国境の町ロランから一〇ガロス(一〇キロ)、軌道に沿って東へ進むと国境検問所があり、そこからまた10ガロス進むと、旧ガロス王国の町メルヴィルの同名駅に着く。線路は途絶こそしてはいないが、両国は休戦状態にあり、たまに国境を越える国際旅客列車といえば、外交使節か、捕虜交換に関連したものだった。

 ロラン-メルヴィル会戦は、宣戦布告をしての正式な決闘ではなく、――両国の暗黙的な了承のもと、偶発的な小競り合い、国境紛争の形をとった。――ゆえに両軍は、それぞれ、陸上戦力一個師団一万人、航空戦力一個中隊二〇機ほどの規模で、戦場に駆けつけたのだった。


 戦闘開始は制空権の奪取から始まる。

 帝国側は、王国側のシシイ型戦闘機を、生体ドローン「クマムシ」に模倣させた模造機「シシイ・モドキ」を飛ばして空中戦を行ったのだが、ドン・ファン大尉率いる飛行中隊によって、意外と容易く撃破されてしまった。

 双眼鏡で、単翌後発プロペラ・エンジンである、双方の空中戦を督戦していた、ユンリイ大帝は、狼象族出自の参謀総長ウンベルト将軍に意見を聞いた。

「陛下、恐らく、敵味方の戦闘機性能はほぼ互角。問題は、パイロットの経験数と愚考いたします。――シシイ・モドキを量産し数で押せば、国力の劣る王国側はいずれ疲弊し、制空権を失うことでしょう」

 王国側は煽情の制空権を奪取したが、後詰がない。燃料・弾薬補給の必要もあった。このため、ロランの町の後方にある飛行場に一時帰還した。

 背にトンボに似た透明な翅、頭に猫のような耳を戴く大帝は、参謀総長と一緒に、指揮戦車のバルコニーに立っていた。

「陛下、敵飛行中隊が補給に戻った今の隙に、例の試作個体を出撃させてみましょう」

「了解した」皇帝が、両翼の部隊に突撃の合図を送る。

 帝国軍一個師団の軍容は、中央に主力歩兵部隊、左翼に機動部隊、そして右翼に怪獣一体を配置していた。――怪獣というのは、全長一〇メートルはあろう、巨大な虫型兵器で、「カブトガニ」と呼ばれているものだった。

 両翼部隊が突撃した。


          *

 

 王国側も、帝国と戦術思想はほぼ同じだ。そのため帝国軍に対応して、軍容は横列隊形で、中央に主力歩兵、両翼に機械化機動部隊を配置していた。王国軍右翼部隊は、帝国軍左翼部隊と互角以上に戦い、押し戻した。

 だが王国軍左翼は、敵の珍妙な巨大生物兵器「カブトガニ」一体によって、いともあさりと、戦車二〇両が撃破されてしまったのだった。

 

 王国軍中央部隊。

 灰色猫を依代とする亜神、護国卿アンジェロは、横に控える将官達に言った。

「帝国側も、王国側も左翼機動部隊を潰された。――通例なら、これで手打ちだ。大帝はどう出る?」

 なるほど、帝国・王国両軍の中央部隊は動かない。

 だが「カブトガニ」は止まらない。王国軍中央部隊の左側面から「横槍」の猛攻を仕掛けてきたではないか。装甲で覆われた生体兵器は、王国歩兵を踏み潰し、二百人ほどの犠牲者をだした。


 だがこのときだ。

 護国卿アンジェロは、戦術的撤退をもって、整然と全部隊を運河の向こう側に渡らせた。運河の幅は一〇メルト(一〇メートル)で、そこには、前からあった跳ね橋のほかに、「舟橋」をいくつも架けており、退却は比較的容易だった。

 怪獣「カブトガニ」が、王国軍の殿軍を蹴散らし続けた。

 このとき、後退する兵士達は上空に二人乗りのシシイⅡ型戦闘機が飛び、そこから、サーフボードに似た一人乗りグライダー「エアロフィン」が、二人乗りのシシイⅡ型戦闘機から射出されるのを見た。

「――あれは誰だ。まさか、女王陛下! われわれをお見捨てにはならなかったんだ!」

 エアロフィンに乗っていたのは、女王オフィーリアを依代にした「勇者」ボルハイム卿だった。女王にして勇者であるその人が、拳銃から一種の信号弾を、怪獣の装甲に撃ち込む。

 すると、「カブトガニ」の進撃は止まった。

 エアロフィンがホバリングして、ボードの上に立った少女が怪獣に話しかける。

「僕はオフィーリア=ボルハイム・ヒスカラ。ねえ君、名前は? ちょっとお話しようよ」

 ――君は敵だろ? 僕の名前は、カブト初号機。

「それは名前じゃなくて型番だ。僕が名前をつけてやる。――友達になろう。君はカミーユだ」

 ――カミーユ。素敵な名前なのかな? 

