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自作小説倶楽部 第22冊/2021年上半期(第127-132集)  作者: 自作小説倶楽部
第127集(2021年01月)/「季節もの」気象(地吹雪 霜柱 雪)&「フリー」アイテム(珈琲 種 発砲 かつら)
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02 柳橋美湖 著  カツラ(アイテム)/『北ノ町の物語 80』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。

 ……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。



挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「花魁」

    80 カツラ(アイテム)


 ご機嫌いかがですか、クロエです。異世界を調整している浮遊ダンジョン全十三階層中第八階層、フロアの大詰めで、中ボスがいるはずの天守閣を攻略しているところです。


          ◇


2メートルくらいホバリングした炎龍のピーちゃんは、ここ浮遊ダンジョンで、本来の数十分の一の体形になりましたけれど、ファイアー・ブレスの威力といったら、お城の櫓門を吹き飛ばすくらい造作もありません。本丸への道ができたので、私達パーティーはいよいよ天守閣に突入です。

天守閣は五階建てで、天守台の石垣上にあり、石垣に囲まれた地下室から、白壁の一階にあがります。

「おかしい。……敵守備兵がまったくない」

恐る恐る私たちは、急傾斜の階段で地下室から一階へ上ります。

私を最後に、全員が一階へ上がり切ったところで、島田髷げに赤い着物姿の花魁さんが、板の間で正座してキセル煙草をふかし、待ち受けていました。

「私はアリスでありんす」

(――えっ、ダジャレ?)

「ワッチはいつも本気でありんす。ところでお城の屋根と床の数え方を知っている? 屋根を層、床を重で呼ぶの。ここの天守閣は五階建てで屋根が五つと床が五つ。だから五層五重ね」

(花魁さんはなんでそんな話をするのだろう)

 そういいながらドーナッツのような煙を吐き出したとき、床が開いて、私と審判三人娘さんを残し、従兄の浩さんと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんは、それに魔法少女OBのマダムがドスンと音を立て、落ちてしまいました。さらに下へ降りる階段口も塞がっているではありませんか。

 パーティーの皆さんは、浮遊ダンジョン第八階層から、振り出しの第一階層に落とされてしまったのかしら?

 審判三人娘さんが、そんな私を見て、実況中継ごっこをしだしました。お気楽なものです。

「クロエ選手、不利!!」

 ともかく、花魁さんを抜いて、五階まで駆け上らねばなりません。私は四精霊を呼び出し、土精霊ノームと水精霊ウンディーネで花魁さんを泥饅頭で固めて動けないようにした上で、火精霊サラマンダーで床に穴に穴を開けた上で、風精霊シルフィーで逆送風することにより、お仲間三人を一階へ戻そうとした、刹那――

「アンタさんの術式は想定内でありんす」

 天井には網が張ってあり、バサッと私に被さって、捕獲されてしまったではありませんか。

 審判三人娘さん達の実況は続きます。

「クロエ選手、絶体絶命だああ!」

 花魁さんは、網の上から四つん這いとなって私を抑え込み、

「さて、どんなふうに遊んでやろうかしらえ」

 と言って、私の顔に唇を寄せてきます。

(きゃあ、私、そういう趣味はありませんよお!)

 などといいつつ、花のようないい匂いがする。なんとなくぼんやりとした気分。

「ワッチ、媚薬のお香を焚いて服にしみこませたでありんす」

 うわあ、唇を吸われた、舌がああ……でも身体が動かない。不快じゃない。でもそれっていけない感覚……。衣擦れの音。あ、だめ、勝手に服が脱げていくううう。

 このとき、天井で閃光が走り、なぜだか青空が見えました。え? 二階から上の階層が飛んじゃった? 小型化した炎龍のピーちゃんが、翼をはためかせ、空でホバリングしているいところをみると、この子の仕業でしょう。

 さらに、私の火精霊サラマンダーさんが網を焼いて私を開放。シルフィーに乗って、地下から一階に上がってきた、お味方三人が、私を守るように前に立ちました。

 花魁さんは舌打ちして、後ろに飛び退きます。花魁さんのカツラが取れて落ちました。――やっぱり、白鳥さんだった。……花魁の赤い着物を脱ぎ棄てた白鳥さんは、蝶ネクタイに白いスーツ。そしていつの間にか、使い魔ちゃんまで呼び出していたのです。

「おのれ、ピーちゃんめ。敵にしても味方にしても、行動が読めない! ――それにしても、審判さんたち、天守閣二階層がゴールにつながるはずだったのに、ピーちゃんが吹き飛ばしてしまった。これって反則では?」

 審判三人娘さんは、互いに耳打ちしながら相談して、結論を出しました。

「これもありです」

 わーい、やったあ!

 私は風の精に命じて、黒くぽっかり開いた空の抜け穴に、パーティー全員で舞い上がり、通り抜けたのでした。

 次回はめでたく第九層になります。


           ◇


 それでは皆様また。


          By Kuroe.

【主要登場人物】


●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。

●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。

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