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自作小説倶楽部 第22冊/2021年上半期(第127-132集)  作者: 自作小説倶楽部
第132集(2021年06月)/季節もの「雨宿り」&フリー「法則(魔法・運命・法律・心変わり)」
27/28

04 らてぃあ 著  雨宿り 『雨と彼女とその願い』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「赤い傘」

 塾からの帰り道を狙ったかのように雨粒が襲い掛かって来た。

 このまま走って、びしょぬれでも、雨の日のサッカーの試合の時のように熱いシャワーを浴びれば大丈夫と思ったのに、肩から下げたカバンから変な音がした。背後の路上を振り向くと俺のノートやテキスト、筆記用具がばらまかれていた。ノートは全滅かもしれないが捨ておくこともできない。かがんで拾い集める俺の傍らを数人の通行人が慌てた様子で通り過ぎた。憐れみなのか嘲笑なのか視線を感じたが無視する。あらかた拾ったものを鍵の壊れたカバンに押し込み顔を上げると目の前に屋根のあるバス停が目に入った。カバンを抱えて入り、ベンチの上にノートとテキストを一冊ずつ重ねて置く。拾い損ねたものは無かったがにじんだ赤い線を見ると物悲しさがこみ上げて、家に帰る気力も無く、ベンチに座って雨でかすむ景色を眺めていた。

 灰色の世界の中、黄色いものが動いた。

 かと思うと、それは実体を伴い、俺がいるバス停に飛び込んできた。

「ひゃあ、すごい雨」

 濃い黄色のレインコートを着た人物は甲高い声で叫び、コートの内側からタオルを引っ張りだして顔に当てる。隙間に雨が入ったのだろう、首をぬぐってレインコートを脱ぎ始める。一人になりたい瞬間だが、ここが公共の場である以上文句は言えない。

「高良君でしょ」

 努めて無視していたのに話しかけて来た。視線を上げると小学校と中学校で同じだった雨宮結美だった。再会を喜ぶほど仲がよかったわけではないと思うのに笑っている。そう言えば空気の読めない女だったと思いだす。

「これ、使いなよ」と、どこから取りだしたのか乾いたタオルが差し出される。一瞬断ろうとしたが言葉が見つからず受け取る。

 雨宮が隣に腰を下ろす。

「触ったら濡れるぞ」

「雨が降りこむの、もう少しずれて」

 仕方ないので重ねたテキストとノートを膝に乗せて座り直す。

 なぜか重い沈黙があった。

 スマホを取り出そうとしたが手が湿っているので止める。タオルでごしごし拭いた。そういえば、タオルはこの時間、別れる時に返せばいいのだろうか。よく物語で「ハンカチを洗って返す」というのがあるが、これは白い無地の安物のタオルだ。

「そういえば、サッカー辞めたんだって?」

 不意に訊かれる。三か月前に散々ぶつけられた質問だ。他校の女子の口からそれが投げかけられ少しうんざりする。

「そうだけど」

 短く答えると、そのまま会話は途切れた。自分から訊いておいて何なのだろう。

こういう場合の反応は、

『何で?何で?』と自分の好奇心を優先させる。

『もったいない』と俺の才能を過大評価する。

『怪我でもしたの?』と俺を悲劇の主人公に仕立て上げる。

 違うな。雨宮は妄想癖はあったが、発想は前向きだった。仲間外れにされてもへこまなかった。しかし、俺は雨宮の交友関係を観察していたわけじゃない。その上、中学校を卒業してから顔を合わせていない。2年間は人間が変わるには十分な時間だ。

 沈黙に耐えられず俺は口を開いた。

「雨宮、俺は落ち込んでいるわけじゃないぞ。サッカー辞めたのは才能が無いと見切りをつけただけで、その前から補欠なのに早朝から放課後まで雑用と練習を押し付けるサッカー部の方針が心底嫌になったんだ。サッカーは趣味でいい。今は塾に通って猛勉強中だ」

「ああ、そうだよねえ」雨宮が調子はずれな声を上げた。

「友達から高良君がサッカー辞めて不良になったって聞いたのよ。まさかとは思っていたよ。噂って当てにならないねえ」

「俺のことより、雨宮は学校で上手くやっているのか? また、超能力があるなんて言っているんじゃないだろうな」

「自分の力を自慢したりしないわよ。それに超能力じゃなくて雨を降らせるだけ」

 自慢だったのか。

「信じない?」

「無理だろう」

「そうでもない。世界のどこかにスイッチがあるの」

「なら、そのスイッチをオフにしてくれ」

「もうすぐ止むよ。あのさ、噂を聞いて大丈夫だろうけど高良君に会いたいなーって思って力を使ったの。だから、今日の雨を降らせたのは私、で、そのカバンの中身の惨状は私のせいかも。ごめん」

 雨宮のせい? いや、信じるな俺。


 結局、その日、雨宮と連絡先を交換して別れた。

 会いたいと思うだけでゲリラ豪雨を起こされるのではたまったものじゃない。と思ったわけではなく、交友関係を広げたほうが変な噂も立たないし楽しい高校生活を送れると思ったからだ。

 別れ際、俺に向って手を振った彼女は虹色に輝いて見えた。

          了

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