「ああ、素敵だとも。いにしえの吟遊詩人の名前なんだ。――ところで、僕の友達、カミーユ。王国側が基地にしていたロラン駅には、列車用の地下車庫があって、隠していた列車砲が君を狙っている。そろそろ、おうちへお帰り」

 ――嫌だ、オフィーリア。僕は君と、もっとお話しがしたい。

「そうか。ならいいよ。僕たちの家へおいで」

 

          *

 

 帝国側が動揺した。参謀総長はパニックを起こしていた。指揮戦車内部・操縦室には通信機が設置してある。

「どうしたんだ、通信兵? 『カブト初号機』は何をしているのだ?」

「王国軍のオフィーリア女王に寝返ってしまいました!」

「大帝のお話によると、敵女王オフィーリアは『勇者』ボルハイム卿の依代だと聞く。――仕方ない、初号機を自爆させろ!」

「――自爆を拒否されました!」

 狼象の参謀総長を尻目に、大帝は、「茶番だ」と言って、自軍に総撤退を命じた。

 

          *

 

 軍都二〇三〇出身の侍従武官ムラマサ少尉が、直属の上司である女王顧問官レディー・デルフィーに、こんな話をされたことがある。


 大神が、四人の亜神を召して、賽を振らせた。亜神は二柱ずつで組になり、ユンリイ帝と姉のフィルファ内親王で連合種族帝国側につき、アンジェロ卿とボルハイム卿でヒスカラ王国についた。――四柱は属性こそ違うが、基本的に互角なのだという。

 

 「カブト初号機」は、オフィーリア女王に懐いて、王都へと向かった。

 少し前、軍都二〇三〇の上席研究・塩路博士は、発掘調査隊を率い、軍都二四〇〇を調査していたところ、中破していたヒューマノイドを発見。やはりヒューマノイドである、レディー・デルフィーの定期診断報告書をもとに、修復することに成功している。――女王の強い要望で、カブト初号機『カミーユ』の日常生活用依代とされることが決まった。


          ノート20210228



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


〈ヒスカラ(人類)王国〉


01 オフィーリア・ヒスカラ三世女王……転生を繰り返す王国の英雄ボルハイム卿の依代。ボルハイム卿は25年前の王都防衛戦総司令官となり、帝国のユンリイ大帝と相討ちになった。卿は、その後、帝国辺境の町モアで少年テオを依代に復活、診療医となるも流行り病で没し、女王の身体を依代に、再び王国側に転生した。ヒスカラ暦七〇二〇年春現在15歳。


02 アンジェロ卿……灰色猫の身体を依代に、古の賢者の魂魄を宿す王国護国卿。事実上の王国摂政で国家の最高決定権がある。ボルハイム卿の移し身も彼が執り行ったものだ。巡洋艦型飛空艇パルコを居館代わりに使用している。

十年前に異界工房都市の〈量子衝突〉実験で事故が生じて〈ゲート〉が開き、男女十人からなる異界の学者たちが迷い込んできた。学者たちは、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、水素やヘリュウムの代わりに、飛行石をつかった飛行船の一種・飛空艇を開発した。

アンジェロ卿は彼らを自らのブレーンにした。ヒューマノイドのレディー・デルフィー、ドン・ファン大尉のロシナンテ戦闘機飛行中隊の戦闘機シシイも、異界学者たちが製作したものだ。


03 レディー・デルフィー(デルフィー・エラツム)……教育・護衛を職掌とする女王顧問官で、年齢、背格好、翡翠色の髪まで似せたヒューマノイドだ。オフィーリア女王の目が大きいのに対し、レディー・デルフィーは切れ長になっているのは、彼女の製作者が女王との差別化を図ったためである。レディーは衣装を女王とそろえ、寝台も同じくしているが「百合」関係はない。さらに伊達眼鏡を愛用する。


04 ドン・ファン・デ・ガウディカ大尉……二五年前連合獣人帝国によって滅ぼされたガウディカ王国国王の息子。大尉の父王は、滅亡直前にヒスカラ王国に亡命してきて客分となり、亡国の国王はヒスカラ王族の娘を妃に迎えて彼が生まれた。つまるところオフェイリアの従兄で幼馴染、そして国は滅んでいるがガウディカ王太子の称号がある。女王より二歳年長のドン・ファンは、「オフィーリアを嫁さんにして、兵を借り、故国を奪還するんだ」というのが口癖。主翼の幅一〇フット後部にエンジンを取り付けたシシイ型プロペラ戦闘機の愛機に「ロシナンテ」と名付け、同名の飛行中隊20機の指揮官に収まっている。


〈連合種族帝国〉


01 ユンリイ大帝……一代でノスト大陸9割を征服し大帝国を築き上げた英雄。あまたの種族を従えていた。25年前の王都攻略戦で、ボルハイム卿の奇襲を受け相討ちになるも、帝国臣民に復活を待望されている。比類なき名君。


02 フィルファ内親王……大帝が不在となった帝国を預かる摂政皇姉にして大賢者。王国の勇者ボルハイム卿に対するアンジェロ卿のようなもの。黄金の髪、青い瞳、透けた背の翅が特徴的な有翅種族女性。火の粉が降りかかれば払うが、弟と違って戦いを好まず、戦禍で荒れた土地の迅速な復興など内治に功績がある。


03 テオ・バルカ……帝国の版図に収まった辺境都市モアで診療所を開いていた猫象種族。帝国側道士によってボルハイム卿の魂魄が移し身されるとき10歳の少年だった。すでに両親はなく、看護師の姉ピアに愛情深く育てられた。本来は大帝復活のための依代であったが、大帝の遺言により、ボルハイム卿が王国側で復活しないようにするための措置で、テオはボルハイム卿の依代となった。町から出ることを許されず、事実上の軟禁状態にあった。その後25年後、流行り病で没し、共同墓地に葬られた。猫象種族の妻を娶り、二男三女をもうけた。


04 ジェイ・バルカ……テオの息子・猫象種族。両親を流行り病で亡くし、弟妹たちとともに伯母ピアに育てられる。少年兵で従軍し戦地で上等兵となるも、王国軍の捕虜になる。捕虜交換で帰国後、士官学校入学の名目で帝都に召喚され、ユンリイ大帝転生に際し、依代となる。戦友はガンツ上等兵。

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